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東京高等裁判所 昭和26年(う)2945号 判決 1951年9月04日

控訴人 被告人 森田実こと崔明市

弁護人 小川徳次郎

検察官 八木新治関与

主文

本件控訴を棄却する。

理由

本件控訴の趣旨は末尾に添附した控訴趣意書と題する弁護人小川徳次郎作成名義の書面記載のとおりである。

控訴の趣意第一点について、

刑事訴訟規則第五十七条第五項には、判決書に起訴状その他の書面に記載された事実が引用された場合には、その判決書の謄本又は抄本には、その起訴状その他の書面に記載された事実をも記載しなければならないと規定されているが、判決書に起訴状記載の公訴事実を引用した場合に、その判決書に起訴状の謄本を添附すべき旨を定めた規定がないばかりでなく、判決書は常に起訴状と共に、同一の記録に編綴されているから、判決において如何なる犯罪事実を認定したかは、記録を調査することにより直ちに判明することである。従つて所論刑事訴訟規則第二百十八条の場合には、判決書にその引用した起訴状その他の書面の謄本を添附する必要はないものと解すべきである。論旨は理由がない。

(その他の判決理由は省略する。)

(裁判長判事 下村三郎 判事 高野重秋 判事 久永正勝)

弁護人の控訴趣意

第一点原判決は罪となるべき事実の記載を逸脱した違法があると思料する。即ち判決文は刑事訴訟法第四十四条刑事訴訟規則第三十五条第二項による主文と理由とよりなることがわかり而して有罪の判決言渡をなすには理由として罪となるべき事実証拠の標目及び法令の適用を示さねばならないことは刑事訴訟法第三百三十五条第一項の明記するところである即ち判決文には一定の被告人に対して一定の証拠に基いて一定の罪となるべき事実を認定した上これに一定の法令を適用して一定の結論が記載されなければならない判決文は以上の内容を有する当該被告事件に対する終極的結論に外ならない一個の独立した形式を整へた文書でなければならない従つて当該被告事件の記録より切離してもその判決文それ自体の中に以上の要件が記載され別個の対照となり得る独立性を有する結論文書である然るに原判決は被告人に対して有罪の判決を言渡しているのであるがその罪となるべき事実の表示として原判決は「起訴状記載の公訴事実」と記述して起訴状記載の公訴事実を引用して引用に係る起訴状の謄本を当該判決書の何れの個所にも添付しないで罪となるべき事実を認定しているのである。即ち該判決書を当該被告事件の訴訟記録中に編綴されその一部として見るときは起訴状との対照上認定した事実は窺知することが出来るのであるが判決書それ自体としては単に起訴状の公訴事実を利用しているに過ぎないのでこの謄本が添付されていないので認定事実が判らない前述の如く判決は当被告事件の結論でありそれ自体一個の独立文書であるから訴訟記録と切離しても認定事実が明確に判然としなければならないこのことは刑事訴訟法が特に証拠理由を証拠の標目と規定してその証拠の内容を訴訟記録と不可分視しているのと異り事実理由を「罪となるべき事実」と明記しているところより罪となるべき事実の摘示の場合は具体的に判決文中に特定しなければならないことが推察出来る刑事訴訟規則第二百十八条によると「罪となるべき事実」は地方裁判所又は簡易裁判所に限り起訴状の公訴事実を引用して差支えない旨明記されているから原判決が起訴状記載の公訴事実を引用した場合は引用に係る起訴状の謄本を添付して罪となるべき事実を判決文のそれ自体に特定しなければならないと思料するでないと単に引用したに過ぎないで該判決文のみによつては事実が判然としないこのことは刑事訴訟法第三百三十五条第一項の事実理由を罪となるべき事実と規定し証拠理由を単に証拠の標目と規定した規定の形式の上よりも前示規則の引用の意味を添付の必要がないと解すべきではないと考える即ち原判決は規定の趣旨よりも又判決書の独立性よりも起訴状の公訴事実を引用した場合は必ずその謄本を添付しなければ罪となるべき事実は特定しないのであるから原判決は結局罪となるべき事実を摘示しない違法があるに皈し破棄を免れないと思料する。

(その他の控訴趣意は省略する。)

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