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東京高等裁判所 昭和25年(ネ)63号 判決 1951年4月11日

控訴人 原告 武田譲次 武田寛

訴訟代理人 岡村玄治

被控訴人 被告 国

訴訟代理人 堀内恒雄

主文

本件控訴はいづれもこれを棄却する。

控訴費用は控訴人等の負担とする。

事実

控訴人等代理人は原判決を取消す、控訴人等が出生による日本の国籍を現に有することを確認する、訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とするとの判決を求め、被控訴人代理人は本案前の抗弁として、原判決を取消す、控訴人等の本件訴を却下するとの判決を求め、本案につき本件控訴を棄却するとの判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張は、控訴人等代理人において、控訴人等は米国において日本人夫妻の間に生れ日本の国籍の外米国の国籍をも取得したのであるが、米国の法律によれば米国の国籍を有するものが自己の志望により外国の国籍を取得すれば米国の国籍を喪失するのであるから、控訴人等が申請し内務大臣の許可を得て日本の国籍を取得したとすれば米国の国籍を喪失したこととなる。しかるに控訴人等が現に有する日本の国籍が出生によるのであるとすれば控訴人等は日米両国の国籍を有することとなり現在の日本国内において米国人としての特権を認められ国法上有利な取扱を受けることができるばかりでなく、国籍法の規定に基き日本の国籍を離脱することもできる。これに反し控訴人等が現に有する日本の国籍が回復によるものであるとすれば控訴人等は米国の国籍を喪失し米国人としての待遇を受けることができないばかりでなく、国籍法の規定により日本の国籍を離脱することもできない。従つて控訴人等は現に有する日本の国籍が出生によるものであるとすればこれにより受ける利益は極めて大きい。そればかりでなく、控訴人等は戸籍における日本国籍取得が回復による旨の記載につきその訂正を受けるためにもその趣旨の確認判決を必要とする。

以上のように控訴人等は出生による日本の国籍を有することにつき利益を有するのであるから被控訴人においてこれを争う以上控訴人等はこれが確認を求めるにつき利益を有する次第であると述べ、被控訴人代理人において控訴人等が現に日本の国籍を有している以上その取得の原因が出生によるものであつても特にこれにつき確認を求める利益を有しない。

即ち、(一)被控訴人においては控訴人等が日本の国籍を有していることを争つてはいない。而して控訴人等が出生により日本国籍を有するにせよ、又国籍回復により日本の国籍を有するにせよ日本の国籍を有することには何等の差異は存しない。(二)判決の既判力は主文に包含するもののみについて存するから控訴人等が出生による日本の国籍を有することの確認判決はその理由中に前提として日本の国籍回復の無効の点が判断されていてもこのような判断には既判力は及ばない。従つてこの判断は関係行政庁を拘束する効力はないから控訴人等が右判決により企図する目的、例えば日本国籍の離脱、戸籍の訂正、米国人と同等の配給物の受領、米国への渡航等を容易に達成することはできない。要するに控訴人等が出生による日本国籍を有することにつき確認を求めることは結局その確認の利益を欠くから原判決を取消し控訴人等の本件訴の却下を求めると述べた外、原判決の事実摘示と同一であるからここにこれを引用する。

証拠として、控訴人等代理人等は甲第一、第二号証の各一、二、第三号証、第四、第五号証の各一、二を提出し、原審証人小谷数雄、当審証人岩本政勝の各証言、原審並に当審における控訴人両名本人訊問の結果を援用し、当審証人小谷繁登の喚問を求め、乙第一、第二号証の各一、二の成立を否認し、被控訴人代理人は乙第一、第二号証の各一、二を提出し、甲第一第二号証の各一、二甲第三号証の成立を認め、その余の甲号各証の成立は不知と述べた。

理由

先づ控訴人等が出生による日本の国籍を有することの確認を求める利益を有するや否やにつき判断するに、本訴請求原因によれば控訴人等は米国において日本人を父母として出生し日米両国の国籍を取得したものであるところ、その後日本の国籍を離脱し更に日本の国籍を回復したものとして、その回復により日本の国籍を有することとなつているが右離脱及び回復はいづれもその効力を生じていないものであるとの理由によりこれに基いて控訴人等が出生により日本の国籍を有することの確認を求めるものであることは明かである。而して控訴人等は出生により現に日本の国籍を有することの確認を求めるものであるから、決して過去の事実について確認を求めるものではなく、又控訴人等は日本の国籍につき確認を求めるものであるから決して外国の国籍の存否につき確認を求めるものでないことも明白である。

惟うに、控訴人等が出生により日本の国籍を有することに確定すれば控訴人等は日米両国の国籍を有することゝなるから、国籍法上日本の国籍を離脱し得ることゝなるべく、又控訴人等は戸籍上国籍回復の結果日本の国籍を取得したものとせられているが、出生により日本の国籍を有するものと確定すれば、これに合致するやう戸籍の訂正を求め得ることも明かである。これらの点について考えれば控訴人等が出生により日本の国籍を有するものであるや否やは現在の法律関係の内容をなすものであり、従つてその確認を求めるのは決して過去の事実の確認を求めるものではない。而して控訴人等が現に日本の国籍を有することは当事者間に争がないけれども、控訴人等が出生により日本の国籍を有することを被控訴人において争う以上控訴人等はこれが確認を求める利益を有するものといわなければならない(被控訴人のこの点に関する(一)及び(二)の主張は右の説示に徴すればその理由がないことは自ら明かである)。尤も控訴人等において現に有する日本の国籍が出生によつて取得されたものであることに確定すれば控訴人等は米国において出生したことにより取得した米国の国籍を失うことなく依然これを有することとなろう。而して控訴人等が米国の国籍を有するものとすれば控訴人等は我国において米国人としての特権を享受し得るであろう。しかしかゝる結果は出生による日本の国籍を有することについての確認判決の反射的効果に過ぎない。いう迄もなく米国の国籍を有することの確認を求める訴は米国の裁判所の権限に属し、日本の裁判所の裁判権に属しないが本件訴訟がかゝる外国の国籍の有無について確認を求めるものでないことはその主張自体に徴しても明白である。

要するに控訴人等は出生により日本の国籍を有することの確認を求める利益を有するものといわざるを得ない(当裁判所の右見解に反する最高裁判所の判決(昭和二四年一二月二〇日)の採る理論は賛し難きところである)。然らば控訴人等がかゝる確認を求めることにつき利益なしとして本件訴の却下を求める被控訴人の主張は採用し得ない。進んで本案につき案ずるに、

控訴人武田譲次が大正六年(西暦一九一七年)七月二十七日に控訴人武田寛が大正七年(西暦一九一八年)十月二十四日にいづれも米国カリフオルニヤ州において日本人武田孫市同武田イトヨ夫妻の間に生れ日米両国籍を取得したところ、昭和十二年六月二十四日控訴人等名義を以て日本国籍離脱の届出がなされそれにより控訴人等が右国籍を離脱したものとして戸籍簿上に除籍の記載がなされたことは成立に争のない甲第一、第二号証の各一、二、甲第三号証及び原審並に当審における控訴人等の各供述によつて認めることができる。よつて控訴人等が右国籍離脱の届出について関知していなかつたか否かについて案ずるに、右国籍離脱の届出が控訴人等の父武田孫市によつてなされたことは原審証人小谷数雄の供述によつてこれを認めることができる。しかしながら右証人小谷数雄、当審証人岩本政勝、小谷繁登、原審並に当審における控訴人等の各供述(但後記措信しない部分を除く)を綜合すれば、(一)右武田孫市は予て米国カリフオルニヤ州で食糧品雑貨商を営んでいたが昭和十二年中その財産を整理し一家を挙げて日本へ帰国することと定めたところ、当時恰も日華両国間に紛争が起りその前途は極めて険悪な情勢にあつたので武田孫市は控訴人等が日本の国籍を有したまま帰国するときは後記のように徴兵適令期にあるためその帰国後兵役に徴集されその結果勉学に支障を来たすことを怖れ控訴人等のため前記の国籍離脱の手続を採るに至つたこと、(二)右国籍離脱の届出当時控訴人武田譲次は殆んど満二十年に、控訴人武田寛は満十九年に近い年齢にそれぞれ達していて控訴人武田譲次は米国のハイスクールの課程を学修中であり両控訴人共右(一)の事情をよく諒解することのできる年齢に達し且その智能をも備えていたこと、(三)控訴人等は大平洋戦争終了後である昭和二十年九月十七日に至り右国籍離脱の手続を有効なものとして東京都長官に対し日本の国籍回復を申請しその許可を受けたことを認めることができるところ、これ等の事実を参酌すれば原審並に当審における控訴人等の右国籍離脱の届出には関知しない旨の各供述及び甲第四号証の一、二の同旨の記載には直に信用をおくことができないし、原審証人小谷数雄、当審証人岩本政勝の各供述も控訴人等において右の届出を知らなかつたものと認めさせるのに十分ではなく、他にその事実を認めさせるに足る証拠もない。かえつて右(一)(二)(三)の事実によれば控訴人等において武田孫市が右国籍離脱の届出をなすことを了解しており、国籍離脱は控訴人等の意思に基くものと推測される。しからば右国籍離脱の届出が控訴人等において関知しないものであつて無効であることを前提とする控訴人等の本訴請求は他の点につき判断を加えるまでもなく失当であるからこれと同趣旨の原判決は相当であつて本件控訴は理由がない。

よつて民事訴訟法第三百八十四条第八十九条第九十三条第九十五条を適用し、主文のとおり判決をする。

(裁判長判事 松田二郎 判事 河合清六 判事 岡崎隆)

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