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東京高等裁判所 昭和30年(ナ)24号 判決 1956年7月12日

原告 竹門角治郎

被告 東京都選挙管理委員会

補助参加人 紫村理一

主文

原告が昭和三十年九月三日附を以てした「昭和三十年四月三十日執行の東京都江戸川区議会議員選挙の当選の効力に関する竹門角治郎の異議申立に対し同年六月九日江戸川区選挙管理委員会のした決定は之を取消す」との裁決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は主文同旨の判決を求め、被告指定代理人は原告の請求を棄却するとの判決を求めた。

原告訴訟代理人は請求の原因として、

一、昭和三十年四月三十日に東京都江戸川区議会議員の選挙が執行され、原告は右選挙に立候補した別紙候補者氏名及び得票表記載の候補者の一人として「竹門角治郎(たけもんかくじろう)」なる名義を以て立候補したところ、同年五月一日江戸川区選挙管理委員会(以下江戸川区選管と略称する)は別紙候補者の氏名及びその得票表の通り当選者を決定したが、之によれば、紫村理一が一七七七票の得票者として最下位当選者、原告は紫村理一と一票の差で次点者とされ落選したものとされた。

原告は紫村理一の右当選決定を違法なるものとし、江戸川区選管に異議申立をしたところ、同選管は全投票を検討した結果、紫村理一の得票とされた中に(イ)「新村理一」、(ロ)「シマムラリイチ」、(ハ)「しんむら」なる各一票を発見し、(イ)及び(ロ)は右選挙の他の立候補者たる「新村明治郎」、「島村五七」、「宇井利一」等と「紫村理一」の氏又は名の混記であつて、いずれも公職選挙法第六十八条第七号による無効の投票であり(ハ)の「しんむら」は「新村明治郎」に対する投票であるとの見解の下に、昭和三十年六月九日附決定を以て原告の主張を容認し紫村理一の当選を無効とした。

右決定に対し紫村理一は被告にその取消を求める旨の訴願をしたところ、被告は同年九月三日附を以て右決定を取り消す旨の裁決をしたが、その理由の大要は、本件選挙の投票全部を開披調査したところ、

(イ)  候補者新村明治郎に対する有効投票とされた中に「シシムラ」と記載されたもの、「シシムラ」と記載されたもの各一票あり、

(ロ)  候補者紫村理一に対する有効投票とされた中に「しんむら」、「新村理一」、「シマムラリイチ」、「シムライチロウ」と記載されたもの各一票あり、

(ハ)  候補者竹門角治郎に対する有効投票とされた中に、「のたけもん」、「M人十」、「たけ」、「大門や治郎」と記載されたもの各一票あり、

他に当選に影響を及ぼす恐れある投票なく、以上(イ)(ロ)(ハ)の各投票につき判断するに、

(イ)の「シシムラ」は投票用紙中の左上部に「シ」を書き、その記載位置の不適当を改める為「シムラ」と書き直したものと認められるから、紫村理一に投ぜられた有効投票である。

(ロ)の「しんむら」は新村明治郎に対する有効投票である。

(ロ)の「新村理一」は「紫村理一」と「新村明治郎」との混記であるとするよりも、「新」は「シ」と読む場合もあるから「シムラ理一」のあて字とした誤記であると見て、紫村理一に対する有効投票と解する。

(ロ)の「シマムラリイチ」の文字の内「マ」は誤記と認め、「島村五七」候補と「紫村理一」候補の混記と解することなく「紫村理一」の誤記であつて、同人に対する有効投票と解する。

(ロ)の「シムライチロウ」は候補者「遠山一郎」と「紫村理一」を混記したものか何人に投票したか確認し難いから無効である。

(ハ)の「のたけもん」その文字の位置、運筆、字体等から見て「の」の字は有意的記載と判断し、公職選挙法第六十八条第一項第五号に該当するから無効である。

(ハ)「M人十」は何人に投票したか判読すること不能につき無効である。

従つて他に「たけ」「大門や治郎」なる票を開票管理者の決定通り竹門角治郎に対する有効投票と見ても紫村理一の得票数一一七七、竹門角治郎の得票数一一七五となり、この得票差により選挙会決定の当選人に異同はないから、結局訴願は理由がある。

と言うのである。

二、然しながら右裁決は次の理由により失当である。即ち、

(1)  裁決が前記投票「シシムラ」(別紙写真第一のもの、後記検甲第一号)を新村明治郎に対する投票としながら、「シシムラ」(別紙写真第二のもの、後記検甲第二号)を紫村理一に対する投票としたのは前後矛盾した見解であつて後者の投票をした有権者の右記載をした時の心裡を付度するに、「シンムラ」と書く意思で最初に左上部の「シ」を書き、その位置が不適当であることに気付き、中央の位置に「ンムラ」と続けて書く際「ン」を「シ」と書き誤つたものと認めるのが最も自然であつて、尚第二字の「シ」の文字が第一字の「シ」と全く書体を異にしており、その運筆、筆勢等から判断しても右第二字は「ン」を誤記したことが明らかであるから「シシムラ」は新村明治郎に対する有効投票と解すべきである。

(2)  投票「新村理一」(別紙写真第六のもの、検甲第六号)は候補者「新村明治郎」と「シムラ理一」の混記であつて、公職選挙法第六十八条により無効とするか、そうでなければ「新村明治郎」の得票とすべきである、即ち江戸川区内の人口は多くの農業者又は漁業者を以て構成され、之等の有権者は平素区内の政治に関心薄く、従つて選挙に立候補するような著名人に対してもその姓は記憶しても名は判然記憶しない場合のあることは普通である。本件選挙までに数回当選した「新村明治郎」は区内の著名人であり、「紫村理一」は無名の新人であるから、「新村明治郎」に投票しようとした有権者が同候補者の名「明治郎」を判然思い起すことができなくて之を「理一」と誤り書したものと見るべきであり、裁決が「新村」の「新」を「紫村」の「紫」のあて字であると判定したのは甚だしいこぢつけである。

(3)  投票「シマムラリイチ」(別紙写真第七のもの、検甲第七号)につき、候補者中に「島村五七」及び「宇井利一」がおり、右投票中の「シマムラ」は「島村」、「リイチ」は「理一」及び「利一」に相通ずるから、右投票は「島村五七」、「紫村理一」及び「宇井利一」のいずれに対してしたものか不明のものであつて無効とするのが当然であり裁決が「マ」の一字が書損であるとし、「紫村理一」に対する有効投票であるとしたのは誤つている。

(4)  尚右「新村理一」、「シマムラリイチ」のように明確に「新村」又は「シマムラ」と記載されたものを、その語音が「シムラ」に以ている故を以て之を新村明治郎の「新村」島村五七の「シマムラ」でないとする論拠とすることはできない。「新村(しんむら)」「島村(しまむら)」「紫村(しむら)」等類似の姓の候補者、「理一(りいち)」「利一(りいち)」のように音を同じくする名の候補者がある以上、投票記載の文字と候補者の氏名の文字とが符合する数の多いことを理由としてその投票の帰属を定めることは失当であつて、一候補者の姓と他の候補者の名とが明確に併せ記載された投票については徒らに他意を加えることなく、記載された文字通りに解することが最も公平な判定であり、之に従えば票「新村理一」が新村明治郎と紫村理一の氏名の混記であり、票「シマムラリイチ」が島村五七の姓と紫村理一又は宇井利一の名の混記であると認めるのが当然であつて、このような解釈は公職選挙法第六十八条の二の法意に徴しても当然であり、従つて之等投票はいずれも無効とすべきであるのに、裁決が右「新村」「シマムラ」を夫々「紫村」「シムラ」のあて字としたのは誤つたものである。

(5)  票「のたけもん」(別紙写真第十のもの、後記検甲第十号)の「の」の字は書損であつてその抹消を忘れたものであるにすぎず、他意のあるものではないから右は竹門角治郎に対する有効投票とすべきである。その理由は候補者「竹門角治郎」の実弟の妻と候補者「野崎輝夫」の別家の当主の妻とは姉妹であつて、その住宅が互に近接している。従つて右両候補者の双方に縁故のある選挙人も少くない。この実情の下に右投票を判断すればその投票者は最初野崎の「の」を書いてから思い直して「たけもん」と記載し、その際「の」の字の抹消を忘れたものと考えられる。公職選挙法第六十八条第一項第五号にいわゆる他事の記載とは、その記載された文字によりある意味が表現された場合を言い、前記のように単に書損の抹消を忘れたに過ぎない場合は之に該当しないのに、裁決が右を以て有意の記載とし公職選挙法第六十八条第一項第五号に該当するものとして右投票を無効としたのは不当である。

(6)  裁決のいわゆる票「M人十」(別紙写真第十一のもの、検甲第十一号)も裁決の言うように無効のものとすべきではなく、原告に対する有効投票とすべきである。即ち同票は文盲に近い選挙人がおぼろげな記憶を辿り記載したものと考えられ、その第一字は「タ」を書きあらわそうとして文字の中心部の「、」を欠いたのであり、第二字は「ケ」を書き表わそうとして同文字中の「ノ」一線を欠いたものであつて、又第四字は竹門角次郎の名又は名の文字を忘れた為運筆を中止したものと認むべきであり、従つて右票は竹門角治郎に投ぜられた有効のものと解すべきである。

(7)  候補者紫村理一に対する有効投票とされた中に「シムギ一」(別紙写真第八のもの、検甲第八号)があり、候補者中に「当麻基一(とうまきいち)」なるものがあるところ、右投票第三字「」は「ラ」と読み得ないばかりでなく、却つて「麻」の字を書き表わそうとしたものとも見られ、「ギ一」も「リ一」ではないから、之を紫村理一の得票としたのは誤りであつて、右は公職選挙法第六十八条第一項第七号により無効とすべきである。

(8)  候補者紫村理一に対する有効投票とされた中に「シムラシン一チ」(別紙写真第九のもの、検甲第九号)があり、候補者中に「小山田真一(おやまだしんいち)」なる者があるが、右投票は紫村理一の姓と、小山田真一の名の混記であつて、何人に投票したか確認し難いから、無効とすべきである。

(9)  右選挙に於て無効投票とされたものの中に「カイモン」と記載されたもの(別紙写真第十二のもの検甲第十二号)があり、右は竹門角治郎に対する有効投票とされるべきである。即ち原告の氏名「竹門角治郎」は「タケモンカクジロウ」と呼び、類似の氏名は稀であり、殊にその姓「竹門」の「タケモン」なる呼び方は特異であつて平素間違つた呼び方をされる場合が多いのでその名刺には「竹門(たけもん)」と振仮名を施して用いていることは周知の事実である。右投票「カイモン」はこのような間違い易く覚えにくい氏名を聞き覚えた選挙人が「カクジロウ」の「カク」と「タケモン」とを混同した不正確な記憶に基ずいて記載した為の誤記と認められ、候補者中にその姓に「モン」なる文字を用いる者及び類似の氏名の者は他になく、右「カイモン」は原告に対して投ぜられたことが明らかである。

三、以上原告主張の理由に基ずいて計算すれば原告の得票は千百七十八票となり、紫村理一の得票は千百七十二票となり、従つて原告が当選者となり、紫村理一は当選を失う結果となるべきであるから、原告は右に反する裁決の取消を求める為本訴に及んだ。

と述べ、被告指定代理人は事実の答弁として、

原告の請求原因事実中一の事実を認める。

右請求原因二の(1)の主張につき、票「シシムラ」(別紙写真第二のもの、検甲第二号)に於て第一字の「シ」が投票用紙の候補者氏名欄の左上部に、又第二字以下の「シムラ」が略々同欄の中央部に記載されてあることから見て、及び別票「シシムラ」(別紙写真第一のもの、検甲第一号)と対比すれば、右「シシムラ」はその投票者に於て先ず左上部の「シ」を書き、その記載位置の不適当であることを悟り、中央部位置に「シムラ」と書き直し、第一字の「シ」を抹消することを忘れたものと認められるから、右は紫村理一に対する有効投票と解すべきであつて、原告主張のように新村明治郎を誤記したものと認めることは失当である。

票「新村理一」(別紙写真第六のもの、検甲第六号)に関する原告の主張(請求原因二、の(2)及び(4))につき、右「新村理一」の中の「新」は「シ」と読む場合があり、紫村理一は「シムラ理一」と立候補の届出をし、且届出の通り氏名等の掲示も行われていたことを合せ考えると、右「新」は「シムラ理一」の「シ」のあて字とした誤記と認めるのが相当であつて、原告の主張は失当である。

票「シマムラリイチ」(別紙写真第七のもの、検甲第七号)に関する原告の主張(請求原因二、の(3)及び(4))につき、右「シマムラリイチ」から「マ」の一字を除けば「シムラリイチ」であり、右票の記載全体として紫村理一に酷似し、候補者「島村五七」「宇井利一」に比較し紫村理一との酷似性が遥かに大であつて、右「マ」は不用意の誤記と認められるべきであるから、右は紫村理一に対する有効投票と認むべきであつて、原告の右主張は正当でない。

請求原因二、の(5)の主張につき、票「のたけもん」(別紙写真第十のもの、検甲第十号)の文字は投票用紙の表面に印刷された「江戸川区議会議員選挙投票」の不動文字の両側に分れて、その片側に「の」、反対側に「たけもん」と逆に書かれてあり、その位置、運筆、字体等から見て、文字の書けない者の記載したものではなく、且「の」の字が書損の抹消、誤字等と認められず、有意的な記載と解さざるを得ないから、右に反する原告の主張は失当と言わなければならない。

請求原因二、の(6)の主張につき、票「M人十」(別紙写真第十一のもの、検甲第十一号)は之を「タケ門」と判読することは困難であつて、原告主張のように之を竹門角次郎に対する有効投票とすることはできない。

請求原因二、の(9)の主張につき、票「カイモン」(別紙写真第十二のもの、検甲第十二号)は単に下の二字の「モン」が原告の名の一部と一致するにすぎず、四字中上の二字は字画、発音等「タケ」に類似しないばかりでなく、本件選挙の候補者中には「宇田川嘉一郎(カイチロウ)」「杉浦長左ヱ門(モン)」「千葉藤左ヱ門(モン)」、「会津九二」等があり、その氏名の一部が「カイ」又は「モン」と称せられるものは原告の外にもあるから、票「カイモン」は候補者の何人を記載したか確認し難いものであつて無効とすべきである。

尚原告に対する有効投票とされた中に「たけ」と記載されたもの(別紙写真第十三のもの、検丙第一号)が存するが、この票の上の二字は「タケ」と音読すべきであるが、第三字は何を書いたものか不明であり、本件選挙の候補者中に「植草武一(タケイチ)」「上野武之助(タケノスケ)」等があり、「たけ」の部分だけを判読し得る右投票が之等候補者及び原告のいずれに対してされたものであるか不明であるから、右票は原告に対する有効投票とし難く、公職選挙法第六十八条第一項第七号により無効とすべきである。又原告に対する有効投票とされた中に「大門や治郎」と記載されたもの(別紙写真第十四のもの、検丙第二号)が存するが、右選挙における右に記載されたものに類似の氏名の候補者としては原告の外に「大友基順」「大畑辰治」「大西一男」「大野寛吉」「杉浦長左ヱ門」「千葉藤左ヱ門」「新村明治郎」等があり、且右票に記載された文字を仔細に検討すれば達筆ではないが文字の書けない者の記載したものと認め難く、又不真面目な投票であるから、右は候補者でない者の氏名を記載したもの又は候補者の何人の氏名を記載したか確認し難いものとして無効とすべきであり、竹門角治郎に対する有効投票と解すべきではない。

然らば当選人紫村理一と原告との得票差は四票となり、本件当選の決定に影響はないから、裁決のとつた結論は正当であり原告の請求は失当である。

と述べ、

補助参加代理人は、

請求原因二、の(7)の主張につき、票「シムギ一」(別紙写真第八のもの、検甲第八号)は明らかに「シムラリ一」の誤記であつて、之を別人に対する投票と見ることは無理であり、又之を無効な投票と見ることもできない。右は紫村理一に対する有効投票と見るべきである。

請求原因二、の(8)の主張につき、票「シムラシン一チ」の内「シムラ」は紫村理一の姓と完全に符合し、「シン一チ」と「リイチ」とは「シン」と「リ」が違うだけであるから、之を紫村理一以外の者に対する投票と見ることは妥当でなく、又之を無効投票と見ることもできない。

請求原因二、の(9)の主張につき、票「カイモン」の文字はその筆勢、配字から見て相当書を能くする者の記載したものであることが明らかであつて、「タケモン」と書くのを誤つて「カイモン」と書いたものとは思われず、カイモンとタケモンとは語感に於ても類似していると言えない。之を無効投票と見た江戸川区選管の決定は正しい。

と述べ、

原告訴訟代理人は被告の以上の主張に対し、

票「たけ」(別紙写真第十三のもの、検丙第一号)の第三字「」は被告主張の候補者「植草武一」「上野武之助」の名の武の字の次の字なる「一」又は「之」と文字の形象が全く異り、書体、運筆、筆勢から見て、「門」又は「問」に最も近似しているところから判断し、「たけ門」又は「たけ問」と記載しようとした場合の「門」又は「問」の誤字又は拙字と認むべきであるから、右票は竹門角治郎に対する有効投票とすべきである。票「大門や治郎」(別紙写真第十四のもの、検丙第二号)はその投票者が候補者竹門角治郎の氏名を記載しようとしたところ、その氏名の記憶が不正確だつた為誤記したものに外ならない。即ち「大門や治郎」の五文字の内の「門」「治郎」の三字迄原告の氏名と符合し、「大門」の「大」は「タ」又は「タイ」と読むことができ、「大門」を「タモン」又は「タイモン」と読む時その音が「タケモン」と酷似するから、原告の氏名をあらわすあて字と判断すべきであつて、一般に原告の氏名のように記憶に困難な氏名を不正確な記憶に基ずいて表示する場合右のような誤記をすることは敢て異とするに足りないところである右票の記載と類似の氏名の候補者として被告の挙げた「大友基順」「大畑辰治」「大西一男」「大野寛吉」「杉浦長左ヱ門」「千葉藤左ヱ門」「新村明治郎」等は、いずれもその氏名中の一字又は二字が「大門や治郎」と符合しているに過ぎず、氏名全体としての相似性は全くなく、原告の氏名との相似性と比較すれば格段の相違があり、被告の主張の理由のないことが明らかである。尚選挙人は常に候補者中の何人かに投票したものと推定すべきであつて、瑕疵ある投票の判定に当つては選挙人の意思を尊重し能う限り投票の目的に副うように判断すべきであり、右「大門や治郎」の票が不真面目なものであるとする被告の主張は全くの詭弁である。

と述べた。(立証省略)

理由

原告の請求原因事実中一、の事実は被告の認めるところであつて、昭和三十年五月一日の江戸川区選管の当選者決定に於て、候補者新村明治郎に対する有効投票とされた中に票「シシムラ」(検甲第一号別紙写真第一)、「シシムラ」(検甲第二号同写真第二)が存し、同紫村理一に対する有効投票とされた中に票「新村理一」(検甲第六号同写真第六)、「シマムラリイチ」(検甲第七号同写真第七)、「シムギ一」(検甲第八号同写真第八)、「シムラシン一チ」(検甲第九号、同写真第九)が存し、同竹門角治郎に対する有効投票とされた中に票「のたけもん」(検甲第十号同写真第十)、「M人十」(検甲第十一号、同写真第十一)が存し、同無効投票とされた中に票「カイモン」(検甲第十四号同写真第十二)が存することは被告の明らかに争わないところ、又同竹門角治郎に対する有効投票とされた中に票「たけ」(検丙第一号、同写真第十三)、「大門や治郎」(検丙第二号同写真第十四)が存することは原告の明らかに争わないところであるから、原被告は夫々右明らかに争わないところを自白したものとみなす。

よつて右係争の各投票(右写真第二、第六乃至第十四)につき、それが何人に対してされたものか、有効のものか否か、順次之を審案するに、

(一)  票「シシムラ」(検甲第二号、写真第二のもの)を見ると、第一字たる片仮名の「シ」は候補者氏名欄の向つて左上隅に書かれ第二字以下はそれより向つて稍右方に縦に中央部を書き下ろしてあることが認められるけれども、右第一字は全然別行に書かれたものとも認め難いし、又別段之を抹消その他の方法により候補者の氏名の表示から除いた趣旨があらわされてあるものとは到底認め難いから、右第一字も候補者の氏名の表示の一部をなすものと解する外はなく、従つて右票は候補者の表示として「シシムラ」と記載したものと認めざるを得ない。而して右文字の数、外観、特に片仮名の「シ」の字が「ン」の字と似ていること、及び別紙氏名表に掲げられた候補者中に「新村明治郎(シンムラメイジロウ)」のあること等を綜合して考察すれば、右投票は書の拙劣なその記載者が「シンムラ」と書こうとして誤つて「シシムラ」と書いて了つたものに外ならないと認められるから、右は新村明治郎に対する有効投票とすべきであり裁決が投票者に於て「シムラ」と書こうとし、その第一字「シ」の位置が悪かつた為改めて「シムラ」と書き直したものとし、右を以て紫村理一に対する有効投票と見たのは誤つたものである。

(二)  票「新村理一」(検甲第六号別紙写真第六)及び「シマムラリイチ」(検甲第七号別紙写真第七)につき、前記候補者中に「新村明治郎」及び「島村五七(シマムラゴシチ)」がある以上、票「新村理一」の内姓に当るものと認むべき「新村」は新村明治郎を、又票「シマムラリイチ」の内姓を示したものと認むべき「シマムラ」は島村五七を夫々あらわしたものと解する外なく、又「新村理一」の内名に当るものと認むべき理一は紫村理一「シマムラリイチ」の内名に当るものと認むべき「リイチ」は前記候補者中の紫村理一又は宇井利一の名を表わしたものと解せられ、従つて票「新村理一」は新村明治郎の姓と紫村理一の名とを混記したもの、又票「シマムラリイチ」は島村五七の姓と紫村理一又は宇井利一の名とを混記したものと解さざるを得ない。

成程被告の主張する通り右「新村理一」の下の三字が紫村理一のそれと符合し、且新を「シ」と読む場合もないわけでなく、又「シマムラリイチ」と「シムラリイチ」とでは「マ」の一字の有無の違いがあるに過ぎないから、もし他に別段の事情が認められなければ、右両投票は紫村理一に対するものと認むべきであるかも知れないけれども、すでに前記の通り候補者に新村明治郎及び島村五七がいる以上、之を無視して、両票が紫村理一に投ぜられたものと解することは到底できないところである。然らば両票は公職選挙法第六十八条第一項第七号により無効とすべきものであり、裁決が之を紫村理一に対する有効投票としたのは失当である。

(三)  票「シムギ一」(検甲第八号別紙写真第八)を見るに、その第三字は片仮名の「ラ」とは到底認め難く、又その他の何字とも判読し難いから、上の三字を「シムラ」であるとすることはできない。尚又下の二字は紫村理一の名の「理一」又は「リ一」でないこと勿論であるから、右の投票は紫村理一に対してされたものとし難く、その他候補者中の何人に対してされたものであるか確認し難いから、公職選挙法第六十八条第一項第七号により無効とすべきであつて、裁決が之を紫村理一に対する有効投票としたのは失当と言うべきである。

(四)  票「シムラシン一チ」(検甲第九号別紙写真第九)につきその内姓に当るものと解すべき上の三字が紫村理一の姓に符合することは勿論であるが、名を表わしたものと認むべき下の四字「シン一チ」は紫村理一の名を表わしたものとは解し難く、その最終字「チ」は読み書きの能力の微弱な投票者が不必要に加えたものであつて、右「シン一チ」は「シンイチ」に外ならないものと解せられるところ、前記候補者中に小山田真一(オヤマダシンイチ)が存する以上、右「シン一チ」は小山田真一の名を記したものと認める外なく、然らば「シムラシン一チ」は紫村理一の姓と、小山田真一の名とを混記したものと言ふべく、従つて同票は公職選挙法第六十八条第一項第七号により無効とすべきであつて、裁決が之を紫村理一に対する有効投票としたのは失当と言わなければならない。

(五)  票「のたけもん」(検甲第十号別紙写真第十)を見るに右「のたけもん」の文字は投票用紙の表紙の江戸川区議会議員選挙投票なる表題の文字を挾んでその両側に逆様に向つて右に「の」、左に「たけもん」と分けて記載してあることが認められる。而して右記載の体裁から見て右「の」の字は「たけもん」とは氏名の表示として別段の関連があるものとは認められず、「たけもん」は竹門角治郎の姓を表示したものであることは明らかであるが、右「の」の字が原告主張の事情の下に野崎輝夫の氏名を書こうとして之を書き思い直して止めたものであることは之を認めるに足る何等の証拠もなく右「の」の字のような記載をすることは前記の通り「の」及び「たけもん」の字が投票用紙の表面の前記部分に逆様に記載してあることと相まつて、その投票をした者が何人であるかを開票の際立会人に知らせる方法として利用されることもあり得ない事とし難く、このような記載は公職選挙法第六十八条第一項第五号にいわゆる他事を記載したものに該当するものと解すべきであり、裁決が右と同旨の理由の下に右投票を無効としたのは相当としなければならない。

(六)  票「M人十」(検甲第十一号、別紙写真第十一)を見るに、その候補者氏名欄に記載されたのは何を書いたものか全然判読し難く、到底右投票を以て原告主張のように竹門角治郎に対してされたものと認めることはできない。結局右は公職選挙法第六十八条第一項第七号にいわゆる何人を記載したか確認し難いものと言うべく、裁決が右と同じ見解の下に之を無効としたのは相当である。

(七)  票「カイモン」(検甲第十二号別紙写真第十二)も原告主張のように竹門角治郎の姓を表わしたものと認めることができず、尚別紙候補者氏名表中に右「カイモン」に該当するものを見出すことはできないから、同票も公職選挙法第六十八条第一項第七号に該当し、無効とせらるべきである。

(八)  票「たけ」(検丙第一号、別紙写真第十三)を見るに、この第三字は一見判読困難であるが、第一及び第二字が平仮名で書かれてあることから考え、仔細に検するときは、右第三字は書の拙劣な投票者が平仮名の「も」と「ん」とを「」のように結合して一字のように書いて了つたものであることが認められる。而して候補者中に竹門角治郎があるところ、他に「たけもん」とその氏名の通ずべきものを見出し難く、この点から考えれば右投票は「たけもん」であつて、即ち原告の姓を表示したものに外ならないと認められるから、右投票は原告に対する有効投票と解すべきであり、右に反する被告の主張は之を認容することができない。

(九)  票「大門や治郎」(検丙第二号、別紙写真第十四)につき之に全く符合した氏名は候補者中になく、その第二字、第四及び第五字が竹門角治郎のそれと符合しており、この点から考えれば他に別段の事実がなければこの票は原告に投ぜられたものと認定すべきであるかも知れないけれども、別紙候補者氏名表中に姓に「大」の字のあるもの、名に「治郎」の字のある者が存する以上、票「大門や治郎」を原告に投ぜられたものと断定することはできない。結局同票も公職選挙法第六十八条第一項第七号にいわゆる何人に投ぜられたか確認し難いものとして、無効とすべきものと言わなければならない。

然らば昭和三十年五月一日の江戸川区選管のした当選決定により紫村理一に対する有効投票とされたもの一一七八票から、前記「しんむら」、「新村理一」、「シマムラリイチ」、「シムギ一」、「シムラシン一チ」(検甲第五乃至第九号別紙写真第五乃至第九)の五票を除外すべく、竹門角治郎に対する有効投票とされたもの一一七七票からは前記「のたけもん」、「M人十」、「大門や治郎」(検甲第十第十一号及び検丙第二号別紙写真第十、第十一及び第十四)の三票を除外すべきであるから、結局紫村理一に対する有効投票は一一七三票、原告に対する有効投票は一一七四票とせらるべきであり、尚右の票数の変更は別紙得票表に示された他の候補者の当落に影響はないものと認められるから、原告が右選挙における最下位当選者、紫村理一が次点者として落選したこととなるべきであり、裁決が江戸川区選管の紫村理一の当選を無効とした決定を取り消したのは不当であつて、右裁決の取消を求める原告の請求は正当であるから、民事訴訟法第八十九条を適用して主文の通り判決した。

(裁判官 内田護文 原増司 高井常太郎)

(別紙省略)

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