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東京高等裁判所 昭和43年(ラ)831号 決定 1969年3月05日

抗告人 梨本登(仮名)

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告理由の要旨は、結局原審判が<1>抗告人が浅見ナツという女性と情交関係にあるようにいつている点、<2>抗告人が父梨本一郎所有の土地三筆をほしいままに他に売却して得た手付金等合計一六六万円を自己のため費消したと認めた点及び<3>抗告人がその所有家屋について、浅見ナツに対し種々世話になつているなどの理由で売買による所有権移転を経たようなことから、このまま放置すれば負債を招きその産を破り自己及び家族の困窮におちいることは必然であると認めた点につき不服を唱え、右<1>の点については抗告人がナツ方に置いてもらつているだけであつて、同女といまわしい関係にはないと、<2>の点については右土地の売買が紛争の種となつたが、示談が成立し、前記手付金等合計一六六万円は本件準禁治産宣告の申立人らに交付され、抗告人としては一銭も費消していないと、また<3>の点については生家を追われ、頼るところはナツ方しかない抗告人が唯一の所有財産である前記家屋を処分して生活費にあてたとしても、とがめられる筋合ではないとそれぞれ弁明するに帰する。

しかしながら右の<1>の点は原審判も抗告人が家業に専念すべきにもかかわらず、ナツ女と同居して家庭をかえりみないとだけいつているのであつて、同女との情交関係についてはことさら触れていないし、<2>の点は原審判挙示の資料に徴せば前記手付金等合計一六六万円は抗告人においてこれを受領していることが認められるから、生活に窮している抗告人がこれをそのころ費消したであろうことは当然想像し得るところである(もつともうち九〇万円は後日買主から返還を請求される予定になつている)のみならず、この点において原審判が強調するのは抗告人が父一郎の所有土地をほしいままに売却し、手付金等を取得してしまつたため、一郎においてやむなくこの売却追認を承認せざるを得ないはめにたち至つたということであるし、また<3>の点も原審判はこの事実だけを取り上げて抗告人を浪費者と認めているのではなく、右<1>及び<2>の点において原審判が認める前記各事実に、さらにこの事実をもあわせ考えるならば、このまま放置するにおいては結局前後の思慮なく負債を増し、その産を破り、その結果自己及び家族が困窮におちいることは必然であるとの理由で抗告人を浪費者として準禁治産者とするのを相当と認めたのであり、この認定は記録にあらわれた諸般の事情から十分首肯し得るところである(なお、抗告人は抗告人が無財産であることをも、本件準禁治産宣告の要なきことの理由とするようであるが、浪費を理由とする準禁治産者制度の趣旨は必ずしも本人の財産の保護だけにあるのではなく、財産費消の態様によつては、本件の場合のごとく家産的性格を帯びる家族の財産の保護のためにもあるものと解されるから、採用し得ない)。以上の次第で本件抗告は理由がない。

よつて民事訴訟法第四一四条、第三八四条第一項に従い、主文のとおり決定する。

(裁判長判事 多田貞治 判事 上野正秋 判事 渡部吉隆)

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