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東京高等裁判所 昭和35年(ネ)271号 判決 1962年10月12日

控訴人 小林忠一

被控訴人 新潟県知事

訴訟代理人 近藤久弥

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事  実 <省略>

理由

控訴人が本件土地を所有していたこと、訴外委員会が昭和二三年五月二九日自作農創設特別措置法第三〇条に基き本件土地について買収期日を同年七月二日とする買収計画(以下単に本件買収計画という。)を樹立してこれを公示し、同年六月二日から同月二一日までの間関係書類を縦覧に供したこと、並びに被控訴人が昭和二四年二月七日控訴人に対し買収期日を昭和二三年一二月二日とする本件土地の買収令書を交付したことは当事者間に争がない。

控訴人は、本件土地について訴外委員会が昭和二三年五月二九日に買収期日を同年七月二日として樹立した買収計画の買収期日が同年一〇月二日に変更され、更に、同年一二月二日に変更されたことはなく、右買収計画は買収期日である同年七月二日迄に県農地委員会の承認を受け得なかつたものであり、従つて被控訴人が昭和二四年二月七日控訴人に対し買収期日を昭和二三年一二月二日とする本件土地の買収令書を交付してなした買収処分は訴外委員会の買収計画に基かずになされたものであり、仮に被控訴人主張の如く訴外委員会が昭和二三年五月二九日樹立の本件土地買収計画の買収期日のみを同年一〇月二日及同年一二月二日に順次変更したとしても、右買収期日の変更については何れも公告縦覧の手続を欠いているから結局本件買収処分は買収計画に基かずになされたものであつて、その瑕疵は重大且つ明白なものであるから被控訴人のなした本件未墾地買収処分は当然無効である、と主張し、被控訴人は、訴外委員会が昭和二三年五月二九日買収期日を同年七月二日として樹立した本件買収計画は買収期日のみが同年一〇月二日及同年一二月二日に順次変更されたのであつて、本件土地につき新規の買収計画を樹立したことはなく、買収期日の変更は控訴人に特段の不利益を与えるものではないから、昭和二三年一〇月二日から同年一二月二日への買収期日変更について公告縦覧手続を欠いていたとしてもかゝる瑕疵は買収計画を無効ならしめる程重大且明白な瑕疵とはいえない、と主張するので順次判断を加えることゝする。

先ず、原審証人菅原祐吉、同石川栄隆、同山崎栄司の各証言によると、控訴人は本件買収計画に対し、その縦覧期間中に異議の申立をしたが、昭和二三年七月中に訴外委員会長山崎栄司が右異議につき斡旋した結果控訴人は本件買収計画を了解して異議申立を取下げたことが認められ、右認定に反する原審における控訴人本人尋問の結果は信用できない。次に、成立に争のない甲第一号証並びに原審証人菅原祐吉、同山崎栄司の各証言によると、本件買収計画は計画で定められた昭和二三年七月二日の買収期日迄に県農地委員会の承認を受けることが事務的に間に合わず右買収期日に買収することができなくなつたので、訴外委員会長山崎栄司は昭和二三年八月三〇日付で控訴人に対し、本件買収計画のうち買収期日のみを同年一〇月二日に変更する旨通知した事実が認められる。前掲甲第一号証の文面だけを見ると恰も本件買収計画とは別に訴外委員会が新たに自作農創設特別措置法第三〇条に基き本件土地について買収期日を昭和二三年一〇月二日とする未墾地買収計画を樹立した旨の通知の如く見られないこともないが、前掲菅原祐吉、山崎栄司の各証言から窺える前後の経緯からみて甲第一号証の文面は必ずしも適切ではないが前記認定の内容の通知と認めることができるから、これに反する原審における控訴人の供述は採用しない。しかして、本件買収計画における買収期日を昭和二三年一〇月二日に変更することについては訴外委員会の議決を経ていないことは当事者間に争がないところ、買収期日の変更は買収計画の一部である買収期日を取消し新たな買収期日を定める行為と解せられるから買収期日の変更も当該買収計画樹立の権限を有する農地委員会のみがこれをなす権限を有し当該農地委員会長はその権限を有しないというべく、従つて訴外委員会長が同委員会の議決に基かずしてなした前記買収期日変更通知によつて本件買収計画における買収期日変更の効力を有するものではない。被控訴代理人は、訴外委員会は昭和二三年一〇月一二日の会議で同委員会長が同年八月三〇日付文書で控訴人に対してなした買収期日の変更通知行為を追認したから右の瑕疵は治癒されたと主張するが、右事実を認めるに足る証拠がないから、右買収期日の変更につき公告縦覧の手続がとられたとしても結局本件買収計画における買収期日を昭和二三年一〇月二日に変更する行為は無効という外はない。

次に、成立に争のない乙第三号証、第五号証の一、二第六号証及び原審証人石川栄隆の証言により真正に成立したと認める乙第一号証並びに原審証人菅原祐吉、同石川栄隆、同山崎栄司の各証言を総合すると、次の事実が認められる。即ち、訴外委員会は、昭和二三年一〇月一二日の会議で同年九月一日付農林次官通牒について審議した結果、未墾地買収計画のうち昭和二三年六月二日から同月二一日迄公告縦覧がなされ異議申立がなく買収計画の確定しているものについては右農林次官通牒の適用がないものとして今回申請し、既に樹立した買収計画のうち昭和二三年九月五日から同月二五日迄公告縦覧がなされたもの同年六月二日から同月二一日迄公告縦覧がなされたがそれに対して異議申立のあるものについては前記通牒の趣旨に従い新たに設置される県の審査委員会の査定を受けるため取消す旨議決したこと、右議決のうち「今回申請」というのは、昭和二二年一月八日付農林次官通牒により自作農創設特別措置法による未墾地の買収時期が年四回(七月、一〇月、一二月、三月の各二日)と定められており、当時既に昭和二三年一〇月二日の買収期日は経過している関係から昭和二三年一二月二日を買収期日として県農地委員会に承認を申請する趣旨であつたこと、しかして、本件買収計画はその公告縦覧が昭和二三年六月二日から同月二一日迄なされ、それに対して控訴人から異議申立がなされたが取下によつて計画が確定していたのであるから、右決議により本件買収計画も買収期日を同年一二月二日に変更した上県農地委員会に承認を申請することになつたこと、右決議に基き本件買収計画につきその買収期日を昭和二三年一二月二日として県農地委員会に承認申請をなしたところ、同買収計画は第二五回県農地委員会(同年一一月一六日、同月一七日)において承認されたこと、以上の事実が認められ、右認定書を左右する証拠はない。しかして、本件買収計画の買収期日を昭和二三年一〇月二日に変更する行為が無効であることは前記認定のとおりであるから訴外委員会が同年一〇月一二日になした本件買収計画の買収期日変更の議決により本件買収計画の当初の買収期日である同年七月二日が同年一二月二日に変更され、本件買収処分は、買収期日を右変更された同年一二月二日とする本件買収計画に基いてなされたものというべきところ、右買収期日変更の議決について公告縦覧の手続を経なかつたことは当事者間に争のない事実であり、この点に本件土地買収処分の瑕疵があることは明らかであるが、本件買収計画のうち買収すべき土地、対価等基本的な事項について適法な計画決定及び公告縦覧の手続がなされている以上、買収期日の如き買収計画全体からみてその重要性が少い事項についてその後五ケ月繰下げ変更しながらたまたま公告縦覧の手続を欠いたとしてもそれによつて当該土地被買収者に対し特に不利益を与えることは考えられないから、この程度の瑕疵をもつて本件買収計画及びこれに基く買収処分を当然無効とするような重大且つ明白な瑕疵であるとは認められない。

よつて、控訴人の本件請求は失当であるからこれを棄却すべく、これと同趣旨の原判決は相当であつて、本件控訴は理由がないからこれを棄却すべきものとし、民事訴訟法第三八四条、第九五条、第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 鈴木禎次郎 川添利起 山田忠治)

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