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東京高等裁判所 昭和41年(行ケ)184号 判決 1971年3月23日

原告

イー・アイ・デュポン・デ・ニモアス・アンド・カンパニー

代理人

本間崇

外三名

被告

特許庁長官

佐々木学

指定代理人

佐藤輝久

外二名

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

この判決に対する上告のための附加期間を九〇日とする。

事実《省略》

理由

本件の特許庁における手続の経緯、本願発明の要旨および審決理由の要点が原告主張のとおりであることは当事者間に争いがない。

一  <略>

二  そこで、原告主張の本件審決を取り消すべき事由の有無について判断する。

(一)  原告の主張(一)について

本件の審判手続において、昭和四一年八月一五日審理終結通知がなされ、同月二四日右通知が原告に到達したこと、同月二二日審決がなされたことは、当事者間に争いがない。そして、審理終結通知の後は当事者は審判官に対し審判資料を提出することができなくなるが、この効果は、原告主張のとおり、右通知が当事者に到達した時に発生する。しかし、特許法第一五六条第三項が、審決は審理終結通知を「発した日から二十日以内にしなければならない。」と規定しているところから考えると審理終結通知は、当事者に対し資料の追加提出のために審理再開の申立をする機会を与える趣旨で設けられた制度ではなく、審判の審理の進行をはかり審判終了の遅延を避けるために設けられた制度であつて、審理終結通知をなさずに審決をし、或は審理終結通知が当事者に到達する前に審決をしても、そのこと自体は審決取消の理由とはならず、特許法第一五六条第一項は被告主張のとおり訓示規定であるといわねばならない(大審院大正一二年二月二三日判決参照)。もつとも、右の場合、審決前または審理終結通知の到達前特許庁に到達した当事者の提出にかかる審判資料について、審決において何ら判断しなかつたときは、審決が違法となることはあり得る。たとえば、該審判資料が従前の争点とは別個の事項についての主張、立証を含むものであつたとき、または拒絶査定不服の審判の場合における明細書の補正書であつたときにおいて、叙上のごとき主張立証事項または補正された明細書について、判断をしなかつたときは、審決は取消を免れないが(従前の争点の範囲内の主張、立証は、これについて判断しなかつたとしても、審決取消訴訟においても主張、立証できるから、判断を欠いたこと自体は審決取消の理由にはならない。)これは右の主張、立証または補正された明細書についての判断を遺脱したからであつて、審理終結通知をせず、または該通知の到達前に審決をしたからではない。

したがって、特許法第一五六条第一項が効力規定であることを前提とし、審決が審理終結通知の到達前にされたことを違法とする原告の主張は採用の限りではない。

(二)  原告の主張(二)について

前記当事者間に争いがない審決理由の要点および<書証>によれば、本件の拒絶査定および審決が公知例として引用したのは、本願優先権主張日の後である昭和三六年二月二八日発行の報文ではなく、優先権主張日の前である昭和三五年一〇月一六日日本家政学会第一二回総会においてなされた原告主張の講演による発表内容自体であることが明らかである。そして、前記争いのない事実と<書証>によれば、本件の拒絶査定および審決は、ともに、前記講演によつて報文の第一表ないし第一〇表の実験結果が全部発表されたと認定し、ただ右実験結果のうち本件に特に関係がある部分として、拒絶査定は第九表を指摘し、審決は第六表を指摘したに過ぎないことが認められる。したがって、本件は、審判において査定の理由と異なる拒絶理由を発見した場合に当らないから、審判官が特許法第一五九条第二項、第五〇条により、改めて原告(出願人)に対し拒絶理由を通知して意見書提出の機会を与えなかつたのは当然であつて、違法ではない。

特許法第一五〇条第五項により証拠調の結果を当事者に通知しなければならないのは、審査手続において証拠調をした証拠および拒絶理由通知で出願人に示した文献以外の証拠について審判において職権で証拠調をした場合に限ることは明らかであるところ、<書証>によれば、報文はその全文が審査手続において特許異議申立人D会社から証拠として提出されたことが明らかであるから、審査手続で既に証拠調がなされたものであるといわねばならない(特許法第五九条第一五〇条参照。)。したがって、審判官が報文のうち第六表だけについて新たに職権で証拠調をすることはあり得ないので、審判長が特許法第一五〇条第五項による通知をしなかつたのは当然であつて違法ではない。

原告が拒絶査定に対する不服審判請求の理由とするところは、特段の証拠のない本件においては、結局において拒絶査定ないしその理由は不当である、というにあつたと推認するのが相当であるところ、前認定のとおり、審決は拒絶査定と同様公知例として前記講演を引用したうえ、前記講演によつて報文第一表ないし第一〇表の実験結果が全部発表されたとした拒絶査定の認定を支持したのであつて、ただ右実験結果のうち特に本件に関係がある部分として第六表を指摘したに過ぎないのであるから、審判請求人である原告が申し立てない理由について審理した場合に当らない。したがって、審判長が特許法第一五三条第二項により原告に対し審理の結果を通知し意見を申し立てる機会を与えなかつたのは当然であつて違法ではない。

(三)  原告の主張(三)について

<書証>によれば、報文の末尾には「本論文は昭和三五年一〇月一六日日本家政学会第一二回総会(東京)及び昭和三五年一一月一九日日本家政学会関西支部第一六回研究会(大阪)で講演。」という記載があり、昭和三五年一〇月一〇日発行の日本家政学会第一二回総会研究発表要旨集には前記講演の要旨として「洗剤濃度などと洗浄効果の関係などを報告する。」との記載があることが認められ、右「洗剤濃度など」とは洗剤の濃度、種類等洗液の組成を意味するものと解されるので、報文所載の実験結果のうち、超音波による布の洗浄を種類または(および)濃度の異なる洗剤を使用して行なつた場合の洗浄効果を対比した実験である報文第四表および第六表ないし第九表の実験結果が前記講演において発表されたことは明らかである。そして、<書証>および証人Yの証言を総合すれば、O女子大学家政学部教授で被服整理学を専門分野とするYが前記日本家政学会総会においてそのプログラムに前記講演の要点を書き込んだメモ(甲第六号証の二のうちペン書きの部分)のうち「○○○ロン」(○○○は判読不能、かつ字数も明らかでない。)と左横書きして波型のアンダーラインを施した部分は、「ダイフロン」であると推定されるところ(他に考えられるのはテトロン、カシミロン等であるが、同人がわざわざこれをメモしアンダーラインを施すとは考えられないし、かつ<書証>によつてうかがえる記載の位置態様からみて、このような繊維名の記載とは考えられない。)、この事実と証人Yの供述を併せ考えれば、他に特段の証拠のない本件においては、報文の前記第四表および第六表ないし第九表の実験結果は「ダイフロン」その他使用された洗剤名を明示して前記講演において発表されたと推認するのが相当である。

前記講演が一二分間でなされたこと、報文が一〇頁におよぶ長文のものであることは当事者間に争いがないが、学会の研究発表において図表等を用意して研究結果を説明することがしばしば行われることは公知の事実であり、一二分間の講演時間内に報文の記載内容を右認定の限度で発表することは不可能とはいえないから、右争いのない事実は前認定を妨げるものではない。

そして、ダイフロンはダイフロンS3の略称であり、ダイフロンS3が一・一・二―トリクロロ―一・二・二―トリフルオロエタン(CCl2F―CClF2)のD会社の商品名であることは当事者間に争いがなく、前記甲第三号証の二によれば、ダイフロンS3は昭和三五年一〇月当時機械、映画用フイルムの超音波洗浄用に推奨されていた洗剤であることが認められるので、仮に前記講演においてその化学名、化学式が明示されなかつたとしても、当業者(その範囲は後記認定のとおり)ならばそれを知つていたか、または調べればすぐわかつたはずであるといわねばならない。

そうだとすると、一・一・二―トリクロロ―一・二・二―トリフルオロエタンのような本願発明にかかるクロロフルオロ炭化水素およびそれによる洗浄実験の結果が前記講演において開示されなかつたことを前提とする原告の主張(三)は採用の限りではない。

(四)  原告の主張(四)について

昭和三五年一〇月一六日に行なわれた日本家政学会第一二回総会において報文所載の実験結果が報告されたことは既に認定したとおりであり、これらの実験結果がいずれも超音波利用のしみぬき法に関するものであることは、当事者間に争いがない。

原告は、右実験における洗浄形式はドライクリーニングと異質であり、したがって超音波利用のしみぬき実験に溶剤「ダイフロンS3」が試供されたという事実から、そのダイフロンS3が一般の乾式洗濯、すなわち繊維品用ドライクリーニング溶剤に使用できるということは当業者にも到底想到し得ないところであると主張する。この主張について考えるのに、一般のドライクリーニングが衣料品をドライクリーニング用溶媒中にまるごと浸漬してその汚れを全体的に除去する洗浄形式であるのに対し、一般のしみぬきは、衣料品の局部に特殊な薬剤を塗布して局部的な汚れを除去する洗浄形式であり、ドライクリーニングでは除去できない特殊な汚れやドライクリーニングで除去したのでは布地や染料を損傷するような局部の汚れを除去するために、ドライクリーニングとは別に行なわれるのが普通であり、一般のしみぬきに用いられる薬剤は原則としてドライクリーニング用洗剤に転用できないこと、一般のドライクリーニングにおいて被洗物に施される機械力が一分間二〇ないし三五回のドラムの回転による機械的な攪拌であるのに対し、報文所載の実験において被洗物に施される機械力(物理作用)が一秒間二五、〇〇〇サイクルの超音波であることは、被告の認めて争わないか、または明らかに争わないところである。そうであるから、通常一般のクリーニング業者からみれば、原告の主張するように、報文所載の実験における洗浄形式はドライクリーニングとは異質のものと観念されることは推察に難くなく、これら通常一般のクリーニング業者の観点からは、超音波しみぬき実験に溶剤「ダイフロンS3」が試供されたという報告から、そのダイフロンS3が繊維品用ドライクリーニング溶剤に使用できるということは容易に想到し得ないと考えられないわけではない。

しかしながら、前述した本願発明の要旨と<書証>を併せ考えれば本願発明の属する技術分野は、ドライクリーニングないしはその他の手段による洗濯の実施に関する技術の分野ではなく、化学薬品による汚垢の除去の作用ないしはこの種の薬品の研究、利用、製造、開発に関する技術の分野であり、本願発明の場合における当業者とはかかる技術分野の従業者であるというのを相当とすべく、本件審決の、前叙総会で発表された技術内容から当業者が容易になし得る旨の認定にいわゆる当業者も、同様の意味に用いられたものであると解される。

ところで、<書証>によれば、報文所載の実験において行われる超音波処理は、繊維に附着している汚垢を洗液中に溶解または分散させ、これを繊維の組織外に運び出す作用に関するものであることにおいては、一般のドライクリーニングにおける機械的攪拌と原理的に同一であることが認められる。また、報文所載の実験における洗浄形式は、局部的であれ、繊維品の汚れの除去を目的とし、かつダイフロンを使用する場合は水を使用しない洗浄形式である点でドライクリーニングと同断であることは、原告の明らかに争つていないところである。さらに、しみぬき用薬剤はドライクリーニング用洗剤に転用できないということも絶対的な命題でないことは、現在しみぬき用薬剤のみに使用されている四塩化炭素が過去においてドライクリーニング用洗剤として使用されたことがある事実(このことは、当事者間に争いがない。)からも、これを首肯し得るであろう。そしてさらに、報文所載の実験のうち、超音波処理による布の洗浄を異なる種類の洗剤を使用して行なつた場合の洗浄効果の対比を主な目的とした第四、第六、第九の各表の実験において使用された洗剤は、ゲンブ石けんおよびダイフロンS3のほかはドライクリーニング用洗剤として普通に使用されている)このことは、原告が主張し被告が明らかに争つていない。)トリクロロエチレン(トリクロールエチレン)だけであつて、原告が列挙主張するしみぬき用の特殊な薬剤は一種も使用されていないことが認められる。右実験結果が使用された洗剤名を明示して前記講演において発表されたことは、既に判示したとおりである。

以上認定の諸事実に証人Yの証言を総合して考えると、既に判示したとおりの当業者、すなわち化学薬品による汚垢除去の作用ないしこの種の薬品の研究、開発、製造に関する技術の分野に従事する者が前記講演において洗剤名としてダイフロン(ダイフロンS3)がトリクロロエチレンと並んで挙げられるのを聞くならば、ダイフロンS3を新種のドライクリーニング用洗剤として使用することを容易に想到し得るものと認めるのが相当である。<中略>

以上のとおりであるから、本願発明は前記講演における開示の結果から当業者が容易に想到し得るところであるとした審決の認定には、原告主張の違法はない。

(五)  原告の主張(五)について

ダイフロンS3を超音波と併用した場合の洗浄効率の実験結果に関する報文の記載が原告主張のとおりであることは、当事者間に争いがない。原告は、報文第六表にダイフロンS3を用いた場合の洗浄効率がカシミロンについては一〇〇%とあるのは、超音波の効果が著しいためである、と報文の第六表の解説に記載されていると主張するが(このことは被告も認めているが、間接事実の自白であるから裁判所を拘束しない。)前記<書証>によれば、報文中第六表の解説として「手もみ洗いに比し絹特にカシミロンの場合超音波の効果が著しいことが読みとれる。」とある記載は、カシミロンに対し、超音波と各種洗剤(ゲンブ石けん、トリクロロエチレン、ダイフロンS3)を併用した場合の洗浄効率が手もみ洗いと洗剤(ゲンブ石けん)を併用した場合に比べいずれも著しくすぐれていることを指摘したに過ぎず、前者の各洗浄効率に対する超音波の寄与が各種洗剤のそれよりも著しく大きいことを意味するものではないことが明らかである。したがって、右第六表の実験結果はダイフロンS3がカシミロンに対しては十分な洗浄能力を有することを示したものといわねばならない。

<中略>

そうであるとすれば、報文所載の実験結果は、原告主張のようにダイフロンS3が繊維品のドライクリーニング用洗剤としての使用可能性を有することを否定したものではなく、むしろ大部分の繊維につきトリクロロエチレンとほぼ同等の洗浄能力を有すること、すなわち繊維品用ドライクリーニング用洗剤として使用することができる洗浄能力を有することを示すものと認めるのが相当である。もつとも、報文第九表にはダイフロンS3と超音波およびダイフロンS3と手もみ洗いを砂とカーボンブラックによる乾式汚染布に併用した場合の洗浄効率の実験結果が記載されており、その洗浄効率は超音波併用の場合にあつてはカシミロンおよびテトロンにつきいずれも、手もみ洗い併用の場合にあつては絹、人絹、カシミロン、テトロンのいずれについてもOであることが認められるが、右第九表にはトリクロロエチレンその他普通にドライクリーニング用洗剤として使用されている洗剤を同一条件で使用した場合の洗浄効率の実験結果は記載されていないので、他に特設の証拠のない本件においては、第九表の実験結果は前認定の妨げとはならないものといわねばならない。したがって原告の主張(五)は採用の限りではない。

(六)  原告の主張(六)について

前記報文第六表、第九表の実験結果はダイフロンS3の繊維品に対する洗浄能力だけに関するもの、換言すれば、原告がドライクリーニング用洗剤に必要であるとするその他の諸性質については検討していないものであることが明らかである。

原告は、繊維品のドライクリーニング用洗剤は洗浄能力のほかにそれと同等の重要さで原告主張の(イ)ないし(リ)の諸性質を併せ有していなければならないことが本願優先権主張日時当業者の常識であつたと主張し、被告もこれを認めている。なるほど、通常一般のクリーニング業者が洗剤の製造販売業者の提供する洗剤のなかから自己が使用すべきドライクリーニング用洗剤を選択する基準としては、まさに原告の右主張が妥当するであろう。けだし、洗剤の製造販売業者の提供する洗剤には洗浄能力のないものは既に含まれていないことは、我々の常識上も明らかであるからである。しかし、本願発明との関係で当業者というべき者は一般のクリーニング業者ではなく、化学薬品による汚垢の除去の作用ないしこの種の薬品の研究、利用、製造、開発に関する技術の分野に従事している者であることは前判示のとおりであるところ(被告は通常一般のクリーニング業者にとつて原告主張の事実が常識であつたことを認めているのであつて、一般のクリーニング業者が当業者であることまで自白したものではないと認める。)、右の当業者にとつても原告の主張が妥当するかどうかは別個にこれを考察しなければならない。右のような当業者がドライクリーニング用洗剤を開発製造しようとする場合、かかる洗剤の備えていなければならない第一義的な性質は洗浄能力を有することであることはいうまでもない。けだし、原告主張の(イ)ないし(リ)の諸性質はいずれもその洗剤が洗浄能力を有することを前提としているのであつて、右諸性質は有するが洗浄能力のないものではそもそもドライクリーニング用洗剤としての適格性を欠くことが明らかであるからである。ドライクリーニング用洗剤として不可欠の要件は右の洗浄能力を有することであつて、原告主張の(イ)ないし(リ)の諸性質を有することはドライクリーニング用洗剤として望ましいというに止まり、絶対的な要件ではないというべきである。けだし、原告の主張自体によつても、現在ドライクリーニング用洗剤として普通に使用されている洗剤のうち、シュトッダート溶剤(ホワイトスピリット)は(ホ)の性質を欠き、パークロロエチレンやトリクロロエチレンは少なくとも(イ)、(ロ)、(ニ)、(ヘ)、(チ)の諸要件を充さないのであつて、(イ)ないし(リ)の諸性質を全部備えているものは存在しないことが明らかであるからである。<書証>の各証言中原告の主張に副う部分は、クリーニング業者の立場に立つてドライクリーニング用洗剤の望ましい条件と不可欠の要件を混同しているものと認められるので、直ちに採用することができない。

そして、報文第六表の実験結果はダイフロンS3が繊維品の洗剤として使用することができる洗浄能力を有することを示すものであることは前認定のとおりであるから、右実験結果を発表した前記講演は、ダイフロンS3が右の洗浄能力を有すること、換言すれば、他の洗剤よりも望ましい条件を多く備えているか否かはともかくとして、ドライクリーニング用洗剤として使用できることを前記の当業者が容易に想到し得る程度に開示したものと認めなければならない。

そうだとすると、前記当事者間に争いがない本願発明の要旨によれば、本願発明のもつ技術思想は、ダイフロンS3のようなクロロフルオロ炭化水素をドライクリーニング用洗剤として使用する、ということに尽きること(すなわち用途発明であること)が明らかであるところ、ダイフロンS3をドライクリーニング用洗剤として使用するという技術思想、換言すればダイフロンS3がドライクリーニング用洗剤として不可欠の性質を備えている事実は、本願優先権主張日前既に前記講演によつて公知となつていたのであるから、ダイフロンS3がドライクリーニング用洗剤として望ましい前記(イ)ないし(リ)の諸性質を備え(このことは当事者間に争いがない。)、それに応じた作用効果を奏することは、公知の技術思想のもたらす作用効果を確認したに過ぎず、当業者ならば右事実から容易に推考できることであると認めるのが相当である。

したがって、原告の主張(六)は採用の限りではない。

(七)  原告の主張(七)について

原告の主張は次の理由により主張自体失当である。すなわち、本件訴訟において審理判断の対象となるのは、本願を拒絶すべきものとした本件審決の理由が違法であるか否かであつて、本願発明が特許されるべきか否かではない。本件審決は、前叙のとおり、本願発明は前記講演によつて公知となつた技術思想から当業者が容易に推考できるものであることを理由とするものであるところ、原告の主張(七)は、右の審決理由とは関係なく、本願発明は用途発明として特許されるべきである、というに帰するから、それ自体理由がないことは明らかである。

三以上説示したとおりであるから、その主張のような違法のあることを理由に本件審決の取消を求める原告の本訴請求は理由がないものというほかない。

よつて、これを棄却する。(服部高顕 石沢健 滝川叡一)

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