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東京高等裁判所 昭和39年(ネ)1495号 判決 1966年9月09日

控訴人 小林秀雄 外六名

被控訴人 張熾財こと中村織雄

主文

一、原判決を左のとおり変更する。

二、被控訴人は、控訴人小林秀雄に対し金六万七千七十二円及びうち金六万六千二百二十一円に対する昭和三十五年一月九日以降、うち金八百五十一円に対する昭和三十六年四月十六日以降各完済に至るまでの年五分の金員を、控訴人小林肇、同小林隆、同矢崎町子に対し各金四万四千七百十五円及びうち金四万四千百四十七円に対する昭和三十五年一月九日以降、うち金五百六十八円に対する昭和三十六年四月十六日以降各完済に至るまでの年五分の金員を支払え。

三、被控訴人は控訴人小林秀雄、同小林肇、同小林隆、同矢崎町子に対し、原判決添付物件目録記載建物につき、

(1)  昭和三十三年十一月二十六日東京法務局品川出張所受付第二二六二三号を以つてなされた被控訴人のための所有権移転登記

(2)  昭和三十一年五月四日同出張所受付第七九二四号を以つてなされた被控訴人のための抵当権設定登記

(3)  同日同出張所受付第七九二五号を以つてなされた被控訴人のための賃借権設定請求権保全仮登記

(4)  同日同出張所受付第七九二六号を以つてなされた被控訴人のための所有権移転請求権保全仮登記の各抹消登記手続をせよ。

四、控訴人小林秀雄、同小林隆、同小林肇、同矢崎町子の被控訴人に対するその余の請求を棄却する。

五、被控訴人の控訴人等に対する請求を棄却する。

六、訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とする。

事実

控訴人等代理人は、原判決中控訴人等の敗訴部分を取消した上、被控訴人は控訴人小林秀雄に対し金九万四千五百六十六円及びうち金六万六千二百二十一円に対する昭和三十五年一月九日以降、うち金二万八千三百四十五円に対する同三十六年四月十六日以降完済に至るまでの年五分の金員を、控訴人小林肇、同小林隆、同矢崎町子に対し各金六万二千四十三円及びうち金四万四千百四十七円に対する昭和三十五年一月九日以降、うち金一万八千八百九十六円に対する同三十六年四月十六日以降各完済に至るまでの年五分の金員を支払えとする外、主文第三項及び第五項同旨の判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却並びに変更された請求部分につき請求棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張、証拠の提出、援用及び認否は、控訴人等代理人において「控訴人小林正次は昭和四十年八月五日死亡したのでその権利義務を同人の妻控訴人小林秀雄が三分の一、長男控訴人小林肇、三男同小林隆、長女同矢崎町子が各九分の一を相続した。従つて被控訴人に対する金員請求部分を控訴の趣旨記載のとおりに改める。」と陳述し、<立証省略>………と付陳し、被控訴代理人において、右控訴人等主張の相続に関する事実はすべてこれを認める、と述べ、<立証省略>………と述べた外は、原判決事実摘示と同一であるから、その記載をここに引用する。

理由

第一、控訴人小林秀雄、同小林隆、同小林肇、同矢崎町子の被控訴人に対する請求について。

一、被控訴人と訴外亡小林正次との間において昭和三十一年五月一日、被控訴人は小林正次に対し金五十万円を、弁済期日同年六月一日、利息月七分で貸渡すこと、小林正次はこれが債務を担保するため同人所有の原判決添付物件目録記載の建物に抵当権及び債務不履行を停止条件とする賃借権を設定すること、及び債務不履行の場合は代物弁済として右家屋を被控訴人に堤供する旨の約定が成立、右約定に基き被控訴人は小林正次に対し同年五月四日、金五十万円に対する一か月分の利息として金三万五千円を天引した上残額金四十六万五千円を交付し、正次は被控訴人のため前記建物に主文第三項(2) の抵当権設定登記及び同項(3) の賃借権設定請求権保全仮登記、並びに同項(4) の所有権移転請求権保全仮登記を経由したものであること、被控訴人は小林正次が期限に債務を弁済しなかつたとして昭和三十三年四月十八日正次に対し代物弁済予約完結の意思表示をなし、被控訴人のため主文第三項(1) の所有権移転登記をなしたこと、並びに、正次が昭和四十年八月五日死亡し、その権利義務を控訴人小林秀雄が三分の一、同小林肇、同小林隆、同矢崎町子が各九分の一を相続したことは当事者間に争いがない。

二、そこで右債務の弁済の有無並びにその充当関係について判断する。

まず弁済につき勘案するに、小林正次が原判決添付計算表(一)の原告(控訴人等)主張欄の各支払金額のうち、控訴人等の請求原因(原判決記載の)(二)の(イ)ないし(ワ)までの金額を除くその余のものを被控訴人に支払つたことは当事者間に争いなく、右(イ)ないし(ワ)の金額については、原判決理由中の(二)の(2) に挙示の各証拠及び当審証人松井光吉の証言を綜合すれば、右(2) に記載の事実(原判決十六丁表九行目より同二十丁表七行目まで)と同一の事実を認定することができるので、右記載をここに引用する。右認定に反する当審における控訴人小林正次の供述は前掲各証拠と対比して措信することができず、他に右認定を覆すに足る証拠はない。

次ぎに右弁済による充当関係について案ずるに、前記認定の弁済金を利息制限法の規定の趣旨に照らし弁済充当し計算を遂げると、正次の右弁済による充当関係は末尾添付の計算表に記載したとおりである。右に反する被控訴人の充当関係の主張は採用しない。してみると、正次の被控訴人に対する債務は昭和三十二年十二月十一日完済され、かえつて同日金一万六千二百十七円が過払となつたことが明らかであり、且つ、前叙原判決理由引用にかかる認定事実(控訴人等請求原因(二)の(ワ)に関する部分の認定事実)によれば、正次は被控訴人に対し昭和三十二年十二月十五日に金三万五千円を支払つており、また、同三十三年四月一日金五万円、同三十四年一月二十六日金十万円を各支払つたことは前述のとおり当事者間に争いがないから、正次は被控訴人に対し合計金二十万千二百十七円を過払したものというべきである。そして正次において右各支払の当時債務の存在しないことを知つていたことを認め得る証拠はない。

三、以上の事実によれば、正次の被控訴人に対する債務の担保のため本件建物に設定された抵当権及び代物弁済予約上の権利は、昭和三十二年十二月十一日正次による債務の完済により消滅し、停止条件付賃借権はその条件の不成就が確定したものというべきであるから、被控訴人がその後同三十三年四月十八日にした正次に対する代物弁済予約完結の意思表示は予約完結権の消滅後になされたものとしてその効力を生ずるに由なきところであつて、正次の相続人たる控訴人小林秀雄、同小林肇、同小林隆、同矢崎町子は、本件建物の所有者(共有者)として被控訴人に対し前記抵当権設定登記、賃借権設定請求権保全仮登記、及び所有権移転請求権保全仮登記、並びに右仮登記に基く所有権移転登記の抹消登記を求める権利があるものというべく(もつとも登記簿上は権利者として張熾財と表示されているが、右は被控訴人の旧姓名であることは原審昭和三十六年(ワ)第六四六八号の訴状の原告の表示により明である、)且つ、前記過払金は被控訴人において不当利得としてこれを正次に返還すべきものであるから、右控訴人等は正次の被控訴人に対する前記過払金二十万一千二百十七円の返還請求権及びうち金十九万八千六百六十二円に対する本件訴状が被控訴人に送達された日の翌日たることが、裁判所に明白な昭和三十五年一月九日より、残額金二千五百五十五円に対する請求日の後であることの裁判所に明白な昭和三十六年四月十六日より各完済に至るまで民法所定の年五分の遅延損害金請求権を、その各相続分に応じて承継取得し、夫々被控訴人に対し主文第二項掲記のとおりの請求権を有するものということができる。

従つて、右控訴人等の本訴請求は登記抹消を求める部分についてはそのすべてを、金員請求の部分については右の限度で夫々認容すべく、これを超える請求部分は失当として棄却さるべきである。

第二、被控訴人の控訴人等に対する請求について。

被控訴人は本件家屋の所有権を小林正次から代物弁済により取得したことを前提に、控訴人等に対しこれが明渡を求めるのであるが、前記第一で認定したとおり被控訴人主張の代物弁済はその効力を生ぜず、本件家屋の所有権は控訴人小林秀雄等四名にあるから、被控訴人の本訴請求はその余の点について判断するまでもなく失当として棄却さるべきである。

よつて、以上と趣旨を異にする原判決は不当であるから民事訴訟法第三百八十五条によりこれを変更し、訴訟費用の負担につき同法第九十六条、第八十九条、第九十二条但書を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 毛利野富治郎 石田哲一 安国種彦)

(別紙)計算書<省略>

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