大判例

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東京高等裁判所 昭和34年(く)27号 決定 1959年4月06日

少年 S(昭一四・六・一九生)

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告理由の要旨は、少年は職業安定所の紹介により食堂「きつねや」「新宿」に就職することになつたが、他の店員に圧迫されたので同店をやめ、上野に行つたところ、そこで二〇日位前に知り合つた男に会い、同人と一緒に田舎者と思われる女と同一方向に歩いているうちに警察官に連行された。しかし、自分は何が何だかさつぱり分らない。その後自分は保護観察所に送られ、審判の結果、中等少年院に送致する旨の決定があつたが、保護司や保護者の措置には納得できないところがある。また、父に反抗したとのことであるが、今回上京するにあたつては、父も兄も喜んでおり、自分が上京の折も心配してくれたのであつて、ただ生活難のため父は上京して自分を引取ることができなかつたと思われる。自分も働いて父を幸福にするから、原決定は不当であるというのである。

ところで、少年に対する保護事件の記録を調べてみると、原決定認定事実や少年が上野で女子につきまとつたことを認めることができる。殊に、少年は精神病的人格を有し、その実父とも折合が悪く在宅補導を期待できないのであつて、これを改善するためには、公的機関に収容し、相当な矯正指導を受けることが少年のために必要であると認められるところであり、その他所論のような事情をしんしやくしてみても、原審が少年を中等少年院に送致する旨の決定をしたことは、著るしく不当であるとは認められないから、抗告人の所論は採用することができない。従つて、本件抗告は理由がないものといわなくてはならない。よつて少年法第三三条第一項後段に則り主文のとおり決定する。

(裁判長判事 尾後貫荘太郎 判事 堀真道 判事 本田等)

別紙(原審の保護処分決定)

主文

少年を中等少年院に送致する。

理由

秋田保護観察所長の通告の要旨は、本少年は保護観察中のものであるが、昭和三三年六月一日神奈川県横浜市○○区××町△△△△○○商店に就職せしめたところ、仕事の内容が約束と異るとの理由で、同三三年八月五日同店を飛び出し、血液銀行に行き、伊勢佐木署から横浜保護観察所に廻された。同観察所では財団法人○○会××授産所へ宿泊を委託し日雇に従事せしめたが、同三三年八月二九日同観察所へ「仕事が辛い友人と市内に下宿すると申出で、同三三年九月一六日本籍地に帰宅した。後日下宿先を調査したが該当地はなかつた。担当保護司は一ヶ月に三回乃至八回位徨訪して本人、実父と面談して指導したが、効果あがらず本人に勤労意欲なく、昼寝夜遊びに耽り、父が意見すると反抗乱暴するので、父も手を焼き二度と帰れぬ所へ収容して貰いたいと嘆き、近隣者、警察等も札付として相手にしなかつた。

本少年は「東京へ行けばどうにかなるから上京させてくれ、旅費と衣類を都合してくれ」としきりに申出でていたが、行先が明確でないために許可しなかつた。職業安定所に連絡しても上京は無理だつたので保護司が友人のT氏に依頼し、同三四年一月八日本少年を新聞販売所へ斡旋して貰つたが、不良のため解雇された。東京保護観察所でも日雇等に斡旋したが、仕事が辛いというて退職し徒食しているものであつて、成績は極めて不良である。上記のとおり本少年は保護者の正当な監督に服しない性癖があり又正当な理由がなく父との同居を嫌い家庭に寄り付かず、また特別遵守事項である辛抱強く真面目に働くこと、粗暴な行為をしないこと等にも違背しており、このままの状態において保護観察を実施しても本少年の更生を期することはほとんど期待しえないので本通告に及んだというにある。

よつて当庁家庭裁判所調査官瓜生武の調査の結果及び意見、秋田保護観察所長鈴木重夫の照会回答、東京保護観察所長島田善治の「保護観察中の者の行状について」なる報告書、東京少年鑑別所技官喜田史郎の精密鑑別結果通知、ならびに本少年の当審判廷における陳述等を綜合して判断すると、本少年は昭和三三年七月一九日秋田家庭裁判所大曲支部において脅迫保護事件により秋田保護観察所の保護観察に付されたものであるが、その観察成績の極めて不良であつて、上記通告に述べられているような不健全な生活を繰り返していることが認められる。本少年の鑑別結果では神経症ではないが、自己顕示性を主軸とする精神病的人格であつて、問診の場合でも、了解まことに悪く、病的自覚に乏しくつねに拒否的であり攻撃的である、病的な自覚があればこの程度の重い情意変調でも適当な治療処置を施すことによつて軽快して心的健康をとりもどさせることは期待出来るのであるが、本少年のようにその自覚に欠ける場合には相当長期間にわたる慎重な漸進的な治療、矯正教育を施す必要がある。以上の諸事情を綜合して判断すると、このままの状態に少年を放置することは本少年の要保護性を益々昂めるのみでその福祉上不適当と認めざるを得ない。よつて本少年を中等少年院に収容して矯正教育を施しその将来における健全な育成を図るべく犯罪者予防更生法第四二条、少年法第三条第一項第三号、少年法第二四条第一項第三号を適用して主文のとおり決定した。(昭和三四年三月九日東京家庭裁判所 裁判官 森口静一)

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