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東京高等裁判所 昭和43年(行コ)31号 判決 1971年5月31日

東京都港区東新橋一丁目一番二一号

控訴人

株式会社今朝

右代表者代表取締役

藤森紫朗

右訴訟代理人弁護士

岡部勇二

東京都千代田区内幸町一番四号

被控訴人

芝税務署長

関野清幹

右指定代理人検事

光廣龍夫

右指定代理人法務事務官

高林進

大蔵事務官 外山太郎

同 倉持秀雄

右当事者間の昭和四三年(行コ)第三一号法人税額等の更正決定取消等請求控訴事件について当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴人代理人は「原判決を取消す。控訴人の昭和三六年八月一日から和和三七年七月三一日までの事業年度の法人税について、被控訴人が昭和三八年二月二七日付でした更正処分および過少申告加算税の決定処分を取消す。訴訟費用は第一・二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人代理人は、主文と同旨の判決を求めた。

当事者双方の事実上、法律上の主張、証拠関係は控訴代理人において本件更正処分は地上鉄道建設に伴う被買収者と地下鉄道建設に伴う被買収者とを不平等に取扱つた点において憲法第一四条に違反するばかりでなく租税特別措置法、土地収用法等の関係法規の解釈を故意に歪曲して適用したことによる憲法第三〇条の違反があり違憲の行政処分であると述べ、甲第二二、第二三号証を提出し、被控訴代理人において右各甲号証の成立は認めると述べたほか原判決事実欄記載(別紙を含む)のとおりであるからこれをここに引用する。

理由

(当事者間に争のない事実)

当事者間に争のない事実は原判決理由の一、(原判決二四丁表三行目から二六丁裏七行目まで)と同一であるからここにこれを引用する。

(土地使用補償金について)

この点についての当裁判所の判断は次に附加するほか原判決二七丁表五行目から同三四丁表六行目までと同様であるからこれをここに引用する。

『控訴人は本件土地六坪八勺の地下部分は地下鉄事業の存続するかぎり控訴人に永久に返還されることがないこと、使用とは土地の現状を変更しないで使用することを意味すること、使用による補償は一時払にすべきでなくその土地および近傍類地の地代、借賃を考慮した相当使用料が月又は年単位で支払わるべきであるのに、本件地上権の補償が一時払であることをもつて、本件土地使用補償は土地使用の補償でなく、地上権の収用に代えて買取られた対価であるとするのであるが、(イ)地下鉄事業が相当長期にわたり運営されるものであることは否定できないとしても、永久に存続するものとは到底断じ得べきものでないのみならず、成立に争のない甲第一号証、原審における控訴会社代表者本人尋問の結果によると、同人は本件地上権説定の交渉にあたり地下鉄事業が廃止になつたときは地下部分の返還を希望して使用期限を区切るよう要求したが、この返還期限は予定することができないため、期限を特定しないで、右甲第一号証の地上権設定契約書第五条のとおり「この土地の使用存続期間は、地上権設定の日から地下高速電車営業期間中とする。」と約定されたことが認められるのであつて、右営業期間の終了により本件地下部分は控訴人に返還されることが予定されていることが却つて明らかである。また、(ロ)土地収用法による土地の使用が、土地の現状を変更しないままで使用することのみを意味するものではなく土地収用法第八一条第一項に「土地の使用に因つて土地の形質を変更するとき」と定められていることによつても明らかであり、しかも地上権が工作物又は竹木の所有を目的として土地を使用することを本体とる権利である以上、工作物所有のため地下を掘さくしてトンネルや建物を設備しうることは勿論である。それ故、このような土地の現状の変更があつたからといつて土地の使用に当らないということはできない。しかも控訴人において本件土地の使用が「土地の使用によつて土地の形質を変更するとき」に当るとの理由で本件土地の収用に代わる買取りを求めた形跡はないのである。更に(ハ)地上権における土地使用の対価すなわち地代の支払は地上権の要素ではないから、本件地上権設定契約書(甲第一号証)第六条に「この土地の使用料は無償とする。」とあるのは、本件地上権が地代を伴わないことを示すとともに、右契約書第二条に「前条土地使用に伴う(中略)一切の補償金として金六〇八万円を乙に支払うものとする。」とあるのは、成立に争のない甲第二〇号証(公共用地の取得に伴う損失補償基準要網)第二〇条に「地下の使用が長期にわたるときは(中略)当該土地の利用を妨げられる程度に応じて(中略)一時払として補償をすることができるものとする。」とあるのにもとづいて、いわゆる「土地の使用に係る補償」をすべき趣旨にほかならないと解すべきである。

勿論このような契約は「経済的な実質に着眼すれば、地上に鉄道を敷設する場合のように土地を収用、取得するまでのことはないので、これに代えて対価を支払つて地代なき地上権の設定を受けたものと見得ないことはなく、またもし控訴人が地上権の設定に応じなければ土地自体を収用使用するほかない関係にあることは所論のとおりであるけれども、それだからといつて直ちに本件の場合が旧措置法第六四条第一項第二号に該当すると断ずることは許されない。けだし、わが現行法制のもとにおいて、未だ他に地上権を設定していない土地所有者から地上権を収用し、もしくは収用に代えて買取るという法理は認め得ない(土地収用法第五条によれば、既に他に設定されている地上権を消滅させるため地上権自体を収用する場合もあることが認められるが、それは既存の地上権を消滅させる為の収用であつて本件の場合とはその趣を異にする。)からである。」

もつとも、昭和三七年法律第四六号による改正後の租税特別措置法第六四条第二項で「使用」の場合の補償金や対価に課税の特例が設けられるに至つたのは、右のような実質及び関係があることにも基因すると解すべきであるが、右改正法附則第八項の規定に照らすと、この規定を昭和三七年四月一日前に行われた使用について遡及適用し得ないことは明白である。』

(建物補償金および工作物補償金について)

この点についての当裁判所の判断は次に附加するほか原判決三四丁表終から四行目から同三五丁表六行目までと同様であるからこれをここに引用する。

『成立に争のない甲第二号証(建物移転承諾書)、原審証人深野文夫の証言によれば、本件建物補償金および工作物補償金は、これらを事業用地たる本件土地外に移転することによる移転料その他通常うける一切の損失補償として支払われたものであることが認められるのみならず、同承諾書第二項の「移転補償金は移転が完全に終つたとき請求します。」との条項が抹消されているのは、原審証人深野文夫の証言によれば、右補償金が移転を承諾したときに半額を支払い、完了のとき残額を支払う旨約束されたことの結果であることが認められるから、右条項が抹消されたことなどによつて本件建物および工作物の買取が約されたと解することはできない。

また土地収用法第六条によれば土地上の建物その他土地に定着する物件をその土地とともに収用する場合もあるがそれは建物および工作物が事業の用に供することが必要且つ相当である場合にされるものであつてこのような収用がされる場合に当らないこと前示当事者間に争のない事実によつて明らかであり、前示深野証人の証言によれば控訴人が建物および工作物の買取を求めたことはないことが認められる。

それ故本件建物および工作物補償金は収用に代る買取りの対価とすることはできない。』

(雑収入計上洩について)

この点についての当裁判所の判断は原判決三五丁表終から四行目から同三七丁終から二行目までと同様であるからこれをここに引用する。

(結論)

以上のとおりであり、なお憲法に違反する行政処分とも謂い難く、控訴人の本訴請求は理由がないので本訴請求を棄却した原判決は相当であり、本件控訴は棄却を免れない。

よつて民訴法第三八四条、第九五条、第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 荒木大任 裁判官 田尾桃二 裁判長裁判官川添利起は転任のため署名押印することができない。裁判官 荒木大任)

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