大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 平成9年(行コ)191号 判決 1998年10月28日

東京都中央区銀座三丁目一一番一三号

控訴人(甲事件原告)

株式会社 松本倶楽部

右代表者代表取締役

松本忠東こと李忠東

東京都渋谷区大山町一八番九号

控訴人(乙事件原告)

松本祐正こと李承魯

右両名訴訟代理人弁護士

山下一雄

東京中央区新富二丁目六番一号

被控訴人(甲事件被告)

京橋税務署長 受川正

東京都武蔵野市吉祥寺本町三丁目二七番一号

被控訴人(乙事件被告)

武蔵野税務署長 堀之内健二

右両名指定代理人

森悦子

木上律子

川口信太郎

川上昌

主文

一  本件控訴をいずれも棄却する。

二  控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実及び理由

第一控訴の趣旨

一  原判決を取り消す。

二  甲事件被控訴人が平成四年一一月二六日付けでした、甲事件控訴人の昭和六三年一〇月一日から平成元年九月三〇日までの事業年度に係る法人税の更正のうち、所得金額一八三四万九九〇〇円、納付すべき税額六二四万九三〇〇円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定を取り消す。

三  乙事件被控訴人が平成四年三月一二日付けでした、次の各更正及び過少申告加算税賦課決定を取り消す。

1  乙事件控訴人の昭和六三年分の所得税の更正のうち総所得金額五億〇四八五万八五五〇円、納付すべき税額四億五八一七万二三〇〇円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定

2  乙事件控訴人の平成元年分の所得税の更正のうち分離株式等の譲渡所得金額八八一二万四二〇〇円、納付すべき税額一七六二万四八〇〇円の部分及び過少申告加算税賦課決定

四  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

第二事案の概要

本件事案の概要は、次の一のとおり加除訂正し、二のとおり「二 争点<1>」の部分を原判決四〇頁の五行目の次に、改行して加えるほか、原判決の「事実及び理由」の「第二 事案の概要」に記載のとおりであるから、これを引用する。

一  (加除訂正部分)

1  原判決一一頁八行目の「原稿会社の」を「原告会社への」と改める。

2  原判決二八頁一行目の「有効である」を「有効であり、かつ、昭和六三年分につき、総合長期譲渡所得対象株数と総合短期譲渡所得対象株数とが被告ら主張のとおりのもの(それぞれ、八〇〇〇株、二万二〇〇〇株)である(なお、原告らの主張では、それぞれ一万株、二万株)」と改める。

3  原判決三〇頁一、二行目の「昭和三五年二月一日に取得している」を「遅くとも昭和四五年二月一日までには取得していたものである」と改める。

4  原判決四〇頁六行目の「二 争点」を「三 争点<2>」と、同四一頁七行目の「争点」を「この争点<2>」と、同五二頁二行目の「に計算」を「で換算」と同五六頁六行目の「三 証拠」を「四 証拠」と、それぞれ改める。

二  (付加部分)

「二 争点<1>

本件売買契約(一)の三万株につき、被告らは、総合長期譲渡所得対象分が八〇〇〇株、総合短期譲渡所得対象分が二万二〇〇〇株であると主張し、原告らも原審においてはこれを認めていたが、当審においては、それぞれ、一万株、二万株であるとして争うに至っている。この争点<1>に係る当事者の主張は次のとおりである。

(原告ら)

原告らは、(1)原告祐正は本件増資の直前には、前記のとおり、松本祐商事の株式一万株を保有していたところ、松本祐商事は、本件増資における新株(引受権)の割当方法として、所有株式一株につき一・四株としたことから(甲第三二号証)、原告祐正に割り当てられた新株は一万四〇〇〇株となり、これにより原告祐正の保有する同社の株式は二万四〇〇〇株となったが(甲三三号証)、(2)昭和六二年九月三〇日松井清澄及び仙田八千代より、右両名が保有する同社の株式合計一万二〇〇〇株を譲り受けたため(甲第三四号証の一ないし五八)、原告祐正の保有する同社の株式は三万六〇〇〇株となったとした上で、前記のとおり主張するものである。

(被告ら)

被告らは、原告祐正は、本件増資前に松本祐商事の株式一万株を保有していたところ、本件増資により二万八〇〇〇株を取得したので、合計三万八〇〇〇株を保有することとなったが、本件売買契約(一)の直前の保有株数は三万六〇〇〇株であるから、本件増資と本件株式取引の間に同社株式二〇〇〇株を譲渡していたものと認められるとして、前記のとおり主張するものである。なお、被告らは、そもそも、原告らの右主張は、民事訴訟法一五七条一項により、時機に後れて提出した攻撃防御の方法に当たるとして却下されるべきである旨も主張している(これに対して、原告らは、同条同項の要件を満たさないとして争っている。)。」

第三争点に対する判断

当裁判所も、本件全資料を検討した結果、原告らの請求は理由がないので棄却すべきものと判断する。

その理由は、次の一のとおり加除訂正し、二のとおり「第三 争点<1>に対する判断」の部分を原判決五六頁の八行目の次に、改行して加えるほか、原判決の「事実及び理由」の「第三 争点に対する判断」において説示のとおりであるから、これを引用する。

一  (加除訂正部分)

1  原判決五六頁九行目の「第三 争点に対する判断」を「第四 争点<2>に対する判断」と改める。

2  原判決五六頁一一行目の「第一一」の次に「、第三〇」を加え、同五八頁九行目の「第二八」の次に「、第三〇」を加える。

3  原判決六二頁八行目の「べきである。」を「べきであって、原告祐正の陳述書(甲第三〇号証)の記載中、右認定に反する部分については採用しない。また、甲第三一号証中には、右認定に反するが如き部分が存するが、乙第一一、第一二号証に照らし、右認定を左右するものとは認め難い。」と改める。

4  原判決六三頁九行目の「、忠東自身」から同六四頁一行目の「記載していること」までを削る。

5  原判決七二頁八行目の「したがって、」を「よって、本件売買契約(一)について前記課税の対象とならないことが右契約の動機となっており、その点で動機の錯誤があったものとは認められない。また、」と改め、同頁一一行目の「およそ」を削り、同七三頁の四行目の「また、」から五、六行目の「しても、」までの部分を「仮に、課税の有無に関し何らかの錯誤が存したとしても、」と改め、七行目の「るから、」の次に「やはり、」を、八行目の「ない」の次に「こととなる」を、それぞれ加える。

6  原判決七七頁の二行目の「おり、」から四、五行目の「並びに」までの部分を「いること及び」と改め、七行目の「以上」を「右」と改める。

7  原判決八〇頁五行目の「事情」の次に「自体について」を加え、六行目の「において」の次に「前記のとおり」を加える。

8  原判決八一頁五、六行目の「錯誤の要件としての動機の表示があったと」を「前記課税の対象とならないことが右契約の動機となっており、その点で動機の錯誤があったこと及び右の動機の表示のあったこと」と改め、九行目の「であるから、」の次に「やはり、」を、一一行目の「ない」の次に「こととなる」を、それぞれ加える。

二  (付加部分)

「第三 争点<1>に対する判断

1  証拠(甲第二二号証の一、乙第二六ないし第三〇号証)を総合すると、以下の各事実が認められる。

原告祐正は、松本祐商事の昭和五九年一二月一九日付け増資(以下「本件増資」という。)の直前の時点において、松本祐商事の株式を一万株有していた。そして、右一万株の株式は、遅くとも昭和四五年二月一日までには取得していたものであり、本件売買契約(一)が行われた昭和六三年一二月二七日からみて五年より前の取得に係るものである。

原告祐正は、本件増資時に、新たに、二万八〇〇〇株を取得すべく、二万八〇〇〇株についての新株式申込証(乙第二九号証)を松本祐商事に提出し、発行価額が一株五〇〇円のため合計一四〇〇万円を口座振り込みの方法により現金で支払い(乙第三〇号証)、右申込みに係る二万八〇〇〇株を取得した。

右申込みに係る株式取得の結果、原告祐正の保有株数は三万八〇〇〇株となった(乙第二八号証)。

そして、原告祐正は、昭和六三年一二月二七日の本件売買契約(一)の直前の時点において、松本祐商事の株式三万六〇〇〇株を保有していたところ、本件売買契約(一)により、原告会社に同社株式三万株を譲渡した結果、その後の同社株式保有数は六〇〇〇株となった(甲第二二号証の一)。

よって、原告祐正は、本件増資から本件売買契約(一)までの間に、松本祐商事の株式を(差引で)二〇〇〇株だけを譲渡したものと認められる。

2  なお、甲第三二号証の取締役会議事録には、本件増資につき、増資前の所有株式一株につき一・四株の株式(新株引受権)が割り当てられた旨の記載があるが、右記載に沿う取締役会決議が存在するとしても、新株引受権については、商法二八〇条の五第四項により、新株引受権を与えられた株主が一定の期日までに株式の申込みをしない場合には、その権利を失うものであるところ、証拠(乙第二九ないし乙第四八号証)によると、本件増資前の株主のうち松本承一(増資前一万株)、松井清澄(同二五〇〇株)及び仙田八千代(同二五〇〇株)については、新株につき株式申込みをしなかったものであるが、他方、原告祐正は(前記決議が存在するとした場合に新株引取権を有することとなる分の一万四〇〇〇株を超えて)二万八〇〇〇株の新株を申し込み、かつ、新株引受金の支払を払込期日までに了した事実(なお、忠東も前記決議が存在するとした場合に新株引受権を有することとなる分の一万四〇〇〇株に加えて七〇〇〇株の新株を取得している。その他の株主については、それぞれ前記決議が存在するとした場合に新株引受権を有することとなる分の新株を引き受けて取得している。そして、前記決議が存在するとした場合に、右松本承一らが新株引受権を有することとなる分の新株数である合計二万一〇〇〇株は、原告祐正と忠東との右各差分の合計二万一〇〇〇株に対応することとなる。)が認められるのものであるから、甲第三二号証は、前記認定を左右するものではない。

また、甲第三三号証(株主名簿写し)には、昭和五九年一二月一九日時点での原告祐正の保有株数が二万四〇〇〇株である旨の記載があるようであるが、同書証の体裁からして松本祐商事の正式な株主名簿であるかどうか疑問であり、かつ、その趣旨内容あるいは作成状況等も必ずしも判然としない上、増資後の保有株数を示す乙第二八号証、前掲乙第二九ないし乙第四八号証に照らすと、甲第三三号証の記載も前記認定を左右するものとは認め難い。

3  ところで、所得税基本通達九―二〇(平成元年一二月六日改正前のもの)(乙第二五号証)では、先入先出の方法により長期譲渡所得、短期譲渡所得のいずれに該当するかを判定することとされているが、これは、一般に有価証券の価値が保有期間の長短、取得時期、証券の番号等によって左右されるものではなく、流通上もこれらが重視されているわけではないこと、法令上資産の譲渡に係る税額の計算は、前記のとおり総合短期譲渡所得よりも総合長期譲渡所得の方が少額となる構造となっていることからして、長期保有分から優先して譲渡されていくという先入先出の方法で総合長期譲渡所得・総合短期譲渡所得の区別を判定することが、有価証券の資産としての特性や税額計算構造からみて合理的であると認められる上、納税者にとっても判定が容易であるという点での合理性を有するものと認められるのであって、妥当な方法であると解される。

4  そこで、この先入先出の方法によると、原告祐正が本件増資と本件売買契約(一)との間に譲渡したと認められる前記二〇〇〇株は、本件増資時前に取得していた前記一万株のうちから譲渡されたものと判定されることとなり、したがって、本件売買契約(一)の直前に原告祐正が保有していた株式三万六〇〇〇株の内訳としては、本件増資前に取得していた前記一万株の残りの株式が八〇〇〇株、本件増資により取得した株式が二万八〇〇〇株となる。そうすると、本件売買契約(一)により原告祐正が譲渡した前記株式数三万株については、右の先入先出の方法によると、そのうち八〇〇〇株が本件増資時前に取得していた前記八〇〇〇株となり、残り二万二〇〇〇株が本件増資により取得した株式二万八〇〇〇株の一部となる。よって、本件増資前取得の前記八〇〇〇株については、前記のとおり、当該取得から本件売買契約(一)までの期間が五年を超えるものと認められるから、総合長期譲渡所得の対象となり、残りの二万二〇〇〇株については、本件増資から本件売買契約(一)までの期間が五年に満たないので総合短期譲渡所得の対象になるものと解される。

なお、右の検討は、本件増資と本件売買契約(一)との間において、二〇〇〇株の譲渡のみがされた場合について行ったものであるが、これと異なり、右期間中に譲渡と取得の双方がされその結果として差引で二〇〇〇株の譲渡となる場合であれば、先入先出の方法によると、総合長期譲渡所得対象分株数は更に減少することとなることはいうまでもない。

5  以上のとおりであって、右争点<1>に関する原告らの主張は失当であるといわざるを得ない。したがって、原告らの当審における付加部分の主張(争点<1>)は時機に後れて提出した攻撃防御の方法に当たるとして却下されるべきであるとする被告らの主張については、特に判断しない。」

第四  結論

以上のとおりであって、同旨の原判決は相当であり、本件控訴はいずれも理由がないからこれらを棄却することとし、控訴費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法六七条一項、六一条、六五条一項を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 塩崎勤 裁判官 橋本和夫 裁判官 大渕哲也)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例