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東京高等裁判所 昭和30年(う)580号 判決 1955年7月25日

控訴人 被告人 陰山哲男

弁護人 宗宮信次 外二名

検察官 鯉沼昌三

主文

原判決を破棄する。

被告人を懲役八月に処する。

但し本裁判確定の日から五年間右刑の執行を猶予する。

被告人を保護観察に付する。

押収に係る土地所有権移転登記嘱託書四通(東京高等裁判所昭和三〇年押第二一〇号の二乃至五)はいずれもこれを没収する。

原審の訴訟費用は被告人と原審相被告人小島哲吉の連帯負担とする。

理由

本件控訴の趣旨は末尾添附の弁護人宗宮信次、同鍵山鉄樹の連名で差し出した控訴趣意書並びに山下卯吉の差し出した控訴趣意書各記載のとおりである。

宗宮、鍵山両弁護人連名の控訴趣意第四点について

しかし原判決の挙示する標目の各証拠を綜合すれば原判示第一の(一)掲記の項においては新郊土地建物株式会社において同社の業務たる物納土地の払下斡旋に附随して事実上物納土地の売払代金を数多の払下申請人より受領していた事実は明らかであり、かくの如きは固より取締の立場にある大蔵当局の好まない状態であつたことは十分窺い得るところであるが、かかる所為が違法をもつて目すべきか否かにかかわらず、これがために、直ちに被告人の原判示第一の(一)の所為をもつて刑法第二百五十三条の関係においても業務行為とはいいえないとするのはあたらない。法が絶対的に禁止する行為は縦令それを業務とする意思をもつて反覆累行したからとて業務行為と目することを得ないのは当然であるが、行為自体は法の絶対的に禁止する反社会性のものではなく、唯取締の必要上その行為を制限するのに過ぎないような場合にあつてはその違法行為であるのに拘わらず刑法第二百五十三条の関係においてはこれを業務行為というのを妨げないものと解するのが相当である。そして本件について考えてみるのに若し前記会社において物納不動産払下申請人から受領した売払代金を誠実に国庫に納入したらんにはかかる受領行為も格段の弊害を伴わなかつたであろうことはたやすく想像できるところであり、ただその間における業者の不正を予防するためにこれが受領行為が禁止されていたに過ぎないものと考えるのが相当であるから原判示会社における被告人の物納土地売払代金の受領行為と雖もこれが業務として反覆され且つその業務上右会社のために占有していた金員である以上被告人においてほしいままに自己の用途にあてるためにこれを着服して横領すればここに刑法第二百五十三条の罪の成立することは固よりである。それゆえ論旨は理由がない。

(その他の判決理由は省略する。)

(裁判長判事 中村光三 判事 脇田忠 判事 鈴木重光)

宗宮、鍵山両弁護人連名の控訴趣意

第四点原判決は被告人が新郊土地建物株式会社の業務部長として物納不動産売払代金の全部若くは一部の領収保管に関する業務を担当し、物納土地代金を業務上保管中自己の用途に着服横領した事実を認定し刑法第二百五十三条を適用した。然し乍ら関東財務局第四課長荒井隆三郎の証言に依れば「物納不動産取扱指定業者は単に払下の仲介を為し得るに止まり、会計法上徴収官でないと売掛代金受領の権限なく、買受人の希望なき限り業者が買受人より之を受取れば詐欺行為であり、該金員を費消すれば、その被害者は買受人である。昭和二十六年末か昭和二十七年になつてからは、明らかに受領を禁止した」とあり(記録一四九頁)以下。同課長補佐たりし証人松永繁行は、「業者が払下代金を受領することを黙認した事実なく、昭和二十五年十一月には公文書を以て受取ることを明らかに禁止した」と証言する(記録一六〇頁以下)を以て見れば、新郊土地建物株式会社には物納不動産売払代金を徴収する権限なく、従つて、代金徴収事務は業務部長の権限外であり、代金徴収事務は被告の業務に属せざりしものである。従つて原判決が物納不動産払下代金を被告人が自己の用途に充てた所為を業務上横領行為と認定して刑法第二百五十三条を適用処断したのは事実誤認、擬律錯誤乃至審理不尽、理由不備の違法がある。

(その他の控訴趣意は省略する。)

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