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東京高等裁判所 昭和31年(う)1115号 判決 1956年7月20日

控訴人 原審検察官 小野田潔

被告人 平塚国彦

検察官 長谷多郎

主文

原判決を破棄する。

本件を平塚簡易裁判所に差し戻す。

理由

本件控訴の趣意は、副検事小野田潔作成の控訴趣意書のとおりであるから、これを引用し、これに対し当裁判所は、次のように判断する。

刑事訴訟法第三百七十八条第一号にいわゆる不法に管轄を認めたというのは、その裁判所に本来裁判管轄権がないのに不法に管轄を認めた場合をいうのであり、本件起訴に係る刑法第二百三十五条の窃盗罪及び選択刑として罰金が定められている刑法第二百四条の傷害罪については、いずれも簡易裁判所が第一審としての裁判管轄権を有することは裁判所法第三十三条第一項第二号の規定によつて明らかであるから、原審が右両罪について裁判したことを以て不法に管轄を認めたという論旨は理由がないが、簡易裁判所は、その管轄権ある事件についても同条第二項但書の場合を除いては禁錮以上の刑を科することができないのであつて、若し禁錮以上の刑を科するのを相当と認めるときは、刑事訴訟法第三百三十二条の規定に従い事件を管轄地方裁判所に移送しなければならないのである。然るに原審が裁判所法第三十三条第二項但書に掲げられていない傷害罪と、これに掲げられている窃盗罪とが併合罪の関係にあるものとし、傷害罪については懲役の刑を科するのを相当と認めながら、本件を管轄地方裁判所に移送しないで、自らその犯情重い窃盗罪の刑に法定の加重をして被告人に懲役の刑を言い渡したのは、訴訟手続が法令に違反したものでその誤が判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、論旨は結局理由がある。

よつて刑事訴訟法第三百九十七条第三百七十九条により原判決を破棄し、同法第四百条本文に従い本件を原裁判所に差し戻すこととし主文のとおり判決する。

(裁判長判事 大塚今比古 判事 渡辺辰吉 判事 江碕太郎)

検察官の控訴趣意

第一、原審判決には不法に管轄を認めた誤があるから到底破棄を免れないものと思料する。即ち原審は、

一、被告人は昭和三十年十月十七日午後三時頃平塚市平塚二千三百二十六番地先道路上に於て、熊沢富士夫(当三十四年)と須藤昇九郎(当四十四年)とが立話をしていた際、被告人は友人の鈴木信雄(当十七年)外二名と共に偶々同所を通り蒐り、被告人は須藤昇九郎に「たばこをくれ」と云い、同人からたばこ二本を貰い受けた後熊沢富士夫の所持していた自転車を蹴りながら「このボロ自転車がなんだ」と云うと鈴木信雄等三名が交互に「てめえ、やきを入れてやる」と申したので、須藤昇九郎が「そんなことを云うものでない」と制止したところ、被告人は矢庭に手拳を以て熊沢富士夫の頭部、顔面等を数回殴り付けた後、被告人と鈴木信雄は互いに意思連絡の下に、其の場で交々手拳を以て熊沢富士夫の顔面その他を数回殴り、熊沢富士夫が同番地石垣方に逃げ込んだのを右両名はこれを追跡して同所に於て被告人は更に手拳を以て同人の頭部その他を殴打し、又は土足を以て蹴る等の暴行を加え、仍つて同人に前頭部挫創、下口唇血腫による全治約十日間を要する傷害を負わせ

二、被告人は堀田隆徳(当十七年)と共謀の上、昭和三十年十二月十二日午後九時頃平塚市新宿千五百十八番地第一モナコ遊技場前道路に置いてあつた曽我順三所有の丸石号自転車一台時価一万五千円相当を窃取したものであるとの事実を認定して第一の傷害の所為について刑法第二百四条、第六十条、罰金等臨時措置法第二条第三条第一項第一号(懲役刑選択)を、又第二の窃盗の所為について刑法第二百三十五条、第六十条を各適用し尚同法第四十五条前段、第四十七条本文、第十条、第二十五条第一項等を適用して被告人を懲役一年に処し、四年間右刑の執行を猶予する旨の判決を言渡したのである。

そもそも刑法第二百四条、同法第二百三十五条にあたる事件が地方裁判所の管轄に属するとともに、簡易裁判所の管轄に属することは、裁判所法第二十四条第一号、第三十三条第一項第二号によつて明らかである。そして同法第三十三条第二項は、簡易裁判所は、禁錮以上の刑を科することができない。但しこれこれの事件においては、三年以下の懲役を科することができる旨を定めているのであつて、直接的には簡易裁判所が科することのできる刑の種類または範囲の制限、すなわち科刑の制限に関する規定であること明白であるが、同規定は右のように簡易裁判所における科刑を制限すると同時に同条第一項第三項、刑事訴訟法第三百三十二条等との関連において間接的には右の制限を超える科刑を相当と認める事件については、これを簡易裁判所の審判権の範囲外とする趣旨、換言すれば簡易裁判所において相当と認める刑が右の制限を超えるかどうかを標準としてその事件に対する簡易裁判所の審判権の有無を定める趣旨をも包含するものと解するを相当とする。このことは、裁判所法第三十三条第二項が管轄に関する規定であると言う意味に外ならない。右が通常の管轄規定とやや趣きを異にするのは、後者が法定刑もしくは罰条等をもつて事件区別の標準とするのを常則とするのに対し、前者が簡易裁判所において科するのを相当と認める刑をもつてその標準とする点であるが、この差異は右の規定が管轄に関する規定であることを否定するに足りない。また同条第三項、刑事訴訟法第三百三十二条が簡易裁判所は所定の制限を超える科刑を相当と認めるときは、事件を管轄地方裁判所に移送すべき旨を定め、移送の時期を特に限定していないのも所定の制限を超える科刑を相当と認めるときは、訴訟進行の程度如何にかかわらずその後においてはもはや簡易裁判所にその事件を審判する権限がないことを予定しているものと解せられるのである。要するに裁判所法第三十三条第二項は簡易裁判所に対して科刑を制限すると同時に右の制限を超える科刑を相当と認める事件については、これが審判の権限、すなわち管轄をも制限する趣旨であると解すべきであつて、右の制限に反する違法は不法に管轄を認めた場合にあたるものと解するを相当とする。本件公訴は、選択刑として罰金刑の定めある前記刑法第二百四条の罪と刑法第二百三十五条の罪を内容とするものであるから、前者の罪につき罰金刑を選択して処断するを相当と認められる場合でない限り本件を管轄地方裁判所に移送すべきに拘らず原審は右両者の罪の間には併合罪の関係(刑法第四十五条前段)ありとしながら、右刑法第二百四条の罪の所定刑中敢て懲役刑を選択し、併合罪の規定に基き犯情重い刑法第二百三十五条の懲役刑に法定の加重をした刑期範囲内で被告人に懲役刑を科したものであるから傷害罪の罪につき不法に管轄を認めたものと言わざるを得ない。

第二、原審には、仮りに不法に管轄を認めたものとして刑事訴訟法第三百七十八条第一号に当るということができないとしても、簡易裁判所として科すべからざる刑を言渡した点において判決に影響を及ぼすこと明らかな法令適用の誤があるから、到底破棄を免れないものと思料する。即ち、前叙の如く、簡易裁判所においては裁判所法第三十三条の規定により刑法第二百四条、傷害の罪について禁錮以上の刑を科することはできないのに拘らず、原審は傷害の罪につき懲役刑を選択した上併合罪の規定たる同法第四十七条を適用し刑法第二百三十五条の罪に対して科すべき懲役刑に法定の加重をした刑期範囲内で前記の如く被告人を懲役一年に処し四年間右刑の執行を猶予したのであるから右は判決に影響を及ぼすべき法令の適用の誤があること明らかと言わざるを得ない。

以上何れの見地に立つも、原審判決は到底破棄を免れないものと思われるので、茲に控訴した次第である。

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