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東京高等裁判所 昭和25年(う)1187号 判決 1950年7月17日

被告人

山口喜右衞門

主文

原判決を破棄する。

被告人を懲役壹年六月に処する。

原審における未決勾留日数中五拾九日を右本刑に算入する。

原審における訴訟費用中國選弁護人に支給した分は被告人の負担としその余は全部被告人及び原審相被告人小松崎勇の連帶負担とする。

理由

水戸地方檢察庁土浦支部檢察官事務取扱檢察官副檢事野口祐三郞の控訴趣意について。

所論既に確定した他罪の刑の執行と新な被告事件における勾留状の執行とはその性質を異にするものであるから両者共に執行されても弁護人の答弁するように毫も不当でないことは刑事訴訟法第七十條第二項に監獄にいる被告人に対する勾留状の執行に関して規定しているところに微しても明白なところである。

しかしこの事は該勾留の執行を本刑に通算する場合即ち所謂未決勾留の本刑算入と右確定刑の執行とが併立重複しても不当ではないという趣旨ではない。蓋し未決勾留の本刑算入は未決勾留をもつて本刑に換えるものであるから同一の拘禁について未決勾留算入によるその本刑の執行と右確定刑の執行とが二重に執行されること、即ち異れる二個の本刑が同時に行はれる不合理の結果を招來することになるので斯る場合には所謂未決勾留の本刑算入は不当違法であると謂わざるを得ない。

記録を査閲すると被告人は本件詐欺被告事件について昭和二十四年十月十四日勾留状の執行を受けその所謂未決勾留中さきに昭和二十四年十月四日東京高等裁判所において恐喝、窃盜罪により懲役一年六月に処せられた確定判決に関し同年十二月十二日から右刑の執行を受けたものであるから前説示の理由によつて右勾留状執行の日である昭和二十四年十月十四日から該確定刑執行の前日である同年十二月十一日迄の五十九日の未決勾留についてのみ本刑に算入することは正当であるが原判決のように右確定刑執行中の所謂重複拘禁に係る本件被告事件の未決勾留を含めて八拾日を本刑に算入したのは違法であるというべく然も右未決勾留の起算日に関し起訴の日から爲すべしとする檢察官の論旨は勾留更新の始期と未決勾留の算入に関する起算日とを混同した謬論であるが上叙のような理由から檢察官の論旨は結局理由があつて弁護人の此の点に関する答弁は妥当ではない。而して右の違法は判決に影響を及ぼす場合であるから刑事訴訟法第三百九十七條第三百八十條に則り原判決を破棄すべきものとする。

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