大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和33年(ラ)415号 決定 1958年9月03日

抗告人 飛田恒仁

相手方 山田秀二郎 外二名

主文

本件抗告はこれを棄却する。

理由

抗告の趣旨及び理由は別紙記載の通りである。

しかし原決定もいうように、白紙委任状が冒用せられたことを理由として登記が無効とせられる場合は、その無効を以て何時でも、また何人にも対抗し得るのであるから、この無効な登記の抹消または回復登記の請求権のため仮登記を認めるの要は毫もないものと解すベきである。(無効を以て善意の第三者に対抗し得ない場合には、仮登記によつて爾後の第三者の悪意を推定せしめる実益がないでもないかも知れないが、本件はこれにも当らない)。

抗告人は仮登記をしておけば、仮登記後の利害関係人は生じないか、または生じたとしてもかかる利害関係人には抹消回復登記の申請についての承諾またはこれに代る裁判を必要としないものと考えているかのようであるが、仮登記は登記義務者の行為を制限するものではないから仮登記後の利害関係人の発生を防ぎ得るものではなく、またかかる利害関係人が生じた限り、その承諾かまたこれに代るべき裁判はこれを必要とするものと解するの外はないのであるから、この意味においても抗告人主張のような仮登記の実益はついにこれを認めることはできないものである。

なお抗告人は、抹消登記の無効を以て何時でも何人にも対抗し得るとすれば、その無効を公示するためにする回復登記には利害関係人の承諾を必要とする理由はなく、登記義務者との間の判決だけで登記権利者単独で回復登記の申請をなし得べき筋合であると主張するが、その抹消登記が無効か否かは独り登記権利者と登記義務者との間だけでなく、利害関係人との間においてもこれを確定することを必要とするのであり(そうでなければ利害関係人は、登記権利者と登記義務者との合意-馴れ合い-による結果を免れ難いこととなろう)、この意味において、無効が何時でも何人にも対抗できる場合でも、なお利害関係人の承諾またはこれに代るべき裁判を必要とするものと解すべきである。

なお抹消登記の無効を第三者に警告するためには、登記回復の訴の提起があれば裁判所職権を以て予告登記をなすべきこととせられているのであり、(本件においてもその登記のせられていることは本件記録中の登記簿謄本に徴して明かである)、この意味においてもまた抗告人主張のような仮登記を認めるの要はないものである。

以上の通りであつて、原決定には何等の違法もこれを見出し難いので、本件抗告はその理由がないものと認め、主文の通り決定する。

(裁判官 薄根正男 村木達夫 山下朝一)

(別紙)

抗告の趣旨

原決定はこれを取消す

抗告人の申請は理由がある

との決定を求めます。

抗告の理由

抗告人が提出した仮登記仮処分命令の申請は該申請書に添付した昭和三一年(ワ)第三七四四号抵当権抹消登記回復事件の判決の今後の執行に備えるためのものであつて、登記の効力と登記手続との双方に関するものであるが、この申請に対しなされた却下決定の理由には無効である抹消登記の対抗力を明にしながら、その登記手続に言及しないで申請人に仮登記を経由する利益がないと断定されているので、登記法の法条並にその運用の実状に照し疑義を生じ(以下詳述)理由不備の憾なきを得ないのであります。

決定の理由に述べられているように、申請人は抹消登記の無効をもつて何日においても第三者に対して対抗しうるとすれば、抹消登記の無効を公示するためにする回復登記は、抵当権設定登記後における登記上の利害関係を有する第三者の有無に拘わることなく単に抹消登記の無効を証する判決を添付して登記権利者である申請人において単独にこれを申請しうべき筋合となるべきである。

登記法上かようの手続が可能であれば、決定理由の示す通り申請は無用であり申請人においても意を強うするところである。

然るに不動産登記法にはかゝる手続を認める条項なきのみならず、第六十五条において「抹消シタル登記ノ回復ヲ申請スル場合ニ於テ登記上利害ノ関係ヲ有スル第三者アルトキハ申請書ニ其ノ承諾書又ハ之ニ対抗スルコトヲ得ベキ裁判ノ謄本ヲ添付スルコトヲ要ス」との規定あるため地方法務局等の登記主管庁においては、回復登記の申請に添付した判決に覊束されない――即ち判決の既判力の及ばない登記上の利害関係を有する第三者ある場合(承継人として既判力の及ぶ場合は格別)には、さらにその者の承諾書又は裁判の謄本を添えなければ回復登記の申請を受理しないのである。これは専ら形式に則り法文の規定を厳守せしめる登記制度から生ずる当然の帰結であると認めざるをえないのであります。

言う迄もなく抗告人が右述の判決を求めた所以のものは抹消登記の回復登記によつて第二順位抵当権者としての地位を公示し第三者に対抗して自らの有する抵当権を確保しようとするにあるから、早晩右判決の確定を見、その執行をなさんとするに際し、この判決に覊束されない第三取得者乃至抵当権者の登記あるときは、之に対する新な裁判を求めない限り回復登記の実現は阻止せらるゝこととなる。再三これを繰返すにおいては徒に時日を費やしよつて受ける損害も容易ならぬものがあろう。却下の論旨からすれば回復登記を経由するまでもなく無効をもつて如上の第三者に対抗しうる理であるが、かゝる事態が無用の紛争を誘発する虞多きは見易きところである。

仮登記は爾後同一物件につき登記上の利害関係を有するに至つた第三者に対抗しうるため本登記の経由を簡単にし申請人の抵当権の確保に資しうるとともに事端の発生を抑制する効果をもたらす。

以上縷述した事由により仮登記仮処分に関し申請した次第でありまして、この申請は申請人において仮登記の経由を利益とする理由を具え且その手続は登記法第三十二条の規定に基き現に認められておるところであるので却下の決定を取消され申請を受理せられむことを要望致します。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例