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東京高等裁判所 昭和43年(ラ)824号 決定 1969年3月31日

抗告人 寺田実

訴訟代理人 繩稚登

主文

本件抗告を棄却する。

理由

抗告人は、原決定を取消す旨の裁判を求め、その理由を別紙抗告理由書記載のとおり主張した。

審案するに、抗告人主張のとおり本件競売申立人たる債権者富士商事株式会社が抗告人に対して有する債権と共にその担保である本件家屋についての抵当権を昭和四十三年十一月十日神長貞光に譲渡しその旨の登記を経たことは本件記録に徴し認められるが、債権者がその執行債権を他に譲渡したことは民事訴訟法第六百七十二条第一号に該当しないから、原裁判所が、右債権譲渡の事実にかかわりなく競落許可決定をしたのは、もとより正当であつて何等違法ではない。

次に本件競売手続につき抗告人主張の停止決定のあつたことは、その提出にかかる中野簡易裁判所昭和四四年(サ)第一一〇号不動産競売手続停止決定正本によつて明かである。しかしながら右停止決定は前記執行債権の支払等の調停事件(同裁判所昭和四三年(ノ)第二〇二号)終了に至るまで一時の停止を命じているにすぎないのであるから、右裁判の正本が競売裁判所に提出された場合においては同裁判所は民事訴訟法第五百五十条二号第五百五十一条により本件競落許可決定の言渡がなされた状態においてその後の手続を停止しておくことを以て足り抗告人主張の如く、民事訴訟法第六百八十一条第二項第六百七十二条第一号に基づき競落許可決定を取消すべき事由に該当しない。蓋し同法第六百七十二条第一号の強制執行を許すべからざること、又は執行を続行すべからざることとは、競売申立の基本債権が弁済ないしは和解等により消滅したとか、弁済期未到来の債権に基づき執行した場合、或いは債務名義の執行力が排除された執行力ある裁判の正本が提出された場合(執行停止の仮処分の本案に該当する裁判があつたとき)をいうもので、本件におけるが如く一時的な停止の場合を指称するものではないと解すべきものと考えられるからである。

なお、このように停止決定の正本が右許可決定の言渡後に原裁判所に提出された場合、抗告裁判所は抗告の裁判をするまでに生じた事情を斟酌すべきであるとして右許可決定を取消すべきである(競落許否の裁判はしないで)とする見解もあるが、仮に右調停の結果執行債権が消滅した場合又は競売申立の取下がなされた場合には、右事由により更に抗告の申立(期間については本件即時抗告の申立のときに遡ると解すべきである)をなすべく、一時停止の効力としては本件許可決定をも取消すべきではない。

よつて本件抗告は理由がないのでこれを棄却することにし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 毛利野富治郎 裁判官 石田哲一 裁判官 加藤隆司)

抗告理由書

一 東京地方裁判所昭和四三年(ケ)第四五六号不動産競売事件について、債権者富士商事株式会社は、昭和四三年十一月十二日競落許可となつた日の以前たる昭和四三年十一月一〇日、本件家屋についての抵当権並に停止条件付所有権を譲渡により、神奈川県横浜市南区清水ケ丘壱九四番地神長貞光に移転し、同年同月一三日登記を了していることが明らかである。従つて、右東京地方裁判所昭和四三年(ケ)第四五六号不動産競売事件についての申立人たる債権者は富士商事株式会社は権利が消滅しているものである。

二 抗告人は現債権者たる神長貞光と競落人たる都商事株式会社(代表取締役国井正雄)に対し、負担する本件債務の支払についての調停の申立をなし、右事件は同簡裁昭和四三年(ノ)第二〇二号調停事件として係属中であり、更に、民事調停規則第六条に則り右簡裁昭和四四年(サ)第一一〇号不動産競売手続停止申立事件について、添付書記載の通りの本件不動産競売手続停止決定がなされたものである。

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