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東京高等裁判所 昭和34年(ネ)479号 判決 1961年2月27日

控訴人 光武炭鉱こと小岩信治

被控訴人 東京融資株式会社

主文

原判決を取り消す。

被控訴人の第一次請求(手形金請求)を棄却する。

被控訴人の予備的請求に基づき控訴人は、被控訴人に対し、金二百万円及びこれに対する昭和二十八年七月十一日から支払済みまで年六分の割合による金員の支払をせよ。

訴訟費用は、第一、二審とも控訴人の負担とする。

この判決は、第三項に限り、被控訴人において金五十万円の担保を供するときは、仮に執行することができる。

事実

控訴人は、原判決を取り消す、被控訴人の請求を棄却する、訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とするとの判決を求め、被控訴人訴訟代理人は、控訴棄却の判決を求め、ただし本訴手形金請求の元本額を金二百万円に減縮すると述べ、なお予備的請求として主文第三項同旨の判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述並びに証拠の提出及び援用は、次の諸点を附加するほか、原判決事実摘示の記載と同一であるから、これをここに引用する。

附加する点は、次のとおりである。

一、被控訴人訴訟代理人の陳述

(一)  控訴人は、昭和二十九年七月十日に本件手形金請求権の時効が完成したと主張するけれども、同年六月三日、控訴人は、被控訴人を相手方として、本件手形債務を認めた上期限の猶予を求め同年六月から五箇年間の分割弁済をなす旨の調停を東京簡易裁判所に申し立て、右調停申立における債務承認により、時効は、中断している。もつとも、右調停は、一年余も続けられた上、結局、昭和三十年十一月二十九日、不成立に終つたけれども、控訴人は右のように本件手形債務を認めた上五年間の猶予を求めているのであるから、このような場合には右期間中はなお時効は完成しないものというべきである。

(二)  仮に、本件手形債務が時効により消滅し、したがつて本訴手形金請求が理由がないとしても、被控訴人は昭和二十八年六月二十九日、控訴人に対し同年七月十日を弁済期として金二百万円を貸し付けその支払の方法として本件手形の交付を受けたものであつて、被控訴人は控訴人に対し右消費貸借上の債権を有するから、予備的に、右消費貸借の成立したことを請求原因としてこれに基づき被控訴人に対し右貸金元金二百万円及びこれに対する弁済期の翌日である昭和二十八年七月十一日から支払済まで商法所定の年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

(三)  控訴人は右貸金請求についても時効の抗弁をしているけれども、右貸金の支払方法として授受された本件手形について昭和二十九年六月三日控訴人は被控訴人に対し前記(一)のように調停申立をしており、したがつて、本件消費貸借上の債務をも承認しているものであり、これにより、時効は、中断している。

二、控訴人の陳述

(一)  本訴手形金請求についての被控訴人主張の請求原因事実は、全部認める。

(二)  本件手形は拒絶証書作成義務を免除して控訴人から被控訴人に対し裏書されたものであるから、被控訴人の本件手形金請求権は、満期日の翌日から起算して一年後である昭和二十九年七月十日の経過により一年の手形時効が完成して消滅している。

(三)  被控訴人主張の(一)の事実は認めるけれども、その主張のように調停は不成立に終つているから、訴訟行為として調停申立によつてなされた手形債務の承認は、私法上効力を生じなかつたものというべきである。

(四)  仮に、右承認が私法上の効力を生じたとしても、その後さらに時効が進行し、右承認の日の翌日から起算して一年後である昭和三十年六月三日の経過とともに時効が完成し、仮に右承認の効力が調停不成立の日まで継続するとしても調停不成立の日の翌日から起算して一年後である昭和三十一年十一月二十九日の経過とともに時効が完成し、したがつて、被控訴人の本件手形金請求権は、すでに消滅している。

(五)  予備的請求原因として被控訴人が主張する(三)の事実は、否認する。

(六)  仮に、被控訴人主張の金銭消費貸借があつたとしても、昭和三十三年七月十日の経過とともに五年の商事時効が完成し、被控訴人の貸金請求権は、消滅している。したがつて被控訴人の予備的請求もまた理由がない。

三、証拠

被控訴人訴訟代理人において、甲第一号証及び第二号証を提出し、当審における被控訴会社代表者関根繁樹尋問の結果を援用した。

理由

一、被控訴人の第一次請求(手形金請求)について

本訴手形金請求についての被控訴人主張の請求原因事実は全部控訴人の認めるところである。

よつて控訴人の各時効の抗弁につき、順次判断する。

控訴人は、まず、昭和二十九年七月十日に本件手形金請求権の時効が完成したと主張し、そして本件手形が拒絶証書作成義務を免除して控訴人から被控訴人に裏書されたものであることは当事者間に争いがないから、被控訴人の控訴人に対する本件手形金請求権の消滅時効期間は、時効中断がない限り、満期日の翌日から起算して一年後である昭和二十九年七月十日をもつて満了すべきところ、右時効期間の満了前たる同年六月三日に控訴人が被控訴人を相手方として本件手形債務を認めた上期限の猶予を求め同年六月から五箇年間の分割弁済をなす旨の調停を東京簡易裁判所に申し立てて債務を承認したこと及び右調停が一年余も続けられたけれども結局昭和三十年十一月二十九日不成立に終つたことも、また当事者間に争いがない。ところで、時効中断事由としての承認はなんら特別の方式を必要としないものであるから、右調停申立においてなされた債務承認による時効中断の効力は、調停が成立しなかつたという手続上の理由をもつて消滅すべきものではないと解される。のみならず、この場合の時効中断の効力は調停が終了するまで存続し、その間新たな時効は進行しないと解すべきである(この点もし反対に解するときは、債務を認めた上期限の猶予と分割弁済を求める旨の調停が進められているのにかかわらず、新たな時効期間が満了する都度事前に中断のための手段(場合によつては訴の提起)を講じなければならないという不合理な結果を生ずるからである。)。したがつて、昭和二十九年七月十日に完成すべき時効は、これに先だつ同年六月三日に控訴人がなした前記調停申立における本件手形債務の承認により、その承認の通知が被控訴人に到達した右六月三日ころ(そのころ被控訴人が右調停申立及びこれによる債務承認を了知したことは本件口頭弁論の全趣旨により、認めることができる。)中断し、その中断の効力は、右調停が不成立に終つた昭和三十年十一月二十九日まで存続するものといわなければならない。

しかしながら、被控訴人の控訴人に対する本件手形金請求権の消滅時効は、右調停不成立の時から再び進行し、その翌日から起算して一年後である昭和三十一年十一月二十九日の経過により完成することとなるところ、この新たな時効に対し被控訴人はなんら中断事由を主張しないから、被控訴人の本件手形金請求権は、結局右時効の完成により本訴提起前(本訴の提起が昭和三十三年十一月二十九日になされていることは記録上明白である)に消滅したものといわなければならない。

したがつて、控訴人に対し右手形金及び利息の支払を求める被控訴人の本訴第一次請求は理由がない。

二、被控訴人の予備的請求(貸金請求)について

そこで進んで、被控訴人の予備的請求である貸金請求について、判断する。

被控訴会社代表者関根繁樹尋問の結果及びこれにより成立を認めることができる甲第一号証を総合すると、昭和二十八年六月二十九日被控訴人が控訴人に対し同年七月十日を弁済期として金二百万円を貸し付けその支払方法として本件手形の交付を受けた事実を認定することができ、この認定に反する証拠はない。

控訴人は右貸金請求につき、五年の商事時効の抗弁をなし、これに対し、被控訴人は、前記一、で説示した手形債務についての控訴人の調停申立はその原因関係たる本件消費貸借上の債務をも承認しているものであるからこれにより時効が中断していると主張する。ところで、右調停申立当時被控訴人と控訴人との間に本件消費貸借上の債権債務のほかに右手形の原因関係となるべき債権関係が存在していたことを認めるべき証拠がない本件では、右調停申立は手形債務の承認であると同時にその原因関係たる本件消費貸借上の債務の承認でもあるといわなければならない。したがつて、控訴人主張の五年の時効は、右承認の通知が被控訴人に到達した昭和二十九年六月三日ころ、中断されたものというべく、そしてこの場合の時効中断の効力が前記調停が不成立により終了した昭和三十年十一月二十九日まで存続すると解すべきこと前記一、で説示したとおりであり、被控訴人がその後五年内である昭和三十四年九月十四日の本件口頭弁論期日において陳述に係る本件予備的請求原因事実を記載した同日付準備書面により本訴予備的請求をなしたことは記録上明白である。したがつて結局控訴人の右時効の抗弁は、採用の限りではない。

してみれば、本件消費貸借契約に基づき控訴人に対し本件貸金二百万円及びこれに対する弁済期の翌日である昭和二十八年七月十一日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める被控訴人の請求は、理由がある。

三、むすび

以上のとおりであるから、被控訴人の手形金請求を認容した原判決を取り消し、右請求を棄却し、被控訴人の貸金請求(予備的請求)を認容すべきものとし、民事訴訟法第三百八十六条、第九十六条、第八十九条及び第百九十六条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 川喜多正時 小沢文雄 賀集唱)

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