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東京高等裁判所 昭和34年(う)780号 判決 1959年6月29日

控訴人 被告人 君和田富土郎

弁護人 河和金作 外三名

検察官 子原一夫

主文

原判決を破棄する。

被告人を懲役六月及び罰金二、〇〇〇円に処する。

但し、三年間右懲役刑の執行を猶予する。

右罰金を完納することができないときは金二〇〇円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

原審の訴訟費用は全部被告人の負担とする。

理由

弁護人河和松雄同河和金作同大河内躬恒同市橋千鶴子の控訴理由は末尾添付の同人ら共同作成の控訴趣意書記載のとおりである。

一、同控訴理由第一点について。

原判示公務執行妨害の事実はこれに対応する原判決挙示の証拠によつて優にこれを認めることができるのである。もとより公務執行妨害罪の成立するがためには、公務員の職務執行が適法であることを要することは所論のとおりであるが、本件においては、被告人が原判示のように一時停車違反をしたので、これを現認した巡査楠有徳が被告人を停車させて職務質問をしようとしたのである。弁護人は右職務質問をするため実力行使をもつて停車を強制する権限はないというが、同巡査が被告人に対し警笛並びに手信号で停車を命ずると共に、被告人の操縦する軽自動四輪車の左側運転手席ドアを両手で掴んだというのであつて、右は停車させるための措置として、いささかも不相当なものであつたとはいえず、従つて該措置を目して違法であつたというべき筋合ではない。それ故に、同巡査の手を振り払おうとしたうえ、時速約二五粁位で進行をつづけ、同巡査を約一七五米の間、引きずる等の暴行を加えた被告人の所為は刑法第九五条第一項に該当する公務執行妨害罪をもつて論じなければならない。されば、これと同一の見解の下に原判示法条を適用して被告人の原判示第二の所為を処断した原判決には、所論のごとき法令適用の誤があつたとするわけにはいかない。従つて、論旨第一点は理由ないものとして排斥するの外はない。

(その他の判決理由は省略する。)

(裁判長判事 尾後貫荘太郎 判事 堀真道 判事 本田等)

弁護人河和松雄、同河和金作、同大河内躬恒、同市橋千鶴子の控訴趣意

第一点原審判決は法令適用の誤がありその誤が判決に影響を及ぼすことが明らかであるから破毀さるべきものであります。

原審判決はその事実摘示に於て「巡査楠有徳が前記一時停車違反を現認したので、警笛並びに手信号で停車を命ずると共に、前記軽自動四輪車の左側運転手席ドアを両手で掴んで制止して職務質問をしようとしたところ、被告人は同巡査の手を振り払おうとした上、自動車を進行し、引ずり、暴行を加え以て同巡査の職務執行を妨害し」と判示し以て公務執行妨害罪を適用したものである。しかし乍ら公務執行妨害罪に所謂公務員の職務執行行為は適法なることを要し、右適法なるがためにはその行為が抽象的権限に属するものなること、且つ具体的権限の存すること等が要求される。さて本件の事実関係を検討するに公務執行妨害の結果即ち公務員に対する暴行という要件事実を生起せしめた発端は楠巡査が有形力即ち実力行使を以て自動車の運転手席ドアを両手で掴んで強制的に制止せしめんとしたことにある。しかし乍ら警察官等職務執行法第二条によれば楠巡査は本件の場合判示に所謂停止させて職務質問をなすことは出来るが、実力行使をもつて停止を強制することは出来ないものと解すべきである。即ち実力行使を以て停止せしめることにつき具体的権限がないものと解すべきである。然らば本件に於ては暴行の結果は生起したとしても其の前提たる楠巡査の職務行為は憲法第三一条警察官等職務執行法第二条に違反するところの違法な行為であつて公務執行妨害罪の要件たる職務執行行為に該当せず従つて公務執行妨害罪は成立しないものであり原審判決はこの点に於て法令適用の誤りがありその誤りは判決に影響を及ぼすこと明らかであると信じます。

(その他の控訴趣意は省略する)

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