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東京高等裁判所 昭和41年(行ケ)25号 判決 1970年7月22日

原告

有限会社雷竜堂阿部製菓

原告

有限会社八幡商店

原告ら代理人

土屋豊

旦良弘

松浦勇

同弁理士

紀野友之

旦六郎治

被告

株式会社常盤堂雷おこし本舗

代理人

木嶋繁雄

復代理人

佐藤秀夫

代理人弁理士

角健治

主文

昭和三四年審判第三一二号事件につき、特許庁が昭和四一年二月七日にした審決を取り消す。

訴訟費用は、被告の負担とする。

事実<省略>

理由

1、……

本訴の主要の争点は、「雷おこし」の文字が、本件商標の登録の当時、商品の普通名称を表示するもの、あるいは同業者間に普通に使用されているものであつたかどうかというに帰する(もとより、本件審決の判断もこれについてされている。)ので、以下この点について判断する。<中略>(注、「雷おこし」の故事来歴について説くところは昭和四一年(行ケ)第二四号と同文につき省略する。)

7、そして、以上認定の事実関係(これらの認定を左右するに足る証拠はない。)を通観、総合して判断するならば、前記5に認定した、「雷おこし」の文字が商品の普通名称を表示するにすぎないとの世人一般の認識は、それが長い歴史的経過に由来し、広く日本全国の民衆の心に深く根ざすにいたつたものであるだけに、戦時中の営業の一時的中断や、前記昭和二九年以後においての被告の基本商標にもとづくとする若干の管理措置あるいはそれに添うかにみえる特許庁の若干の処分があつたことにより、さほど害されることなく、本件商標の登録の当時においても―たとえ被告をはじめとする一部の業者について僅少の例外があつたとしても―そのような一般的認識がなお存在したというべきである。

8、ところで、本件商標を構成する「かみなり」の文字は「雷」と同義語を示すものであることはいうまでもなく、これを本件商標の指定商品「おこし」に使用した場合、その商品は取引上容易に「かみなりじるしおこし」または「かみなりおこし」と呼ばれ、「かみなりおこし」または「雷おこし」として認識されることは疑いがないといえよう。そして、「雷おこし」の語がおこしの一種である商品の普通名称として広く認識されていること前記のとおりであつてみれば、本件商標は、その指定商品「おこし」との関係においては、指定商品中の雷おこしの普通名称を表示するにすぎない商標であるから、結局、「おこし」について商標としての商品の出所表示の機能を欠くものとするのが相当である(本件商標の数個の指定商品中の一個の指定商品である「おこし」のうちで、さらに雷おこしと雷おこし以外のおこしとにわけて登録無効原因の有無を論ずることは必要がない。このことは、雷おこしが前記のとおりその品質、形状等において他のおこしとの間に確然とした区別があるわけではなく、たかだか産地または販売地による区別があるにすぎないことから考えても、そうであるといえる。)。

したがつて、本件商標の登録は、指定商品「おこし」について旧商標法第一条第二項の規定に違反するものとして、同法第一六条第一項第一号によりこれを無効とすべきものである(商標法施行法第七条第八項適用)。

9、なお、被告の主張に関して二、三補足説明する。

(1)  基本商標の要部について

前記認定の事実関係によつてみれば、基本商標は、その構成中の「雷おこし」「元祖」「浅草雷門角」の文字と雷神等の図形は、それら個々のものとしてはなんら商品の出所を識別するに足る特別顕著性がなく、これを別紙(二)のような特定の図柄に組み合わせ、「トキワ堂製」の文字を配した点に特別顕著性があるのであつて、そのような組合せおよび「トキワ堂製」の文字を商標の要部とするものと解すべきである。

(2)  被告主張四について

登録第七三、三一九号商標につき権利不要求の旨の附記があつた理由は前記のとおり判断される。旧々商標法には権利不要求の制度について明文の規定はなかつたが、特許庁の実務上これが行なわれていたことは、<書証>により認められる同法のもとにおける登録例によつて明らかであり、また被告指摘の登録第七六、二五七号商標は「雷おこし」でなく「雷おこし」の文字を表示したものである……から、この項の被告の主張は根拠のないものである。

(3)  被告主張五、六について

特許庁の審査官または審判官がどのような見解に立つて前記権利不要求の申出の削除を命じ、あるいは基本商標またはその連合商標の審査、審判を行ない、その登録を許容したとしても、それは本件の争点を判断するうえでの単なる一資料にすぎず、かりに、この点が被告主張のとおりであるとしても、それはとうてい前記の認定をくつがえすに足るものではないから、ここではその点に立ち入る必要はない。

10、以上のとおり、本件商標は指定商品おこしについてその登録を無効とすべきではないとした本件審決には、判断を誤つた違法があるから、その取消しを求める原告らの各請求を認容……する。(杉山克彦 楠賢二)(裁判長裁判官古原勇雄は、退官のため、署名捺印できない)

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