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東京高等裁判所 平成9年(行ケ)73号 判決 1998年10月20日

東京都千代田区丸の内2丁目6番1号

原告

古河機械金属株式会社

代表者代表取締役

佐々木荒

訴訟代理人弁理士

森哲也

内藤嘉昭

崔秀喆

宮崎忠之

香川県高松市一宮町1508番地3

被告

横井鋼業株式会社

代表者代表取締役

横井昇

訴訟代理人弁護士

吉澤敬夫

弁理士 山内康伸

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第1  当事者の求めた裁判

1  原告

「特許庁が平成7年審判第20946号事件について平成9年3月3日にした審決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決

2  被告

主文と同旨の判決

第2  請求の原因

1  特許庁における手続の経緯

被告は、名称を「二段式駐車装置におけるパレット傾斜装置」とする登録第1690779号実用新案(昭和57年8月11日出願、昭和62年1月7日出願公告、昭和62年7月27日設定登録。以下「本件考案」という。)の実用新案登録権者である。

原告は、平成7年9月28日、本件考案の登録を無効とすることについて審判を請求をした。

特許庁は、この請求を同年審判第20946号事件として審理した結果、平成9年3月3日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、同月12日原告に送達された。

2  本件実用新案登録請求の範囲の記載

床面に固着した門形支柱2両側のガイドレール5に係合する上下の転輪7、8を備えた昇降枠6を門形支柱2に昇降自在に設け、自動車を載置すべく構成した昇降パレット9の長手方向一方を前記昇降枠6下端に固着突設して昇降体Aを構成し、該昇降体Aを門形支柱2に取付けた巻取り巻戻し装置12の牽引条13によって門形支柱2に吊設してなる駐車装置において、ガイドレール5を昇降パレット9突出側に設けた前縁3および昇降パレット9突出の反対側に設けた後縁4からなる立設した溝状に形成するとともに、昇降体A下降時における昇降枠6の上方の転輪7と後縁4との係合位置より下方において後縁4を折曲して後縁4のみ昇降パレット9突出側と反対方向に3~10゜傾斜させて拡張溝を形成するともに門形支柱2の門形を側方より見たとき、上下の転輪7、8を結ぶ線と昇降パレット9とのなす角度を87~80゜になるように、かつ後縁4の前記傾斜角と上下の転輪7、8を結ぶ線と昇降パレット9とのなす角度との和が略々90゜になるように昇降パレット9を昇降枠6に固着したことを特徴とする二段式駐車装置におけるパレット傾斜装置。(別紙2参照)

3  審決の理由

審決の理由は、別紙1審決書写し(以下「審決書」という。)に記載のとおりである。

4  審決の認否

審決書Ⅰ(手続の経緯・本件考案の要旨)は認める。ただし、審決書3頁7行目の「後緑4」は「後縁4」の誤記と認める。

同Ⅱ(請求人の主張)は認める。

同Ⅲ(甲号各証の記載事項)は認める。ただし、審決書7頁10行目の「ガイド溝か」は「ガイド溝が」の誤記と認める。

同Ⅳ(当審の判断)中、(無効理由1について)は、請求人の主張内容(同14頁10行ないし15頁16行)及び「本件補正では、後縁4傾斜角度を「3~10゜」とし、上下の転輪7、8を結ぶ線と昇降パレット9とのなす角度を「87~80゜」としているが、これらの角度に厳密な臨界的意義があるわけではな(い)」」(同15頁18行ないし16行2行)ことは認め、その余は争う。

(無効理由2について)のうち、本件考案と甲第5号証に記載のものとの一致点、相違点の認定(同16頁16行ないし17頁13行)は認める。甲第3号証についての認定、判断(同17頁16行ないし18頁4行)のうち、甲第3号証に記載のものが「駐車台板を両持ちするもので、本件考案のように、昇降パレットを支柱にて片持ちするものとは技術的に著しく異なる。」(同17頁20行ないし18頁3行)は争い、その余は認める。甲第4号証についての認定、判断(同18頁5行ないし16行)は、「必須の」(同18頁13行)は争い、その余は認める。甲第6号証についての認定、判断(同18頁17行ないし19頁3行)のうち、「甲第6号証に記載のものは、本件考案のように、上昇位置において昇降パレットの先端側を持ち上げる構成とすることにともなって、後縁を拡張溝とするものではない」(同18頁17行ないし20行)ことは認め、その余は争う。効果についての判断(同19頁4行ないし6行)は争う。まとめ(同19頁7行ないし10行)は争う。

(無効理由3について)のうち、請求人の主張内容(同19頁12行ないし15行、20頁5行から10行「張している。」まで、20頁16行から19行「主張している。」まで)、並びに、前記の角度範囲の組み合わせが、昇降パレットの上昇時に昇降パレットの先端を少し持ち上がらせ、昇降パレットの下降時に昇降パレットを略水平にするという作用効果を生み出していると「明細書に記載しているのである」(同21頁5行)こと、及び上記角度の組み合わせの意義は、「支柱の根元に強度を高めるのに有効な拡張溝を形成することにある」(同21頁10行、11行)ことは認め、その余は争う。

同Ⅴ(まとめ)は争う。

5  審決を取り消すべき事由

審決は、本件補正が明細言の要旨を変更するためその出願日が繰り下がるものであるのに、この点の判断を誤ったため、本件考案の進歩性の判断を誤ったものであり(取消事由1)、要旨変更の点についての判断に誤りがないとしても、進歩性の判断を誤り(取消事由2)、明細書の記載不備の点についての判断を誤った(取消事由3)ものであるから、違法なものとして取り消されるべきである。

(1)  取消事由1(明細書の要旨変更についての判断の誤り)

審決は、「本件補正では、後縁4の傾斜角度を「3~10゜」とし、上下の転輪7、8を結ぶ線と昇降パレット9とのなす角度を「87~80゜」としているが、」(審決書15頁18行ないし16頁1行)、「これらの記載は機能と構造を数値をもって記述したにすきない。よって、本件補正は願書に添付した明細書の要旨を変更する補正であるということはできない。」(同16頁3行ないし5行)と判断するが、誤りである。

<1> 願書に最初に添付した明細書及び図面(本訴における甲第2号証。以下「出願時明細書」という。)に記載された考案(以下「出願時考案」という。)にあっては、「後縁4の拡張溝の傾斜角」(以下、「拡張溝傾斜角」という。)と、「上下の転輪7、8を結ぶ線と昇降パレット9とのなす角度」(以下、「昇降パレット形成角」という。)との和が、ほぼ90゜でないとしても、昇降パレットが、その上昇格納位置において先端側が持ち上がり、その下降位置において水平になるという所定の作用が得られたが、本件補正により、拡張溝傾斜角及び昇降パレット形成角のそれぞれの範囲を限定するとともに、それら二つの角度の和をほぼ90゜に限定した結果、前記所定の作用を発揮できるとは限らず、出願時明細書に開示された範囲外のものを含むことになり、本件補正は、出願時明細書の考案の要旨を変更するものである。すなわち、

<2> 出願時考案

出願時明細書(甲第2号証)の実用新案登録請求の範囲には、「後縁4のみ後方に僅かに傾斜」という文言と、「上下転輪7、8を結ぶ線に対して昇降パレット9を直角より僅かに鋭角」という文言とが含まれている。

そして、出願時明細書の考案の詳細な説明の記載のうち、上記2つの角度に関する文言に対応した記載としては、「後縁4の下部を後方へ僅かに傾斜させ」という記載(2頁10行ないし11行)と、「直角より鋭角」という記載(3頁5行、6行)とがあり、上記2つの角度同士の関係を特定するための記載として、「下方転輪8の前記傾斜による後退分だけ直角より鋭角となるように」という記載(3頁5行、6行)がある。

これらの記載によれば、出願時考案は、次のようなものである。すなわち、原告参考図第1図(別紙3第1図参照)に示すように、後縁4の下部を後方に僅かに傾斜させて拡張溝を形成する。ここで、拡張溝傾斜角をθ1とする。次に、原告参考図第2図(別紙3第2図参照)に示すように、昇降パレット9が下降位置にあるときには、下方の転輪8が拡張溝に入り込んだ分だけ後退して上下の転輪7、8同士が前後方向にずれるから、上下の転輪7、8を結ぶ線と昇降パレット9とのなす角度(昇降パレット形成角)が直角であると、昇降パレット9は、下降位置にあるときに水平になることができない。そこで、下方転輪8の前記傾斜による後退分(原告参考図第3図(別紙3第3図参照)におけるBの量)に相当する分だけ直角より鋭角とするものである。ここで、上下の転輪7、8を結ぶ線と昇降パレット9とのなす角度(昇降パレット形成角)をθ2とすると(原告参考図第3図(別紙3第3図)参照)、昇降パレット9は、下降位置にあるときに、水平になることができるが、上昇格納時には、昇降パレット9は、原告参考図第4図(別紙3第4図参照)に示すように、先端側が持ち上がるようになるのである。

さらに、出願時明細書の考案の詳細な説明には、「後縁4下方を後方に傾斜させているが、この傾斜は、昇降枠6の下降時における上方転輪7の係合位置より下方において傾斜させ」という記載(甲第2号証2頁20行ないし3頁3行)がある。上記「上方の転輪7と後縁4との係合位置」とは、下降位置にあるときの上方の転輪7に最も近接する後縁4の部位(原告参考図第5図(別紙3第5図参照)の点A)を意味すると考えられる。上記記載によれば、後縁4における拡張溝の折り曲げ位置は、昇降枠6の下降時における上方の転輪7と後縁4との係合位置よりも下方であればよいのであるから、拡張溝の候補としては、原告参考図第5図に破線で示すように多数のものが考えられる。ここで、「昇降パレット形成角θ2」は、拡張溝傾斜角θ1によって決まるのではなく、本質的には下方転輪8の後退量Bによって決まるものである。この点は、原告参考図第5図に示す拡張溝の候補のうちの何れを選択した場合でも、下方転輪8の後退量Bには影響がなく、昇降パレット形成角θ2を変える必要がないことからも容易に分かる。

このように、出願時考案にあっては、拡張溝傾斜角θ1と昇降パレット形成角θ2との和がほぼ90゜である場合も、そうでない場合も、所定の作用を得ることができたのであって、要は、下方転輪8の拡張溝転動時の後退量Bに相当する分だけ昇降パレット形成角θ2を直角より鋭角にすることを必須の要件としていたのであり、拡張溝傾斜角θ1と昇降パレット形成角θ2との和を限定する理由はなかったし、実際にも、出願時明細書においてはそのような限定は一切されていなかったものである。

<3> 本件考案(本件補正後の考案)との相違点

出願時考案と本件考案(本件補正後の考案)との構成要件の相違点としては、

ⅰ)出願時考案では拡張溝傾斜角を「僅かに傾斜」と表現しているのに対し、本件考案では拡張溝傾斜角を具体的に「3~10゜」としている点(第1の相違点)、

ⅱ)出願時考案では昇降パレット形成角を「直角より僅かに鋭角」と表現しているのに対し、本件考案では昇降パレット形成角を具体的に「87~80゜」としている点(第2の相違点)、

ⅲ)出願時考案では、拡張溝傾斜角と昇降パレット形成角との和を限定するのではなく、昇降パレット形成角を、下方転輪8の拡張溝転動時の後退分に基づいて決定しているのに対し、本件考案では拡張溝傾斜角と昇降パレット形成角との和の概念によって「略々90゜」と規定している点(第3の相違点)

がある。

<4> 出願時考案と本件考案との相違点についての検討

上記ⅰ)ないしⅲ)の各相違点を総合的に検討すれば、本件補正が明細書の要旨を変更するものであることは明らかである。すなわち、

(a) 出願時考案では、拡張溝傾斜角θ1と昇降パレット形成角θ2との和を限定するのではなく、特定の拡張溝傾斜角θ1が決まった場合、それによる下方転輪8の後退分を考え、その後退分による昇降パレット9の前傾角度分だけ、昇降パレット形成角を直角より鋭角にしているのである。したがって、両角度の和を積極的に「略々90゜」にする必要性はどこにもないのである。

(b) これに対し、本件考案では、拡張溝傾斜角θ1と昇降パレット形成角θ2との和を「略々90゜」に限定しているが、実際は、両角θ1とθ2との間には互いに拘束し合う有機的な関連が存在するわけではない。拡張溝傾斜角θ1は、後縁4の折り曲げ角度のみによって決まるものであるのに対し、下降時に昇降パレットを水平とする昇降パレット形成角θ2は、上下の転輪7、8間の距離やガイドレール5の幅にも影響されるものである。このため、例えば、拡張溝傾斜角θ1を10゜とし、昇降パレット形成角θ2を80゜としても、上下の転輪7、8間の距離やガイドレール5の幅を特に限定していないため、それら距離や幅を自由に選定してしまうと、大部分の場合は、昇降パレット9は、原告参考図第8図(別紙3第8図参照)(a)ないし(c)に示すように、その下降位置にあるときに先端側が持ち上がってしまうか、あるいは、原告参考図第8図(d)に示すように、先端側が下がってしまうのである。θ1=10゜、θ2=80゜という条件下において、昇降パレット9を、その下降位置にあるときに水平にするためには、実は、原告参考図第9図(別紙3第9図参照)に示すように、拡張溝Pと上下の転輪7、8を結ぶ線Qとが平行であることが必要だったものである。

そして、原告参考図第9図に示すように昇降枠6とガイドレールとが組み合わされることは、本件考案の実用新案登録請求の範囲では限定されていないものである。

(c) このように、本件考案は、出願時考案と明らかに異なる作用を発揮するものであり、その技術的範囲を異にするから、本件補正は、単に出願時に開示されていた考案を数値で限定したというような域に止まるものではなく、明細書の要旨を変更するものである。

<5> 被告は、ガイドレールの幅と転輪との大きさとの間に差がないことを示すために乙第1ないし第22号証を提出するが、これらのガイドレールに示されたガイドレールは、ガイドレールが左右あるいは全方向に規制案内される必要があるから被告主張のような形式となっているものである。これに対し、甲第11号証(特開昭49-8939号公報)及び甲第12号証(特開平5-340127号公報)では、転輪の直径に比べてガイドレールの幅が明らかに広い装置例が示されている。

<6> 結論

したがって、本件考案の出願日は本件補正の手続補正日まで繰り下がり、本件考案は、その手続補正日前に出願公開された出願時考案(甲第2号証)に基づいて当業者が極めて容易に考案することができたものである。

(2)  取消事由2(進歩性の判断の誤り)

審決は、「本件考案は、甲第3号証乃至甲第6号証の各考案を組み合わせて当業者がきわあて容易に考案をすることができたものであるとする請求人の主張は、採用できない。」(審決書19頁7行ないし10行)と判断するが、誤りである。

<1> 拡張溝等以外の点

本件考案の構成要件のうち、支柱を門形にする構成や、昇降枠を巻取り巻戻し装置によって昇降させる構成等の構成要件は、甲第3ないし第5号証にすべて開示されている。

(a) すなわち、甲第3号証に記載されたものと本件考案とを対比すると、両者は、上昇格納時に昇降パレットの先端側を持ち上げるようになっている二段式駐車装置という点で共通する。しかも、甲第3号証に記載されたものは、ガイドレールに相当するガイド溝2と、昇降枠に相当する架台6と、上下の転輪に相当するガイドローラ9a、9bと、昇降パレットに相当する駐車台板11と、を備えている。

しかし、本件考案は明らかに片持ち式の二段式駐車装置であるのに対し、甲第3号証に記載されたものは、駐車台板の車両の重心付近を流体圧シリンダにて支持する構成となっている。

本件考案の主目的は「格納時の昇降パレットの梁にかかる曲げモーメントを減少させる」(甲第8号証4欄5行ないし7行)ことにあるが、昇降パレットの傾斜が大きくなればなるほど、昇降パレットの梁に垂直な垂直分力よりも梁に平行な水平分力が大きくなることは、二段式駐車装置の昇降パレットが片持ち式であっても両持ち式であっても同じことであるから、昇降パレットの梁にかかる曲げモーメントは、二段式駐車装置が片持ち式であろうがなかろうが、昇降パレット9の先端側を持ち上げれば当然に減少するものである。

以上の点を踏まえて、本件考案と甲第3号証に記載されたものとを対比すると、両者は、第1に、床面に固着された支柱が、前者は門形であるのに対し、後者は門形でない点、第2に、昇降パレット(駐車台板)を上下動させる手段が、前者は巻取り巻戻し装置であるのに対し、後者は流体圧シリンダである点、第3に、上昇位置にある昇降パレット(駐車台板)の先端側を持ち上げる構成が、前者はガイドレールの後縁の下端側に形成した拡張溝であるのに対し、後者はガイド溝の上端に形成した係止溝である点、第4に、上下の転輪(ガイドローラ)を結ぶ線に対する昇降パレット(駐車台板)の角度が、前者が「87~80゜」であるのに対し、後者では特に限定していない点において相違し、それ以外の点では一致する。

(b) 甲第4号証に記載されたものも、本件考案と同様に、上昇格納時に昇降パレットの先端側を持ち上げるようになっている二段式駐車装置であり、しかも、この甲第4号証に記載されたものは、片持ち式の二段式駐車装置である。また、甲第4号証に記載されたものは、一対の直立支柱22U、22L及び横部材24で構成される門形支柱と、ガイドレールに相当するレール28F、28Rと、昇降枠に相当するサブフレーム14と、上下の転輪に相当する溝付きローラ72と、昇降パレットに相当するプラットフォーム76とを備えている。

以上の点を踏まえて、本件考案と甲第4号証に記載されたものとを対比すると、両者は、第1に、昇降パレット(駐車台板)を上下動させる手段が、前者は巻取り巻戻し装置であるのに対し、後者は油圧サーボモータである点、第2に、上昇位置にある昇降パレット(駐車台板)の先端側を持ち上げる構成が、前者はガイドレールの後縁の下端側に形成した拡張溝であるのに対し、後者は支柱の上区分22Uを後方にわずかに傾斜させた構成である点、第3に、上下の転輪(ガイドローラ)を結ぶ線に対する昇降パレット(駐車台板)の角度が、前者が「87~80゜」であるのに対し、後者では特に限定していない点において相違し、それ以外の点では一致する。

(c) 甲第3号証に記載されたものと本件考案との第1の相違点である支柱が門形である点については、これは支柱の強度上の問題であり、2本の支柱の上端間を梁状の部材で連結して門形とするか否かは、二段式駐車装置の本質的な構造ではなく、当業者であれば容易に採用し得る程度のものである。しかも、甲第4号証に記載された二段式駐車装置は、門形支柱を備える。

また、昇降パレットを昇降させる手段が巻取り巻戻し装置である点についても、その動力源として、公知の巻取り巻戻し装置を適用するか、あるいは同じく公知の流体圧シリンダ、油圧サーボモータを採用するかの差でしかなく、やはり当業者であれば容易に採用し得る程度のものである。しかも、巻取り巻戻し装置によって昇降パレットを昇降させる二段式駐車装置は、甲第5号証に開示されている。

<2> 拡張溝等の点

そして、甲第3号証に記載されたものと本件考案との上記第3及び第4の相違点(甲第4号証に記載されたものと本件考案との上記第2及び第3の相違点)についての構成は、甲第6号証の第5図を参照するだけで当業者にはきわめて容易に考え付くことである。すなわち、

(a) これらの相違点は、本件考案は次のⅰ)ないしⅲ)を満足するが、甲第3ないし第5号証に記載されたものは次のⅰ)ないしⅲ)を満足しないというものである。

ⅰ)昇降体A下降時における昇降枠6の上方の転輪7と後縁4との係合位置より下方において後縁4を折り曲げて後縁4のみ昇降パレット9突出側と反対方向に3~10゜傾斜させて拡張溝を構成している点

ⅱ)門形支柱2の門形を側方から見たとき、上下の転輪7、8を結ぶ線と昇降パレット9とのなす角度(昇降パレット形成角)を87~80゜としている点

ⅲ)後縁4の拡張溝傾斜角と、昇降パレット形成角との和をほぼ90゜にしている点

(b) そして、甲第6号証の考案の詳細な説明には、「第5図に示すようにローラー6、7によってマスト3の前側のリブ31を挟持して転動するとき枠体5をすこし前傾するようにローラー6、7を配置し、マスト3の下端部において前側のリブ31を前方に曲線的にふくらませて、マスト3のチャンネル内に凹部3aを構成すれば、枠体5がベース2上に位置する時およびその前後にのみ枠体5は水平を保つが、枠体5がさらに上部に位置して、ローラー7がマストの凹部3aを脱すると枠体5は前傾した状態でマスト3を上昇、下降することになる」(7頁7行ないし18行)と記載されている。このように、本件考案の拡張溝に相当する凹部3aを設けることにより、「枠体5がベース2上に位置する時およびその前後にのみ枠体5は水平を保つが、枠体5がさらに上部に位置して、ローラー7がマストの凹部3aを脱すると枠体5は前傾した状態でマスト3を上昇、下降する」(7頁13行ないし17行)。

そして、当業者であれば、甲第6号証の第5図に示された機械装置を見た場合に、パレットの梁に相当する枠体の底部はマストから後方に大きく突出しているため、その枠体の底部にはこれを曲げようとするモーメントは当然に作用するのであり、凹部3aを広げて拡張溝を形成しておき、枠体に取り付けたローラがその拡張溝を脱した位置に上昇したところで枠体5の底を先上がり傾斜させることによって、枠体の底部にかかる曲げモーメントを減少させていることを理解することは極めて容易なことである。

<3> 組み合わせの容易性

以上のように、甲第3ないし第5号証には本件考案の構成要件のうち、上記<2>(a)ⅰ)ないしⅲ)以外の構成要件にすべて開示されている。

また、甲第6号証には、上記<2>(a)ⅰ)ないしⅲ)の構成要件に直接結び付き、したがって、当業者なら当然に応用できる機械構造の一装置が開示されている。

よって、当業者であれば、甲第3ないし第6号証に基づいて極めて容易に本件考案に想到することができたものである。

(3)  取消事由3(明細書の記載不備)

審決は、「本件実用新案の明細書に記載不備の点はない。」(審決書21頁18行、19行)と判断するが、誤りである。

本件考案は、拡張溝傾斜角を「3~10゜」、昇降パレット形成角を「87~80゜」、両角度の和を「略々90゜」と限定することにより、その特徴部分を特定しているが、前記(1)で説明したとおり、昇降パレット9をその下降位置にあるときに水平にするためには、昇降枠6の下降時に上下転輪7、8を結ぶ線と後縁4とが平行になることが必要である。したがって、この点が必須の構成要件として本件実用新案登録請求の範囲に記載されていない以上は、後縁傾斜角と、昇降パレット形成角との和をほぼ90゜としたとしても、本件明細書に記載された効果を奏するとはいえない。

よって、本件考案の構成と作用とが対応せず、本件明細書の記載には明らかに不備がある。

第3  請求の原因に対する認否及び反論

1  認否

請求の原因1ないし3は認め、同5は争う。審決の認定及び判断は正当であって、原告主張の誤りはない。

2  反論

(1)  取消事由1(明細書の要旨変更についての判断の誤り)について

原告は、出願時考案では、昇降パレット形成角は「後退量」によって規定されている旨主張するが、誤りである。出願時考案は、パレットを鋭角にする量を、後縁4の傾斜分に見合うようにすることによって、パレット下降時に「略々水平」となるようにするものであり、その実質は、後縁4の「僅かに傾斜」する角度と、パレット9の「僅かに鋭角」の両角度の和を「略々90゜」とするものである。

この点は、出願時明細書の登録請求の範囲に、「後縁4のみ後方に僅かに傾斜させ」、「上下転輪7、8を結ぶ線に対して昇降パレット9を直角より僅かに鋭角となるよう」にすると記載され、考案の詳細な説明に、「ガイドレール5の溝は側方より見て前縁3は鉛直に直立させ後縁4下方を後方に傾斜させているが、この傾斜は、昇降枠6の下降時における上方転輪7の係合位置より下方において傾斜させ、また同上時において昇降パレット9が略々水平となるように昇降枠6に固着している。すなわち下方転輪8の前記傾斜による後退分だけ直角より鋭角となるように固着している。」(2頁19行ないし3頁6行)と記載されていることから明らかである。出願時明細書には、原告主張ような「後退量」と出願時考案の構成や作用効果との関係などは、何ら記載されていないものである。

(2)  取消事由2(進歩性の判断の誤り)について

<1> 甲第3ないし第5号証について

(a) 原告は、昇降パレットの傾斜が大きくなると、昇降パレットの梁に垂直な垂直分力よりも梁に平行な水平分力が大きくなることは、二段式駐車装置の昇降パレットが片持ち式であっても両持ち式であっても同じことである旨主張するが、誤りである。

乙第24号証(町田輝史「図解材料強さ学の学び方」)によれば、はりをたわませ曲げようとする力が曲げモーメントであること、曲げモーメントの大きさは、はりの部分部分によって異なり、分布の仕方も片持ちはりと両端支持はりとで異なること、曲げモーメントが最大の所が最初に破壊される危険断面であり、154頁の片持ちはりの場合、荷重(力)の作用点からはりの根元側へ向かって曲げモーメントが大きくなり根元で最大となっているが、149頁の両端支持はりをみると、荷重(力)の作用点の曲げモーメントが最大で、両端の支持部ではゼロになっている(なお、この例は荷重の作用点が2箇所あるので、曲げモーメントの頂点が2箇所あるが、荷重の作用点が1箇所の場合は、曲げモーメントの頂点が1箇所となる。そして、両端で曲げモーメントがゼロとなることに変わりはない。)。

この点は、乙第25号証(「機械工学便覧」)によっても、同様である。

上記の知見を本件考案に当てはめると、本件考案は、被告参考図2(別紙4参考図2参照)(a)に示すように昇降パレット9は片持ちはりであり、自動車の重量が前輪荷重Wfと後輪荷重Wrに分散して作用すると、前輪荷重Wfによる曲げモーメントBMfと後輪荷重Wrによる曲げモーメントBMrが発生し、それらが重なり合うので、総合した曲げモーメントは両方の曲げモーメントを加算した値となる。そして、最大モーメントはパレットの根元に発生する。

これに対し、甲第3号証に記載されたものでは、パレットの中央付近が油圧シリンダ(5)で支持されており、被告参考図2(b)に示すように、パレットにおける油圧シリンダ(5)の結合点より先端側は片持ちはりで、パレットにおける油圧シリンダ(5)の結合点と支柱(1)との間は両端支持はりと考えることができる。この場合、パレットにおける油圧シリンダ(5)の結合点より先端側は前輪荷重Wfによる曲げモーメントBM(f)が生じるが、油圧シリンダ(5)結合点と支柱(1)の間は後輪荷重Wrの曲げモーメントBM(r)が生じる。後者の曲げモーメントBM(r)は両端支持はりに生じるものであるため、中央付近が最大値であり、両端ではゼロとなる。

そうすると、パレットを中央支持し、支柱側の部分を両端支持はりにすると、パレットの根元は曲げモーメントはかからなくなるので、曲げモーメントを減少させる必要がなく、片持ちはりにおいて有効なパレットを傾斜させることも両端支持はりでは技術的には全く意味をなさないこととなる。

(b) 原告は、甲第4号証に記載されたものは片持ち式であり、支柱は補強構造が付いているが必須でない旨主張する。しかしながら、片持ちか否かは、支柱の構造の問題ではなく、吊上げ力の作用点がパレットの基端にあるか、それとも中央付近にあるかによって決定されるべき問題である。そして、甲第4号証を精査すると、自動車を載せるプラットホーム76はその第2図及び第5図のとおり後端から約3分の1程度を吊持されている。そして、第2図からも明らかなように、マスト部材48による吊り上げ位置は、自動車の前輪と後輪の間であるから、甲第4号証に記載のものは、片持ち式ではなく、「中央支持式」とみるべきものである。

<2> 甲第6号証について

甲第6号証に記載されたものには、本件考案に特有の「片持ち式」、「支柱根本の拡張溝」のいずれも存在せず、その枠体5は中央支持式であり、曲げモーメントが支柱に作用することがなく、支柱の根本を強化する必要もないものである。したがって、甲第6号証に記載されたものは、本件考案とは課題及び構成において全く異なり、本件考案を示唆するものはない。

(3)  取消事由3(明細書の記載不備)について

<1> 当業者の技術常識を踏まえた解釈

本件考案は、自動車の駐車装置という大型の装置に関するものであるから、その角度についても、要はその構成によって上昇時にパレットを少し上向きとし、「上段の自動車を僅かに傾斜させて格納」(出願時明細書(甲第2号証)2頁4行、5行)し、下降時に「略々水平となるように」(同3頁3行、4行)するという目的を達成できる程度であればよく、精密機械において求められるような厳密なものではない。

また、下降時においても、パレットは「略々水平」とあるとおり、厳密に水平である必要もなく、設置の現場において自動車が乗降できる程度に水平であればよい。

さらに、本件考案の技術思想は、構成と作用効果の両面から記載したものであり、本件明細書に記載の角度等も、立体駐車装置における技術を前提としつつ、本件明細書に記載された作用効果を生ずる範囲内のものとして規定されていることは、当業者の常識に属することである。したがって、後に述べるとおり、原告が主張するような幅の広いガイドレールや、急な角度をもった後縁の角度や、常識を外れた転輪の長さをもった例などは、立体駐車装置における技術常識に反し、また本件考案の作用効果を奏しないものであることは当業者に明白であるから、そのような突飛な例までが、本件考案の要旨に包含されると解釈することはできない。

<2> ガイドレールの幅について

原告は、本件考案の「ガイドレール」の幅について限定がないから、昇降パレットが下降位置にあるときに下向きになってしまう場合を含む旨主張する。

しかしながら、ガイドレールとは本来、前縁と後縁とで転輪を挟んで案内し、確実にガイド方向に転輪を動かすようにするものである。したがって、原告参考図第8図(別紙3第8図)(d)に示すような、転輪7、8よりはるかに幅の広いものは、転輪を「ガイド」することができないもので、本件考案にいう「ガイドレール」に該当するものではない。

本件考案の前提とする駐車装置の分野の技術及び本件考案の目的とする作用効果などからみても、被告参考図1(別紙4参考図1参照)に示すように、ガイドレールの幅が広いと、パレットが上昇したときにも、下方転輪が上方転輪より後方に位置するのでパレットの先端が前下りのままになり、自動車が転落する等の危険が生じ、また、パレットを上昇させる駆動力Fを加えたとき、上方転輪を後方へ動かす水平分力fによって上方転輪が後方に動き、それが原因で昇降動作中に上方転輪が前後方向のガタガタした動きが生じて不安定になり、安全性を重視する立体駐車装置としては、到底許容できるものではない。

さらに、本件出願前後のこの技術分野の明細書における用語の使用例からみても、「ガイドレール」とは、転輪の直径よりわずかに広いものに限られ、いたずらに広いものを含まないことが技術常識となっている。例えば、立体駐車場に関する国際特許分類(E04H/6/06)の特許・実用新案公報で「ガイドレール」の文言が入っているものを検索すると、乙第1ないし第22号証の公報があり、これらの各公報の図面から判断する限り、ガイドレールはロールの直径にロールを回転させるに必要なわずかな隙間を加えたものである。

<3> 「上方の転輪7と後縁4との係合位置より下方」の意義について

原告は、本件考案において、係合位置より下方とは、係合位置より下方でありさえすればよいから、原告参考図第5図(別紙3第5図参照)に示すように、拡張溝の折り曲げ位置は理論的に無限に考えられる旨と主張する。しかしながら、「上方の転輪7と後縁4との係合位置より下方」とは、原告が主張するような、拡張溝の折り曲げ位置が極端に下がって傾斜角度が大きくなり、下方転輪の昇降ができなくなるような動作不能のものも含むものではない。出願時明細書においても、「僅かに傾斜」との記載とその作用効果とから、下降時に昇降パレットがほぼ水平になり上昇格納時に昇降パレットが先上りになるという作用効果を生ずる範囲のものであることは、当業者が容易に理解できることである。

さらに、原告は、上下の転輪7、8間の距離に関する限定はない旨主張する。

しかしながら、立体駐車装置は、いうまでもなく自動車を立体的に駐車する目的のものであるから、その寸法等についても、車の寸法や建物の寸法等から導かれる一定の技術常識がある。例えば、車はほぼ1.5mの高さであり、二段式の駐車装置は通常屋内においても使用可能とするために、その高さはほぼ3.6m以内に収まるように設計するし、上昇時に下段部が歩行可能とするように高さ2m前後空くように設計する。したがって、上下の転輪の距離についても、必然的に一定幅内に定まるものであることは、当該分野における技術常識である。二段式駐車装置は、このような技術常識を前提に、狭い空間にも設置できるコンパクトさと、重量のある自動車を安全に昇降させる安全性と、経済的に製造できる経済性が要求されるものであるが、原告参考図第8図(c)(別紙3第8図参照)に示すように、むやみに上下転輪間を長くすることは、上記の技術常識に原するものである。

理由

1  請求の原因1(特許庁における手続の経緯)、同2(本件実用新案登録請求の範囲の記載)及び同3(審決の理由の記載)については、当事者間に争いがない。

そして、審決書Ⅲ(甲号各証の記載事項)は、当事者間に争いがない。

2.そこで、原告主張の取消事由の当否について検討する。

(1)  取消事由1(明細書の要旨認定の誤り)について

<1>  甲第2号証によれば、出願時明細書には、出願時考案の[実用新案登録請求の範囲]、[課題]、[構成]、[作用]及び[効果]として、次のとおり記載されでいることが認められる。

[実用新案登録請求の範囲]

「床面に固着した門形支柱2両側のガイドレール5に係合する上下の転輪7、8を備えた昇降枠6の下方に自動車を縦方向に載置すべく構成した昇降パレット9を固着し、昇降枠6を門形支柱2にチエン、ロープなどの牽引体13にて懸吊するとともに牽引体13の巻取り巻戻し装置12を設けてなる駐車装置において、ガイドレール5を前縁3後縁4からなる溝状に形成して鉛直に立設し、昇降枠6下降時における上方転輪7の係合位置より下方において後縁4のみ後方に僅かに傾斜させるとともに上下転輪7、8を結ぶ線に対して昇降パレット9を直角より僅かに鋭角となるよう昇降枠6に固着したことを特徴とする二段式駐車装置におけるパレット傾斜装置。」

[課題]

「本考案は、上下二段に自動車を駐車させる二段方式の駐車装置に係るものであって、自動車載置用パレットを固着した昇降枠を門形支柱両側のガイドレールに係合して巻取装置によって昇降させるようにした駐車装置において上段の自動車を僅かに傾斜させて格納しようとするものである。」(1頁20行ないし2頁5行)

[構成]

「以下図面に示した実施例について説明すると、1は床面にアンカーボルトで固着したベースであって、その後端に門形枠状に形成した門形支柱2を鉛直に立設し、その両側部材を前縁3、後縁4からなる溝形鋼で形成し、後縁4の下部を後方へ僅かに傾斜させ該前縁3と後縁4でもってガイドレール5を形成している。6はガイドレール5に係合する転輪7、8をそれぞれ上下両側に備えた昇降枠であって、その下端から前方へ自動車を縦方向に載置すべく構成した昇降パレット9を固着突設している。10は昇降枠6後面に固着した継ぎ材であって、門形支柱2の天材11に吊設した電動チエンブロック12の牽引体13の下端を繋止している。ガイドレール5の溝は側方より見て前縁3は鉛直に直立させ後縁4下方を後方に傾斜させているが、この傾斜は、昇降枠6の下降時における上方転輪7の係合位置より下方において傾斜させ、また同上時において昇降パレット9が略々水平となるように昇降枠6に固着している。すなわち下方転輪8の前記傾斜による後退分だけ直角より鋭角となるように固着している。」(2頁6行ないし3頁6行)

[作用]

「次にその作用を説明すれば、第3図に示すように昇降パレット9の下降位置においては、昇降枠6の上方転輪7は鉛直前縁3部に当接し、下方転輪8は傾斜後縁4部に当接して昇降パレット9は略々水平に前方に延びて、その先端は床面に接地している。この状態で自動車を昇降パレット9上に進入させ、電動チエンブロック12を駆動して昇降枠6を吊り上げると上下の転輪7、8はガイドレール5に沿って上昇して前後縁3、4の鉛直部に入り、昇降パレット9の先端が持ち上がって第1図に示す上昇格納状態となる。」(3頁11行ないし4頁1行)

[効果]

「以上のように本考案によれば、上昇格納時に自動車を傾斜させて支持するようにしたので格納時の昇降パレットの梁にかかる曲げモーメントを減少させることができ、且つ上段の昇降パレット後部下方と下段格納自動車上方の空間を有効に利用して格納できるので昇降パレットの上昇高さを低くすることができて小型化でき、また後縁のみを後方へ傾斜させて支柱付根部の巾を広くして直立させているので安定しており極めて堅牢につくることができ、しかも容易に製作できるなどの効果を奏するものである。」(4頁18行ないし5頁8行)

<2>  上記<1>に認定の出願時明細書の記載によれば、出願時考案は、支柱の後縁を後方にわずかに傾斜させた分(原告参考図第3図(別紙3第3図参照)でいえば、θ1)だけ上下転輪7、8を結ぶ線に対して昇降パレット9が作る角(原告参考図第3図でいえば、θ2)を直角よりわずかに鋭角となるようにし、θ1とθ2との合計をほぼ90°とするものであることが認められる。

<3>  原告は、出願時考案では、拡張溝傾斜角θ1と昇降パレット形成角θ2との和を限定するのではなく、特定の拡張溝形成角θ1が決まった場合、それによる下方転輪8の後退分を考え、その後退分による昇降パレット9の前傾角度分だけ昇降パレット形成角を直角より鋭角にしているのであり、両角度の和をほぼ90°にする必要性はない旨主張する。

しかしながら、出願時の実用新案登録請求の範囲には、「後縁4のみ後方に僅かに傾斜させるとともに上下転輪7、8を結ぶ線に対して昇降パレット9を直角より僅かに鋭角となるよう昇降枠6に固着した」と記載され、考案の詳細な説明にも、「(後縁4の後方への傾斜)は、昇降枠6の下降時における上方転輪7の係合位置より下方において傾斜させ、また同上時(注・下降時のこと)において昇降パレット9が略々水平になるように昇降枠6に固着している。すなわち下方転輪8の前記傾斜による後退分だけ直角より鋭角となるように固着している。」と記載されているだけであり、それ以上に、「後退分」を原告主張のように解釈した場合に必要となるものと考えられる、「後退分」が、θ1だけではなく、後縁の折り曲げ位置、ガイドレールの幅、上下の転輪間の距離等をも含めて決定されるものであるという点は記載されていない。さらに、「後退分」を原告主張のように後退量と解すると、「後退分だけ直角より鋭角となるよう」とは、長さと角度という異なる物理量間の関係を説明していることになり、不自然なものとなる。そうすると、原告の上記主張は採用することができない。

<4>  したがって、「後縁4を折曲して後縁4のみ昇降パレット9突出側と反対側に3~10°傾斜させ」、「上下の転輪7、8を結ぶ線と昇降パレット9とのなす角度を87~80°になるように」、「かつ後縁4の前記傾斜角と上下の転輪7、8を結ぶ線と昇降パレット9とのなす角度との和が略々90°になるように」と規定している本件考案は、上記認定の出願時考案と何ら異なるものではなく、本件補正は明細書の要旨を変更するものではないとの審決の判断に誤りはない。

よって、甲第2号証(出願時考案)が本件考案の進歩性を否定する引用例とはならないから、原告主張の取消事由1は理由がない。

(2)  取消事由2(進歩性の判断の誤り)について

<1>  ⅰ)昇降体A下降時における昇降枠6の上方の転輪7と後縁4との係合位置より下方において後縁4を折り曲げて後縁4のみ昇降パレット9突出側と反対方向に3~10°傾斜させて拡張溝を構成している点、ⅱ)門形支柱2の門形を側方から見たとき、上下の転輪7、8を結ぶ線と昇降パレット9とのなす角度(昇降パレット形成角)を87~80°としている点、及びⅲ)後縁4の拡張溝傾斜角と、昇降パレット形成角との和をほぼ90°にしている点が甲第3ないし第5号証に記載も示唆もされていないことは、原告の自認するところである。

<2>  上記ⅰ)ないしⅲ)の点が甲第6号証の第5図に関する実施例に記載又は示唆されているかについて検討する。

甲第6号証の記載事項(審決書12頁11行ないし14頁7行)は、前記のとおり当事者間に争いがない。

この記載によれば、甲第6号証の第5図に関する実施例には、マスト3のチャンネル内に凹部3aを設けることにより、枠体5の底面を、下降位置あるときにはほぼ水平とし、上昇位置にあるときはその先端側を持ち上げる構造が開示されていると認められる。しかしながら、この第5図に関する実施例では、ローラ6、7は個別に枠体5に取り付けられ、また、上下転輪はリブを挟む構造であるため、本件考案にいう、上下の転輪を結ぶ線という概念、及びその線と枠体底面とのなす角度との概念は、開示も示唆もされておらず、したがって、拡張溝傾斜角と、昇降パレット形成角との和の概念も、開示も示唆もされていないものである。さらに、本件考案にいう、門形支柱の後縁を後方に傾斜させた部分に相当する凹部3aは、直線ではなく曲線による凹部として形成されているから、後縁の傾斜角という概念はなく、したがって、本件考案にいう、後縁のみを折り曲げて後縁のみ3~10°傾斜させて拡張溝を構成している構造も、開示も示唆もされていないものである。

上記認定に反する原告の主張は採用することができない。

<3>  したがって、拡張溝等に関する上記ⅰ)ないしⅲ)の構成は甲第6号証においても開示も示唆もされていないから、本件考案が甲第3ないし第6号証に基づき極めて容易に想到することができたものとは認められないとの審決の判断に誤りはなく、原告主張の取消事由2は、その余の点について判断するまでもなく、理由がない。

(3)  取消事由3(明細書の記載不備)について

原告は、「昇降枠6下降時に上下転輪7、8を結ぶ線と後縁4とが平行になる」ということが必須の構成要件として本件実用新案登録請求の範囲に記載されていない以上は、本件考案の構成と作用とが対応せず、本件明細書の記載には明らかに不備がある旨主張する。

<1>  前記のとおり、本件実用新案登録請求の範囲では、「後縁4を折曲して後縁4のみ昇降パレット9突出側と反対側に3~10°傾斜させ」、「上下の転輪7、8を結ぶ線と昇降パレット9とのなす角度を87~80°になるように」、「「かつ後縁4の前記傾斜角と上下の転輪7、8を結ぶ線と昇降パレット9とのなす角度との和が略々90°になるように」と規定されているが、拡張溝の形成開始位置については、「昇降体A下降時における昇降枠6の上方の転輪7と後縁4との係合位置より下方において後縁4を折曲して」とのみ規定され、上下の転輪7、8の大きさとガイドレール5の大きさとの関係については規定されていないものである。

そして、弁論の全趣旨によれば、本件考案において、下降時における上下転輪を結ぶ線と鉛直線とがなす角度は、必すしもθ1(原告参考図第3図(別紙3第3図)参照)と一致するものではなく、拡張溝の折り曲げ位置と上下の転輪7、8間の距離との関係、上下の点輪7、8の大きさとガイドレール5の幅との関係によって影響されるため、拡張溝傾斜角と昇降パレット形成角との和を90°としても、原告参考図第8図(別紙3第8図参照)(a)ないし(d)のように、昇降パレット9は、その下降位置にあるときに先端側が持ち上がったり、先端側が下がってしまうことがあることが認められる。

<2>  しかしながら、甲第8号証によれば、本件明細書には、「本考案は、上下二段に自動車を駐車させる二段方式の駐車装置・・・において上段の自動車を僅かに傾斜させて格納しようとするものである。」(1欄25行ないし2欄1行)、「次にその作用を説明すれば、第3図に示すように昇降パレット9の下降位置においては、昇降枠6の上方転輪7は鉛直前縁3部に当接し、下方転輪8は傾斜後縁4部に当接して昇降パレット9は略々水平に延びて、その先端は床面に接地している。」(3欄2行ないし7行)と記載されていることが認められ、この記載によれば、後縁傾斜角と、昇降パレット形成角を規定し、その和をほぼ90°と規定したことの目的は明確に記載されており、しかも、その合計を、「90°」ではなく、「略々90°」と規定されているものである。したがって、上下の転輪の長さと拡張溝の折り曲げ位置との関係や、ガイドレールの幅と上下の転輪との大きさの関係により単にその合計を90°としたのでは昇降パレットが下降時に水平にならない場合に、昇降パレット形成角を「略々90°」の範囲内で調節することによりほぼ水平にすることができることは、本件明細書に接する当業者にとって明らかなことと認められる。

そうすると、昇降パレットを上昇格納時に先端を持ち上げ、下降時にほぼ水平とするために、後縁傾斜角を3ないし10°の範囲内でどの程度とし、昇降パレット形成角を87ないし80°の範囲内でどの程度とし、かつ、それらの角度の合計を「略々90°」の範囲内でどの程度とするかは、当業者が適宜その必要に応じて設計する事項であり、実用新案登録請求の範囲において規定されなければならない事項ではないというべきである。

これに反する原告の主張は採用することができない。

<3>  よって、これと同旨の審決の判断に誤りはなく、原告主張の取消事由3も理由がない。

3  よって、原告の本訴請求を棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する(平成10年10月1日口頭弁論終結)。

(裁判長裁判官 永井紀昭 裁判官 塩月秀平 裁判官 市川正巳)

平成7年審判第20946号

審決

東京都千代田区丸の内二丁目6番1号

請求人 古河機械金属株式会社

東京都千代田区神田鍛冶町3丁目7番地 村木ビル8階 日栄国際特許事務所

代理人弁理士 森哲也

東京都千代田区神田鍛冶町3丁目7番地 村木ビル8階 日栄国際特許事務所

代理人弁理士 内藤嘉昭

東京都千代田区神田鍛冶町3丁目7番地 村木ビル8階 日栄国際特許事務所

代理人弁理士 崔秀喆

高松市一宮町1508-3

被請求人 横井鋼業株式会社

香川県高松市寿町1丁目1番5号 協豊第2ビル4階 山内特許事務所

代理人弁理士 山内康伸

上記当事者間の登録第1690779号実用新案「二段式駐車装置におけるパレット傾斜装置」の登録無効審判事件について、次のとおり審決する.

結論

本件審判の請求は、成り立たない.

審判費用は、請求入の負担とする.

理由

Ⅰ.(手続の経緯・本件考案の要旨)

本件登録第1690779号実用新案(昭和57年8月11日に出願し、昭和62年7月27日に設定登録。以下、「本件考案」という。)の明細書の実用新案登録請求の範囲の記載は次のとおりであり、また本件考案の要旨は、明細書および図面の記載からみて、その明細書の実用新案登録請求の範囲に記載されたとおりのものと認める。「床面に固着した門形支柱2両側のガイドレール5に係合する上下の転輪7、8を備えた昇降枠6を門形支柱2に昇降自在に設け、自動車を載置すべく構成した昇降パレット9の長手方向一方を前記昇降枠6下端に固着突設して昇降体Aを構成し、該昇降体Aを門形支柱2に取付けた巻取り巻戻し装置12の牽引条13によって門形支柱2に吊設してなる駐車装置において、ガイドレール5を昇降パレット9突出側に設けた前縁3および昇降パレット9突出の反対側に設けた後縁4からなる立設した溝状に形成するとともに、昇降体A下降時における昇降枠6の上方の転輪7と後縁4との係合位置より下方において後縁4を折曲して後縁4のみ昇降パレット9突出側と反対方向に3~10°傾斜させて拡張溝を構成するとともに門形支柱2の門形を側方より見たとき、上下の転輪7、8を結ぶ線と昇降パレット9とのなす角度を87~80°になるように、かつ後緑4の前記傾斜角と上下の転輪7、8を結ぶ線と昇降パレット9とのなす角度との和が略々90°になるように昇降パレット9を昇降枠6に固着したことを特徴とする二段式駐車装置におけるパレット傾斜装置。」

Ⅱ.(請求人の主張)

これに対して、請求人は、

(1)甲第1号証(本実用新案登録出願について、その出願人が特許庁長官に提出した手続補正書の写し)から明らかなように、本件考案の明細書については、出願公告をすべき旨の決定の謄本送達前である昭和61年8月4日付けで補正が行われているが、かかる補正は明細書の要旨を変更する補正である。従って、平成5年改正前の実用新案法(以下、「旧実用新案法」という。)第9条で準用する特許法第40条の規定により、本実用新案登録出願は、その補正についての手続補正書を提出した日である昭和61年8月4日にされたものとみなされる。

そうすると、本件考案は甲第2号証に記載された考案に基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることできたものであるので、旧実用新案法第3条第2項の規定により、本件の実用新案登録は無効とされるべきものである、

(2)本件考案は甲第3号証乃至甲第6号証に記載された考案に基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることできたものであるので、旧実用新案法第3条第2項の規定により、本件の実用新案登録は無効とされるべきものである、

(3)本件明細書の記載は、昭和62年改正前の実用新案法第5条第3項の規定に違反しているので、本件の実用新案登録は無効とされるべきものである、旨を主張している。

そして、上記の事実を立証するための証拠方法として、次のものを提出している。

甲第2号証:実願昭57-122540号(実開昭59-26158号)のマイクロフイルム

甲第3号証:特開昭51-53380号公報

甲第4号証:特開昭50-8267号公報

甲第5号証:特開昭52-118775号公報

甲第6号証:実願昭52-42454号(実開昭53-137478号)のマイクロフイルム

Ⅲ.(甲号各証の記載事項)

甲第2号証の、実用新案登録請求の範囲には、「床面に固着した門形支柱2両側のガイドレール5に係合する上下の転輪7、8を備えた昇降枠6の下方に自動車を縦方向に載置すべく構成した昇降パレット9を固着し、昇降枠6を門形支柱2にチエン、ロープなどの牽引体13にて懸吊するとともに牽引体13の巻取り巻戻し装置12を設けてなる駐車装置において、ガイドレール5を前縁3後縁4からなる溝状に形成して鉛直に立設し、昇降体6下降時における上方転輪7の係合位置より下方において後縁4のみ後方に僅かに傾斜させるとともに上下転輪7、8を結ぶ線に対して昇降パレット9を直角より僅かに鋭角となるよう昇降枠6に固着したことを特徴とする二段式駐車装置におけるパレット傾斜装置。」と記載され、第2頁第10~11行に「後縁4の下部を後方へ僅かに傾斜させ、」と記載され、第3頁第3~6行に「同上時において昇降パレット9が略々水平となるように昇降枠6に固着している。すなわち下方転輪8の前記傾斜による後退分だけ直角より鋭角となるように固着している。」と記載されている。

甲第3号証の、特許請求の範囲には、「垂設された流体圧シリンダの動作で昇降される駐車台板の一側をガイド支柱に沿って昇降せしめる際、前記駐車台板の車両の重心付近を前記流体圧シリンダの上端にて揺動可能に垂支するとともに、上昇時には前記駐車台板の一側を前記ガイド支柱上端の係止溝で係離可能に支承せしめる駐車装置。」が記載されている。そして、甲第3号証の第2頁左上欄第14~16行に「ガイド支柱(1)(1)はC型断面材の開口部がそれぞれ外方になるように背合せしめたもので、」と記載され、第2頁右上欄第3~4行に「相対向する内側のC型断面のガイド溝(2)は当該駐車台板(11)のガイドレールとなる。」と記載され、また、第5図には左右一方のガイド支柱1の横断面が描かれており、ガイド溝2の内側面のうち、同図左右方向に沿って対向する二つの内側面が、前縁又は後緑を形成していて、ガイドレールとしてのガイド溝2か立設した溝状に形成されているものが記載されている。

また、甲第3号証の第2頁右上欄第16行~左下欄第3行に「架台(6)は三角状に形成された左右のサイドフレーム(6A)(6B)と、同両フレーム(6A)(6B)の底杆(61)(61)を連結する二つの横支持杆(7)(7)とにより全体の横断面が凹型状に構成される。」と記載され、第2頁左下欄第5~10行に「サイドフレーム(6A)(6B)の図示右方の後部縦杆(8)(8)の上下部にはガイドローラ(9a)(9b)がそれぞれ可転軸支され、かつ、上下のガイドローラ(9a)(9b)は左右のガイド支柱(1)のガイド溝(2)に沿って上下方向へ転動される。」と記載され、また第2頁左下欄第12~16行には「二つのトレッド溝(11a)(11b)を平行状に連設してなる盤状の駐車台車(11)は架台(6)の横支持杆(7)(7)上に固着されていて、上段駐車用の車両(Ca)が同駐車台板(11)前方より後方へ導入されて、乗載される。」と記載されている。さらに、甲第3号証の第4図には、駐車台板11が上昇位置にあって上側のガイドローラ9aがガイド溝2上端の係止溝2aに入り込むと、駐車台板11の先端側が後端側よりも持ち上がり、自動車を載置した状態の駐車台板11が先端側が持ち上がった傾斜状態で上昇位置にある様記載されている。第4頁右下欄第14行~第5頁第1行には「第1の発明では上記した実施例より判るようにガイド支柱に曲げモーメントが負荷されず、しかも小さい荷重のみ負荷されるため、装置全体の軽量化に寄与するところ大きいものがあり、・・」と記載されている。

甲第4号証には、自動車が載置される昇降パレットを備えた昇降枠が、門形支柱に昇降自在に設けられている二段式駐車装置が開示されている。

即ち、甲第4号証の第2頁右下欄第6~10行に「ベース材16の上方には互いに横方向に間隔をおいて平行に延びている一対の直立支柱が設けられており、これら直立支柱はその上端部を横部材24によってアーチ状に結合されて」と記載され、第3頁左下欄第6~9行に「箱形ビーム58とベース部材16との間に油圧サーボモータ60が設けられていて、サブフレーム14を上下に動かすようになっている。」と記載されている。さらに、甲第4号証の第2頁右下欄第11~15行に「各支柱は端部を互いに溶接されて結合されている2つの区分より成っており、その支柱下方区分22Lはほぼ鉛直であるのに対し、支柱上方区分22Uは後方に向かって数度傾斜せしめられている。」と記載され、また、第4頁右上欄第5~10行に「また支柱上方区分22Uが後方にわずかに傾斜しているので、プラットフォーム76の前端部がいくぶんか持ち上げられた状態になり、したがってプラットフォーム76はその最上位置において後方にわずかに傾き、」と記載されている。また、第3頁左上欄第10~15行には「直立部材30の下端部と水平部材32の前端部との間に斜材34が設けられる。さらに第2の斜材36が直立部材30の上端部と支柱上方区分22Uの上端部との間に設けられており、これにより支柱がトラス式に補強されている。」と記載されている。

甲第5号証には、自動車等の重量物を格納するのに好適な二段物品格納昇降棚が開示されており、かかる二段物品格納昇降棚は、床面に固着した支柱のガイドレールに係合する上下の転輪を備えた昇降枠を支柱に昇降自在に設け、自動車等を載置すべく構成した昇降パレットの長手方向一方を昇降枠下端に固定して昇降体を構成し、昇降体を支柱に取り付けた巻き取り巻戻し装置の牽引条によって支柱に吊設してなる装置であり、ガイドレールを昇降パレット突出側に設けた前緑及び昇降パレット突出の反対側に設けた後縁からなる立設した溝伏に形成したものが開示されている。

即ち、甲第5号証の第2頁右下欄第6~18行に「パレット3は支柱1側面上を昇降するスライド板5によって支持され、スライド5の昇降によってパレットは昇降せしめられる。スライド板5(第6図)の四隅にはその辺緑から僅かに外方に突出する溝付ローラー81、82、83、84が設けられ、それらのローラーが支柱1のⅠビームー側の互いに向き合う内側面に固定され上下に延びるガイドレール7上を転動する如く溝嵌合される(第3図)。スライド板5の下端は直角に折り曲げてフランジ9となし、該フランジ上にパレット3が前記フランジ9により適当な手段で固定支持される。」と記載されている。また、第2頁右下欄第20~第3頁左上欄第3行に「11は(第5、6図)はスライド板5の外面に軸支されたロープを固定金具で、該金具にはロープ14の端部を結結びつける孔13が設けられる。」と記載され、同左上欄第9~11行に「ロープ14は(第5図)支柱1上部の駆動部収納部4の函枠15の中に設けられた巻取ドラム16または16’に巻き込まれる。」と記載され、また、同欄第19行~同頁右上欄第3行に「第5図において17は電動モータ、18は変速機で、電動モータは図示の如き歯車の噛合いでは巻取ドラム16を駆動回転するが、クラッチ切換歯車19の切換により他の巻取ドラム16’を駆動する。」と記載されている。

つぎに、甲第6号証は、材料投入装置に関するもので、第2頁第16~19行に「マスト3は断面コ型のチャンネルであって、ベース2に固着されている。このマスト3のチャンネルの中を後述のローラー7が上下に移動することになる。」と記載され、また、第1図、第2図に、ベース2上には門形支柱が固着されていて、その門形支柱を構成する両側のマスト3は断面コ型であり、その開口側が互いに向き合うようにベース2上に固着されている構成が記載されている。また、第4頁第16行~第5頁第6行に「ローラー6、7はともに重心Gの位置よりすこし前方に偏って枠体5にそれぞれ回転自在に設けられるもので、ローラー6はマスト3の外側前面に接しまたガイドチャンネル4内を転動するようになっており、ローラー7はマスト3のチャンネル内を転動するようになっている。そして、吊下げ媒体8の枠体5への取付け位置も重心より前方の位置となっているので、両ローラ6、7はマスト3の前側のリブ31を挟持しながら枠体5はマスト3に沿って吊下げ媒体8によって引き上げられる。」と記載されている。さらに、第7頁第7行~第8頁第2行に「第5図に示すようにローラー6、7によってマスト3の前側のリブ31を挟持して転動するとき枠体5をすこし前傾するようにローラー6、7を配置し、マスト3の下端部において前側のリブ31を前方に曲線的にふくらませて、マスト3のチャンネル内に凹部3aを構成すれば、枠体5がベース2上に位置する時およびその前後にのみ枠体5は水平を保つが、枠体5がさらに上部に位置して、ローラー7がマストの凹部3aを脱すると枠体5は前傾した状態でマスト3を上昇、下降することになるので・・・枠体5の後方を開口状態としてそこから容器11を装着する形式の場合に、枠体5の前傾が容器11の脱落を防止するので、特別に脱落防止手段を設けなくてもよい。」と記載されている。

Ⅳ.(当審の判断)

(無効理由1について)

請求人は、本件考案の明細書について、出願公告をすべき旨の決定の謄本送達前である昭和61年8月4日付けの補正書(甲第1号証)による補正が行われているが、この補正(以下「本件補正」という。)は願書に添付した明細書の要旨を変更する補正であると主張している。即ち、(1)本件補正書には、実用新案登録請求の範囲に「昇降体A下降時における昇降枠6の上方の転輪7と後縁4との係合位置より下方において後縁4を折曲して後縁4のみ昇降パレット9突出側と反対方向に3~10°傾斜させて拡張溝を構成する」という記載があるが、後縁4の傾斜角度である「3~10°」という数値範囲は、本実用新案登録出願の願書に最初に添付した明細書(甲第2号証参照)の何処にも記載されていない。甲第2号証には、「後縁4を後方に僅かに傾斜」と記載されているだけであり、また、(2)本件補正書には、実用新案登録請求の範囲に「門形支柱2の門形を側方より見たとき、上下の転輪7、8を結ぶ線と昇降パレット9とのなす角度を87~80°になるように」という記載があるが、かかる記載における「87~80°」という数値範囲も、甲第2号証の何処にも記載されていない。甲第2号証には、「直角より僅かに鋭角」、「直角より鋭角」と記載されているだけである。よって、本件補正は願書に添付した明細書の要旨を変更する補正であると主張している。

請求人の上記主張について検討する。

本件補正では、後縁4の傾斜角度を「3~10°」とし、上下の転輪7、8を結ぶ線と昇降パレット9とのなす角度を「87~80°」としているが、これらの角度に厳密な臨界的な意義があるわけではなく、これらの記載は機能と構造を数値をもって記述したにすぎない。よって、本件補正は願書に添付した明細書の要旨を変更する補正であるということはできない。

以上のように、本件補正は願書に添付した明細書の要旨を変更する補正であるということはできないのであるから、本実用新案登録出願の出願日以後に出願公開された甲第2号証をもって、本件考案は当業者がきわめて容易に考案をすることできたものであるとする請求人の主張は、採用できない。

(無効理由2について)

本件考案と甲第3号証乃至甲第6号証に記載されたものとを、比較検討する。

本件考案と甲第5号証に記載のものとを対比すると、(1)床面に固着した支柱が、前者は門形であるのに対して、後者は門形ではない点、(2)前者は、昇降体A下降時における昇降枠6の上方の転輪7と後縁4との係合位置より下方において後縁4を折曲して後縁4のみ昇降パレット9突出側と反対方向に3~10°傾斜させて拡張溝を構成するのに対して、後者は、後縁溝が拡張溝ではない点、(3)前者は、門形支柱2の門形を側方より見たとき、上下の転輪7、8を結ぶ線と昇降パレット9とのなす角度が87~80°になっているのに対して、後者は、該角度について言及がなく、図面をみる限り、ほぼ直角である点、(4)前者は、後緑4の前記傾斜角と上下の転輪7、8を結ぶ線と昇降パレット9とのなす角度との和が略々90°になるように昇降パレット9を昇降枠6に固着しているのに対して、後者は、そのような構成になっていない点、で相違する。

上記各相違点について甲第3、4、6号証を検討する。

甲第3号証に記載のものは、本件考案と同様上昇位置にある「本件考案の昇降パレットに相当する駐車台板」の先端側を持ち上げる構成にはなっているが、甲第3号証は、流体圧シリンダ3と支柱1の両方を必須の構成要件として駐車台板を両持ちするもので、本件考案のように、昇降パレットを支柱にて片持ちするものとは技術的に著しく異なる。また、甲第3号証のものは、上記の(2)、(4)の本件考案の構成を備えるものでもない。

甲第4号証に記載のものは、本件考案と同様上昇位置にある「本件考案の昇降パレットに相当するプラットフォーム」の先端側を持ち上げる構成および支柱が門形である構成にはなっているが、甲第4号証は、支柱22と直立部材30、水平部材32、直立部材30の下端部と水平部材32の前端部との間に設けられた斜材34、および直立部材30の上端部と支柱上方区分22Uの上端部との間に設けられた第2の斜材36とを必須の構成要件としてプラットフォームを支持するものであるし、しかも上記の(2)、(4)の本件考案の構成を備えるものでもない。

つぎに、甲第6号証に記載のものは、本件考案のように、上昇位置において昇降パレットの先端側を持ち上げる構成とすることにともなって、後縁を拡張溝とするものではないから、甲第6号証の記載をもって、上記の(4)の本件考案の構成を当業者がきわめて容易に想起し得るものとは認められない。

そして、本件考案は、上記の(1)~(4)の構成を採ることにより、明細書に記載される作用効果を奏するものである。

以上のように、本件考案は、甲第3号証乃至甲第6号証の各考案を組み合わせて当業者がきわめて容易に考案をすることできたものであるとする請求人の主張は、採用できない。

(無効理由3について)

(1)請求人は、本件実用新案の登録請求の範囲における「転輪7と後縁4との係合位置」という記載の「係合」の意味が不明であると主張している。

この点について検討する。本件実用新案において、「転輪7と後縁4との係合位置」とは、後縁4に対し相対的に移動する上方の転輪が、後縁に対して存在する「位置」を指称していることは明らかで、双互に接触するかどうかを問題にするものではない。ここでは、「係合位置」という言葉で、拡張溝の形成位置を表現しようとしたにすぎず、拡張溝を形成した領域は十分明確に特定されているので、不明瞭な点はない。

(2)請求人は審判請求書16頁12行~17頁8行において、本件考案は下降位置において昇降パレットは水平にならず自動車の進入にとって邪魔な段差ができると述べて、本件考案の構成と作用とが対応せず、明細書の記載に不備があると主張している。しかしながら、本件考案は、パレットの多少の段差を許容しないものではなく、本件考案において上昇時に昇降パレットの前端を少し持ち上げ、下降時に略水平にできる点は、その実施例の説明において明確に説明されている。よって、請求人の主張は理由がない。

(3)請求人は審判請求書17頁9~21行において、角度範囲「3~10°」および「87~80°」による作用効果および臨界的意義が明細書の記載では不明であると主張している。しかしながら、本件考案は、前記の角度範囲「3~10°」と「87~80°」の組合せが、昇降パレットの上昇時に昇降パレット先端を少し持ち上がらせ、昇降パレットの下降時に昇降パレットを略水平にするという作用効果を生み出しているのであり、この点は明細書に記載しているのであるから、作用効果は明白である。前述のとおり、上記角度の組み合わせの意義は、パレット上昇時にパレット先端を持ち上げ、かつ下降時にパレットを「略水平」とすることによって車の出入に支障のないようにし、かつ、支柱の根元に強度を高めるのに有効な拡張溝を形成することにある。「略々90°」の構成から明白なとおり、その角度の組み合わせは厳密なものではなく、多少の違いがあると作用効果を奏しなくなる数値限定発明の如き「臨界的意義」がある訳ではない。要するに上記角度の組み合わせにより、上昇時にパレット先端が持ち上がり、下降時に車の出入に支障のないようにする角度を意味するのであって、本件実用新案の明細書に記載不備の点はない。

以上のように、請求人の主張3は採用できない。

Ⅴ.(まとめ)

したがって、請求人の主張する理由および証拠方法によっては、本件考案の登録を無効とすることはできない。

よって、結論のとおり審決する。

平成9年3月3日

審判長 特許庁審判官

特許庁審判官

特許庁審判官

別紙2

<省略>

別紙3

<省略>

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<省略>

別紙4

<省略>

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