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東京高等裁判所 昭和24年(ツ)8号 判決 1950年2月18日

上告人 被告・控訴人 佐藤久作 外二名

訴訟代理人 堀込俊夫

被上告人 原告・被控訴人 佐藤アサヲ

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人等の負担とする。

理由

本件上告の理由は別紙「上告理由書」の通り、これにたいする当裁判所の判断は次の通りである。

第一、二、三点について、

原判決理由の文章は相当混乱しているから、原判決を攻撃しようとすれば、所論のごとく主張してみることになろうが、原判示をよく読んでみれば所論は結局原判示の誤解もしくは曲解であつて、採用に値しないのである。しかし、それはとにかくとして原判決は、本件(ロ)の建物が本件交換契約当時上告人佐藤久作の所有名義でなかつたということのほかに、本件交換契約当時右建物は上告人佐藤久作の所有ではなく、当時同上告人は所有者村上成夫にたいして右建物の買受申込をしてあつただけで、まだ売買契約は成立していなかつたとの事実を証拠によつて確定し、本件交換契約は全く他人の物の所有権を交換の目的としたものであり、上告人佐藤久作はこの所有権を取得して被上告人に移転すること能わざる場合であるとして、民法第五百六十一条、第五百五十九条によつて契約解除をなし得べきものであると説示している。従つて、上告人の所論が、かりに、原判示の誤解ないし曲解でないとしても、被上告人の交換契約解除の主張は理由あることになり、原判決の主文にさしひびきを与えるものではない。であるから上告人所論の誤れることを説明する手数は省略する。

上告理由第四点について。

論旨引用の原判示に明かなごとく、本件の契約は、上告人佐藤久作が原判決目録(ロ)の建物の所有権を被上告人に移転することを約し、これにたいして被上告人は原判決目録(イ)の建物の所有権を上告人佐藤久作に移転することを約し、右(イ)(ロ)の建物の価額の差を埋めあわせるために、上告人佐藤久作から被上告人にたいして金六万五千円を支払うことを約したこと、当事者間に争のないところである。即ち本件契約は、建物の所有権を互に相手方に移転すべき旨を約した民法上の交換契約である。しかして、交換契約において一方の当事者が他の権利と共に金銭の所有権を相手方に移転すべき旨約すること、本件契約のごときも民法の予想するところであつて(民法第五百八十六条第二項参照)かような場合に売買の目的物に関する民法の規定を準用する場合の交換の目的物は金銭の所有権以外の権利のみを意味するものと解するのが相当である。従つて右(ロ)の建物の所有権が上告人佐藤久作に属せず、被上告人に移転することができないと確定された本件については、民法第五百六十三条を準用すべきではなく同法第五百六十一条を準用すべきものである。これに反する本論旨はとうてい採用することができない。

上告理由第五点について。

上告理由第四点について説明した通り、本件については民法第五百六十一条を準用すべく、同法第五百六十三条を準用すべきものでないから、この第五百六十三条を準用すべきことを前提とする本論旨は理由なきこと特に説明を要しない。

以上の通り、各論点いずれも採用しがたいから本件上告は理由なきものと認むべく、よつて民事訴訟法第四百一条第八十九条に従い、主文の通り判決する。

(裁判長判事 中島登喜治 判事 小堀保 判事 藤江忠二郎)

上告理由書

第一点原判決は証拠に依らないで事実を認定した違法がある。

原審は、昭和二十一年十月二日に上告人佐藤久作被上告人佐藤アサヲ間本件家屋交換契約が為されたことを認め、登記簿上は「他人名義に在る状態に於て為された交換」であると判示し右契約当時本件(ロ)建物が登記簿上他人名義であつた如く認定しながらその証拠を示さない。(本件(ロ)建物が他人名義に登記されたのは昭和二十二年七月二十九日である)

第二点原判決は理由齟齬の違法がある。本件建物交換契約は昭和二十一年十月二日為されたことを原審は認定しながら、昭和二十三年七月二十二日当時に於て本件(ロ)建物所有権名義が登記簿上他人名義に属して居つたから「他人名義に在る状態に於て為された交換」であると判示したのは理由齟齬又は理由不備の違法がある。

第三点民法第五百八十六条同五百五十九条に依り同第五百六十条以下を適用するに当リ「他人名義に在る状態に於て為された交換」なりや否やは契約当時現在を以つて定むべきである。

然るに原審は「被控訴人よリ前示解除の意思表示ありたる昭和二十三年七月二十二日当時に於ては尠くとも控訴人佐藤は被控訴人に対し本件(ロ)建物の所有権移転登記手続を為すこと能はざりしものと謂ふべきものである。-から他人名義に在る状態に於て為された交換」だと為すは法律的判断乃至は解釈を誤つたものである。

第四点「被上告人が昭和二十一年十月二日上告人佐藤久作との間に被上告人所有の別紙目録(イ)の建物一棟と、当時同上告人所有と称されて居た別紙目録(ロ)の建物一棟とを其の価格(イ)は金拾弍万円(ロ)は金五万五千円として交換すべく、其の差額六万五千円の内金参万五千円は同日同上告人より被上告人に支払ひ残金参万円は同上告人に於て被上告人の為め家屋を建築すべく其の費用として之を預ることを約し、右契約の翌三日相互に各家屋の引渡を了したこと」は原審認定事実である。

右に依れば上告人佐藤久作は被上告人から本件(イ)建物一棟の所有権移転を受け、その反対給付として被上告人に対し本件(ロ)建物一棟の所有権と金六万五千円を支払ふものである。而してそのうち六万五千円は支払済であるから本件(ロ)建物所有権移転登記義務のみが上告人佐藤の責任として残る。これは右交換契約に依り生じた全債務の四割五分八厘強(拾弍万円に対する五万五千円)で「交換ノ目的タル権利ノー部」である。

然るに原審は右本件(ロ)建物について「所有名義人より所有権の移転登記を受くること能わず従つて交換の相手方に対し移転登記の義務履行し得ない場合」には「民法第五百六十一条の適用あり」と判示した。民法第五百六十一条は交換契約に基因する給付の目的物全部につき履行不能の場合を規定したものである。原審は、右冒頭認定の如く「交換ノ目的タル権利ノー部」につき履行不能の場合であるに拘らず民法第五百六十三条を適用しなかつたことは法律の適用を誤つたものである。

第五点原判決は審理不尽の違法がある。上告人佐藤は交換の目的たる権利中五割四分二厘弱相当の六万五千円履行済で残部四割五分八厘強即ち交換の目的たる権利の一部にすぎない本件(ロ)建物の所有名義が他人に属するに囚り被上告人に移転すること能はざるものである。故に被上告人は民法第五百六十四条に依り本件交換契約締結時である昭和二十一年十月二日から一年内若くは事実を知リたる昭和二十二年四月九日(被上告人の第一審訴状並に甲第二号証に明記)から一年内である昭和二十三年四月九日迄に契約解除の意思表示をしなければならない。然るに被上告人は昭和二十三年七月二十二日に至つて右解除の意思表示をしたのであるから無効である。

即ち原審は本件交換契約に於て上告人佐藤久作の責任に帰せらるべき履行不能は交換の目的たる権利の全部が他に属する為なるか将又その一部が他人に属するためなるかを審理せず漫然民法第五百六十一条を適用したのは審理不尽の違法あるものである。

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