大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和41年(ラ)626号 判決 1966年11月21日

抗告人 佐藤茂

右代理人弁護士 宮崎保興

同 藤森勝太郎

相手方(債権者) 坂上重守

相手方(競落人) 湯川洪

相手方(競落人) 牛田新之助

主文

原決定を取り消し、本件を原裁判所に差し戻す。

理由

本件抗告の趣旨及びその理由は、別紙に記載したとおりである。

一、競売申立記入登記を欠く違法について

本件記録(原裁判所昭和三十九年(ヌ)第一五号及び昭和四〇年(ケ)第三五号各不動産競売事件記録)によると、本件競売手続の申立債権者は相手方坂上重守であるが、本件不動産については、これより先、債権者である訴外大和商事株式会社が昭和三十九年七月十六日抗告人を債務者とする静岡地方法務局所属公証人中本広三郎作成昭和三十九年七三八号金銭消費貸借公正証書の執行力ある正本に基づき強制競売を申し立て、原裁判所において昭和三十九年(ヌ)第一五号不動産競売事件として同年七月十七日強制競売開始決定をなすとともに競売申立て登記を嘱託し同年八月五日その旨の登記がなされ、その競売事件が係属していたため、前記相手方の申立ては、右強制競売事件記録に添付され、その旨抗告人に通知されたことが明らかである。しかして、競売手続開始の決定をなした不動産につき競売の申立てがあっても、さらに開始決定をすることはできず、右の申立ては、すでに開始決定のあった執行事件記録に添附することによって配当要求の効力を生じ、また、すでに開始した競売手続が取り消されたときは開始決定を受けた効力を生じ(民事訴訟法第六百四十五条第一、二項準用)、すでになされた登記もその効力を保持するものであって、あらためて、競売開始決定をなしその旨の登記をする必要がないのであるから、本件競売手続において、これを欠くからといって、その手続が違法となるものではない。なお、すでに開始決定のあった前記競売手続は、その後取下げとなったため、本件競売手続が進められ本件各競落許可決定があったもので、この間に、抗告人のいうような違法の点はない。

二、過剰競売に基づく違法

しかしながら、職権で調査すると、競売法による競売については性質の許す限り民事訟訴法の規定を準用すべく、いわゆる過剰競売の禁止に関する同法第六百七十五条も準用すべきで、数個の不動産を競売に付した場合、ある不動産の売得金をもって競売申立債権者の債権並びにこれに優先する債権及び競売費用を弁済するに足るときは、もはや他の不動産につき競落を許すことができないところ、記録によれば、競売申立債権者の債権額は、元金百六十五万円及びこれに対する弁済期の後である昭和三十九年七月一日から本件競落期日まで年三割の割合による約定遅延損害金百七万二千四十三円、競売申立債権者の予納にかかる競売手続費用金七万九千九百八十円、神奈川県下足柄県税地方事務所の交付要求にかかる不動産取得税等金十一万一千六十円、合計金二百九十一万三千八十三円であり、これに対し各別に競売に付された本件各不動産の最高価競買申出価額は、それぞれ別紙目標(一)については金二百万円(二)については、金九十万七千円、(三)については、金三十万円、(四)については、金二万円、(五)については金三百二十万一千円で、前記各債権及び競売手続費用額合計金二百九十一万三千八十三円に予納にかからない競売手続費用を考慮しても、各物件のうちの一部の売得金をもって前示債権及び費用を償うに足ることは明らかである。したがって、右物件全部の競落を許可した原決定は、違法であって取消しを免れない。そして右のような場合には債務者は各不動産中売却すべきものを指定する権利があり、また、債務者がその指定をしないときには売却すべき不動産の選択は競売裁判所の裁量により決すべきであるから、本件はさらに競落許否の裁判をなすため原裁判所に差し戻すのが相当である。よって主文のとおり決定する。<以下省略>。

<以下省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例