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東京高等裁判所 昭和24年(新を)2695号 判決 1950年8月23日

被告人

森岡美章

主文

本件控訴はこれを棄却する。

理由

弁護人高林茂男の控訴趣意書第一点について。

仍つて按ずるに、食糧管理法施行規則第二十七条にいわゆる購入劵は同規則第二十五条第一項に規定する農林大臣又は都道府縣知事が発給する購入切符又は購入通帳であつて、苟くも農林大臣又は都道府縣知事が発給した購入切符又は購入通帳である限り該切符又は通帳に記載された人員が実在の人であるか否か又は正当に購入を為し得る資格を有するか否かは毫もこれを問はないものと解すべきを相当とする。蓋し前記規則第二十七条が購入劵の授受を禁止する所以は主要食糧の統制配給を完壁ならしめ其の配給の紊乱を防止せんが為めにして苟くも正当なる発給権限を有する機関の発給に係る購入劵たる限りは其の記載された人員の実在の人なりや架空の虚無人なりやを問はずこれが授受轉々するにおいては統制配給を紊乱するの虞大なるからである。本件につき観るに原判示第一の事実にいわゆる各購入劵は其の記載人員が架空の人員であること洵に所論の通りであるが、該購入劵は孰れも前掲正当なる発給権限を有するものの発給に係るものであること押收に係る該購入劵の記載自体に徴し極めて明白であるから右規則第二十七条にいわゆる購入劵というべく、これを讓受けた場合に該当するのであつて原判決が其の趣旨に基き原判示第一の事実に対し、判示法規を適用したのは寧ろ当然にして、所論の如く罪とならない事実を認めて有罪と為した違法あることなく、所論は独自の見解に基いて原判決の事実認定又は法律の適用を論難するものであつて、論旨は孰れも其の事由がない。

(弁護人高林茂男控訴趣意)

第一點 原判決は罪とならない事実を認めて有罪の宣告をした違法がある。原判決は左記の事実を左記の証拠によつて認定し被告人を懲役一年に処する。訴訟費用は被告人の負担とするとの判決を宣告した即ち、

被告人は

第一、法定の除外事由がないのに拘らず昭和二十四年一月十五日頃橫浜市内櫻木町駅前大江橋附近に於て知人塚本一郞より世帯主山崎滝介等外三十六名名義の世帯人員合計三十七名を記載した家庭用主要食糧購入通帳三冊を譲り受け

第二、実在しない山崎滝介外三十六名名義の架空人員を記載した前記主要食糧購入通帳三冊に基き昭和二十四年一月十八日より同年三月十日迄の間食糧公団神奈川県国府津支所小幡配給所外二ヵ所より別表記載の通り延人員千三百四十二名の主要食糧である。米、パン等米換算合計五百四十七瓩三百六十瓦を不正に受配したものである。(中略)

と、謂うことである。

而して原判決は右第一の事実に対して、食糧管理法第三十一条、第九条、同施行令第七条、同法施行規則第二十七条を適用している。然しながら食糧管理法施行規則第二十七条には「購入劵は、これを他人に譲り渡し、又は他人から譲り受けてはならない」と規定しているが其の購入劵とは同規則第二十五条第一項に規定する「農林大臣又は都道府県知事が主要食糧を自己の生活上又は業務上消費する者(以下消費者という。)に対し、その者が食糧配給公団から主要食糧を購入するための購入切符又は購入通帳(以下購入劵という。)を発給した」購入劵でなければならない。

而して右購入劵は右規則第二十五条によつて正当に発給されたものであつて実在しない架空な人員を記載した購入劵でないものであることは論を俟たないところであり、従つて同規則第二十七条で譲り渡しや譲り受けを禁止している購入劵も亦同じく実在しない架空な人員を記載した購入劵を指称するものでないことも明かである。蓋し同条は購入劵の正当なる名義人が之を他人に譲り渡したり又他人名義のものを譲り受けることを取締るための規則であつて虚無人名義の通帳乃至偽造の通帳の作成授受は他の法令によつて取締ることが可能であるからである。

然るに原判決は判示第二に於て明らかに右通帳は実在しない山崎滝介外三十六名名義の架空人員を記載した主要食糧購入通帳であることを認めているものであるから原判決は罪とならない事実を認め其の事実に対し前記法条を適用して被告人を有罪としたものであるから仮に原判示第一の事実の如く被告人が原判示日時、場所において塚本某なる者より通帳を譲り受けた事実があつたとしても違法の判決たること明かで当然破棄せらるべきである。

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