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東京高等裁判所 昭和25年(う)291号 判決 1950年8月01日

被告人

福田晋治こと

福田悅十郎

主文

原判決を破棄する。

被告人を罰金一万円に処する。

右罰金を完納することができないときは、金百円を壱日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

原審における訴訟費用は全部被告人の負担とする。

理由

弁護人上田四郎の控訴趣意について。

しかし賃金は労働基準法第二十四条第一項によれば、直接個々の労働者に支払わなければならない筋合であるから、同条第二項の規定によつて労働者に対し毎月一回以上一定の期日を定めてこれを支払うべきであるのに、これに違反してその賃金の支払を怠つた場合には、支払期日に賃金の支払を受くべき労働者の数に応じて、各労働者一人毎に独立して同法第百二十条第一号の罪が成立するものと解すべく、従つて各労働者の数に相当する数の併合罪として処断するのを相当とするから、一企業を一單位と考え、企業が單一であれば、支払期の回数、労働者の数とは関係なしに單純一罪が成立するに過ぎないとの論旨は採用することはできない。それゆえ論旨は理由がない。

しかし職権をもつて原判決の擬律を按ずるに原審は、毎支払期日における賃金の不支払を一個の行為と看て、その支払期日において支払を受くべき労働者の数に応ずる犯罪が成立するものとして、刑法第五十四条第一項前段を適用している。けれどもかかる場合には、前段弁護人の論旨に対して説示したとおり、賃金不支払の行為は一個ではなく、支払期日に賃金の支払を受くべき労働者の数に相当する個数の行為及び犯罪が成立する。即ち昭和二十三年十二月分については六十六人の労働者に対する六十六個の行為による同数の各別の犯罪が成立し、以下同様翌二十四年二月分については六十一個、同年三月分については五十六個の行為による同数の犯罪が各別に成立し、以上全部の所為は併合罪の関係にあるものと解すべきであるから、原判決は理由齟齬の違法があり、本件控訴は結局理由があり原判決は破棄を免れない。

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