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東京高等裁判所 昭和35年(行ナ)116号 判決 1962年1月23日

原告 関西金網株式会社 外二名

被告 東洋スクリーン工業株式会社

主文

原告らの請求を棄却する。

訴訟費用は、原告らの負担とする。

事実

第一請求の趣旨

「特許庁が昭和三一年審判第一三号事件について昭和三五年九月一九日にした審決を取り消す。訴訟費用は、被告の負担とする。」との判決を求める。

第二請求の原因

一  原告らは、被告から昭和三二年一月一七日原告らの有する登録第三八九三五九号「滑面金網」なる実用新案(以下本件登録実用新案という。)について権利範囲確認審判の請求を受け、特許庁において昭和三二年審判第一三号事件として審理された結果、昭和三五年九月一九日「(イ)号図面及びその説明書に示す金網は登録第三八九三五九号実用新案の権利範囲に属しない。」との審決がされ、その審決の謄本は、同月二八日原告らに送達された。

二(一)  原告らの有する本件登録実用新案は、原告東洋鉄網製造株式会社が昭和二五年二月七日出願し、昭和二七年二月四日同原告のため登録され、ついで昭和二九年五月一七日、原告関西金網株式会社および同都金網株式会社のため共有によるその一部取得の登録がされたものであつて、その権利の要旨は、登録請求の範囲として記載されたところによれば、「針金1へは針金の太さdに等しい幅及深さを有する膨出部2を間隔lを以て同一方向に連続形成し該針金1を相互に嵌合して網目間隔l/2の金網3を編成した滑面金網の構造」である。

(二)  (イ)号図面およびその説明書に示す金網(以下(イ)号の金網という。)は、「一定間隔毎に同一方向に略線径に等しい深さのV字形屈曲部(1)と各V字形屈曲部(1)間の中点毎にこのV字形屈曲部(1)の突出方向と反対方向の小凹陥部(2)とを有する針金(3)を使用し、経線(a)のV字形屈曲部(1)及び小凹陥部(2)を、夫々緯線(b)の小凹陥部(2)及びV字形屈曲部(1)に組合せて編成した金網」である。

三  審決は、その理由の項において「被請求人(原告ら)が相違点としてあげた(A)の点(「前者すなわち本件登録実用新案の凹部がU字形であるのに対し後者すなわち(イ)号の金網の屈曲部はV字形であること」)は、その凹陥部の構造が後者(審決書には前者と誤記されている。)はV字形で前者(同様後者と誤記)はU字形である以上、明らかにその形は相違して居り、しかも各針金が重合組合されて接触している状態も、請求人(被告)の弁駁書の弁駁理由説明のように異なるので、網目に加えられる力の大きさによつては、後者(同様前者と誤記)の網目が乱れても、前者(同様後者と誤記)の網目は乱れない場合もあり得ることが認められる上に、(B)(「V字形屈曲部(1)間の中間毎に小凹陥部(2)があること」)、(C)(「該小凹陥部(2)を屈曲部(1)に組合せて金網を編成されていること」)の如き前者が欠如している点を後者が有して居り、これがため前者と比較し網目の平滑さは、すでに述べた通り篩として使用する場合等においては明らかな相違を認め得るので、全体としてみると、両者は互にその構造及び作用効果を異にするものであり、(B)、(C)の点は被請求人も認めているように、前者になく後者にある構造であり、しかも本件のものに附加した構造とは認め難いから、前者(同様後者と誤記)は後者(同様前者と誤記)を包含するものとも認められず、結局被請求人の前記主張は採用できない。」としている。

四  けれども、審決は、つぎの理由によつて違法であり取り消されるべきである。

(一)  まず、審決は、「前者はU字形であり後者はV字形であつて明らかにその形は相違して居り」といつているが、U字形とV字形とは、それほど明らかに相違しているわけではない。もともと、U字形は両側が平行でかつ下端が円弧状であるのに対し、V字形は両側が非平行でかつ下端がとがつているもので、両者とも谷状である点は共通である。したがつて、谷部にある物件が左右の移動を阻止されることは、両者とも同じである。両者間の顕著な相違といえば、下端が丸いかとがつているかの点であつて、とがつていれば他物にくい込みやすいが、丸いとその作用が小さいことがあるけれども、この作用は本件には関係がない。しかも、後者は、下端はとがつていないから、正確にはV字形ではない。けれども、論点は、谷部にある経線または緯線が左右に移動するか否かにかかつているもので、U字形でもV字形でも、左右動が阻止されることは両者同様であり、疑をいれない。被告は、原告らが本件審決手続の際前者をU字形後者をV字形と仮称したことをとつてもつて、両者は形状も作用もまつたく異なると強弁し、また、素線に設けた屈曲が、U字状であれば網目は乱れないが、V字状であれば乱れると述べているが、そのような差異はない。なお、UとVとが形状としては類似であることは、特許庁における商標登録審査基準において両者が類似とみなされている事実に徴しても明らかである。

(二)  つぎに、(イ)号の金網は、針金(3)のV字形屈曲部(1)(1)間の中点ごとに、V字形屈曲部(1)(1)の突出方向と反対方向の小凹陥部(2)を設け、またV字形屈曲部(1)および小凹陥部(2)の背面にそれぞれ膨出部(4)(5)を形成したものであるところ、この小凹陥部(2)の存在によつてのみ金網の網目が乱れない効果を奏するものであるとし、さらに、小凹陥部(2)および膨出部(4)(5)の構造は本件登録実用新案については全然記載されていないから、この構造を備える(イ)号の金網は、本件登録実用新案の権利範囲には属しないとされている。

けれども、小凹陥部なぞ全然なくても網目が乱れるおそれはない。また、なるほど本件登録実用新案については、右のような小凹陥部および膨出部の記載がないが、その記載がなくとも、(イ)号の金網は本件登録実用新案の権利範囲に属する。すなわち、

権利の構成要素をAおよびBの結合であるとすれば、他の構造CまたはDは当然権利範囲に属さない。けれどもA+B+C、A+B+DまたはA+B+C+Dが権利範囲に属することは明らかである。本件登録実用新案の権利範囲は第二項の(一)にしるしたとおりであり、これをA+Bとする。つぎに、(イ)号の金網は、「針金へは針金の太さdに等しい深さを有する膨出部(屈曲部)を間隔lをもつて同一方向に連続形成し該針金を相互に嵌合して網目間隔l/2の金網を編成して滑面金網を形成し、なお、膨出部間の中点ごとに小凹陥部を設け、また膨出部および小凹陥部を形成したために生じたそれぞれの背面に突出部を設けたもの」であつて、そのうち、「なお」より前半は右のA+Bに相当し、後半はC+Dに相当する。したがつて、後者は、前者の権利範囲に属することは自明の理である。

なお、右膨出部は本件登録実用新案においては深さのほか幅も針金の径dと限定されているからその形状はU字状であると独断されているが、公報のどこにもU字状などという記載はなく、また、U字状であれば両側に平行直線部分を有するから、これに断面が円形の針金を組み合わせれば凹部に陥没してしまい滑面金網は得られない。滑面金網を得るためには凹部の深さが針金の径dと等しくなければならず、凹部の内面は、曲線と曲線とが相接しており直線部分はないからU字状ではなく、単なる曲線の連続からなる弧状凹部であつて、その深さはdである。一方、(イ)号の金網を構成する素線の凹部も曲線の連続からなる弧状凹部であつて、その深さは針金の径dであり、幅においてもdに等しい個所が存する。したがつて、(イ)号の金網は、本件登録実用新案の権利の要件をすべて備えており、しかも効果もまつたく同一である。

以上のとおりであるにもかかわらず、(イ)号の金網が本件登録実用新案の権利範囲に属しないとした本件審決は、事実を誤認した違法がある。よつて、請求の趣旨のとおりの判決を求める。

第三被告の答弁

一  請求棄却、訴訟費用原告ら負担の判決を求める。

二  原告ら主張の請求原因事実のうち、第一ないし第三項の事実は認める。

同第四項の点は争う。

1  金網に使用される針金の屈曲部の形状がU字形といい字形といつても、厳密にローマ字のUまたはVの文字どおりの形状であるというのではない。U字形V字形の語に余りにとらわれることは判断を誤らせる。けれども、素線における屈曲部を原告らのものにおけるようにU字状にした場合と被告の(イ)号の金網におけるようにV字状にした場合とで、網目の乱れるおそれの程度には、つぎにくわしく述べるとおり差異がある。

本件登録実用新案は、(一)針金の太さdに等しい幅および深さを有する膨出部(2)を間隔lごとに有する針金(1)を使用すること、(二)各膨出部(2)を同一方向に連続して形成されること、(三)右(一)(二)の条件をみたす針金(1)を相互に嵌合してl/2の網目間隔の金網(3)を編成することを不可欠必須の構成要件とし、その目的とする作用効果は、(A)一面が平滑で凹凸のない金網を得ること、(B)経線と緯線とが確固に嵌合されてその編合せがずれて網目の大きさが不同となるおそれがまつたくないことにある。一方、(イ)号の金網の構の特徴は、(い)一定間隔ごとに線径に等しい深さのV字形屈出部(1)を有する針金(3)を使用すること、(ろ)これらV字形屈曲部(1)は同一方向に形成されていること、(は)針金(3)の各V字形屈曲部間(1)の中点ごとに小凹陥部(2)があること、(に)この小凹陥部(2)はV字形屈曲部(1)の屈曲方向と反対方向であること、(ほ)経線のV字形屈曲部(1)および小凹陥部(2)をそれぞれ緯線の小凹陥部(2)およびV字形屈曲部(1)に組み合わせて金網を編成することにあり、本件登録実用新案におけると同様の効果を得ようとするものである。

両金網は、(A)および(B)の効果を得ようとする目的を同じくするけれども、その構造作用はまつたく相違する。そして、構造上のもつとも顕著な差異は、本件登録実用新案においては(一)の構造の針金を使用するのに対し、(イ)号の金網では(い)の構造の針金を使用することである。本件登録実用新案では、(一)および(二)の要件を兼備した針金を使用することによつて、(A)および(B)の効果を有する金網が(三)によつて編成されるのに対し、(イ)号の金網については、(い)および(ろ)の要件を兼備した針金を使用して本件登録実用新案と同様な方式で金網を編成しても、(A)の効果は得られても(B)の効果は得られない。すなわち、(イ)号の金網では、V字形屈曲部(1)を有する針金を使用するため、該屈曲部でたてよこに針金を組み合わせても挟持力が弱く、この状態のままでは容易にずれ動き網目を乱すおそれが大である。さらに、両金網の屈曲部における相違を明らかにする。いずれの場合も等しい線径2rの針金が使用されるものとし、(イ)号の金網においてV字形屈曲部の頂角が九〇度で屈曲部の内側頂角寄りの部分は針金と同一の曲率に形成されているとすると、本件登録実用新案の金網では緯線と経線との交わる部分における接触線長はπrであるのに対し、(イ)号の金網についてはその接触線長はπr/2であるから、後者の針金がずれ動き易く網目が乱れる可能性が大きいことが容易に理解される。したがつて、本件登録実用新案において膨出部(2)の幅を針金の太さdに等しくしたことは、金網の網目の乱れを防止する作用効果において(イ)号の金網とくらべて極めて顕著な差異であり枝葉末節ないし付加的な事項ではない。

2  (イ)号の金網においては、右のような欠点を除去し、本件登録実用新案が(一)の必要的構成要件を具備することによつて得ている(B)の効果を達成するため、本件登録実用新案とはまつたく関係なく別異の(ほ)および(に)の構造を有する針金を使用し(ほ)の方式で金網を編成している。したがつて、(イ)号の金網は、本件登録実用新案とは構造作用においてまつたく別異のものであり、さらに、小凹陥部(2)の背側にはそれぞれ膨出部(5)があり、金網を編成した場合も該部分が突出しており、本件登録実用新案の金網のように完全に平滑なものでないから、この点においても本質的な構造に差異がある。

したがつて、本件登録実用新案の必須要件(一)を欠如し、(一)の要件に基因した(B)の効果を(は)および(に)のまつたく別異の要件を備えることにより達成し、さらに、右のように小凹陥部(2)の背側に膨出部(5)を有する(イ)号の金網は、本件登録実用新案の権利範囲に属しないことは明らかである。

第四証拠

原告らは、甲第一ないし第八号証および検甲第一号証を提出し、検甲第一号証は本件登録実用新案の実施品で膨出部をV字形とした滑面金網である、検乙各号証がそれぞれ被告主張のとおりのものであることは認めると述べ、被告は、検乙第一、二号証を提出し、検乙第一号証は(イ)号図面およびその説明書による実施品金網、同第二号証は同金網を構成する材料針金である、甲各号証の成立はいずれも認め、そのうち第一、二および第七号証を援用する、検甲第一号証についてはこれが膨出部をV字形とした滑面金網の見本であることは認めるが、本件登録実用新案の実施品であることは否認すると述べた。

理由

一  原告ら主張の請求原因第一ないし第三項の事実は当事者間に争がない。

二(一)  成立について争のない甲第四号証によれば、原告らの有する本件登録実用新案の金網の構造は、

A  経線および緯線の針金を平線の組織に織成したものであること

B  経線および緯線に使用する針金はその太さも形状も同一であること

C  針金には、その太さ(直径)に等しい幅および深さの凹部を反対側に有する膨出部(2)を、間隔lをもつて同一方向に連続形成してあること

D  織成した金網においては、経線は緯線の膨出部(2)の凹部に没入嵌合、また、緯線は経線の膨出部(2)の凹部に没入嵌合していること

E  網目(経線および緯線の交叉によつてできた正方形の孔)は一辺がほぼl/2の長さの正方形であること

を必須の構成要件としていて、(i)金網の表面は経線緯線ともに同一平面にあつて平滑であるとともに、(ii)経線および緯線は膨出部の反対側の凹部と円柱状の部分とにおいて互に確固に嵌合して拘束し合い網目がくるわず網目間隔が正確に保持される作用効果を有することが認められる。

(二)  一方、成立に争のない甲第一、二号証および検乙第一、二号証によれば、(イ)号の金網は、

A′ 経線および緯線の針金を平織の組織に織成し、

B′ 経線および緯線に使用する針金はその太さも形状も同一であり、

C′ 針金にはその太さ(直径)に等しい深さのV字形(角立てず円滑な曲線で山形をなす。以下同じ)の凹部を有するV字形屈曲部(1)を間隔lごとに設け、V字形屈曲部(1)の反対側に膨出部(4)を突出させ、

C″ さらに、針金に連設されたV字形屈曲部(1)のそれぞれの中間の位置でしかも屈曲部(1)の凹部の反対側に小凹陥部(角立てコ字形の)(2)を設けるとともに、その反対側に矩形の板状に突出した膨出部(5)を突出させ、

D′ この針金を経線および緯線として織成したものは、一方の針金のV字形屈曲部(1)の上に他の針金の小凹陥部(2)が重なり、また、他方の針金のV字形屈曲部(1)の上に一方の針金の小凹陥部(2)が重なつて組み合わされ、

E′ 網目は一辺がほぼl/2の長さの正方形をなしている。

構造のものであつて、(i)′金網を組織している経線および緯線は、それぞれのV字形屈曲部の谷間に没入してそれらの膨出部でない部分は突出しないが、膨出部(5)が同じ平面に突出し、かつ、(ii)′経線と緯線とがそのV字形屈曲部と小凹陥部とで交互に上下より重ね合わされているので、網目の乱れることを防止することができ、網目の孔の間隔を正しく保持することができる作用効果を有するものであることが認められる。

三  ところで、(イ)号の金網におけるA′B′E′の点は、本件登録実用新案におけるABEの構成要件に相当し同一であるけれども、これらは金網としての一般普通の要件にとどまる。そこで、その余の構成要件CDとC′C″D′の点とを比較し考える。

本件実用新案の金網における針金には、その太さ(直径)dに等しい幅および深さの凹部を反対側に有する膨出部(屈曲部)を間隔lをもつて同一方向に連続形成してあるのに対し、(イ)号の金網における針金には、その太さ(直径)dにほぼ等しい深さのV字形凹部を有するV字形屈曲部を間隔lをもつて同一方向に連続形成してあつて、この凹部の幅には限定がないけれども、V字形で角立てず円滑な曲線で山形になつている。そこで、(イ)号の金網の針金について小凹陥部(2)を設けなかつた場合を想定し、両者について、同じく直径dの円柱状の針金が前示のようなそれぞれの凹部に組み合わされ金網が編成された場合を考えて見ると、本件登録実用新案のものにおいては、嵌合された経線と緯線との交叉部における接触線長は直径をdとする円の円周の半分πd/2と考えてよいが、(イ)号の金網においては、その接触線長は、V字形屈曲部の頂角が九〇度であるとすれば直径をdとする円の円周の四分の一すなわちπd/4と考えてよく、V字形屈曲部の頂角が九〇度より大きくなればなるほど接触線長は短かくなり、V字形屈曲部の頂角が九〇度より小さくなつても凹部がV字形でその幅において一方にひろがり角度をなしている以上(しかも、一方でこの凹部の深さはdという制約があるから、この頂角も極度に小さくなることはない。)接触線長に対応する中心角は二直角以下となるから接触線長はπd/2にまで達することがないことが明らかである。両者の各網目の交叉部における接触線長に右のとおりの差異が存し、これは、両者の針金の膨出部(屈曲部)における凹部の形状が、本件登録実用新案においてはその幅と深さが線径dに等しく、(イ)号の金網のものにおいてその深さが線径dで幅の限定がなく外に向つてV字状に開いているのに比し、より開かない形状になつていることにかかわる。この接触線長および形状の差異が、針金の膨出部(屈曲部)における挾持力を、本件登録実用新案のものについて(イ)号の金網のものより大きくすることは明らかであり、さらに、このような針金が組み合わされ編成された金網においては多数の網目の交叉部がたてよこに連続して拘束し合い、この差異をさらに大きくする。このような差異を生ずる以上、網に働らく力の大きさのいかんによつては、膨出部(屈曲部)について網目の乱れを防止するうえで差異を生ずることは容易に考えられるところであつて、本件登録実用新案において膨出部(2)の幅と深さを針金の太さdに等しくしたてよこの針金を相互にはめ合わせたことは、金網の網目の乱れを防止する作用効果において顕著な構造上の差異を生じさせるものであるといえる。なお、(イ)号の金網においては、V字形屈曲部(1)とこれに嵌合する針金の円柱状部とによつて屈曲部(1)の両肩部内側に断面ほぼくさび形の空隙が、本件実用新案のものに比してより大きくできることは、その構造上明らかであるから、金網がふるいとして使用された場合を考えると、ふるい分けようとするもののいかんによつては、これがこれらの空隙に入り網目をより乱れさせるようにはたらく可能性があるといえる。

ところで、(イ)号の金網においては、以上の点で欠けることになるのでこれを補うため、本件登録実用新案にはないまつたく別異の構造、すなわち針金にC″のコ字形の角立てた小凹陥部(2)を設けることにより、金網を編成した場合一方の針金のV字形屈曲部(1)の上に他の針金のこの小凹陥部(2)が重なり、また、他方の針金のV字形屈曲部(1)の上に一方の針金の小凹陥部(2)が重なつて組み合わさるようにし、網目の乱れることを防止している。このことは、審判請求書(甲第一号証)中の(イ)号図面の説明書に「コ字形小凹陥部(2)をV字形屈曲部(1)で組合せて編成するから経線(a)緯線(b)共ずれ動きを完全に防止するものである。」と記載され、明らかにされている。(イ)号の金網は、この小凹陥部(2)を備えたC′の針金により編成されることにおいて、本件登録実用新案とは構造および作用において異なるものであるというに十分であつて、これを付加的な構造上の差異にとどまるものとすることはできない。

原告は、(イ)号の金網に右のような小凹陥部(2)がなくとも、本件登録実用新案の金網におけると同様、網目の乱れるおそれはないというけれども、検甲第一号証によつてもにわかにこれを認めることができず、他にこれを断定するに足りる証拠がないばかりでなく、かえつて、素材として用いられる針金の太さに応じ、網の使用される用途は種々考えられ、したがつて、網に働く力の大きさも様々であるから、網に働く力の大きさのいかんによつては、以上の説示に徴し両者間に差異が生ずるであろうことを容易に理解することができる。

なお、原告は、両者の金網に用いられる素線の膨出部(屈曲部)についてそれぞれU字状とV字状との差異があるとしてもUとVとは特許庁の商標登録審査基準上も類似とされているくらいであるからこれを両者の差異というに足りないというけれども、立脚するところを異にする商標の類否判定上の基準がとうてい実用新案に関する本件の場合には判断の資料とならないことはいうまでもない。

四  さらに、原告らは、(イ)号の金網は本件登録実用新案の構成要件のすべてを備えているからその権利範囲に属すると主張する。けれども、(イ)号の金網は、右に考察したとおり、本件登録実用新案の必須かつ重要な構成要件である前示膨出部(屈曲部)において異なり、かつ、本件登録実用新案にはない小凹陥部(2)を備え、金網として構造および作用上著しい差異を形成するにいたつているほか、前項のC″に記載したとおりの膨出部(5)等が設けられている。そして、この膨出部(5)については、本件登録実用新案のものでは互に一方の針金の凹部に他方の針金の円柱状の部分が没入嵌合しているので金網の表面は針金の側面が同一平面に位置するように組織されているが、これと異なり(イ)号の金網では、一方の針金のV字形屈曲部に他方の針金の小凹陥部(2)が没入嵌合するけれども、その反対側に設けられた膨出部(5)が突出しているので、金網の表面には突出した矩形板状の膨出部(5)が同一平面に位置するように組織されている。したがつて、この膨出部(5)は、金網をふるいに使用しふるい分けようとするもの(原料)を網の上に載せ網を動かした場合、本件登録実用新案のものでは原料は針金の断面円弧状の側面を滑動するのに、(イ)号の金網では針金の板状膨出部(5)と針金の側面とを滑動させるにいたらせるから、原料に対する抵抗は前者と相違するものと認められ、また、前示V字形屈曲部(1)の両肩部内側にできるほぼくさび形の空隙は、前者に比して余分のくぼみとなつて、金網の平滑さにおいて異なるはたらきをもつことが考えられ、ここにおいても異なつて構造作用効果を備えるにいたつている。そして、以上の差異を有する(イ)号の金網の各要素は互に結びついて全体として本件登録実用新案の考案とは著しく異なる構造作用を形成し、効果をも異にするにいたつているのであつて、これは、すでに前段の説示から明らかであり、これが本件登録実用新案の考案をそのまま用いまたは単にこれを応用したにとどまるものと認められないことは明らかである。したがつて、本件登録実用新案の考案は(イ)号の金網を包含するものとは認められない。

五  右のとおりであるから、(イ)号の金網は、本件登録実用新案の権利範囲に属するものとは認められず、これと同趣旨に出た本件審決は相当であつて、その取消を求める原告らの本訴請求は理由がないから、失当としてこれを棄却することとし、なお、訴訟費用の負担について行政事件訴訟特例法第一条、民事訴訟法第八九条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 関根小郷 入山実 荒木秀一)

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