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東京高等裁判所 昭和30年(ラ)665号 決定 1956年2月11日

抗告人 合名会社 諸戸精太商店

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告の趣旨並に理由は別紙抗告理由書記載のとおりである。

案ずるに、

(一)  原決定主文に「本件仮処分申請」とあるは「本件仮差押申請」の誤記であつて、これにつき更正決定がなされたことは記録上明白であるから右誤記があつたために原決定の効力が左右されることのないのは勿論であつて、抗告人の第一点の主張は理由がない。

(二)  恵比寿復興土地区画整理組合が東京都内の戦災地復興土地区画整理事業の経営を目的とする公法人であること、右事業が公共の福祉の維持増進を意図する公益的性格を有するものであることは原決定理由の説明のとおりであるから右組合から東京都に対する右事業の補助金請求権は公法上の権利と解すべく、しかも戦災地復興計画土地整理事業の執行に関する昭和二十一年五月七日閣議決定、並に東京都復興土地区画整理助成規程(昭和二十一年十二月十日告示第六百五十一号、改正昭和二十五年十月告示第八百二十七号)の規定の趣旨に鑑みれば、右事業の補助金請求はその事業の経営者だけに許されること、即ち、右請求権は右事業の経営と密接不可分の関係にあつてその事業経営者に専属するものと認められる。従て右請求権(若くは支分権)は性質上、他人にこれを譲渡し、または他人からこれを差押えないものと解するのが相当である。而して右補助金の使途につき規定の存しないこと、または右補助金だけでその事業の経営が賄はれるものではないことを以ては右解釈を覆すに足らない。以上とその見解を異にする抗告人の第二点の論旨も採用するをえない。

なお抗告人が前記組合に対しその主張の損害賠償請求権(被保全権利)を有することについてはその提出援用に係る全資料によつても容易にその疏明をえせしめるに足らないところであつて、本件においては抗各人をして保証を立てしめて仮差押を許すべき場合にも当らないものと解する。しからば抗告人の本件仮差押申立は失当たるを免れないからこれと同趣旨の原決定は相当であつて本件抗告は理由がない。

よつて主文のとおり決定をする。

(裁判官 牛山要 岡崎隆 渡辺一雄)

抗告理由書

抗告の趣旨

原決定を取消し更に相当の裁判を求める。

抗告の理由

第一、原決定は抗告人が債権仮差押命令を申請したのに対し本件を仮処分申請として却下決定をしているのは申立なき事項に付裁判したものとして誤りである。

第二、原決定は「当裁判所の判断」として復興土地区画整理補助金請求権の譲渡性がないから之に対する仮差押が許されない旨判示しているけれども承服できない。

1 行政上の公法関係から流出派生する公法上の請求権であつても任意の譲渡はともかくとして財産権である以上仮差押又は転付命令の目的に絶対なり得ないと解することは正当ではないと信ずる。

2 のみならず基本債権から毎期に流出する支分権は譲渡を禁ずる法令の規定が無いのであり、且その譲渡性を認めても実質上何等支障のないものである。

即ち、土地区画整理事業の施行に当つては当然当該地区に居住する者の権利を違法に侵害することはあり得るのであつて、かゝる場合組合が被害者に交付すべき損害賠償も亦右事業遂行に必然随伴する費用と云うべきである。事の性質上そうであるのみならず本件補助金請求権の根拠となる昭和二十一年五月七日の閣議決定によつても昭和二十一年東京都告示第六百五十一号によつても費用の内容は何等特定されておらず、補助の対象たる経費から事業執行上必然生ずることあるべき違法処分の損害賠償費を排除する旨の明文上の根拠は何等存在せず、又何等財源として見るべきものを有しない恵比寿復興土地区画整理組合の土地区面整理事業を許容しその執行を助成する以上はかゝる費用も含めて事業遂行上一切の所要費用を補助せんとする趣旨のものと解するのが相当である。かゝる趣旨の補助金であるとするならば一旦組合が都から受領しても本件の場合それは抗告人に対し違法処分による損害賠償として支払わねばならないのであるからその補助金は組合に交付しなければその目的を達し得ないという筋合ではないのである。相手方組合が第三債務者東京都に対して有する補助金請求権が抗告人の相手方組合に対する損害賠償債権額の限度に於て、抗告人に対し譲渡性を認められても本来帰属すべき処に帰属せしめられるのであるから実質上何等支障がない筈である。寧ろ右損害額の限度に於て右補助金は被害者たる抗告人に支払わるべきである。換言すれば補助金請求権は財産権であり(公法上の権利たる一事によつて譲渡性否定の論拠となすに足らず)且実質上譲渡性を認めて何等支障がない事情にあるのであるから事業の経営と不可分の関係にあり相手方に専属するものとして仮差押の可能性を否定したのは右補助金請求権の譲渡性を不当に解したものと信ずる。

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