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東京高等裁判所 昭和39年(う)2552号 判決 1965年6月24日

控訴人 被告人 秋元業 外一名

弁護人 榊純義 外一名

検察官 柳瀬乙三

主文

本件各控訴をいずれも棄却する。

理由

本件各控訴の趣意は、弁護人榊純義、同高野康雄連名提出の控訴趣意書に記載されたとおりであるから、これをここに引用し、これに対し次のとおり判断する。

控訴趣意第一点法令の適用の誤りの主張について。

所論は、被告人両名の本件所為は麻薬取締法第六八条の三の周旋に該当するものであるのに、原判決が譲渡未遂の幇助として同法第一二条第一項、第六四条の二第二項、第三項を適用処断しているのは法令の適用を誤つたものであると主張する。よつて審按するに、所論周旋の罪の規定は、昭和三八年六月二一日法律第一〇八号(同年七月一一日施行)の麻薬取締法等の一部を改正する法律による麻薬取締法の改正に際し新たに設けられた規定の一つであるところ、右改正の主要点は、最近における麻薬犯罪の悪質化および麻薬中毒者の増加の傾向に対処するため、麻薬の取扱いおよび監督の強化を図り、慢性中毒者の入院措置の規定を設けると共に罰則を整備しこれを大巾に強化したものであることが明らかである。しかして、右の改正において、麻薬の譲渡に関し、その譲渡しの罪(未遂を含む)についてはその法定刑は従来単純犯につき七年以下の懲役、営利犯につき七年以下の懲役又はこれと五〇万円以下の罰金との情状併科であつたものが、改正規定においては単純犯につき懲役一〇年以下の懲役、営利犯につき一年以上の有期懲役又はこれと三〇〇万円以下の罰金との情状併科と強化される一方、新たに麻薬の譲渡しと譲受けとの周旋の罪を規定した第六八条の三が設けられたのであるが、これに対する法定刑は三年以下の懲役に止まつているのである。以上のような立法の背景とその経過に徴して考察すると、右周旋の規定は被周旋者につき譲渡し又は譲受けの罪(未遂を含む)が成立しない場合につき罰則を整備し、なおその周旋行為を処罰しようとするにあり、被周旋者につき譲渡し又は譲受けの罪(未遂を含む)が成立する場合にはその周旋行為は従来通りその幇助等として重く処罰する趣旨であることが明らかである。これを本件について見るに、原判決の認定した事実によれば原判示の中村弘訓につき譲渡し未遂の罪が成立することは明らかであり、被告人両名は原判示のようにこれが売却の斡旋をするなどして右犯行を容易ならしめたものであるから、その所為は所論周旋ではなく、譲渡し未遂の罪の幇助に該当するものといわなければならない。したがつてこれと同趣旨の判断に基づいてなした所論原判決の法令の適用は正当であつて誤りがあるものとは認められない。論旨は採用できない。

(その余の判決理由は省略する。)

(裁判長判事 渡辺好人 判事 目黒太郎 判事 渡辺達夫)

弁護人榊純義外一名の控訴趣意第一点

一、原判決は、その判示理由(罪となるべき事実)において

被告人両名は、いずれも弁護士の事務員であるが、予て知合いの中村弘訓が、昭和三九年四月二五日東京都新宿区荒木町六番地飲食店「すきやき万世」において木村一郎に対し、法定の除外事由がないのに、営利の目的で、麻薬である塩酸ジアセチルモルヒネ約九九九、五五グラムを代金八〇〇万円で譲り渡そうとして、警察官に逮捕されその目的を遂げなかつた犯行につき同月二〇日頃千代田区霞ケ関一丁目一番地法曹会館等において中村から前記麻薬の売却斡旋方の依頼を受けてこれを承諾し、共謀のうえ、被告人秋元において、同日東京高等裁判所構内で知合いの前記木村に対し前記麻薬の売却斡旋方を依頼し、翌日被告人浦野を通じて中村から受取つた右麻薬のサンプルを木村に渡し、同月二三日頃同人が自らこれを買受ける旨申出るや中村との間に立つて前記の価格をとり決め、ついで同月二四日新宿区歌舞伎町二八番地喫茶店「ミカド」において木村を中村に紹介し、さらに翌二五日現品授受に立合うため右両名に同行して前記「すきやき万世」に赴くなどし、もつて中村の前記犯行を容易ならしめてこれを幇助したものである。

と認定し、被告人両名の所為は麻薬取締法第一二条第一項、同法第六四条の二第二項、第三項に該当するものであると判断しているが、原判決は法令の適用を誤つているものである。

二、即ち被告人両名の本件所為は、譲渡しの幇助ではなく麻薬取締法第六八条の三の周旋に該当するものである。

しかし乍ら原判決は弁護人の主張に対する判断において、周旋の規定は昭和三八年法律第一〇八号をもつて行なわれた麻薬取締法の改正にあたり、従来は譲渡し等の幇助としても処罰し得なかつた周旋行為も処罰するために新設されたものであつて、被告人両名の本件所為につき周旋罪を適用することはその科刑が著るしく減軽されるので幇助罪を適用するのが相当であると言うものであるが、法令の適用は、刑の軽重で判断するものではなくあくまで事犯の態様によつて判断すべきものである。

よつて原判決の如く右規定が麻薬事犯の取締り及び罰則強化等のため昭和三八年法律第一〇八号をもつて改正しその中に新たに周旋罪を規定したことは異論はないが、唯々、右周旋罪の規定は、従来の譲渡し等の幇助としても処罰し得ない周旋行為のみを処罰する趣旨のものでなく、従来周旋罪の規定が無かつたため、総べて幇助行為として処罪して来たところに裁判の面で法律適用上の無理が有つてその明確化のために規定され、その改正理由とされていることも明瞭である。

よつて改正後の周旋罪中には従来の幇助行為で処罪され得なかつたもののみが該当するものでなく、従来の幇助行為として処罰されて来た事犯も含まれていると解するのが相当でありそのいずれであるかは原判決の摘示の様に過去における刑の軽重における均衡によるものでなくその事犯の実体によつて法令を適用すべきものである。かくの如くして本件事犯を考察した時に次の如き事犯の態様(実体)からすれば麻薬取締法第六八条の三をもつて処断すべきが相当である。

三、本件事犯における被告人両名の立場を要約すると

(1)  被告人秋元は、中村弘訓から本件麻薬の売却斡旋方の依頼を受けてこれを承諾したうえ知合いの木村一郎に対し本件麻薬の売却斡旋方を依頼し、更に、同人は中村を木村に紹介したり、現品授受に立会つたりしているが、同人は木村をわざわざ訪ねたものでなく、昭和三八年四月二〇日中村より売却斟旋を依頼された当日偶然に木村に出会つたので、麻薬を取扱つた経験のある木村に何んとなく相談したものであり、木村に対し積極的に本件麻薬の買受方を勧誘したものではない。又、同月二三日頃木村に電話をして価格をとり決めているが、これも当日中村が同人に訪ねて来て、処分を急いでいる至急返事を聞いて貰いたいと言われたので、中村を傍において木村の所へ電話をしたところ、木村が自ら買受る旨を申出て、価格は何銭位かと聞くので傍にいた中村にその旨を伝え、その返事を木村にしただけのことである。

次に同二四日に新宿の喫茶店「ミカド」で両名を紹介したのは木村が中村に一度会わせて呉れと頼まれたからであり、殊に同月二五日現品授受の際、立会つたのは、前夜両名から懇請されたので已むを得ず立会つたものである(記録一四丁五行-裏一行、一六丁-一七丁、四八一丁一二行-四八二丁一二行)。

(2)  被告人浦野は、中村から本件麻薬の売却斡旋を依頼されたが、同人は斯様な話をもつて行く心当りが全くないので一応断わると中村は秋元にも頼もうと思つて来たので是非話して貰いたいと言うので、中村と一緒に秋元に話をしたのであり、その他はサンプルを中村から受取り秋元に渡しただけである。

従つて被告人浦野は買受の相手方が誰れであるかさえ全く知らなかつたものである(記録四九四丁裏五行-四九五丁一一行、四九七丁裏二行-九行)。

四、以上の諸点を考察判断すれば、被告人両名の本件所為は幇助罪をもつて問擬すべきものではなく、当然周旋罪をもつて問擬すべきものである。

従つて原判決は法令の適用に誤りがあつてその誤りが判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、破棄されるべきものである。

(その余の控訴趣意は省略する。)

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