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東京高等裁判所 昭和40年(ネ)952号 判決 1969年6月04日

理由

被控訴人ら主張の根抵当権設定契約が昭和二九年七月二七日被控訴人合作社と控訴人との間で締結されたこと、控訴人が被控訴人ら主張の手形四通を振出したこと、本件建物について被控訴人ら主張のような各登記がなされていること、控訴人が被控訴人ら主張の室を占有していることは当事者間に争いがなく、《証拠》によれば、右契約締結の際、被控訴人合作社との間で被控訴人ら主張の代物弁済の予約が締結されたこと、控訴人が右各手形金債務の履行を怠つたので、被控訴人合作社が昭和三〇年四月二〇日到達の書面で控訴人に対し被控訴人ら主張のような催告および条件付本件予約完結の意思表示をしたことを認めることができる。原審における控訴人本人尋問の結果(第三回)中には、甲第二号証(代物弁済予約同意書)は理事長が念のため書くのだと言い、自分はその意味がよく判らないけれども、仮に登記するというように書いてあるので、仮に登記するならよいのではないかと思つて、署名押印した旨、そのとき理事長は建物をとるのが目的ではないと言つたし、自分も甲第二号証の法律的意味がよく判らない関係もあつて、本当に有効な代物弁済契約をしたわけではない旨の各供述があるけれども、「念のため」と言つたというのは「債務を履行しないことは考えられないから、必要はないかも知れないけれども、万一債務不履行があつた場合のため」という趣旨に解され、「建物をとるのが目的ではない」と言つたというのは「債務を履行してもらいさえすればよいので、どうしても債務を履行しない場合に建物の所有権を代物弁済として取得する」という趣旨に解される以上、控訴人が被控訴人合作社に差入れた、昭和二九年六月二九日付抵当権設定契約書(乙第二六号証)にも、不動文字とはいえ、代物弁済の予約が記載されているから、控訴人は真意に基いて本件予約を結んだものと認めるのが相当であつて、右各供述は前記認定をくつがえすに足りないし、他にこれを左右するに足る証拠はない。

控訴人は、本件予約は予備的二次的担保である旨主張するけれども、該合意の存在を認めるに足る証拠がないから、右抗弁は採用することができない。

控訴人はさらに地上権付本件建物の昭和三〇年四月当時の価格は一、七九二万円(営業用什器類が特約のない限り、代物弁済の対象とならないことは明白であるから、その価格は加算しない。なお、控訴人の立証によつても、地上権付本件建物の価格が一、一三七万円を越えることは認められない)であり、同月二七日現在の債務元利合計二二三万余円と比較して、著しく不均衡である旨主張する。仮に右価格が真実のものとすれば、本件根抵当権の極度額と比較しても著しく不均衡であるけれども、本件予約は、控訴人の無知や窮迫に乗じてされた等特別の事情の存在については主張も立証もないから、右価格が真実のものとしても、右の程度ではそれ自体が無効となるものとは解し難く、根抵当権設定契約と同時に締結されている点から考えて、特別の事情の認められない本件においては、控訴人が債務の履行を怠つたときは、被控訴人合作社は本件建物を換価処分して、これによつて得た金員から債権の弁済を受け、残額はこれを控訴人に返還する趣旨と解するのが相当であり、控訴人主張の程度の額の債権があれば、同被控訴人は右処分権を行使しうるものと解すべきである。従つて債務額と目的物件の価額とが均衡を失するか否かは代物弁済の予約の効力そのものに何らの影響を及ぼさないといわねばならない。

次に、控訴人は、本件土地について昭和二五年六月二一日設定された地上権を有する旨主張するけれども、本件土地が本件建物の敷地であることは当事者間に争いがなく、建物は敷地の利用権を伴わなければ、建物としての効用を発揮できないのであるから、特別の事情のない限り、建物の所有権を移転させる旨の合意があれば、その敷地の利用権もこれとともに移転させる旨の黙示の合意があるものと認めるのが相当であるところ、本件地上権は、これを本件予約の対象から除外する旨の合意があつたことを認めるに足る証拠はないから(むしろ、本件根抵当権設定契約には根抵当権実行による本件建物の移転に伴つてその敷地利用権も移転する旨の約定があるのであるから、これに附随して締結された本件予約には同趣旨の明示の合意があつたものと認められる)、本件地上権は、設定されたとしても、本件建物の所有権とともに、被控訴人合作社に移転したものと認めるのが相当である。

控訴人は被控訴人合作社が基本契約を解約しないで完結権を行使したと主張するが、前記認定のように同被控訴人は昭和三〇年四月二〇日基本契約に基く全債権につき支払を催告しその催告期間中に弁済がないときは本件建物の所有権を取得すべきことを通告しているのであるから、被控訴人合作社が右通告により基本契約を終了せしめ債権額を確定してその清算をなすべき旨を表示したことは明白であるから、控訴人の前記主張は理由がない。

なお、控訴人は本件予約完結の意思表示は組合法の精神および定款の趣旨に反し、信義則違反、権利濫用であると主張するが、この根拠とするところは利息制限法違反の高利を加算した債権をもつて、かつ清算の意思なくしてなされたものであるというにあるところ、被控訴人合作社の清算義務はその内心の意思如何にかかわりのないことであり、かりに同被控訴人に清算義務の違反があるとしても、同義務の発生前になされた予約完結の意思表示をさかのぼつて無効ならしめるものでないことは多言を要しないところであるから、右主張もまた採用することができない。

以上判断したとおり、被控訴人合作社は本件建物およびその敷地の借地権(それが地上権であるか賃借権であるかはしばらくおき)を有効に取得したものというべきところ、《証拠》によれば、被控訴人合作社が昭和三五年四月一四日被控訴人一瀬に対し本件建物を敷地の借地権と共に売渡したことが認められる。従つて被控訴人合作社に対し本件建物の所有権が自己に属することの確認を求め、控訴人に対し本件室の明渡を求める被訴控人一瀬の請求は正当であり、被控訴人合作社および控訴人の各請求がいずれも失当であることは明白である。

ところが原判決は、被控訴人一瀬の被控訴人合作社に対する請求について判断していないから違法であるといわざるを得ないが、本件訴訟は被控訴人一瀬の当事者参加申立によつて生じた三面訴訟であるから、控訴人の控訴申立により被控訴人らの間の訴訟も当審に移審し審判の対象となつているものと解すべきである。よつて原判決を取消し、被控訴人一瀬の請求を認容し、被控訴人合作社および控訴人の各請求をいずれも棄却

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