大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和40年(ネ)18号 判決 1966年9月19日

理由

被控訴人から控訴人に対する債務名義として控訴人主張の公正証書があり、これに控訴人主張の記載があることは当事者間に争いない。

よつて控訴人主張の異議事由の当否について検討するに、《証拠》をあわせれば次のように認めることができる。すなわち上野電鋼は昭和三九年四月六日(一)の手形二通(金額合計八三万円)を日本橋商事株式会社に対し割引のため裏書譲渡し、そのさいその担保として上野電鋼及び控訴人共同振出にかかる控訴人主張の約束手形二通を裏書譲渡するとともに右(一)の手形の割引による債務につき控訴人において連帯保証し、かつこれにつき公正証書を作成することを承諾する旨を記載した上野電鋼及び控訴人連名の承諾書、そのためのの上野電鋼印鑑証明、控訴人の印鑑証明申請書、上野電鋼及び控訴人連名の白紙委任状を日本橋商事に交付し、これらの保証手形その他の書類は右(一)の手形が満期に支払われたときは返還さるべき旨を約した。しかるに日本橋商事は右(一)の手形を被控訴人に対し再割引のため交付により譲渡し、同時に上野電鋼及び控訴人から交付を受けた前記保証手形その他の書類を被控訴人に交付したが、これは上野電鋼及び控訴人のなんら関知しないものであつた。しかるにこれよりさき、上野電鋼は被控訴人主張(二)の手形三通(金額合計一二〇万円)を振出し、これが訴外大洋設計株式会社、丸建工業株式会社等を経て被控訴人の取得するところとなつたが、これら(二)の手形がいずれもその満期に不渡となつたので、被控訴人は日本橋商事から交付を受けていた上野電鋼及び控訴人名義の前記各書類を利用し、控訴人の印鑑証明申請書により印鑑証明を得、白紙委任状にはそれぞれ補充の上、これらによつて右(一)(二)の手形金額と同額の金員を目的として本件公正証書を作成するにいたつたものである。かように認めることができ、当審における証人水越冬夫の証言中右認定に反する部分は信用せず、その他に右認定をくつがえすべき的確な証拠はない。

右事実によつて考えれば上野電鋼が日本橋商事に対し本件(一)の手形の割引により金八三万円の債務を負担し、これにつき控訴人が連帯保証したこと、及び右債務につき上野電鋼と控訴人が日本橋商事との間に手形不払の場合公正証書を作成すべく、その手続を同会社に一任したことは明らかであるが、これはあくまで日本橋商事との間のものであつて、被控訴人との間のものではない。日本橋商事が右(一)の手形を被控訴人に再割引のため譲渡したとしても、これより被控訴人が右手形上の権利を上野電鋼に対して取得することはともかく、公正証書作成の権限をも取得するものでないことはいうまでもない(しかも(一)の手形がその後満期に支払われたことは当事者間に争いないから、日本橋商事としてはその当初に交付を受けた前記各書類を返還すべきものであつた)。また被控訴人の取得した(二)の手形については、これにより被控訴人が上野電鋼に対し手形上の権利を取得したものというべきであることは明らかであるが、これについては控訴人が連帯保証したことはなく、また当初から公正証書作成の合意はなかつたものであり、たまたま日本橋商事から入手した前記書類をこれに流用することは許されないことは明らかでる。

しからば本件公正証書は無効であり、これが執行力の排除を求める控訴人の本訴請求は理由がある。よつてこれを認容し、これと異なる原判決は失当であるからこれを取り消し……。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例