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東京高等裁判所 昭和29年(う)1073号 判決 1955年1月31日

控訴人 被告人 野原明

弁護人 徳岡一男 外二名

検察官 鯉沼昌三

主文

原判決を破棄する。

被告人を懲役壱年に処する。

但し本裁判確定の日から参年間右刑の執行を猶予する。

原審並びに当審の訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

本件控訴の趣旨は末尾添附の弁護人徳岡一男、河田広、折田清一の夫々差し出した各控訴趣意書記載のとおりである。

徳岡弁護人控訴趣意第一点の二について被告人に対する昭和二十七年七月二十一日附詐欺被告事件の起訴状に記載されている公訴事実並びに同昭和二十九年一月十一日の原審公判廷において検察官のなした訴因罪名罰条の予備的追加の記載は論旨摘録のとおりであり、詐欺罪と弁護士法第七十二条の罪とは構成要件罪質を異にすることは勿論であるが、この両者の犯罪の日時場所は同一であり、被告人が受領した金員の額及び交付者も同一であり、しかのみならず被告人が日本弁護士連合会の弁護士名簿に登録された弁護士でないのにかかわらず弁護士の如く装つて行動したとの点も同一であり、かかる点からみれば以上の両者は基本たる事実関係においては同一であると考えるのが相当であり、またこれにより被告人の防禦に実質的な不利益を生ずる虞があるとは認められないから原審が論旨摘録の如き訴因、罰条の予備的追加を認容したことは相当でありこれを非難する論旨は理由がない。

(その他の判決理由は省略する。)

(裁判長判事 中村光三 判事 脇田忠 判事 鈴木重光)

弁護人徳岡一男の控訴趣意

第一点二、前記の如く訴因の追加が適法であるためには公訴事実の同一性を害しないこと、換言すれば公訴事実の基本的同一性の維持を必要とするのである。然るに本件においては全然別個の事実が訴追されているのである。その被害法益を異にするのは勿論、構成要件についても全く関連していないのである。詐欺罪は欺罔手段と財物の騙取を必要とするが弁護士法違反は欺罔を必要とせずまた報酬を得る目的あれば足りるのである。之を要するに両者は罪質を全く異にするものであるから訴因の追加としては之を許すべからざるものと解するのである。従つて追加の訴因は違法であり結局この部分についても公訴はその提起手続がその規定に違反し無効であると解するのである。

(その他の控訴趣意は省略する。)

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