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東京高等裁判所 昭和32年(ネ)738号 判決 1958年6月11日

控訴人(本訴被告反訴原告) 鈴木剛

被控訴人(本訴原告反訴被告) 望月九一

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、「原判決を取消す。被控訴人の請求を棄却する。別紙目録記載の家屋中本件三室について、控訴人を借主、被控訴人を貸主、賃料は地代家賃統制令に基く統制価額とし期間の定めなき賃貸借契約の存することを確認する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」旨の判決を求め、被控訴代理人は、控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上並びに法律上の主張は、被控訴代理人において、本件において、本訴は占有回収の訴であるから、防禦方法として本権に関する主張をなしえないので、本権たる賃借権の確認を求める反訴も許されない。と述べ、控訴代理人において、占有の訴は本権に関する理由で裁判することができないだけであつて、請求が事実上関連し、民事訴訟法第二三九条の要件をそなえる本件反訴は適法である。と述べたほか、原判決事実欄記載のとおりであるので、これを引用する。

証拠関係は、控訴代理人が、控訴人本人尋問の結果を引用したほか、原判決記載のとおりである。

理由

一、本訴について、

成立に争のない甲第三ないし第六号証原審における証人新宮賢蔵、上床将の各証言を綜合すると、被控訴人が東京地方裁判所所属執行吏に委任して、訴外片木益太郎の居住する別紙目録記載の三室に対し、同庁昭和二四年(ワ)第五、六六六号家屋明渡等請求事件の執行力ある和解調書に基き、明渡の強制執行をなし、昭和二八年一〇月一二日、執行を完了して即時被控訴人に引渡した結果被控訴人はこれを占有するに至つたところ、執行吏が立去ると直ちに、控訴人は、その長男外一名とともに、被控訴人及び右執行のため居合わせた弁護士新宮賢蔵の制止もきかず、殊に新宮弁護士を突き倒す等の暴力を振つて右三室に動産を搬入した事実が認められ、なほ控訴人がこの三室に鍵を施し、硝子戸に法律の規定により当室に対し何人も使用侵入してはならない旨の貼紙をしたことは控訴人の認めるところである。この事実を以てすれば控訴人は右三室に対する被控訴人の占有を奪つたものと判定せられる。以上の認定に反する控訴人の当審での供述は信用しない。

控訴人は、片木の明渡した室に被控訴人が入居することは、新賃借人を協議の上決定する旨の和解契約の趣旨に反するから、被控訴人の入居を拒否できると主張し、又控訴人は賃借権を有すると主張するが、これ等の抗弁は、いずれも本権に基くもので、占有の訴である本訴では認容できないものである。

二、反訴について、

被控訴人は、防禦方法として本権に基く反訴は許されないと主張するが、反訴は独立の請求であつて防禦方法ではない。占有の訴と本権の訴とは、本質的にその基礎を異にし目的を別にするので、占有の訴を裁判するに当つては、本権に関する理由によることができないだけであつて、併合が禁じられるわけでもないから、占有の訴に対して起された本権に関する反訴もそれだけで不適法と云うことはできない。よつて控訴人の反訴請求について以下に判断する。

控訴人が本件建物を被控訴人から賃借してゐたこと、その明渡訴訟において被控訴人の主張する和解が成立したことは争のない事実である。成立に争のない甲第二号証によれば、控訴人が被控訴人のために、訴外片木益太郎外数名に対する賃料を取立てゝ被控訴人方へ持参支払う旨の約定が右和解約款の第五項において定められてあることが認められる。控訴人はこの取立方につき被控訴人が協力しないことを原因として和解を解除し、従つて和解以前の賃貸借が復活したと主張するのである。しかしながら控訴人が右約款により賃料取立をするについて、被控訴人は如何なる協力義務を負いそれが如何なる形態で履行せられなかつたかについて控訴人は何等の主張もせず、又これに関し被控訴人側に債務不履行があつたことを認めるに足る何の証拠もない。控訴本人の供述は信用しない。故に控訴人の解除の主張は全く根拠がない。

三、以上判示の如く被控訴人の本件三室の明渡を求める本訴請求は正当であり、この部分につき賃借権の確認を求める控訴人の反訴は理由がないので、民事訴訟法第三八四条第九五条第八九条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 角村克已 菊池庚子三 土肥原光圀)

目録

東京都杉並区高円寺三丁目二九八番地所在

家屋番号 同町八九八番

一、木造瓦葺二階建住家 一棟

建坪 四二・二五坪

二階 二四・二五坪

の内階下左図斜線部分の三室

図<省略>

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