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東京高等裁判所 昭和39年(ネ)2102号 判決 1966年9月30日

控訴人(被告) 東京墨田青果株式会社

右訴訟代理人弁護士 清瀬一郎

同 内山弘

同 大政満

同 山本満夫

被控訴人(原告) 霞農業協同組合

右訴訟代理人弁護士 手塚武義

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、「原判決を取消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする」との判決を求め、被控訴代理人は、控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述並びに証拠の提出、援用及び認否は、左記のほか原判決の事実摘示と同一であるので、これを引用する。

(当審における新たな主張)

1、控訴人の主張

(一)  仮りに控訴人が本件手形を振出したものであるとしても、満期を記載せずに振出したものであるので、本件手形は一覧払の手形と看做され、それが振出された昭和二七年二月二〇日から三年を経過した昭和三〇年二月二〇日手形金債権は時効により消滅したものである。

(二)  一覧払の手形でなく、満期白地の手形であるとしても、被控訴人は、本訴提起に際し、消滅時効の完成を免れるがために満期を補充したものであり、右の如きは補充権の濫用というべく、控訴人に対しては満期の記載を主張しえないものというべきである。

(三)  補充権の濫用でないとしても、白地手形の補充権は、振出の日の翌日から三年の経過により時効で消滅すべく、本件手形の満期は、補充権の時効による消滅後に記載されたものであるので、右の記載は無効である。

(四)  予備的請求にかかる各貸金債権は、商事債権であるので、各弁済期後五年の経過をもって時効により消滅した。

(五)  被控訴人の後記(一)の主張を否認する。

2、被控訴人の主張

(一)  本件手形は、上原祐太郎が控訴会社代表取締役中沢茂から与えられた権限に基き、同人の氏名を用い振出したものであるが、上原祐太郎が手形振出の権限を有しなかったとしても、被控訴人・控訴人間の権利義務の関係については、控訴会社の経理担当の常務取締役たる上原祐太郎が専らその衝に当ったのであるから、被控訴人において同人に本件手形振出の権限があると信ずべき正当の理由があった。

(二)  本件手形は、満期の記載された完全手形として振出されたものであり、一覧払の手形ではない。満期が記載されずに振出されたものであるとしても、本件手形が一覧払の手形であるという控訴人の主張は争う。

(三)  控訴人は、被控訴人主張の各貸金債務を承認の上その支払のため本件手形を振出したものであるので、右各貸金債権が時効により消滅したとの控訴人の主張は、失当である。

(証拠関係省略)

理由

<省略>控訴人は、本件手形金債権、補充権及び貸金債権が時効により消滅したと主張するが、甲第一号証の一を見るに、手形面上支払のための呈示の日をもって満期とする趣旨と見るべきなんらの記載がないのみならず、本件手形振出の経緯についての前認定の事実によれば、本件手形は、一覧払の手形ではなく、満期白地の手形として振出されたものというべきであるので、一覧払の手形であることを前提とする時効の抗弁は、理由がなく、また白地手形の補充権は、手形要件を補充して手形を完成する形成権であって、その行使により手形金請求の債権が発生するのであるから、消滅時効については債権としての時効を考えるべく、補充権が手形の譲渡に随伴することにかんがみれば、補充権の行使は、手形行為ではないが、商法第五〇一条第四号所定の「手形ニ関スル行為」に準ずるものと解して妨げなく、その消滅時効については同法第五二二条を準用し、時効期間を五年と解するのが相当であり、時効期間を三年とする控訴人の見解は採らない(最高裁判所昭和三三年(オ)第八四三号同三六年一一月二四日第二小法廷判決参照)。従って、補充権授与契約上存続期間につき特別の定めがなされたことの認められない本件では、補充権は、本件手形が振出された昭和二七年二月二〇日から五年の経過により消滅するものというべきところ、右期間の満了前である昭和三〇年四月一六日本訴が提起されたことは、記録上明らかであるので、満期の補充権がその行使前時効により消滅したとの控訴人の主張も理由がない。又本件手形の原因関係である貸金債権については、控訴人においてその存在を承認の上本件手形を振出したものであること前認定のとおりであり、右承認の日から五年を経過しないうちに本訴が提起されているので、右貸金債権が時効により消滅したとの控訴人の主張は失当である。

控訴人は、さらに本件手形の満期の補充をもって補充権の濫用であると主張するが、補充権の消滅前になされた右補充を補充権の濫用と見るべきなんらの資料もない。

以上認定の如く、被控訴人は、本件手形の正当な所持人であり、控訴人の抗弁は、すべて理由がなく、被控訴人において本訴提起前本件手形の満期及び振出日を補充したことは、訴訟の経過により明らかであるので、被控訴人の本訴請求を認容した原判決は、相当である。<以下省略>。

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