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東京高等裁判所 昭和24年(新を)3826号 判決 1950年5月10日

被告人

鈴木正明

主文

本件控訴はこれを棄却する。

当審における未決勾留日数中百弐拾日を右本刑に算入する。

理由

弁護人柴碩文の控訴趣意第一点について。

(イ)(ロ)刑事訴訟法第二百五十六條第三項の規定の趣意とするところは起訴状に記載すべき公訴事実については訴因を明示すべくまたその訴因明示の方式としてはできる限り、日時、場所及び方法等を記載し以て罪となるべき事実を具体的に特定すべきことを定めたものである。從つてできうる限りその日時を具体的に明記することは最も望ましい事でありまた極めて妥当ではあるがかような日時の如きものはこれが記載を脱漏したからというてこの瑕疵を以て直ちに所論のように公訴事実を特定すべき訴因明示の絶対不可欠の要件を欠如し、これが追加補充をも許されない事項の方式違背ありと爲し延いては公訴提起をも無効ならしめる趣旨でなく其後に於て公訴事実の同一性を害しない限度において適法な手続によつて之が追加補充を許しうるものであることは疑を容れないところである。而して本件起訴状記載によると公訴事実として「被告人は羽根田一弘、浜田茂と共謀の上東京都台東区上野動物ライオン舍前において吉廣動のズボン尻ポケツトから同人所有の茶革財布一個(現金八百円在中)を窃取しようとしたが同人に発見されたため窃取の目的を遂げなかつたものである」と記載し、本件犯罪となるべき事実を具体的に明示していることが認められる。只その犯罪日時の記載を欠いていることは所論のとおりであるが、しかし前説示の理由によつて斯る一事由のみを捉え直ちに本件公訴提起を無効とならしめるが如き訴因明示の方式違背の廉があると速断することのできないのは勿論であり、しかも原審第一回公判調書の記載によると原審檢察官は刑事訴訟法第三百十二條第一項刑事訴訟規則第二百九條第五項の規定の趣旨に則り右犯罪の日時を「昭和二十四年七月十七日午後二時三十分頃」と追加して右の瑕疵を補正した事が明白であるから結局において右訴因明示の方式を規定に從つて履践し以て本件罪となるべき事実を適法に具体的に特定したものであり從つて本件には所論の如き公訴提起を無効とすべき手続上の違反はないものと謂わざるを得ない。

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