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東京高等裁判所 昭和26年(ウ)259号 判決 1951年3月28日

申請人 (債権者) 佐藤昌弘

訴訟代理人 岩村渉 薬師寺志光

相手方 (債務者) 福島吉五郎

訴訟代理人 梶谷丈夫 宮田耕作

主文

静岡地方裁判所が昭和二十五年十二月二日与えた同庁昭和二十五年(ヨ)第一九四号仮処分決定を取消す。

申請人の仮処分申請を却下する。

訴訟費用は申請人の負担とする。

この判決は仮に執行することができる。

事実

申請人は前記仮処分決定を認可する旨の判決を求め、申請の理由として、つぎのとおり述べた。

一、申請人は昭和八年四月に被申請人所有の熱海市熱海清水田八百八十九番地の一の宅地拾弐坪の地上にあつた、木造亞鉛メツキ鋼板葺三階建建坪各階拾坪五合外地下室六坪を賃料月金四十円で借り受け、そこで歯科医業をやつて来たところがこの家屋が昭和二十五年四月十三日の熱海の大火で焼失してしまつた。

二、ところが被申請人が焼けたのを幸ひに土地の明渡しを求めて来たので罹災都市借地借家臨時処理法第二条に依つて建物賃借人として法定の期間内に借地の申入れをしたが拒絶されたので静岡地方裁判所熱海出張所に右処理法に基き借地権設定並びに借地条件設定の申立てをし昭和二十五年(シ)第二十三号事件として審理を受けたが申立てを却下された、それで申請人は昭和二十五年九月十九日抗告の申立をし目下東京高等裁判所第五民事部に繋属し審理中である。

三、ところが今度この土地は土地区劃整理に依り道路になりその換地として二十七の八ブロツク即ち熱海市熱海字清水田八百九十四番地(区劃整理に依つて同所八百八十九番地の一となる)の宅地(宅地より道路に面した右側)拾坪三合三勺を受けることに決定し前住居者は引越し目下こゝは空地になつている。然るに被申請人は判決が確定しないのに目下材料を調達し既に切り込みも終り今明日中にはこゝに建物を建てんと急速に準備をしてゐる、若しこのまゝにしておくと被申請人がこの空地に建物を建て仮りに抗告審で申請人が勝訴してもその実行が著しく困難になるのでその保全の為め本件申立てに及ぶものである。

相手方は右仮処分決定を取消す旨の判決を求め、答弁として、つぎのとおり述べた。

一、非訟事件手続法による借地権設定並に条件確定申立事件を本案事件として民事訴訟法による仮処分決定をなすことはゆるされない。

二、本案において申請人の借地権の主張を排斥する旨の第一審裁判があつたのであるから、いまにおいて仮処分申請を認容したのは失当である。

三、申請人は焼失建物につき焼失当時借家権を有せず、申請人のなした優先借地の申出は不適法である。そうでないとしても、相手方の拒絶は正当の事由をそなえている。従つて申請人主張の本案の請求は理由がない。仮処分をゆるすべきものではない。

理由

本件仮処分命令は民事訴訟法第七五五条による、いわゆる係争物に関する仮処分であることは明かである。右法案による仮処分は、現に訴訟における、もしくは将来おこすべき訴訟における係争物に関する権利主張が当該訴訟の結果として是認せられたあかつき、これを実行しようとしても、できなかつたり、または、著しく困難になつたりする不利益をふせぐために、かかるおそれある場合に発すべきものである。従つて仮処分の目的物に関する権利関係を目的とする訴訟が現に係属するか将来提起せらるべきことは、前記法案による仮処分を発する要件のひとつであつて、右の訴訟が民事訴訟法第七五七条第七六一条にいう「本案」である。仮処分は必ず訴訟を本案とするを要するのである。ところが本件仮処分命令は、罹災都市借地借家臨時処理法にもとずき、非訟事件手続法による借地権確認借地条件設定申立事件(第一審静岡地方裁判所熱海出張所昭和二十五年(シ)第二三号当裁判所昭和二十五年(ラ)第二四八号)を本案として発せられたものであつて、他に本案たる訴訟は起されないことを予定していることが、記録上明白である。従つて本件仮処分命令はこれを発すべきでないのに発せられたのであるから違法といわなければならない。

かようなわけで、本件仮処分の失当なことはすでに明かであつて、他の争点について判断するまでもなく、これを取消すべく、申請人の仮処分申請を不適法として却下すべきものである。

よつて訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、仮執行宣言につき第七五六条の二を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判長判事 藤江忠二郎 判事 山口嘉夫 判事 猪俣幸一)

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