大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和33年(ネ)585号 判決 1958年6月13日

控訴人 岡本幸子 外一名

被控訴人 川島嘉十郎 外二名

主文

原判決を取り消す。

控訴人岡本に対し、被控訴人川島は別紙目録(一)の建物の北側の一戸から、被控訴人三浦は同建物の南側の一戸から、それぞれ退去してその敷地である土地を明け渡せ。

控訴人芝田に対し被控訴人翠川は別紙目録(二)の建物の西側の一戸から退去してその敷地である土地を明け渡せ。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。この判決は控訴人らが被控訴人らに対し各金三万円の担保を供するときは、被控訴人らに対し、それぞれ仮りに執行することができる。

事実

控訴代理人は主文第一ないし第四項同旨の判決を求め、被控訴代理人は適式の呼出を受けたのに、当審における最初の口頭弁論期日に出頭しないので、その提出した答弁書を陳述したものとみなすべく、これによれば、被控訴代理人は、控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張並びに立証は、原判決の事実摘示と同一であるので、こゝにこれを引用する。

理由

別紙目録(一)の建物の敷地四十七坪八合八勺の土地が控訴人岡本の所有であり、同目録(二)の建物の敷地六十二坪三合八勺の土地が控訴人芝田の所有であること及び右土地の上に右建物が存在し、被控訴人川島が右(一)の建物の北側の一戸に、被控訴人三浦が同建物の南側の一戸に、被控訴人翠川が右(二)の建物の西側の一戸に、それぞれ居住し、現にその建物の敷地である右土地の一部をそれぞれ占有していることは、当事者間に争のないところである。

よつて、被控訴人らの主張の当否につき案ずるに、控訴人らが右土地を訴外須崎順平に賃貸し、同人がその地上に右建物を所有し、これを前記のように被控訴人らに賃貸していることは当事者間に争のないところであるが、昭和二十九年六月十一日立川簡易裁判所において控訴人らと右訴外人との間に調停が成立し、右賃貸借契約を合意解除し、右訴外人が、控訴人に対し右土地を昭和三十一年六月末日限り、地上物件を収去して明け渡すことを約定したことはは、当事者間に争がないので、控訴人らと右訴外人との間の右土地の賃貸借契約は右合意解除によつて終了したものであるので、も早被控訴人らは右訴外人に賃借権のあることを主張して控訴人らの明け渡しの請求を拒むことができないものである。思うに、控訴人らと右訴外人との間に右土地について賃貸借契約の存する限り、控訴人らは右土地を右訴外人に使用収益せしめる義務を負い、その反面自らこれを使用することのできないものであつて、右訴外人から適法に使用を許されている被控訴人らに対し明け渡しを求め得ないものというべきであるが、右土地の賃貸借が終了したときは、控訴人らは右土地を自ら使用、収益し得るのであつて、これがため被控訴人らに対し明け渡しを求め得ることは当然である。

被控訴人らは、前記賃貸借の合意解除は、少くとも被控訴人らに対する関係においてはその効力を生じないと主張するが、賃貸人が転貸借を承諾した場合においては、賃貸人は賃借人に対し転貸することを許容するとともに、転借人に対し賃貸物件の使用を認容するものであるから、転借人は賃貸人に対しても自己の権利を主張し得る関係に立つのであり、これがため賃貸人と賃借人との間になされた合意解除によつて当然転借人の有する権利を終了せしめることが信義の原則に反する場合があり、かような場合には右合意解除が転借人に対する関係においてはその効力を生じないものとなすことが法の精神に適合するものであることを否定しえないのであるが、控訴人らと被控訴人らとの間には何らの法律関係もなく、控訴人らと被控訴人らとの関係においては、控訴人らは訴外須崎順平が前記建物を建築しこれを第三者に賃貸しその者において右土地を使用することあるを予想し得たとしても、その使用関係は右土地の賃貸借の適法に存する範囲に限られるのであつて、これを逸脱してもなお使用を許容する意思があつたものとは到底予想することができないところであり、また土地の賃貸人にこのような使用を認容すべき義務があるものと解することが、土地の賃貸借の要求する信義の原則に適合するものとは到底考えられないので、前記合意解除によつて被控訴人らが前記土地の使用ができなくなることは当然のことというのほかなく、被控訴人らのこの点に関する主張を採用することはできない。次に、被控訴人らは前記調停が無効であると主張し、原審証人須崎順平の証言(第一ないし第三回)中には、これに副う供述があるが、この供述のみで調停が無効となる事情を認めるに足りず、他にこれを認める証拠がないので、この点の主張は採用し難い。他に、被控訴人らが前記土地を占有する権原につき格別の主張立証のない本件においては、被控訴人らは前記建物から退去してその敷地を控訴人らに明け渡す義務のあるものである。なお、被控訴人らは控訴人らの右土地の明け渡しの請求は権利濫用であると主張するが、権利濫用を判断するに足る事情を認めるに足る証拠がないので、被控訴人らのこの点の主張も採用し難い。

然らば、控訴人らの請求は正当として認容すべきであるので、これと異る原判決を取り消し、控訴人らの請求を認容し、訴訟費用につき民事訴訟法第八十九条第九十三条第九十六条仮執行の宣言につき同法第百九十六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 岡咲恕一 田中盈 脇屋寿夫)

目録

一、立川市曙町二丁目一七九番地所在

一、家屋番号甲一二四五番

木造亜鉛メツキ鋼板葺平家建居宅 一棟

建坪一七坪五合(建坪は公簿上)

二、同所同番地の二所在

一、家屋番号甲九九三番

木造亜鉛メツキ鋼板葺平家建居宅 一棟

建坪一〇坪(建坪は公簿上)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例