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東京高等裁判所 昭和40年(ネ)1049号 判決 1966年9月16日

控訴人(被告) 山恵木材株式会社

被控訴人(原告) 藤田幸男

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は原判決を取消す、被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とするとの判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。(証拠省略)

理由

被控訴人が控訴会社に雇われていた従業員であるが、昭和三十三年四月二十五日控訴会社から解雇する旨の意思表示を受けたことは本件当事者間に争がない。

ところで控訴会社及び訴外佐藤木材株式会社等の営業並びにその経営状態、これらの木材問屋業者と訴外新宿木材市場株式会社との関係について原判決理由一に説示するところは、当裁判所の見解と同一であるからその記載を引用する。

次に控訴会社従業員を以て組織された労働組合(山恵労組)、佐藤木材株式会社従業員を以て組織された労働組合、上述両会社従業員を以て組織された合同労働組合の各結成、その内容、右合同労働組合の総評全国一般中小企業労働組合への加入に至るまでの経緯についての原判決理由二の1の記述も、当裁判所の見解と同一であるからその記載を引用する。

佐藤木材株式会社の解散による全従業員の解雇に端を発し、同会社と前述合同労働組合との間に労働争議が起り、その争議の経過、争議において被控訴人の演じた役割ないし活動、新宿木材市場株式会社が被控訴人の争議における活動を目して、同会社及び市場内の問屋の信用を失墜させるものとして、これが防止のため、控訴会社に被控訴人の解雇方を強要し、これがため控訴会社が被控訴人に対し解雇の意思表示をなすに至つたまでの経過についての原判決理由中の二の2で判示する事実については、右事実認定の証拠として、原本の存在並びに成立に争のない甲第二号証を附加する外は右判示と同一であるから、ここにその記載を引用する。

しかも前段判示の被控訴人の争議における組合活動が労働組合法第七条第一号所定の正当な活動の範囲を超えたものではないことは、成立に争のない甲第五号証、原審における原告(被控訴人)本人尋問の結果によつて、被控訴人には前段判示の組合活動以外に解雇原因となるような不都合な行為がなかつたことが認められることを補足する外は原判決理由中の二の3の(一)及び(二)の(1)(2)に説示するところと当裁判所の判断とは同一であるから右部分の記載を引用する。

してみれば控訴会社の被控訴人に対する解雇の意思表示は、前示争議における被控訴人の組合活動を嫌忌する新宿木材市場株式会社の強要によるものであつても、不当労働行為に該当する無効のものと云わざるを得ない。

控訴人は、新宿木材市場株式会社の被控訴人を解雇すべき旨の要求に応じなければ控訴会社の営業の破綻は必至であつたため、企業継続のために被控訴人を解雇したものであり、控訴会社には、不当労働行為の意思はなかつたのであるから、行為の外観に拘らず、右解雇は不当労働行為とならず、又右事情の下において控訴人が被控訴人を解雇することを自制することは、社会通念上期待不能であるから、この点からしても控訴会社の右解雇につき不当労働行為として評価し、その法的効力を控訴会社の不利に帰させるべきものではないと主張する。そこで考えると、

控訴会社が、新宿木材市場株式会社の要求を容れて被控訴人を解雇しなければ、控訴会社の営業の続行が不可能になるとの判断の下に前示要求を不当なものとなしながら被控訴人に対し解雇の意思を表示したことはすでに述べた(本判決に引用する原判決理由中の二の2)とおりであるが、新宿木材市場株式会社の控訴会社に対する被控訴人解雇の要求が前述の争議における被控訴人の正当な組合活動を理由とするものであり、そのことは控訴会社において十分に認識していたものであることは前判示により明であるから、右認識の下になされた本件解雇の意思表示は、たとえ右意思表示が自発的のものではなくとも控訴会社に不当労働行為をなす意思がなかつたとは云えないので、この点についての控訴人の主張は採用の限りではない。又控訴会社は新宿木材市場株式会社の解雇要求に従わなければ、営業継続不可能の事情の下では、被控訴人を解雇することを自制する期待可能性はなかつたと云うけれども、原審証人松本正保、松本政治の各証言、原審における被告(控訴)会社代表者尋問の結果からしても、控訴会社においても、新宿木材市場株式会社の被控訴人解雇要求を肯認せず、同会社の支配下を離脱して他に適当な営業継続方法を考慮したこともあることが認められ、更に成立に争のない甲第五号証、原審における原告(被控訴人)本人尋問、被告(控訴)会社代表者尋問の各結果を綜合すると、控訴会社は従来東京都渋谷区千駄ケ谷に事務所を有し同所でつけ売りによつて全営業収益の約三〇パーセントを挙げていたもので昭和三十三年四月二十五日被控訴人を解雇すると同時に新宿木材市場株式会社の社内にある事務所を右会社に明渡したけれども、市売りの営業は続けており、昭和三十七年七月十九日からは渋谷区幡ケ谷に事務所並びに木材置場を設けて営業を継続していることが認められる。以上各認定の事実よりすれば、控訴会社が被控訴人を解雇せよとの新宿木材市場株式会社の要求に応じないため、同会社との間の業務契約を解かれても、(これにより控訴会社が新宿木材市場株式会社に対し損害賠償等を求め得るとしても、資金面、営業面における好意的援助を失うことの不利は免れないが)従前どおりの営業はできないにしても必ずしも企業として成り立たないと確言できる事情ではなかつたと云え得るばかりでなく、元来「期待可能性」の問題は、原判決理由中の三の1に指摘するように、行為が法規違反の要件を具備するかどうかを定めるためのものではなく、その行為の法律上の不利な効果を行為者に帰させるべきか否かを定める帰責に関する理論であり、本件解雇が労働組合法第七条に反する不当労働行為に該当するかどうかを定めるための理論としては適切でない。控訴人は本件解雇が法律上無効であるという不利な効果を控訴会社に帰属さすべきではないとする趣旨で期待可能性の有無を云為していると思われるが、その当らないことは上述するところにより明であり、本件解雇の効力の有無は、控訴会社の解雇についての責任の有無とは別異の問題である。してみればこの点についての控訴人の主張も採用できない。

上来説示したところにより控訴会社の本件解雇の意思表示は不当労働行為に属する無効のものというべく、被控訴人は依然として控訴会社の従業員として雇傭契約上の権利を有するわけであり、右権利の確認を求める被控訴人の請求を認容した原判決は相当であるから民事訴訟法第三百八十四条第一項により本件控訴はこれを棄却すべく、当審における訴訟費用の負担につき同法第九十五条第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 毛利野富治郎 石田哲一 安国種彦)

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