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東京高等裁判所 昭和30年(ネ)1213号 判決 1956年2月14日

控訴人(原告) 合資会社高木農場 外一名

被控訴人(被告) 国

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人等の負担とする。

事実

控訴人等代理人は、「原判決を取り消す。被控訴人が茨城県東茨城郡内原村(元鯉淵村)大字鯉淵十の割六千五百二十六番の十八山林(現況畑)一町一反六畝二十六歩について、買収期日を昭和二十七年九月一日と定めてなした買収処分が無効であることを確認する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人の指定代理人は主文第一項と同旨の判決を求めた。

当事者双方の事実並びに証拠の関係は

控訴人等代理人において、原判決事実摘示の三「右被告(被控訴人)の主張する原告(控訴人等)の陳述」中、基準日たる昭和二十年十一月二十三日現在、高木千尋の住所が被告(被控訴人)主張の処にあり、いわゆる不在地主であつたことは被告(被控訴人)の主張するとおりであるとの部分を次のとおり訂正する。

本件係争農地が、昭和二十年十月五日前所有者高木千尋から運輸省に賃貸されたとき、右高木千尋は群馬県碓氷郡松井田町大字新堀千三番地に帰郷滞在中であつたが、同人は夙に昭和十七年十月五日以来昭和二十一年十月五日まで、茨城県西茨城郡友部町(旧宍戸町)大字平町千四百七十番地に出寄留居住していたものである。従つて昭和二十年十一月二十三日当時における高木千尋の住所は松井田町ではなくて友部町であると述べ、

被控訴人の指定代理人において、右訂正に異議がないと述べた(証拠省略)外、すべて原判決の「事実」の部分に記載してあるところと同一であるから、ここにこれを引用する。(但し、原判決二枚目表九行目に同年七月「三〇日」とあるのは、同月「三十一日」の、又原判決四枚目裏六行目に証人西成田盈とあるのは、「西成田温」の、いずれも誤記と認める。)

理由

按ずるに、本件茨城県東茨城郡内原村(元鯉淵村)大字鯉淵十の割六千五百二十六番の十八山林(現況畑)一町一反六畝二十六歩の農地が元訴外高木千尋の所有であつたが、昭和二十一年十月二十五日控訴人等両名がこれを買い受け、その所有権を取得したこと、茨城県東茨城郡鯉淵村農業委員会が、昭和二十七年七月三十日本件農地につき、買収期日を同年九月一日と定めて買収計画を樹立し、縦覧期間を同年七月三十一から同年八月十日までと定めて公告し、次いで茨城県知事が同計画に基いて買収令書を発行し、昭和二十八年一月十九日これを控訴人等に交付して買収処分をなしたこと並びに右買収処分が、本件農地については基準日たる昭和二十年十一月二十三日現在と前記買収計画を定めた時期とにおいて所有者が異なり、而も右基準日現在における事実に基けば不在地主たる高木千尋の所有する小作地に該当するものとして自作農創設特別措置法(以下単に自創法という。)第六条の五第三条第一項第一号の規定に基いてなされたものであることは、いずれも当事者間に争がない。

而して成立に争のない甲第四号証(高木千尋の出寄留用紙抄本)の記載によれば、前記高木千尋は昭和十七年十月五日茨城県西茨城郡宍戸町(現在の友部町)大字平町千四百七十番地の二百五十八に寄留し、昭和二十一年十月五日群馬県碓氷郡松井田町に復帰したことが認められるから、他に特段の反証のない本件においては、同人は基準日たる昭和二十年十一月二十三日当時においては、前記西茨城郡宍戸町に居住し、同所にその住所があつたものということができるが、前記のとおり、本件農地は茨城県東茨城郡鯉淵村(現在の内原村)にあるから、基準日における所有者高木千尋がその住所のある市町村の区域外において所有するものに該当する。従つて他に特段の主張のない本件においては、同人は本件農地の不在地主であつたものといわなければならない。

控訴人等は、本件農地は自創法第五条第一号にいわゆる国が公用に供している農地に該当し、同法第三条による買収の対象とはなり得ないものであり、本件買収計画に内在する右の瑕疵は重大な法規の違反で、その瑕疵の存在は客観的に明白であるから、同計画は当然無効たるを免れず、同計画に基く本件買収処分も亦無効であると主張するから按ずるに、国が昭和二十年十月五日東京鉄道局水戸管理部の職員の食糧を補給するための施設として使用する目的のもとに、本件農地を当時の所有者高木千尋から、小作料を毎年一反歩につき金二十五円と定めて賃借し、爾後右水戸管理部の職員においてこれを耕作して来たものであることは当事者間に争がなく、成立に争のない甲第五号証の一ないし五、原審証人西成田温、同小野晃、同小林茂夫の各証言を綜合すれば、本件農地の賃貸借の期間は三箇年の定めであつたこと、運輸大臣は昭和二十年十一月三十日運輸省陸運関係職員の給食材料の確保を図るため、同日附達第三〇七号をもつて国有鉄道食糧増産部設置の件を定めて同年十二月一日からこれを施行し、これに基いて、東京鉄道局長は昭和二十一年三月一日附東達甲第五七号をもつて東鉄食糧増産部規程を定め、又前記水戸管理部長は同年四月一日附水管達甲第一五号をもつて東鉄水戸食糧増産支部規程を定めて、これを施行したので、それまで右水戸管理部購買支部長の管轄していた本件農地はこれにより東鉄水戸食糧増産支部長たる水戸管理部長の管理下の農場となり、部下職員の食糧補給のための厚生福利施設としてその職員の手により耕作されて来たこと、昭和二十三年九月頃訴外小林茂夫は水戸管理部長の命により本件農地の耕作にあたることになり、爾後同人においてその耕作に従事していたこと、然るに運輸大臣は同年十一月二十九日附達第二〇四号をもつて、前記達第三〇七号並びに昭和二十二年達第一六五号(鉄道総局食糧増産本部所属増産場の名称及位置)の規程を昭和二十三年十二月三十日限り廃止するに至り、水戸管理部においてもその頃前記水管達甲第一五号の規程による本件農地における農場経営を止めるに至つたのであるが、前記小林茂夫はその後も継続して本件農地の耕作に従事し来つたものであつて、未だ本件農地は所有者たる控訴人等に返還されていないことが認められ、他に特段の反証がない。

而して自創法第五条第一号にいわゆる国が公共用又は公用に供している農地とは、旧国有財産法(大正十年四月八日法律第四十三号)第二条第一、二号に掲げられている公共用財産又は公用財産の目的となつている農地又は現行国有財産法(昭和二十三年六月三十日法律第七十三号)第三条第二項に定められている行政財産の目的となつている農地を指すものであつて、旧国有財産法にいう雑種財産又は現行国有財産法にいう普通財産の目的となつているものはこれに含まれない趣旨であると解するのが相当である。もとより、国有鉄道事業は旧国有財産法第二条第二号にいう国の事業並びに現行国有財産法第三条第二項第四号、第四項、昭和二十四年五月三十一日政令第百四十九号による改正前の同法施行法(昭和二十三年八月二十日政令第二百四十六号)にいう国の企業(日本国有鉄道法が施行された昭和二十四年六月一日以後において公共企業体たる日本国有鉄道の営む国有鉄道事業は国の企業に準じて考えることができる。)に該るけれども、前記認定の如く、国が東京鉄道局水戸管理部の職員の食糧確保のための厚生施設として利用していた本件農地の如きものは、法令上特に国の鉄道事業及びこれに附帯する事業の遂行上必要なものとはいい得ないから、本件農地に対する国の賃借権はいわば前記雑種財産又は普通財産たるに過ぎないものと考えられる。(旧国有財産法第一条同法施行令第一条並びに現行国有財産法第二条参照)従つて本件農地は自創法第五条第一号にいわゆる国が公共用又は公用に供している農地とはいえない。

又国が公共用又は公用に供しているというためには、その目的財産に対する国の行政権の発動が法令に準拠して行われるものであることを要するところ、前記運輸大臣の達第三〇七号以下の各規程は、国有鉄道部内の食糧増産に関する運営を規律する必要から「達」の形式をもつて定められたものと解せられるが、何等法令に準拠したものではないから、仮令国有鉄道部内において行政命令の如く下達され、その職員がこれらの規程に準拠して、その地位、職責において本件農地の経営、耕作に従事しても、これをもつて法令に基く行政行為により、国が本件農地における農場の経営、管理をなしているものとはいえない。右食糧増産に関する国有鉄道の行為は、本件農地の所有者たる前記高木千尋ないしは控訴人等と国との間に締結された私法上の賃貸借契約により国が本件農地につき賃借権を取得し、これに基いて私法上の使用収益をなしたものに過ぎないものと考えられる。従つてこの点から見ても、本件農地をもつて国が公共用又は公用に供しているものとはいえないから、控訴人等の主張は理由がない。然らば本件農地に対する前記買収処分については、控訴人等主張のような違法がないから、控訴人等の本訴請求は失当としてこれを棄却すべく、これと同趣旨の原判決は正当であつて、本件控訴は理由がない。

よつて民事訴訟法第三百八十四条、第九十五条、第八十九条、第九十三条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 渡辺葆 牧野威夫 野本泰)

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