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東京高等裁判所 昭和24年(新を)2474号 判決 1950年1月28日

被告人

佐藤完雄

主文

原判決を破棄する。

被告人を懲役壱年に処する。

原審竝びに当審における訴訟費用は全部被告人の負担とする。

理由

副検事鵜沢惣一の控訴趣意について。

よつて按ずるに本件起訴状には公訴事実として四個の窃盜の犯罪事実を掲げているが、右四個の犯罪事実には孰れも窃盜罪の構成要件たる事実のほか一々その冒頭に(一)伊藤もよ方硝子戸を捩じ開け屋内に侵入し、六疊の間北側板の間にあつた米櫃内より云々、(二)遠藤ふさ方住家に侵入し北側四疊の間押入内から云々、(三)宮内勘治方に侵入し奧四疊間木箱に入れてあつた云々、(四)「川本壽司方四疊座敷に侵入し云々」の記載があり、恰も窃盜の事実のみならず住居侵入の点をも起訴の範囲に含ましめているものの如くであるに拘らず、罪名の部には窃盜、罰条の部には刑法第二百三十五条と記載しているのみであつて、住居侵入の点には触れていないのであつて、かくの如く起訴の範囲の不明確は、被告人の防禦を著るしく困難ならしめるのみならず、他面裁判所も亦審判の範囲を特定するを得ないから、原審は須く検察官をしてこの点を釈明せしめて、起訴の範囲を明確にするとか、検察官に罰条の追加を命ずる等の措置をとるべきであるのに拘らず、原審はこの点について何等の措置をとつて居らないことは原審公判調書の記載に徴し明らかである。而して右の如き措置をとらない限りは罪名と罰条に照し、被告人の利益のために公訴事実中に記載されている侵入云々なる表現は單に窃盜の手段を示したに過ぎず、訴因を表示するものではないと解すべきである。然るに原判決を査するに起訴状記載のとおりの事実を認定しているのであるが、適条の部においては住居侵入の所爲についても問擬しているのであつて、この点については訴訟の当事者、すくなくも被告人は全く予期しなかつたところであらうし、従つて又全く防禦の機会を失していたものと考へざるを得ず、結局原審は刑事訴訟法第三百七十八条に所謂「審判の請求を受けない事件について判決をした」ことに帰するから、本件控訴は理由があり原判決を破棄すべきところ訴訟記録並びに原裁判所において取り調べた証拠によつて直ちに判決することができるものと認め、更に次のとおり判決する。

(以下省略)

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