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東京高等裁判所 昭和31年(ネ)1084号 判決 1957年7月17日

東京都港区芝愛宕町二丁目一〇三番地

控訴人

芝税務署長

右指定代理人

河津圭一

那須輝雄

国吉良雄

副島文造

関口実

東京都港区芝新橋二丁目二番地

被控訴人

日本コロイド工業株式会社

右代表者代表取締役

田中謹治郎

右訴訟代理人弁護士

渡辺靖一

右当事者間の法人税課税処分取消請求控訴事件について次のとおり判決する。

主文

原判決を取り消す。

被控訴人の請求を棄却する。

訴訟費用は第一・二審とも被控訴人の負担とする。

事実

控訴人指定代理人は、主文と同旨の判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張は、原判決の事実摘示と同一であるから、これを引用する。

証拠として、被控訴代理人は、甲第一号証の一ないし四、第四号証の一、二、第五号証(甲第二、三号証は欠号)を提出し、原審証人川崎勝治、原審並びに当審証人越塚正造、当審証人吉田和夫の各証言を援用し、乙第一、四号証の成立を認め、乙第二、三号証の成立については不知をもつて答え、控訴人指定代理人は、乙第一ないし四号証を提出し、原審証人岡村芳子、深本三郎、当審証人吉田和夫、平野毅、伊藤一衛(第一、二回)川崎勝治、糸武二の各証言を援用し、甲第四号証の一、二の成立を認め、甲第一号証の一ないし四、第五号証の各成立について不知をもつて答えた。

理由

一、被控訴会社が控訴人から法人税法第二五条により青色申告書をもつて確定申告をすることの承認を得たものであること、被控訴会社が昭和二十五年十月一日から昭和二十六年三月三十一日に至る第七期事業年度の決算の結果、課税所得がない旨の確定申告を青色申告によつて控訴人に対しなしたこと、控訴人はこれに対し所得金額を百七万八千三百円、法人税額を三十七万七千四百円に各更正し、かつ加算税九万四千二百五十円を課する旨の処分をなし、昭和二十七年六月三〇日附でその旨を被控訴会社に通知したこと、及び被控訴会社が東京国税局長に対し審査の請求をなし、同局長は右請求を棄却して被控訴会社に対し昭和二十九年四月一日その旨通知したことはいずれも当事者間に争がない。

二、被控訴人は控訴人のなした前記課税処分は被控訴会社の所得の認定を誤つた違法があると主張するので考えるに、被控訴会社の第七期事業年度における決算の結果利益金二百八十一万六千九百九十五円を生じたこと、及び被控訴会社の昭和二十四年十月一日から昭和二十五年三月三十一日に至る第五期事業年度においては金百七十三万八千六百二十六円の繰越欠損金を生じ、その旨の確定申告書を控訴人に提出したことは、被控訴人の明らかに争わないところであるが、右二事業年度の中間にあたる第六期事業年度(昭和二五年四月一日から同年九月三〇日に至る)について被控訴会社から青色申告書の提出がなされたかどうかについて、当事者間に争があるので、次にこの点について検討する。

三、成立に争のない乙第一号証、原審証人岡村芳子、深本三郎、当審証人平野毅、伊藤一衛(第一、二回)、糸武二の各証言を綜合すれば次のとおり認めることができる。

芝税務署では総務課受付係の窓口で申告書類を受付けることになつており、そこの受付箱に入れられた書類は法人税、間税、総務の各係の所管別に分類された上それぞれの係に送られるのであるが、法人税の申告に関する書類は法人税係に廻されてから東京国税局調査課所管の資本金二百万円以上または所得金額三百万円以上の法人の分とそれ以外の法人の分とに分類され、各別に法人税申告書収受簿に記入されるものであるところ、昭和二十四、二十五年度調査課所管分法人税申告書収受簿(乙第一号証)には、被控訴会社の第五期事業年度分の申告書は昭和二十五年七月二十二日収受されて収受簿に記載されているが、第六期事業年度分の申告書の収受に関する記載は右収受簿には全く存しないこと、昭和二十六年七月頃東京国税局調査課勤務の平野毅が被控訴会社に第六期事業年度の法人税の調査に赴き、その申告がなされていないから、早急に申告書を提出するよう勧告したが、その際、被控訴会社社員が申告書を提出した筈だといいながら、平野毅の請求に対しその申告書の控の交付をせず、単に第六期決算報告書(甲第四号証の二と同一形式のもの)を見せ、その一部を交付したに過ぎなかつたこと、及び昭和二十八年六月十日東京国税局協議団本部に勤務していた伊藤一衛が、被控訴会社の第七期事業年度の法人税の審査請求についての調査のため被控訴会社に赴いた際、その前の事業年度即ち第六期事業年度の法人税の申告書が提出されているかどうかをも調査する必要があり、社長田中謹治郎及び経理担当者に対し、右第六期事業年度の申告書の控を見せて貰いたいと申し出でたが、会社が移転して書類が散在しているため見つからないとて、右申告書の控の提出を受けることができなかつたところ、その後同年同月十五日税理士越塚正造が国税局協議団本部に出頭し、伊藤一衛に対し、「被控訴会社の第六期事業年度法人税の申告書の控が見当らなかつたから、関係書類をみて作成して来た」と言つて、第六期事業年度の法人税申告書と題する書面及び同事業年度の決算報告書(甲第四号証の一、二)を持参したこと。以上のとおり認められるのであつて、右事実から考えれば、被控訴人が第六期事業年度の法人税について青色申告をしたことは、いまだこれを確かめることができない。尤も、原審証人川崎勝治は、当時被控訴会社に勤務し、経理会計の事務を担当していたが、昭和二十六年三月末日同人が被控訴会社を辞職するまで一回だけ青色申告書を提出したことがあり、それは第六期事業年度終了の日から二ヵ月の申告期間の経過したころ、すなわち、昭和二十五年十二月ころに芝税務署に持参し、窓口の受付箱に入れて提出し、その旨同月中旬ころ被控訴会社の顧問をしていた税理士越塚正造に報告した旨証言していながら、同証人は当審においては、「私は被控訴会社に勤務中二、三度芝税務署に、越塚税理士からたのまれて、封筒に入つたものを持つて行つたことがあるが、それが青色申告書であるかどうかについて記憶がないし、自分は青色申告書を作成したことはない。」旨供述している点から考えて、同人が第六期事業年度の法人税の青色申告書を提出したとか、また右提出の旨を越塚税理士に報告したとの原審における証言はたやすく信用することができないし、また原審並びに当審証人越塚正造の証言中、同証人が本件第六期事業年度の法人税申告書を川崎勝治に浄書させた上同人をして税務署に提出させ、且つ同人からその提出の事実の報告を受けたとの部分もにわかに信用することができない。なお、右証人越塚正造の証言のうちさきに認定したところと相反する部分は他の証拠と対比して措信できないし、被控訴人の提出援用にかかるその他の証拠によつても、被控訴会社が第六期事業年度の青色申告書を提出した事実を認めるに足りない。

四、右の如く、第六期事業年度について青色申告書提出の事実の認められない以上、昭和二十五年四月一日施行された同年法律第七二号による改正法人税法第九条第五項の規定により、同事業年度の繰越欠損金は、第七期事業年度の所得の計算上損金に算入されないのであるから、控訴人が被控訴会社の第七期事業年度の所得の計算において、昭和二十五年法律第七二号附則第一三項及び同法による改正前の法人税法第九条第四項の規定により、第五期事業年度の繰越欠損金百七十三万八千六百二十六円のみを損金に算入し、第七期事業年度の利益金二百八十一万六千九百九十五円から右欠損金を差し引いた金百七万八千三百円を課税所得と算定して更正処分をなしたのは正当というべく、これに伴つて法人税額を金三十七万七千四百円と更正し、かつ加算税(その過少申告加算税であるか無申告加算税であるかについて、当事者双方の主張が異なつているが、前認定の事実関係によれば、控訴人主張の如く、法人税法第四四条、第四三条第二項第二号による無申告加算税と認める。)金九万四千二百五十円の賦課処分をしたのは何ら違法がないものといわなければならない。

五、従つて、本件課税処分の取消を求める被控訴人の本訴請求は理由がないから棄却すべきである。従つて本訴請求を認容した原判決はこれを取消すべく、本件控訴は理由があるから、行政事件訴訟特例法第一条、民事訴訟法第三八六条、第九六条、第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長判事 角村克已 判事 菊池庚子三 判事 吉田豊)

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