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東京高等裁判所 昭和40年(行コ)27号 判決 1966年11月01日

東京都中野区新井町六二五番地

控訴人

中野税務署長

萩原潔

右指定代理人検事

川村俊雄

法務事務官 望月正

大蔵事務官 喜井晨男

同 吉野定利

東京都中野区本町通四丁目三三番地

被控訴人

有限会社 系平

右代表者代表取締役

岡田儀平

右訴訟代理人弁護士

小沢茂

右当事者間の課税処分取消請求控訴事件につき当裁判所は次の通り判決する。

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴指定代理人は「原判決を取消す、被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二番とも被控訴人の負担とする」との判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上および法律上の主張と証拠関係は次の通り附加するほかは原判決事実摘示の通りであるからこれを引用する。(但原判決三枚目裏八行中の「法人税より控除すべき利益配当金二一、〇〇〇円」の記載は重複と認め削除する。)

第一控訴人の主張

(一)  青色法人に対する更正処分に附記する理由の記載として必要な程度、 更正処分は一般人を対象とせず個別的な青色法人に対するものであるから理由の附記はその青色法人との関係で相対的に判然すれば足りる。本件更正処分のうち第一事業年度の更正処分の附記理由「借入金否認二五二万円」は「被控訴人が記帳している興産信用金庫からの借入金(負債科目)二五二万円は被控訴人に帰属すべきものではないから借入金(負債科目)二五二万円の計上を否認する」という趣旨を端的に表示したもので控訴人は法人税法(昭和三七年度改正前のもの、以下改正前の法人税法を単に法という)第三二条の立法趣旨に照し被控訴人の備付の帳簿書類を調査して借入金の記載を否定し、更正処分をしているのであり、その更正の箇所と否定根拠を明らかにしているから右の程度で理由の附記として十分である。

第二事業年度の「日掛預金計上洩七万五、五〇〇円、出資金計上洩二、〇〇〇円、月掛預金計上洩四万一、二〇〇円」、第三事業年度の「建物売却益五〇万〇、〇〇〇円、月掛預金計上洩七万六、〇〇〇円、定期預金計上洩二六万〇、〇〇〇円、定期積金計上洩三万九、七五〇円、普通預金計上洩五、三一〇円、当座預金計上洩二、八〇五円」なる理由記載は、夫々帳簿書類を調査したうえ簿外預金等を挙示してその計上洩を認定したことを示しているもので理由の附記として十分というべくそれ以上に、長期間に亘る取引全部につきその資料を摘示するのは従労である。また第二事業年度の「繰越欠損金控除否認一五二万八、一九八円、借入金容認△五四万六、一五九円」および第三事業年度の「償却超過一一万四、四三六円、借入金容認△六三万三、八四一円、利益配当△二万一、〇〇〇円、月掛預金容認△七万五、五〇〇円」の各記載は帳簿書類の記載自体とは関係のない決算書類作成上の計算金額の適正額や前期の計算に基く調製金額を示しているもので更正処分の理由として十分である。

更に、仮に本件更正処分の理由附記に一部不備のものがあつても原判決のように更正処分の全体が違法に帰するいわれがない。

(二)  更正処分に対する再調査決定(異議決定)と裁決(審査決定)の性質並びに更正処分のかしの治癒

再調査請求と審査請求は共に訴願(行政不服審査)制度に基くものであるが、再調査は処分庁が行うので処分庁の自己反省であり、審査は処分庁に対し一般監督権を有する直近上級官庁が行なうものであるから監督権の作用として当然に当該処分を変更する権限を有するので両者は共に更正処分手続の一環としての性格を有する。従つて更正処分をするに当つて十分な理由を附記すべきことは勿論であるが仮に原処分の理由附記に不備があつても再調査決定または審査決定の段階において原処分との同一性を害しない範囲で再調査庁または審査庁がその権限に基き理由附記の不備を補充すれば理由附記にかしはないと解すべくこのような補充は原処分の不利益変更には当らないから更正処分の適否は独り原処分のみを対象とせず再調査決定ないし審査決定をも一体として判断すべきものである。また、更正処分の理由附記の不備違法は更正処分を当然に無効ならしめるものではなく取消原因に過ぎないから行政庁内部の一環手続である再調査決定または審査決定において理由附記の不備を補充し更正処分の理由を明らかにすればかしは治癒されたと解すべく、このことは更正処分に実体上のかしがあつて再調査庁または審査庁において審理のうえそのかしを認めた場合その認定が原処分庁の認定を下廻るときはその限度で更正処分を取消し上廻るときは不利益変更は制度上許されないから再調査請求または審査請求を棄却することによつて原処分の是正を行なう場合と同様であつて既に審査決定等で更正の理由も開示されているのに重ねて更正処分をやり直す如きは徒に行政上の法的不安定と不経済を招くだけである。

第二被控訴人の主張

(一)  青色法人に対する更正処分に附記すべき理由の記載として必要な程度

青色法人に対する更正処分の通知書に附記すべき理由は如何なる程度の記載を要するかについて法第三二条にはなんら規定がないけれどもその程度は法第二五条、第二九条、第三〇条、第三一条の四等の規定から自ら解釈できるというべく理由を附記することは更正が公正妥当であることを担保するためであるから具体的に帳簿との関連において帳簿の記載以上に信憑力のある資料を示して申告が真実でないことの根拠を明示した理由を附さなければならないのは当然であつて、納税義務者がその理由を推知しうると否とに拘りがないというべきである。控訴人が第一事業年度の所得金額等を更正した理由は単に「借入金否認二五二万円」と記載されているのみであつて被控訴人において否認された借入金が興産信用金庫の残債務であることを知つていたとしてもこれだけでは如何なる根拠によつて否認せられたのか到底理解できないし第二、第三事業年度の更正処分のうち「日掛預金計上洩七万五、五〇〇円、出資金計上洩二、〇〇〇円、月掛預金計上洩四万一、二〇〇円」及び「建物売却益五〇万円、月掛預金計上洩、七万六、〇〇〇〇円、定期預金計上洩二六万円、定期積金計上洩三万九、七五〇円、普通預金計上洩五、三一〇円、当座預金計上洩二、八〇五円、売上計上洩二五万円、償却超過二万四、四三六円」との記載も同様の略記で帳簿書類との関連において信憑力のある資料を示して更正処分をした具体的根拠を明らかにしたものということはできず、また第二、第三事業年度の更正処分のうち「借入金容認」「月掛預金容認」等の記載も結局前記第一事業年度の「借入金二五二万円否認」、第三事業年度の「定期預金二六万円計上洩」と関連するので前提である後者の記載が附記理由として違法である以上前者の記載もまた附記理由として違法というべく控訴人のなした理由の附記は要するに勘定科目の創設と修正に過ぎない。

(二)  更正処分に対する再調査決定と審査決定の性質並びに更正処分のかしの治癒。

本件の場合審査決定の理由によつても原処分の具体的根拠を明らかにしているとはいえず従つてかしの治癒を云う控訴人の主張は前提において失当である。のみならず更正処分は更正通知書を納税義務者に送達することによつて完結する行政行為であつて更正処分は課税権の行使であるが、再調査請求ないし決定、審査請求ないし決定は不服審査の手続であつて課税処分手続ではない。再調査決定及び審査決定は更正処分とは別個の行政行為であつて更正処分手続の一環ではないから再調査決定に対し再度の調査請求ができず、再調査決定や審査決定に当つて不利益変更が許されないのであり、再調査決定、審査決定が課税処分である更正処分と一連一体の関係にあるということのできないことは明らかである。従つて審査決定等により更正処分の理由附記の不備が補充されるということはあり得ず、正確には不服審査庁の決定が処分庁の更正処分の理由附記のかしを摘示したという意味を有するに過ぎず、かしのある更正処分が治癒されてかしのない更正処分になる理がない。このことは法第三四条において課税標準、欠損金額、法人税額、過少申告加算税、無申告加算税、重加算税に対し不服がある場合に再調査請求を認めているのに附記理由に不服がある場合の再調査請求はこれを認めていないことからも不服審査庁による附記理由の補充ということを考える余地がない。法第三二条も不服審査庁による補充を予定していないのであつて更正処分の適否は原処分の時点において判断すべきものである。

理由

第一当事者間に争いのない事実

一  被控訴人は青色申告の承認を受けた法人で、(1)昭和二五年一二月二七日から同二六年一二月二六日までの事業年度(以下第一事業年度という)(2)昭和二六年一二月二七日から同二七年一二月二六日までの事業年度(以下第二事業年度という)、(3)昭和二七年一二月二七日から同二八年一二月二六日までの事業年度(以下第三事業年度という)につき夫々原判決事実欄第二の一、請求原因(一)の(1)、(2)、(3)記載通りの青色申告書による確定申告をした。

二  控訴人は被控訴人の右各申告をそのままは認めず昭和二九年一一月三〇日前同請求原因(二)の前段記載の通り決定または更正処分を行ないその決定または更正の理由として前同第二の三、被告の主張A(一)の(1)記載の通り附記されていた。

三  被控訴人は昭和二九年一二月二四日控訴人に対し右決定および更正の各処分について再調査の請求をしたところ東京国税局長は同三四年一二月一九日に至り右第一および第二の各事業年度の法人税に関する決定についての審査請求を棄却し第三事業年度に関する更正処分のうち所得金額一四九万〇、三〇〇円中一四万二、八〇〇円を取消し所得金額を一三四万七、五〇〇円とする旨の審査決定をなし被控訴人に通知した。

第二  法第三二条に定める決定または更正に附記する理由の記載として必要な程度

一  法第三二条は政府が課税標準もしくは欠損金額または法人税額を決定または更正した場合には当該法人に通知を要することを定め、特に青色法人の申告についてなされたときには通知の書面に決定または更正の理由を附記することを要する旨を決めているが如何なる程度に理由を附記すべきかについては同条はなんら規定をしていない。

しかし法第三一条の四第一項において「政府は青色申告書を提出することができる法人の青色申告書を提出した事業年度分について法第二九条ないし第三一条の規定による課税標準もしくは欠損金額または法人税額の更正または決定をなす場合においては、当該事業年度分の申告書につき第二五条第八項後段の規定の適用があつた場合を除く外、その帳簿書類を調査しその調査により課税標準または欠損金額の計算に誤があると認められる場合に限りこれをなすことができる。」と規定しているのは青色申告制度は納税義務者に対し一定の帳簿書類の備付と記帳を義務付けているので、その帳簿を無視して更正または決定されることがないことを納税者に保障したものと解すべきであるから、本第三二条が附記することを定めている更正、決定の理由にはその帳簿、書類の記載以上に信憑力のある資料を示して決定または更正処分をするに至つた具体的根拠を明らかにすることが必要であつてこの要件を欠くときは当該更正又は決定は違法であるといわなければならない。(最高裁判所昭和三六年(オ)第八四〇号同三八年五月三一日第二小法廷判決、最高裁判所昭和三七年(オ)第一、〇一五号同三八年一二月二七日第二小法廷判決参照)

従つて本件の場合において控訴人が被控訴人の各事業年度の確定申告につき決定または更正をするにあたりその理由として附記したものは冒頭争のない事実欄に掲記した程度の略記である以上如何なる理由で如何なる資料に基き被控訴人の申告を否認し、計上洩を認定したのか一切不明という外なく法の定めている理由附記の要件を欠く違法があるといわなければならない。右に反する控訴人の主張は採用することができない。

二  控訴人は、被控訴人の再調査請求の内容によれば被控訴人は各事業年度分について何故控訴人が青色申告に反する決定または更正をしたか熟知していたことが窺知されるから更正の理由の記載としては右の程度で十分であると主張するけれども、法が青色申告に反する決定または更正をする場合に理由を附記せしめるのは、単に相手方である納税義務者に更正の理由を示すためのみではなく漫然たる更正のないよう更正の妥当公正を担保する趣旨を含むと解すべきであり、更に附記された理由が法の定める要件を具備しているか否かは通知書の記載自体によつて決すべきであつて、納税義務者がその理由を知つていると否とはこの場合何らかかわりのない問題というべきであるから、控訴人の右主張は採用できない。

第三附記理由に存するかしの治癒

控訴人は仮に決定または更正の理由に不備があつても本件におけるように再調査決定または審査決定で示された理由によつて原処分の理由が一層明らかになれば原処分の理由附記の不備は補充せられ、そのかしは治癒されると主張する。しかしながら本件における被控訴人の審査請求(成立に争いのない乙第一六号証の一ないし三及び弁論の全趣旨によると被控訴人は控訴人のした本件各更正及び決定に対し昭和二九年一二月二四日再調査の請求をしたが、法第三五条第三項により審査の請求とみなされたことが明かである。)に対する東京国税局長の審査決定通知に附記された理由は、それ自体として見ても、又原処分の附記理由と併せて見ても、次に述べる通り、前示のような法の要求する理由附記としては十分なものと認められない。すなわち

一  第一事業年度分

同年度の審査請求を棄却した理由は成立に争のない乙第一七号証の一によると「貴社の計上した借入金は貴社の取得した(簿外の)権利金債権と相殺さるべきものでありますから当該借入金は貴社の債務とは認められません」と附記されたことが認められるが「取得した簿外の権利金債権」というだけでは具体性を欠き不明確であつて原処分の理由の不備を補うものとは認められない。

二  第二事業年度分

日掛預金七万五、〇〇〇円、月額預金四万一、二〇〇円、出資金二、〇〇〇円を個人所有で被控訴人のものでないという審査請求を棄却した理由は成立に争のない乙第一七号証の二によると「代表者個人及び西岸ゆき個人の収入源泉、資金繰状態等よりみて個人の造成したものと認められません」と附記したことが認められるが、右は単に調査担当官の推測の結果を示しているに止まり被控訴人の帳簿書類以上に信憑力のある資料を示して右のような判断とするに至つた根拠を具体的に明かにしたものとは到底認められないからこの程度の補足では未だもつて原処分の不備を補つたとは認め難い。

三  第三事業年度分

成立に争のない乙第一七号証の三によれば審査決定が第三事業年度につき原処分の一部を取消し他を棄却した理由は次の通りである。

「減価償却超過額及び定期積金については貴社申立に理由があり又普通預金計上洩は四、〇一八円が正当でありますが、建物売却益五〇万〇、〇〇〇円、売上二五万〇、〇〇〇円、月掛預金七万六、〇〇〇円、定期預金二万六、〇〇〇円、当座預金二、八〇五円は何れも全額(売上)計上洩と認めます。」

しかし被控訴人の再調査請求を容認した部分は暫くおき爾余は原更正処分の附記理由の繰り返しに過ぎず、なんら資料を示して計上洩を認めた根拠を具体的に明らかにしたものということはできないからこれまた原処分の理由の不備を補つたものと考えることはできない。

従つて、右と異る前提に立つて瑕疵の治癒をいう控訴人の前記主張は失当である。

第四理由附記の不備と更正処分取消の事由。

控訴人は更に更正処分の理由附記に一部不備があつても更正処分全体が違法に帰するいわれがないと主張するが、本件の各決定または更正処分の通知書に附記された理由はいずれも全体として当該の決定又は更正処分の理由となつているもので、その理由の記載が法の定める要件を欠く不備のものであることはさきに説明したところから明らかであるから、右各処分自体の取消を免れないというべく控訴人の右主張も採用できない。

第五  なお控訴人は、更正された課税標準、法人税額そのものに誤りがない以上附記された理由の如何によつて更正又は決定自体の適法性が左右せられることはないというけれども、当裁判所も右主張を失当と認めるのであつて、その理由は原判決理由二の(四)に記載するところ(記録九二五丁裏四行目から同一〇行目まで)と同一であるから、これを引用する。

第六結論

してみれば控訴人のなした本件更正及び決定処分はその実体上の適否について判断をなすまでもなく取消を免れないのであつて、被控訴人の本訴請求は認容せらるべく、これと同旨に出でた原判決は相当であつて本件控訴は理由がないから民事訴訟法第三八四条第九五条第八九条を適用して主文の通り判決する。

(裁判長裁判官 岸上康夫 裁判官 小野沢竜雄 裁判官 田中永司)

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