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東京高等裁判所 昭和43年(ラ)572号 決定 1968年10月26日

抗告人 根本隆(仮名)

主文

原決定を取消す。

本件を千葉家庭裁判所松戸支部に差戻す。

理由

一、抗告代理人は、主文同旨の決定を求め、その抗告理由は別紙記載のとおりである。

二、本件抗告の適否について。

準禁治産宣告の審判は、右宣告の対象となる者が審判の趣旨を理解する能力を具備することに鑑みれば、右審判の効力を受ける事件本人に告知することを要するものであつて、家事審判規則三〇条、二七条一項二六条の規定にかかわらず、事件本人に対する告知があつた日から右審判に対する即時抗告の期間が進行すると解するのを相当とするところ、本件記録を検討しても、原審判がなされた当時原裁判所によつて本件の事件本人である抗告人に対して有効な告知がなされたことを認めることができないから、原審判は当時未だ効力を生じないまま経過していたものといわざるを得ない。しかるところ、記録によれば、抗告人はその後抗告人に対し準禁治産の宣告があつたことを仄聞し、昭和四三年七月二〇日原裁判所において記録を閲覧した結果原審判があつたことを確知したものと認められるから、同日をもつて原審判が事件本人たる抗告人に告知されたと同様にみることができ、抗告人については同日から原審判に対する即時抗告期間が進行したことになる。そして本件抗告が右即時抗告の期間内である昭和四三年七月二四日になされたことは記録上明らかであるから、他に格別の瑕疵が認められない本件抗告は適法なものというべきである。

三、抗告理由について。

準禁治産宣告の対象となる浪費者とは、その性癖として思慮のない財産の浪費をなすものをいうのであるが、一件記録を検討しても、抗告人(事件本人)が右の浪費者に当ることを未だ肯認することができない。もつとも、記録中の家庭裁判所調査官神谷敏行作成の昭和四三年二月八日付調査報告書によれば、抗告人の兄で本件審判の申立人である根本清及び抗告人の妻根本初子は、同調査官に対し、抗告人は競輪に狂い、プロパンガス販売営業による売上金を競輪に費消し、多額の借財を負い、昭和四二年九月一二日には妻子を放置して家出をしたまま行方不明となつた等の陳述をしたことが認められるが、これらについての抗告人の弁解は原審ではついに聴取されずに終つたもので、しかも、当審における抗告人の審尋の結果によれば、抗告人が家出をしたのは競輪に凝つたためではなく、抗告人が兄清と共に始めた石油販売会社が昭和三九年経営状態の悪化で倒産し、会社の債務や土地の帰属をめぐつて清と悶着があり、妻初子とも仕事のことで意見が合わなかつたことによるもので、抗告人が競輪、競馬に凝つたり、売上金を濫費したことはなく、会社の借財は既に清算がつき、抗告人個人の債務四〇万円位は、抗告人の事業出資者に対する債務であり、清との間の土地紛争も昭和四三年七月三〇日和解が成立し(右和解について契約書の提出がある)、また同年九月一五日からは現住所で妻子と共に暮しているというのである。そうしてみれば、前記調査官に対する根本清、根本初子の各陳述をもつて直ちに抗告人を浪費者と認めしめるに足るものということはできない。他に抗告人が浪費者であることを肯認するに足る十分な資料はない。

そうしてみれば、清が抗告人を浪費者であるとしてなした申立を相当と認めて抗告人を準禁治産者とした原審判は失当であり、本件抗告は理由がある。よつて、家事審判規則一九条一項により、原審判を取消して、本件を原裁判所に差戻すこととし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 小野沢竜雄 裁判官 田中永司 裁判官 大石忠生)

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