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東京高等裁判所 昭和25年(う)520号 判決 1952年4月24日

本籍 東京都○○区○○町○○番地

住居 同都同区同町○○番地 ○○方

無職

栗林某

昭和九年○月○○日生

右の者に対する窃盜詐欺被告事件につき昭和二十六年十二月十四日東京地方裁判所が言い渡した判決に対し、東京地方検察庁検事正代理検事田中万一から適法な控訴の申立があつたから当裁判所は審理を遂げ左のとおり判決する。

主文

原判決中被告人栗林某に関する部分を破棄する。

本件を東京地方裁判所に差戻す。

理由

本件控訴の趣意は末尾添附別紙(東京地方検察庁検事正代理検事田中万一作成名義の控訴趣意書と題する書面)記載のとおりである。

よつて考察するのに少年法は少年が一般成人とは異りその性格定まらず外部環境に支配され易い傾向を有し、前途なお春秋に富む健全な社会人たり得べき素地範囲の大なるに鑑み、仮令、罪を犯した少年と雖もこれに刑罰をもつて処遇することをせず性格の矯正、環境の調整等適当な育成保護の手段を施すべきものとしてその第三条に罪を犯した少年は先ずこれを家庭裁判所の審判に附すべきことを規定しそれぞれ、当該少年に適応した保護処分の措置に出ずべきことを定めているのであるがこれが例として同法第二十条及び第二十三条は死刑、懲役又は禁錮にあたる罪の事件については犯罪の性質及びその情状に照し一般予防及び特別予防の上から一般の成人と同様刑罰手段によるを相当とするときはこれを刑事処分に附すべき手段に出ずべき趣旨のことを定めているのである。されば家庭裁判所が右定むるところに従い当該少年に対しては保護を適当ならずとして刑事処分に附すべく事件を所定検察庁の検察官に送致した以上検察官は同法第四十五条第五号本人の定むるところに従い、これが事件につき公訴を提起するに足りる犯罪の嫌疑があると思料するときは公訴を提起しなければならないのであつて、その公訴の提起ある限りにおいては爾来当該少年は専ら刑罰権の確定を究極の目的とする刑事審判の対象となるのであるから、他に未だ検察官に送致しない余罪あることを理由として当該少年に対する保護処分を終局の目的とする家庭裁判所の審判手続が更に右刑事手続と並行して二重に推進せらるべき限りではない。果して然らば家庭裁判所から検察官に送致せられた事件の外未だ家庭裁判所の調査乃至審判を経ない罪の事件にして公訴を提起するに足りる余罪が当該検察庁に発覚した場合、検察官において右送致を受けた事件につき公訴を提起するに足りる犯罪の嫌疑があると思料して公訴を提起しなければならない場合、更に右余罪につきこれを家庭裁判所に送致して当該同一少年の保護性乃至は要刑罰性の調査乃至審判を求むるが如きは実質的に全く意味のないことであり訴訟経済の上からも賛同し難きは勿論、若し家庭裁判所から送致のあつた事件につき既に公訴が提起された後他に公訴を提起するに足りると思料する余罪発覚し、当然その逆送を予想されるこれが余罪事件を家庭裁判所に送致しなければならないとするときは或いはその逆送手続が右既に送致を受けた事件の刑事裁判言渡後になされた結果、当該余罪につき更に独立して公訴を提起せざるを得ざるに至りこれが余罪を併合罪又は処罰上の一罪として一個の審判を受くる場合とは明らかに不利益な処罰を受くるに至るべき虞のあることは一般刑事裁判における実情であるに鑑みるも検察官からの右余罪送致手続の妥当でないことが自ら明らかである。従つて以上の理由により検察官が家庭裁判所から同法第二十条又は第二十三条に基ずき刑事処分を相当として送致を受けた事件について公訴を提起するに足りる犯罪ありと思料して公訴を提起しなければならない場合及び公訴を提起した後において公訴を提起するに足り且つ審級の秩序を紊さない限度において併合の審理を請求し得べき余罪の発覚したるにおいては仮令その余罪が罰金以下の刑にあたる場合であつても直ちにこれが公訴を提起し得べく、少年法第四十二条の規定をもつて斯かる場合にすらなお右余罪につき家庭裁判所送致の手続をしなければならない趣旨と解すべきではない。而して若し仮に家庭裁判所から送致を受けた事件が公訴提起の結果無罪に帰した場合、若し家庭裁判所の調査乃至審判を経るときは、或いは保護処分の対象となることのあるべき少年がそうした機会を与えられることなくして直ちに刑事審判の対象となることとなり、一見その処遇において公平を欠くものがあるように見えるけれども、裁判所は斯かる場合少年法第五十五条の規定するところに従い当該少年の被告人の保護処分に付するを相当と認め、決定をもつて事件を家庭裁判所に移送することもできるのであるから、少年に対する処遇において実質的に聊かも彼此公平を失するの虞れはない。されば原審が検察官は少年法第四十五条第五号に従い家庭裁判所から送致を受けた事件についてのみ公訴を提起し得るものであるとして、被告人栗林某に対する昭和二十六年九月八日付起訴状による細野某と共謀の上窃盜をした点に関する公訴事実並びに同年九月十七日付及び十月二十五日付各起訴状による窃盜詐欺の公訴事実は孰れも家庭裁判所から送致された事件でないことを理由に既に検察官において別の犯罪事件について家庭裁判所から少年法第二十条の規定するところに従い、刑事処分を相当として適式に被告人栗林某の送致を受け、適法に当該事件についての公訴の提起をしている事実との関連における前段説明の如き実質な考慮を払うことなく、単に原判決が述ぶるが如き形式的な理由から右公訴はその提起の手段においてその規定に違反したものであるから、刑事訴訟法第三百三十八条第四号に該当する場合であるとして、当該公訴を無効と解し判決で公訴を棄却したことは前段説明するところの理由により正に法令の解釈適用を誤まつたものであり且つ、この誤まりが原判決に影響を及ぼすべきこともまた洵に明らかであるから論旨は理由あるに帰し原判決は到底その破棄を免がれない。

よつて本件控訴の趣意はその理由があるから刑事訴訟法第三百九十七条に則り原判決を破棄し、同法第四百条本文前段に従い本件を東京地方裁判所に差し戻すこととして主文のとおり判決する次第である。

検事大越正蔵関与

(裁判長判事 小中公毅 判事 渡辺辰吉 判事 河原徳治)

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