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東京高等裁判所 昭和32年(行ナ)4号 判決 1957年7月25日

原告 折鶴製菓株式会社

被告 特許庁長官

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は、原告の負担とする。

事実

第一請求の趣旨

原告訴訟代理人は、「昭和二十九年抗告審判第一、五三七号事件について、特許庁が昭和三十一年十二月四日にした審決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求めると申し立てた。

第二請求の原因

原告代理人は、請求の原因として、次のように述べた。

一、原告は昭和二十八年五月二十日別紙目録記載の商標について、第四十三類菓子及びパンの類を指定商品として、その登録を出願したところ(昭和二十八年商標登録願第一二九六六号事件)、拒絶査定を受けたので、昭和二十九年八月十一日右査定に対し抗告審判を請求したが(昭和二十九年抗告審判第一五三七号事件)、特許庁は、昭和三十一年十二月四日原告の抗告審判請求は成り立たない旨の審決をなし、その謄本は同月二十日原告に送達された。

原告の出願にかかる右商標は、別紙記載のように、「折鶴製菓」の文字を楷書体で縦書にして構成されておるものであるが、審決は、別紙記載の登録第四四四四一〇号商標を引用して、原告の商標は、これと類似し、その指定商品もまた同一または類似のものであるから、商標法第二条第一項第九号に該当し、登録することができないものとした。

二、しかしながら右審決は、次の理由によつて違法であつて、取り消されるべきものである。

(一)  原告の商標は、別紙目録に示すとおり、「折鶴製菓」の四文字の結合体からなるものであるから、これからは「オリヅルセイカ」の称呼を生じ、かつ原告会社「折鶴製菓株式会社」の観念を生ずることは、極めて自然の理である。審決は、右「折鶴製菓」の四文字中「製菓」の文字は、商品菓子の営業者が、自己の製造にかゝる商品であることを表示するために普通に使用するところのものであるから、「折鶴製菓」からは、単に「オリヅル」の称呼、観念をも生ずるものといわなければならないといつているがこのような見方は不自然であり、穏当でない。「折鶴製菓」は、原告の略称として周知されており、「折鶴」と「製菓」とは不可分関係にある特殊事情がある。このことはあたかも、鳩山一郎と清瀬一郎とが、「一郎」は一致しても、全体として截然区別されるのと同様である、「折鶴製菓」は固有名詞であるから、これを単に「折鶴」と称呼しただけでは、最早原告を観念せず、普通の紙で折り畳んだ「折鶴」を観念するにすぎない。審決がこの点についての特殊事情を軽視又は黙過して、引用商標と比較したことは失当である。

(二)  引用登録商標は、別紙目録に示すように「折り鶴」の図形と、「防長」の文字とを、「長方形輪廓」で、直接的に、不可分関係に結合させた特殊事情の下にあり、しかも上記図形と文字とはその顕著性において軽重の差が認められず、その結合体に対して一つの商標権が認められたのであるから、その一方を除いた部分にのみ要点があるとする見方はこれまた不当である(大審院昭和三年(オ)第四四九号判決同年七月九日言渡、同昭和七年(オ)第二二九二号判決昭和八年五月二十九日言渡、同昭和十三年(オ)第二五二号判決昭和十五年十二月二十八日言渡、昭和七年(オ)第一九二四号判決昭和八年五月二十九日言渡、同昭和十年(オ)第二二二九号判決昭和十二年三月十三日言渡、同昭和六年(オ)第五五〇号判決同年十一月六日言渡参照)。

(三)  原告の本件商標は、「折鶴製菓」の四文字の不可欠な一体にありとみることが適正であり、引用登録商標が、「折り鶴」の図形と「防長」の文字との結合体にありとみることが適正である以上、前者の称呼は「オリヅルセイカ」、その観念は「折鶴製菓株式会社」であり、後者の称呼は「オリヅルボウチヨウ」、その観念は「折り鶴の図形」と「防長」との合体であるから、両者はその称呼並びに観念において非類似といわなければならない。審決が、両者は称呼及び観念において共通するところがあるから、類似の商標たるを免れないとしたことは、結局両商標の見方を誤り、この誤つた見方を前提とした結果に外ならない。

(四)  審決は、原告が本件商標の周知性を立証するために提出した証明書(甲第一号証から第二十二号証まで)は、単に大阪地方において周知せられていることを証明するもので、これを以て商標法施行地域内において、引用登録商標と混淆を生ずる虞がないことを認めることができないとしているが、大阪は東京に次ぐ大都市で、この地方に周知された商品特に本件商標の指定商品である菓子類は、たちまち全国に広まる傾向がある。してみれば大阪地方で周知になれば、少なくとも引例登録商標の権利者の住所地、山口市地方では急速に知られるようになることは容易に首肯される。すなわち大阪地方での周知性は、少くとも引例商標の使用地山口市地方に及ぶとみて一向差支えないことであるから、審決はこの点からも失当である。

更に原告は当審において、原告の本件商標が全国的に周知されていることを立証するものである(甲第二十五号以下第百三十五号証まで参照)。

(五)  なお被告代理人は、周知の称号又は略号であつても取引上省略され易いものであることは常識上当然のことであるとして、「森永製菓株式会社」又は「明治製菓株式会社」の製造にかゝる菓子が、「森永」又は「明治」の菓子として取引されるといつているが、原告は「折鶴製菓」の採択理由は、原告の商号の略称であるが、この商号の略称が周知であるというのではなく、菓子類に対する「折鶴製菓」の商標が周知であると主張しているので、被告の主張は、原告の主張を正しく理解していないものである。「森永」の菓子、「明治」の菓子が周知であるのは、称号が周知のためではなく、両社が菓子に対して有する多数の登録商標「森永」又は「明治」を多年にわたつて宣伝広告して周知としたためである。

商号が色々に略称されることは普通であるが、その略称が一定化して周知商標となつた場合は、この一定化したものをみだりに変更することは許されない。

原告の本件商標「折鶴製菓」は、原告の商号の略称であるが、この略称は菓子類に対する原告の商標として取引者需要者間に周知せられ、この商標を見れば、即座に原告を直感する位著名となつているものであるから、これを単に「折鶴」と変更することは許されないし、仮りにこのように変更すれば、最早原告を自然に想起観念することはできない。これは永年使用による周知性強化に起因するものであるが、斯様な事例は、普通の判断で解決せられるべきものではない。本件商標「折鶴製菓」に対し、普通の判断では、被告代理人のいうとおり、「製菓」の文字を除外することもできるかも知れないが、本件商標は、右に述べた特殊事例に属するものであるから、普通の判断では適正を失うことになるものである。

第三被告の答弁

被告指定代理人は、主文同旨の判決を求め、原告主張の請求原因に対し、次のように答えた。

一、原告主張の請求原因一の事実は、これを認める。

二、同二の主張は、これを否認する。

(一)  原告の商標「折鶴製菓」における「製菓」文字は、菓子の製造業者が出所を表示するために普通に使用する用語であるから、たとい周知の称号又は略称であつても、取引上省略して呼称され易いものであることは常識上当然のことであつて、例えば「森永製菓株式会社」又は「明治製菓株式会社」の製造に係る菓子は、「森永」の菓子、「明治」の菓子として取引されていることは何人も否定し得ないところである。すなわち称号が周知されていることゝ、商標の一部が取引上省略されて呼称せられることゝは、何の関係もないところである。

(二)  引用の登録商標は、その図形と文字とが観念的にも、構成においても、直接に関連しているものではないから、審決は、その図形から「オリヅル」の称呼、観念も生ずると認めたものであつて、他に「オリヅルボウチヨウ」又は「ボウチヨウ」の称呼観念が生ずることを否定するものではなく、また引用の判決例も本件の場合には必ずしも妥当ではない。

(三)  本件商標の指定商品たる菓子及びパンの類は、特殊のものを除いては、本来その性質上極めて販路の狭いものであつて、かつ大阪地方が菓子又はパンの全国的集散地でないから、本件出願商標に関する限り大阪地方で周知された商品は、たちまち全国に広まる傾向があるとする原告の主張は誤りである。また引用登録商標の登録名義人の住所地如何は、本件出願商標が商標法第二条第一項第九号に該当するか否かの判断には何等の関係のないことである。何となれば、引用登録商標もまた商標法施行地域の全部にその効力を有し、かつ他の住所地を有する者に移転せられることもあり得るところであるからである。

第四(証拠省略)

理由

一、原告主張の請求原因一の事実は、各当事者間に争がない。

二、その成立に争のない甲第二十三号証及び乙第一号証の一、二によれば、原告の本件出願にかゝる商標は、別紙記載のように、「折鶴製菓」の文字を楷書体で縦書にして構成され、また審決が引用した登録第四四四四一〇号商標は、縦長の長方形の輪廓のうちに、上部に折鶴の図形を、下部に、「防長」の文字を外廓のみで縦書にして構成されており、ともに第四十三類菓子及びパンの類を指定商品としているものであることが認められる。

右両商標の構成は、前述のとおりであるから、その外観において類似するものでないことはいうをまたない。

三、次に両商標が、その称呼及び観念において類似するかどうかを判断するに、原告の商標は、右のように「折鶴製菓」の文字で構成され、これが採択の理由は、菓子の製造販売を業とする原告会社の商号「折鶴製菓株式会社」に由来するものであることは、弁論の全趣旨に徴し明白なところであるから、右商標が「オリヅルセイカ」の称呼を有し、また直ちに原告会社の製造販売にかゝる菓子を想起せしむるものであることは疑を容れない。しかしながら、右商標を構成する「製菓」の文字は、原告会社のように、菓子類の製造販売を業とする会社等において、その営業内容を示すために、商号の一部として極めて普通に使用される文字であつて、これによつて原告会社を特に他の同種会社と区別する標準となるものではないから、この文字を含む商標を、その指定商品である菓子及びパンの類に使用しても、それら商品を購入する人々のうちには、右「製菓」の部分には格別の注意を払わず、もつぱら他の部分、すなわち本件商標にあつては、「折鶴」の部分によつて、この商標を使用した商品を、他と区別して記憶し、これを「オリヅル」の名称を以て指称する者が、決して少なくないと解せられる。

原告代理人は、原告の本件商標は、「折鶴製菓」の全体が不可分一体となつて称呼、観念せられ、これを単に「折鶴」と称呼しただけでは最早原告を観念せず、また、右商標は、菓子類の取引者需要者間に周知せられ、この商標を見れば、即座に原告を直感する位著名となつていると主張する。しかしながらその提出にかゝる全証拠によつても、先に認定したように、右商標が「オリヅルセイカ」の称呼を有し、また直ちに原告会社の製造販売にかゝる菓子を想起せしむるものであることは認められるが、更に進んで、右商標を使用した商品が、ここに認定するように、「折鶴」の部分によつて区別記憶され、これを「オリヅル」と称呼する者が決して少なくないとの事実を否定するものとは認められない。

なおある標章が、取引者又は需要者の間に広く認識されていることは、これを看過して、同一又は類似の商品について登録された同一又は類似の商標に関し、その登録無効審判請求の事由とはなるであろうが、右登録商標が有効に存在する以上、これを引いて右標章についてなされた商標登録の出願を拒絶することの妨げとなるものでないことはいうまでもない。

一方引用の登録商標は、もとより他の称呼、観念を生ずることを否定するものではないが、その構成上顕著に表示されている折鶴の図形よりして、これが「オリヅル」の称呼を以て呼ばれ、これによつて記憶されることも、極めて自然であると解せられる。

原告代理人は、引用登録商標にあつては、右「折鶴」の図形と、その下に記載された「防長」の文字とは、「長方形輪廓」によつて直接、不可分関係に結合しているから、その一方のみを要点となすべきでないと主張するが、右の輪廓が、そのような強い意味を有するものとは解されず、その他右図形と文字とが不可分の一体としてのみ称呼され、観念されるとの事実を認むべき証拠は全くない。原告の引用する大審院判例も、当裁判所のなした前記認定を、妨げるものではない。

四、してみれば、原告の登録出願にかゝる本件商標は、審決が引用した登録商標と類似し、その指定商品は同一であるから、商標法第二条第一項第九号により、登録することができないものというの外なく、これと同一の趣旨に出でた審決には、原告の主張するような違法はないものといわなければならない。

よつて原告の本訴請求を棄却し、訴訟費用の負担について、民事訴訟法第八十九条を適用して、主文のように判決した。

(裁判官 内田護文 原増司 高井常太郎)

本件出願商標<省略>

引用の登録第444410号商標<省略>

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