大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和34年(ラ)331号 決定 1962年10月25日

抗告人 新星光学精機株式会社 外一九名

主文

本件抗告はいずれもこれを棄却する。

抗告費用は抗告人等の負担とする。

理由

抗告人等代理人は「本件につき横浜地方裁判所が昭和三十四年四月八日にした更生計画認可決定を取消す、」との裁判を求め、その理由として主張するところは末尾添附の抗告理由書記載のとおりである。

よつて先ず一、本件更生計画認可決定が会社更生法第二百三十三条の規定に違背するか否かにつき判断する。

(一)  抗告人等は本件更生申立会社(株式会社大船光学機械製作所以下本件会社という)の株主に議決権を行使させなかつたのは違法である旨を主張するので案ずるに、本件更生計画案には本件会社に破産原因があつたことを理由として同会社株主は議決権を有しないものとされていること記録上明である。しかして本件更生手続の調査委員飛鳥田喜一作成の調査報告書同人提出の財産目録及び貸借対照表によれば、本件会社はもと軍管理工場として光学兵器、望遠鏡、双眼鏡を受註製造して来たもので、戦後民間貿易の再開に伴いその技術と経験を生かし双眼鏡、オペラグラス、写真機用レンズを製造輸出し相当の利益を挙げていたが、昭和二十七八年頃米軍から特需品の註文を受けるに及びその製品に対する検査が厳重である上に代金が低廉であつたことから多額の損失を被るに至つたこと、よつて同会社は他から融資を受け辛じて営業を継続したがその後の経営方法にも拙劣の点があつたため次第に負債が嵩み昭和三十二年四月頃には遂に不渡処分を受け支払不能の状態となり負債超過額は金四五、二三〇、〇〇〇円余となつたことが窺われる。抗告人等は本件会社の資産勘定には借地の価額金一六、二五〇、〇〇〇円が脱落している旨を主張し右会社の昭和三十四年三月末日現在の貸借対照表には借方に借地権の価額金二、〇〇〇、〇〇〇円を計上したことは月例報告書添付の貸借対照表の記載により認めることができるけれども、右借地権の価額が右金額を超えることはこの事実を認めるに足る証拠はなく、右借地権の価額として右金二、〇〇〇、〇〇〇円が計上されてもなお右会社は負債超過の状態にあることが明である。また抗告人等は右会社の土地建物機械装置については貸借対照表に計上された価額の外に含み価額として右土地につき金一二、七〇〇、〇〇〇円、建物につき金三〇、三八〇、〇〇〇円右機械装置につき金一四、九八〇、〇〇〇円がある旨を主張するけれども本件更生手続の管財人が神奈川県友愛労働金庫に対する融資申入書に右事実に符合する記載があるだけでは右各物件が右含み価額を有することを認め難いし、他に右事実を認めるに足る資料はない。従つて右会社は昭和三十四年三月末日当時破産状態にあつたものというべきであるから会社更生法第百二十九条第三項により本件更生計画において株主が議決権を有しないものとしたのは違法ではない。

(二)  次に抗告人等は本件更生手続における財産目録及び貸借対照表作成には法律規定に違背した点がある旨を主張するので案ずるに、更生手続における管財人は更生会社の財産評価書、財産目録若しくは貸借対照表を作成するにつき善良な管理者の注意を以て当るべきであり、且右書類の記載が実態に即し且公正なものでなければならないことは勿論である。しかしながら本件更生手続において管財人が作成した財産評価書、財産目録及び貸借対照表等は抗告人主張のように管財人において本件会社の実態を調査することなく、また誤謬脱落を知りながら放置し単に実態を示すかのように装つて作成したものであつて右書類はいずれも実態と相異するものであることについてはその事実を認めるに足る資料がない。しかして本件更生手続開始後貸借対照表に減価償却引当金を借方に計上し、資産額等に増減を生ずる等作成方式の変更があつたことは記録の月例報告書添付の貸借対照表の記載に徴し認められるけれども、本件第二回関係人集会期日の速記録の記載によれば、右のような減価償却費を計上するか否か、またその計上の方式を如何にするかは専ら経理状況の明確を期するのに必要であるか否かによりきまることであつて右のような作成方式の変更があつても経理の実体に変動混乱を生ずることはないことが窺われるから更生手続中に管財人において経理の必要から貸借対照表の作成方式を右の程度に変更したとしても直に違法ということはできない。

(三)  更に抗告人等は原審において本件更生手続に関してした裁判には違法不当の点がある旨を主張するから案ずるに、抗告人等代理委員が本件第二回関係人集会の期日において管財人解任を申立て、また第一回関係人集会再開申請、第二、第三回関係人集会延期申請をしたがいずれも容れられなかつたこと、右解任申立却下の裁判が抗告人等主張の方式によつたものであることは記録上明である。しかして原審において右申立却下に当り管財人に対する審尋の調書が作成された形跡はないけれども右申立書奥書部分の記載によれば事実上管財人の審尋が行われたものと見られ、また右奥書の記載によれば抗告人等の管財人解任申立は管財人審尋の結果等に照しその主張事実にもとずく右申立は採用することができないものとして却下したことが明であるから右裁判につき理由を欠く違法があるものということはできない。しかして裁判所は関係人集会の再開延期申請を受けたとしても右申請に拘束されることはなく、且たとえ右申請につき抗告人等がその主張のような意図を有していたとしても右申請を排斥するに当りその理由を個別仔細に開示することを要しないものというべく、従つて右申請を容れなかつたことについては何等違法の点はない。次に、抗告人等代理委員が本件第二回関係人集会の期日に裁判所に対し会社更生法第百九十七条により更生計画修正命令を申請したこと、しかるに裁判所は抗告人等の修正案を採用することなく第三回関係人集会の期日を指定したことは記録上明である。しかして右修正命令の申立は裁判所に対し修正命令の発動を促がすことを目的とするものであるから右のように裁判所において修正案採用を不適当と認めてそのまま第三回関係人集会期日を指定した以上修正命令申立による修正命令を発しないことを明にしたものであつて特に右申立を排斥する旨の裁判を告知することを要しないものというべく、この点に関しても何等違法の点はない。

以上の次第で本件更生手続には抗告人主張の違法の点はないものといわねばならぬ。

二、抗告人等は本件更生手続は公正衡平ではないと主張するから考察するのに、

(1)、本件更生計画中に「従来の株主は本件会社に破産原因たる事実があるから一切の権利を失う」と定められていることは記録上明である。しかして右会社に破産原因たる事実のあることは前述したとおりであるところ、更生手続が破産手続とその目的を異にすることは抗告人等主張のとおりであるけれども破産状態にある会社の株式はその価値が殆んど零に等しいものと解されるから(将来経理状態が好転して後の価格までも予測しこれを計画認可の際に考慮することは殆んど困難事に属するから)この事情を酌み他の債権者等との関係を考慮した上本件会社の株主の権利につき右のように定めたのは不当ではない。

(2)、本件更生計画において一般更生債権の内金一〇〇、〇〇〇円未満の債権の弁済方法につき抗告人等主張のとおり定められていることは記録上明である。しかして第二回関係人集会期日の速記録によれば、管財人において本件会社の債務の内支払可能のものから早期解決を希望し資金繰り等の関係を考慮した結果金一〇〇、〇〇〇円未満の債権の弁済方法を右のように定めたことが窺われるのであるが、債権額に応じて、弁済方法を定めた以上債権額を異にする債権者等の間に弁済を受けるについて多少の差異を生ずることは已むをえないところであるから上記の弁済方法について直に公正衡平を失したものということはできない。

(3)、本件更生計画中本件会社の取締役監査役選定の方法について抗告人等主張のとおりの規定があること、右更正計画認可後岡田宏爾、平田春雄、大館晃が取締役に選任され管財人において右選任につき原裁判所の許可を得たこと(記録第一五八〇丁)、また大館晃が代表取締役に互選されたこと、原裁判所において一色正が管財人代理に選任されたことを許可したことは記録上明である。しかしながら管財人において本件更正計画遂行につき誠意を欠いていること、右更生計画中の役員選任規定が関係人集会において計画案の同意決議を得るための仮装手段として設けられたこと、及び原裁判所が取締役選任に関する管財人の更生計画無視を認容したことについてはこれ等の事実を認めるに足る十分の資料がない。

従つて本件更生計画が公正衡平でないとの抗告人等の主張は理由がない。

更に、三、抗告人等は本件更正計画は遂行可能でない旨を主張するから案ずるに、本件記録によれば管財人提出の第一次更生計画案が数次修正せられて本件更生計画が成立したこと、その修正の重点は債務の処理方法に関する事項、すなわち弁済計画におかれていたこと、しかも債務弁済の主たる資源が事業経営による収益であつたこと、従つて右収益が生じなければ更生計画の運営も困難となる関係にあつたことが認められる。しかして管財人提出の月例報告書の記載によれば本件会社は本件更生手続開始後光学機械器具類の製造に関する多年の経験と技術とにより双眼鏡を主要な製品としその他の光学製品につき多額の受注製造販売を継続しこれに伴う収益を挙げて来たのであるがその後収益は漸次減少の傾向にあり殊に主要製品として双眼鏡の製造販売だけに依存することは困難な状況となつたことを窺うことができる。しかしながら本件更生計画の遂行が全く不可能であることについてはそれを肯認することのできる資料はなく、むしろ右月例報告書の記載に徴すればなお事業の経営方法製品の種類に工夫創意を加えることにより更生維持を図る余地のあることを窺い得られる。しかして事業の成否が経営担当者如何にかかることは抗告人等主張のとおりであるけれども抗告人等の挙示する本件更生計画の事業担当者等が無能不適任であることはその事実を認めるに足る資料はない。よつてこの点の抗告人等の主張も採用することができない。

結局本件抗告はいずれも理由がないから民事訴訟法第八十九条第九十三条を適用し主文のとおり決定をする。

(裁判官 梶村敏樹 岡崎隆 安岡満彦)

抗告の理由

一、別紙目録記載の(1) 、(2) 、(3) の抗告人等は本件会社の議決権を有した届出債権者、(4) 乃至(20)の抗告人等は其の届出株主である。

二、原決定は次に述べるように会社更生法第二百三十三条第一項の要件を備えていないのになされたものであるから取消さるべきものである。

三、本件更生手続は法律の規定に合致せず、しかも、その違反の程度、会社の現況その他一切の事情を考慮しても計画を認可しないことが不適当と認められる場合に該当しないのである。

(一) 原裁判所が本件会社の株主に議決権を行使せしめなかつたのは会社更生法第百七十条第一項の規定に違反するものである。

原裁判所が株主の議決権を排除したのは本件会社は債務超過の状態にあり、破産の原因たる事実があるから会社更生法第百二十九条第三項により株主は議決権を有しないというにある。

しかしながら、本件会社は更生手続開始の時において債務超過の状態になく、破産の原因たる事実がなかつたのであるから右法条を適用すべき場合ではないのである。

(1)  右法条に所謂破産の原因たる債務超過の状態にあるかどうかは更生手続開始の時を標準として決定すべきものである。

(2)  会社更生法は管財人をして手続開始後遅滞なく会社の財産の価額を評定し、(同法第百七十七条)かつ、手続開始の時における財産目録及び貸借対照表を作成し(同法第百七十八条)、その後財産管理状況を裁判所に報告せしめている(所謂月例報告、同法第百八十一条)。

(3)  したがつて、右財産の価額評定、財産目録及び貸借対照表の記載に脱落、誤謬等があつた場合は管財人はその訂正書を作成してその謄本を裁判所に提出すべきものである。

(4)  本件について管財人が提出した手続開始の時における財産目録及び貸借対照表謄本によれば資本勘定五、五六九万円(万円未満以下切捨-以下同じ)を除けば負債総額は一九、〇二六万円に対し資産総額は一四、五〇三万円で負債超過は四、五二三万円である。

(5)  ところが、右財産目録及び貸借対照表の資産勘定には次のような脱落及び誤算がある。

(イ) 借地権価額一、一六二五万円が脱落している。

本件会社には六五〇〇坪の借地があるが、その価額は坪二、五〇〇円(土地の価格坪五、〇〇〇円の五割)を相当とするので総額一、六二五万円となる。(第二回関係人集会速記録)

(ロ) 土地、建物の評価額に四、三〇八万円の誤算がある。

管財人提出の財産評定書(昭和三十三年二月五日受附日記第二〇六号)によると

土地 二九一万円(三、一一三坪)

建物 二、一三四万円

となつているが、管財人が昭和三十三年五月二十五日神奈川県友愛労働金庫に融資申入書の添附書類によれば土地建物の時価は

土地 一、五六一万円(三、一二三坪、坪五、〇〇〇円)

建物 五、一七二万円(建物二、〇六九坪、坪二、五〇〇円)

と算定され、土地には、一、二七〇万円、建物には三、〇八万円、合計四、三〇八万円の含み資産があると記載されている。手続開始の時たる昭和三十二年十二月十日と右融資申入の時との間は六ケ月余を隔てているに過ぎないのであるからその間に大幅の値上りは考えられないのである。

(ハ) また、機械装置等の評価額にも一、四九八万円の誤算がある。

前記労働金庫への提出書類には、機械器具の評価について、新設機械六三九万円(簿価)を別として、簿価一、四七六万円となつているものの時価が二、九七四万円であつて、一、四九八万円の含み資産価額あることの記録がある。(右(ロ)(ハ)については昭和三十四年三月二十六日附管財人解任申立書附属書類参照)

(6)  したがつて、右(5) の(イ)、(ロ)、(ハ)の価額合計七、四三一万円は当然前記財産目録及び貸借対照表に資産として計上せられるべきものである。そして、これが計上漏となつていたからといつて資産でなくなるものではない。

右価額を加えると本件会社は手続開始の時において負債超過ではなく、逆に差引二、九〇八万円の資産超過となり、破産原因なる事実は存在しないこととなる。

(7)  しかるに、原裁判所が本件会社に債務超過による破産原因ありとして株主の議決権を排除したのは更生手続が法律の規定に合致しないものと謂はねばならない。

(二) 本件更生手続には財産目録及び貸借対照表作成に関する法律規定違反がある。

(1)  管財人は会社更生法第百七十七条にもとづく財産評定または同法第百七十八条にもとづく財産目録及び貸借対照表に脱落、誤謬等があつた場合は遅滞なくその訂正書を作成し、これを裁判所に提出しなければならないことは右(一)の(3) に述べたとおりである。

ところが、本件会社の管財人は右(一)の(5) の(イ)、(ロ)、(ハ)の脱落、誤謬を知りながらその訂正をしていないのである。

(2)  会社更生法第百一条、第四十三条によれば、管財人は善良な管理者の注意をもつてその職務を行はなければならない。財産評定または財産目録及び貸借対照表の作成に当つても、善良な管理者の注意をもつて公正に会社財産の実態を把握し、その実態に即してこれをなさなければならないのである。

本件会社の前記財産評定書、財産目録及び貸借対照表の記載内容は管財人が調査委員として裁判所に提出した調査報告書に添附された大館晃計理士(更生手続において管財人代理となり、本件更生計画認可後管財人によつて本会社の取締役に選任せられ、代表取締役となつた)作成の監査報告書添附各種附表の記載内容と全く同一の数字が羅列されている。これは前記財産評定書、財産目録及び貸借対照表は該附表にもとづき作成されたことを示すものであるが、該附表は会社の実態を調査して作成されたものではなく、前記監査報告書の序文にあるとおり会社の更生申立前の諸帳簿の記載を鵜呑みにして机上で検討して作成されたものであつて、これをあたかも会社の実態を示すかのように装つたに過ぎないのである。(第二回関係人集会速記録参照)

これでは法律の規定する財産評定がなされ、財産目録及び貸借対照表が作成されたとはいえないのである。

この違法は本件更生手続の進行に重大な影響を与えているもので看過し得ないものである。

(2)  管財人は前記法条にもとづく財産目録及び貸借対照表の外、会社更生法第百八十一条により更生計画認可の時及び裁判所の定める時期における財産目録及び貸借対照表を作成し、その謄本を裁判所に提出しなければならないのであるが、本件においては裁判所は財産目録及び貸借対照表の作成について特別な定めをしていないので管財人は更生計画認可の時に作成し、その謄本を提出することとなる。

もつとも、管財人は裁判所の定めるところにより会社の業務及び財産の管理状況その他裁判所の命ずる事項を裁判所に報告しなければならないが、(前記第百八十一条)本件についても裁判所は特別の定めをしていない。ただ、管財人は業務及び財産の管理状況を報告するため所謂月例報告書を提出し、これに各月末現在の貸借対照表が添附されているが、これはあくまで業務及び財産管理状況を示す一助としてである。

ところが、管財人提出の月例報告によれば昭和三十四年一月末日現在における貸借対照表において新たに減価償却引当金三、二五九万円を計上するとともに土地を除いた固定資産において三、一七二万円を増加させている(この数字の中には前記脱落及誤算分は含まれていない)。また同年六月末の貸借対照表においては従来の貸借対照表の方式を全面的に変更し、勝手に資産操作をなし、かつ多額の期中評価減を計上した(昭和三十四年二月十七日の第二回関係人集会速記録二七丁以下、七〇丁以下。同年二月六日本代理委員が管財人から受取つた別紙損益計算書及び製造原価報告書参照)

しかしながら、更生手続の途中において勝手に貸借対照表の作成方式を勝手に変更したり、資産操作をすることは許さるべきことではなく、減価償却の如きも期末においてなすべく、減価償却によつて資産が増加するものでもないのである。原裁判は第二回関係人集会において更生計画案立案のために財産評定をやり直すことができるかのような発言をされているが、このようなことも許されないことである(第二回関係人集会速記録参照)

このような財産目録および貸借対照表作成に関する法律違反が更生手続の進行、更生計画の内容等に重大な影響を及ぼすことは明かである。

(三) 原裁判所が本件更生手続に関しなした裁判には多くの違法、不当なものがあり、この違法、不当な裁判は本件更生手続を歪曲し本件更生計画案の決議に影響を及ぼしているのである。

(1)  本代理委員は昭和三十四年三月二十六日の第二回関係人集会において管財人解任の申立、第一回関係人集会再開申請及び第二、三回関係人集会期日延期申請をなしたところ原裁判所は右各申立をいづれも理由ないものとして棄却した。

(2)  右解任の申立は管財人に重要なる事由あるものとして、具体的事実を挙示し、証拠を添えてなしたものである。ところが前記のように単に理由なしとて棄却を言渡し、申立書の奥書として「会社更生法第百一条、第四十四条に則り管財人を審尋した上理由なしと認め本件申立を棄却する」とのみ記載しているのである。しかしながら、

(イ) 右に関する管財大審尋調書は記録上存在していない。

(ロ) 申立の理由として挙示した事実に対し何等の判断をもしていない。

このような裁判は理由を附しない裁判と同一であつて決して適法、妥当なものとは謂い得ないのである。

(3)  第一回関係人集会再開申請は本件更生手続における手続開始の時における財産評定の重大な誤謬、従つて株主の議決権の行使に関し重大な影響ある事実の存在を理由として手続開始の時における財産評定のやり直しとその第一回関係人集会での報告を求めたものであるからこれを単に理由なしとして棄却するのは違法、不当といわねばならない。

(4)  また、第二、三回関係人集会延期申請も右管財人解任の申立及び第一回関係人集会再開申請を前提とし、違法な更生計画案の議決を回避せしめんとしたものであるからこれを棄却したのは違法、不当である。

(5)  本代理委員は昭和三十四年二月二十四日の関係人集会において会社更生法第百九十七条により更生計画案修正命令の申立をなしたところ原裁判所は同年三月二十六日の関係人集会で更生手続の経過並に時間的な進行の状況に照らし、この修正案を採用することはかえつて更生手続の公正、公平あるいは実現可能ということに沿はないと認め採用しないことにした、第三回関係人集会の期日を指定したのは黙示的に申立を棄却したことになると述べているが、黙示的な申立棄却したというがこれでは適法、妥当な裁判がなされたことにはならない。

本代理委員が右修正命令申請において示した修正更生計画案が公正、公平、かつ遂行可能なものであることは本件更生計画と対比検討すれば自ら明かである。(第二回関係人集会速記録参照)

四、本件更生計画は、公正、衡平でないからこれを認可した原決定は違法である。

(一) 本件更生計画第二の八には「従来の株主は会社に破産原因たる事実があるので一切の権利を失う」と定められているがこれは極めて不公正、不衡平である。

(1)  本件会社に破産原因たる事実のないことは本申立理由三の(一)において述べたとおりである。

(2)  仮に、管財人提出の財産目録および貸借対照表を鵜呑みにし、債務超過にあるものとしても、本件株主の権利を喪失せしめる合理的事由は存在しないのである。

更生手続は破産手続とは異なる。後者は破産財団を換価し、各債権者に公正、衡平な配当を実施することを目的とする。これに反し、前者は、窮境にあるが再建の見込のある株式会社について債権者、株主その他の利害関係人の利害を調整しつつ、その事業の維持更生を図ることを目的とするものである(会社更生法第一条)。したがつて、本件会社のように債権の切捨率も比較的少なくその償還も必ずしも長時間を要しない場合においては債務超過にありとしても株主の権利を或る程度存続せしめるのを相当とする。株主としての経済的利益の供与を更生債権の償還後とすることによつて更生債権者との利害の調整は容易になし得るのである。管財人は第二回関係人集会において、株式の価値は零に等しいから株主の権利を認める必要がないと述べているが、現在の株価を算定し難いとしてもその潜在的価値は存するのであつてこれを無価値と断ずるのは失当である。将来更生の実を挙げれば相当の配当も予想されるのである。

殊に本件更生計画によれば認可決定後六年にして更生債権を全部償還してその後の収益はすべて株主配当に当て得るのである。

(二) 本件更生計画別表(1) によれば一般更生債権の内一〇万円未満の債権については認可決定の日より六ケ月目に全額弁済することになつているが、右金額を僅かに超過するような債権に対する調整規定がない。これは衡平でない(本代理委員提出の修正命令申請書添附の修正更生計画案第二章第一款第三項(2) の(ハ)参照)

(三) 本件更生計画第三の三の(2) 、(3) によれば取締役四名及び監査役の選定方法は、更生債権者、更生担保権者が推薦した者、又は管財人が推薦した者のうちから裁判所の許可をうけて管財人が選任する旨及び代表取締役は取締役の互選により選任する旨の規定があるが、右規定は昭和三十三年七月三十一日管財人提出の第一次更生計画案にあつた取締役及び代表取締役一色正、大館晃を削除修正したものであるが、管財人は本件更生計画認可決定後裁判所の許可を得ないで昭和三十四年四月十二日岡田宏爾、平田春雄、大館晃を取締役に選任し、同月十七日大館晃が代表取締役に互選されているが、これは管財人が当初から更生計画を誠意をもつて遂行しようとしていないことを示すとともに右取締役及び代表取締役に関する修正が関係人集会において同意決議を得るためにとられた仮装手段であつたと見られるのであつて、かかる更生計画は公正なものではない。

なお、原裁判所は本件更生計画認可決定後一色正の管財人代理としての選任を許可しているが該許可申請は右一色が管財人の法律事務所の事務員であるという理由で許可を留保していたため管財人補助者なる名目で執務していたものを一年以上経過して許可したのであるが、原裁判所は取締役選任に関する管財人の更生計画の条項無視をも認容している(昭和三十四年四月二十日附上申書、同月二十七日附報告書参照)。

五、本件更生計画は遂行可能でないのにこれを認可した原決定は違法である。

管財人が昭和三十三年七月末日提出した第一次更生計画案は第三回関係人集会までの間に数次に亘つて修正せられたが、その修正の重点は債権の処理に関する条項、すなわち弁済計画についてであつた。弁済計画の基調をなす事業計画は殆んど変つていない。同一の事業計画から逐次弁済額を増大したり、弁済期間を伸縮したりした結果生れた本件更生計画は机上の空論にすぎない。同一の事業計画から幾通りもの弁済計画をたてるのは魔法としてしか考えられないのである。

(一) 本件会社の主な弁済源は事業による収益である。

本件更生計画別表(3) によれば昭和三十四年九月までしか計画がなく、その後に九月分に準ずるということになつている。弁済が実際に行はれる昭和三十五年四月以降どのように事業が進行するか数学的に明らかでない。新製品は第一次計画案によれば昭和三十三年八月頃から出来る計画になつていたのが、全然出来ないので本計画では、昭和三十四年一月からに変更された。かように新製品に関する限りこの実績が示している通り全く当にならない。結局今迄通り双眼鏡を製品の大宗とした計画であるといえるのである。双眼鏡に於ける従来の実績は大体月平均一五〇〇個、金額にして大体六六〇万円位に押えなければならない。この双眼鏡一辺倒の営業方針の採るべからざることは管財人提出の第一次経営合理化の実績報告書(昭和三十三年六月一日附)及び労働組合代表が裁判所に提出した意見書に徴しても明かである。

本件事業計画のような個数、金額が将来長きに亘つて持続されるとは信じ難い。更に兵器その他についての計画も従来の実績を無視した机上の空論にすぎない。

(二) 本件更生計画第二の六の(1) 後段によれば第一乃至第三年度の弁済資金は減価償却引当金を営業による収益金に併せて充当することになつている。しかし、減価償却引当金なるものが、営業上の収益の外にあるということは会計法上理解することが出来ないところであつて単なる作文に過ぎない。これを弁済資金に充当することは無意味である。

なお、この期間における事業による収益が弁済額を遙かに下廻つていることは本件更生計画自体によつて明かである。

(三) 事業の成否は経営者の如何に依存する。本件更生計画によれば到底本件会社を更生せしめるような経営陣は構成されないから本件計画は遂行の可能性がない。

本件更生計画第三の三の(1) によれば取締役七名の内計画によつて定められたものは古沢猛弥、中島豊槌、林源一の三名である。古沢、中島の両名は従来本件会社の技術取締役、林は経理担当取締役であつた者である。また、前記のように裁判所の許可を得ないで管財人が選任した取締役大館晃、岡田宏爾、平田春雄の三名の内、大館は計理士で管財人代理、岡田は更生債権者、平田は従来本件会社の第一販売部長であつた者である。

これ等の人達によつて構成される経営陣は有能な卓越したものとは云えない。殊に本件会社の管財人が不適任であることは前記解任申立書記載のとおりであるが、管財人代理である大館は代表取締役として本件会社を主宰する適格者ではないのである。このような経営陣によらざるを得ない本件更生計画は遂行不可能である。

六、以上述べたように原決定は違法であつて取消を免れないが、本件会社は前記修正命令申請書によつても明確であるように本件更生計画を上廻る修正更生計画案の作成が可能なのである。このような会社にとつても債権者及び株主にとつても有利な計画案の作成を回避してなされた本件更生計画は公正、衡平とは云い得ないのである。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例