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東京高等裁判所 昭和34年(ネ)1604号 判決 1961年4月26日

控訴人(原告) 田辺良隆 外一名

被控訴人(被告) 東京都知事・北区田端復興土地区画整理組合

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴人等は「原判決を取り消す。被控訴人東京都知事は、昭和三十三年十月十八日なした被控訴人北区田端復興土地区画整理組合の設立認可の無効なることを確認せよ。右被控訴人組合はその設立の無効なることを確認せよ。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人等の負担とする。」との判決を求め、被控訴人等代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上並に法律上の供述は、当審で次のとおり付加補充する外、原判決事実に摘示するところと同一につき、これを引用する。

控訴人等の主張

(一)  土地区画整理組合を設立しようとする者は、定款及び事業計画を定め、都道府県知事の認可を受くべく(土地区画整理法第十四条)、右事業計画においては、建設省令の定に従い「施行地区、設計及び資金計画」を定め、これを認可申請書と共に提出することを必要とするところ(同法第十六条第六条同法施行規則第一条第三項)、従前存する組合と施行地区を同じくする新組合の設立認可後になつて旧組合の同意が得られないときは、事業計画の施行は不能に帰する外がないので、かかる事態の発生を避けるため、新組合の設立認可に当つて、旧組合の同意を要するものとされるのである。即ち土地区画整理組合の設立と土地区画整理事業の施行とは切り離し得ない密接な関連を有し、従つて同時に同一地区に全く同一の事業計画を有する新旧二個の組合が設立併存することは許されない筋合である。

(二)  土地区画整理法第十七条の準用する第七条には「第四条の事業計画を定めようとする者は、宅地以外の土地を施行地区に編入する場合においては、当該土地を管理する者の承認を得なければならない。」と規定している。しかして、土地区画整理事業の施行により設置された公共施設は、換地処分の公告があつた日の翌日において、その公共施設の所在する市町村の管理に移されるけれども、その引継前においては施行者がこれを管理することは、同法第百六条の規定により明かであるところ、被控訴人組合は訴外田端復興土地区画整理組合において設置し且つ管理中なる道路、公園等をその管理者である清算人の承認を得ることなくして恣に施行地区に編入し事業計画を定めたのであるから、その設立手続は前記各法条に違反し、従つて東京都知事のなした設立認可は同法第二十一条第一項第一、二号により無効というべく、被控訴人組合の設立もまた無効である。

(三)  被控訴人組合の設立認可申請書によると、

施行地区の総地積 一二四、一八七坪八三

組合員総数    七三四名(所有権者六一九名借地権者一一五名)

組合設立同意書数は、

所有権者     四四八名(法第十八条の法定数は四一三名)

借地権者     一一五名(右法定数は七七名)

となつている、然るところ、被控訴人組合の事業施行地区は悉く訴外組合の地区内に存し、且つ訴外組合の清算がなお結了するに至つてない現在、地区内土地所有者及び借地権者は、清算人の承認を得ない以上、同一地区内に別個の土地区画整理組合が設立されることにつき同意を与えることは、清算人の清算権限を侵害する結果となるので、独断では有効にその同意をなし得ない筋合である。然るに前記の同意書は何れも清算人の承諾若しくは同意なしに作成されたものである故、無効であり、従つて被控訴人組合の設立はその手続要件を欠くこととなつて、これが設立認可並に設立は共に無効である。

(四)  土地区画整理組合設立のため、定款及び事業計画を決定するに当つては、一応すべての権利者に対し参加を求め、全体の決議によつて事を決すべきであり、単に法定の三分の二に当る者の同意がありさえすれば、他の者の同意を求めず、その設立手続に対する関与を拒否してよいというのではない。然るところ、本件において被控訴人組合の設立を発起した人々は、同意書不提出の一部の者に対しては、その同意を求めることをなさず、且つ組合設立の趣旨及び事業計画の内容を広く周知せしめる方法も取らずに、設立認可申請の手続を取り運び、組合が設立された以上、同意しなかつた権利者も凡て強制的に組合に編入されて組合員となつたものとしている。しかしこのようなことは極めて不合理且つ不公正であつて、土地区画整理法第十八条の趣旨並に憲法第二十一条第一項に違反するのみならず、右設立に当り準拠した土地区画整画法第十八条第十九条第四項は不同意又は未届権利者の設立関与を否定する点において第三条第二項第二十五条は不同意権利者の組合強制編入を認めた点において何れも憲法第二十一条第一項第二十九条第一項第三項に違反し無効であるから、従つて被控訴人組合の設立もその認可も当然に無効である。

(五)  訴外田端復興土地区画整理組合の設立無効判決の確定前なる昭和二十一年二月頃より、その結果を見越して訴外組合の事業施行全区域二十五万坪をそのまま計画区域とする新組合(北区田端復興土地区画整理組合)設立の運動が塚本福治郎を準備委員長として発起され、関係者は同意書の蒐集に奔走したけれども、土地所有者の同意が法定数に達しなかつたため、遂に組合の設立は不能となつた(甲第七号証参照)。そこで塚本等は止むなく東京都知事に対し、事業施行区域の公告申請を取下げ、昭和三十三年四月二十二日付東京都公報を以て都知事の取消公告がなされたので、ここに右組合設立準備運動は終熄した。それ故右組合設立のために蒐められた同意書五百余通は当然に失効したところ、長岡慶信外十六名は更に同一区域内の一部十二万四千坪につき被控訴人組合の設立を企て、同月二十二日同知事の施行地区公告を求め、同年十月十八日その設立認可を得るに至つた。しかしこの新組合は定款、事業規模、資金計画等において先に設立不能に帰した組合と全く別個のものであるから、所有者等に対し改めて同意を得る必要があるところ、被控訴人組合の設立申請に当り、名称が両者同一であるのを奇貨とし、既に失効した同意書の大部分を流用して、恰も被控訴人組合の設立につき関係者の適法な同意あるものの如く装い、東京都知事をしてその旨誤信せしめて認可処分をなさしめたのである。それ故かかる反故同然の同意書を添付してなした申請に対応する東京都知事の設立認可は無効であり、組合の設立も無効である。

被控訴人等の主張

(一)  土地区画整理組合の設立と事業の施行とは全く別個であり、しかも旧組合に対し設立無効の判決が確定しているのであるから、被控訴人組合の設立または設立認可につき、旧組合の同意は不要である。

(二)  被控訴人組合の施行地区内において、旧組合が管理する道路、公園等の公共施設は存在しない。事実道路、公園の如き体をなしているものと雖も土地区画整理法第百三条第四項による換地処分の公告がなされるまでは、法律上依然として宅地であつて、宅地以外の土地ではない。そして設立を無効とされた旧組合は、土地区画整理事業の施行者ではないから、道路、公園としての整備工事を施した宅地部分についても、管理権を有するものではない。なお被控訴人組合は施行地区内に存する国有地道路、水路、堤塘地、都有地道路等につき、管理者たる東京都知事及び区長等より地区編入の承認を得ているので、同法第七条違反の事実はない。

(三)  控訴人等主張の如く、被控訴人組合と同一名称の土地区画整理組合の設立運動が失敗に帰し、そのための権利者の同意書が失効したことは認めるが、被控訴人組合が無効となつた同意書を流用して設立認可の申請をしたことは、否認する。その申請に当り右同意書の一部を単に用紙として利用したことはあつたが、同意自体は改めてそれぞれ別個になされたのである。

(四)  控訴人等主張のその余の点は凡て否認する。

(証拠省略)

理由

被控訴人組合が土地区画整理組合法の規定に従い、昭和三十三年十月十八日その設立につき被控訴人東京都知事の認可を得たものであり、控訴人等が同組合の事業施行地区内に存する土地の所有者であること、これより先、昭和二十三年三月十三日被控訴人組合の事業施行地区を含む区域を施行地区とする訴外田端復興土地区画整理組合(以下訴外組合という)が設立され、土地区画整理事業を施行したが、昭和三十三年二月十五日同組合の設立並に設立認可無効の判決が確定したことは、当事者間に争がない。

一、控訴人等は、被控訴人組合の設立認可申請について事業の施行地区を同じくする訴外組合の同意がないので、被控訴人知事の与えた認可も被控訴人組合の設立も共に、土地区画整理法第二十一条第一項第二号第百二十八条第一項の規定に違反し無効であると主張する。よつてこの点につき判断する。

土地区画整理組合は区画整理事業の遂行を目的とする公法上の主体であるところ、組合設立の要件即ち法人格取得の要件である都道府県知事の設立認可の無効であることが、判決を以て確定されたときは、組合の法人格は否定され、組合は爾後人格なき団体として清算の段階に移らざるを得ないものと解すべく、商法におけるような明文の規定がない以上、設立認可無効の判決確定に拘らず、組合が依然法人格を保有し、清算の目的の範囲内でなお存続すると見ることは相当でない。仮りにかかる組合が清算の範囲内で存続するとしても、本来の目的たる土地区画整理事業遂行のためにする積極的活動は設立認可無効の判決確定と共に一切終止符を打たれ、従つてその組合の事業施行地区なるものも現実に存しない結果となるのは事理の当然というべく、右に反する控訴人等の見解は採るに足りない。そうとすれば、新に土地区画整理組合の設立認可申請をなすにつき、嘗て同一区域を施行地区としていたが、設立無効のため既に法人格若しくは事業遂行能力を喪失するに至つた旧組合の同意を取付けるようなことは、全くその必要を見出し得ない訳であるから、被控訴人知事が訴外組合の同意なしに与えた被控訴人組合の設立認可処分は違法ではなく、従つて組合の設立も有効とすべきこと勿論である。加うるに土地区画整理組合の設立自体と設立された組合の事業施行とは観念上別個の事柄であつて、旧組合の同意は事業の重複施行を避けるためにこそ必要であれ(土地区画整理法第百二十八条第一項)、新組合設立の要件をなすものでないと解すべきことは、当裁判所も原審と同一見解であるから、原判決の理由を引用すべく、この観点からしても、被控訴人組合の設立に当り、訴外組合の事業施行の同意がなかつたことは、その設立認可並に設立を無効たらしめるものでないというべきである。

二、控訴人等はまた、被控訴人組合の施行地区内には、訴外組合が設置し且つ管理する道路公園等の公共施設が存するところ、被控訴人組合においてこれを施行地区に編入するにつき、訴外組合の承認を得なかつた故、組合設立の手続は土地区画整理法第七条第十七条に違反し、同法第二十一条第一項第一、二号により無効であると主張する。

しかし、訴外組合が道路公園となすべくその造成工事を施した敷地につき、結局換地処分の認可告示を見るに至らなかつたことは、控訴人等も明に争わないところであるから、その土地の事実上の形状はどうあれ、行政上道路または公園としての認定は行われる筈なく、依然宅地のままに止つているものといわなければならない。それ故設立が無効とされた訴外組合の清算人が、その権限に基きこれを公共施設として管理している訳でなく、右敷地を施行地区に編入するため清算人の承認を必要とするものでないことも自ら明かである。控訴人等の主張は理由がない。

三、訴外組合の清算が結了していない以上、地区内の土地所有者及び借地権者は清算人の承認がない限り、別個の土地区画整理組合の設立につき同意することができないとの前提に立つ控訴人等の主張は成法上の根拠がない独自の見解であつて、採用に値しない。

四、控訴人等は被控訴人組合設立のため、定款及び事業計画を決定するに当つては、発起人等は当然地区内権利者の全部に対し参加を求め、全体の決議によつて事を決すべきであるに拘らず、法定数に達する者の同意さえあれば足るとして、爾余の者の関与を拒否し、且つ事業計画の内容を広く周知せしめる方法も講ぜずに、一方的に設立手続を取運んだのは甚しく違法であるかの如く主張するけれども、その事実を認むべき証拠がないので、右主張を排斥する。また土地区画整理法の規定のうち、控訴人等の指摘する各条項が憲法第二十一条第一項に或は同法第二十九条第一項第三項に違反するとの控訴人等の主張についても、それ等の規定が土地区画整理という公共的事業遂行の必要上、公共の福祉のために設けられたものであることを思えば、必ずしも憲法に違反するということはできないので、採用することができない。

五、控訴人等は更らに、被控訴人組合に寄せらた設立同意書は嘗てその事業施行地区を含む地域に同一名称で設立せんとして失敗に帰した土地区画整理組合に対するそれを不当に流用したものであつて、真正の同意書は法定数に達しない故被控訴人組合の設立手続は無効である旨主張する。

しかし、成立に争のない甲第七号証第十一号証の一、二、三、第十二号証の一ないし四当審証人塚本福治郎、守田又十郎の各証言を綜合すると、被控訴人組合は、先に同意書が法定数に達しないため設立の企図を放棄した同一名称の土地区画整理組合の予定施行地区の一部十二万四千余坪を施行地区とし、土地所有者六百十九名借地権者百十五名を組合員として設立されたものであるところ、その設立準備事務に従事した者において、東京都の行政指導に従い、各権利者をして再度同意書を提出せしめる手数を避けて、先に不成立に帰した組合のための設立同意書を当該各権利者の許に持参し、改めて新組合の設立に対し賛同を求め、各人の意嚮を十分に確めた上で、同意を与えた者については以前の同意書に日付を訂正したり、空白の日付欄に年月日を記入したりして、これを被控訴人組合設立の同意書に充てたものであることが認められる。尤も甲第十三号証の一、二によると、組合員のうち九名の者に対しては同意書転用の承諾を求められたことがないもののようであるが、仮りにそうとしてもそれは僅か九名だけのことであり、このことからして直ちに九名以外の他の組合員についても同様無断流用があつたであろうと推断することはできない。しかして控訴人等の主張によるも、被控訴人組合が設立認可申請に当つて提出した同意書数は、所有権者四四八名(法第十八条の法定数は四一三名)借地権者一一五名(右法定数七七名)分に達するというのであるから、前記の九名を除外してもなお法定数以上の同意あること明かであつて、従つて被控訴人組合の設立につき適法な同意がなかつた旨の控訴人等の非難は排斥せざるを得ない。

上来説示のとおり、被控訴人組合に対する設立認可及びその設立手続が無効であることの理由として控訴人等の主張するところは何れも容認するに由なく、本訴請求は棄却すべきである。よつて同一趣旨に出た原判決は相当とし、本件控訴を棄却すべきものとし、民事訴訟法第八十九条第九十五条に則り、主文のとおり判決する。

(裁判官 二宮節二郎 奥野利一 渡辺一雄)

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