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東京高等裁判所 平成9年(行ケ)178号 判決 1999年7月15日

原告

株式会社東洋精米機製作所

代表者代表取締役

【A】

原告訴訟代理人弁理士

【B】

同弁護士

宇佐美貴史

被告

株式会社佐竹製作所

代表者代表取締役

【C】

被告

社団法人日本精米工業会

代表者代表理事

【D】

被告ら訴訟代理人弁護士

池田昭

同弁理士

【E】

【F】

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1  原告の求めた判決

「特許庁が平成8年審判第8335号事件について平成9年6月11日にした審決を取り消す。」との判決。

第2  事案の概要

1  特許庁における手続の経緯

被告らは、名称を「湿式精米装置」とする特許第1287597号発明(昭和51年2月24日特許出願、昭和60年3月20日出願公告、昭和60年10月31日設定登録)の特許権者である。

原告は、平成8年5月23日、本件特許につき無効審判を請求し、平成8年審判第8335号事件として審理されたが、平成9年6月11日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決があり、その謄本は同月27日原告に送達された。

2  本件発明の要旨

多孔壁除糠精白筒を設けた複数個の精白室を直列に配設した流れ搗精行程において、終末行程または終末行程寄りの行程に配設した精白室に加湿装置を設けたことを特徴とする湿式精米装置。

(実施例につき、別紙本件発明図面参照)

3  審決の理由の要点

(1)  本件発明の要旨

本件発明の要旨は、前項記載のとおりと認める。

(2)  請求人(原告)の主張

原告は、下記に示す審判甲第1号証ないし第8号証を提示し、本件発明は、審判甲第3号証ないし第8号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものである旨主張している。(審判甲第2号証以下の番号は、次に示すように、本訴甲号証の番号と同一であり、次項以下においては、単に甲号証の番号のみで表記する。)

審判甲第1号証:本件特許第1287597号の登録原簿

審判甲第2号証:特公昭60-10778号公報(本件特許公報)(本訴甲第2号証)

審判甲第3号証:特公昭32-6764号公報(本訴甲第3号証)

審判甲第4号証:特公昭39-15218号公報(本訴甲第4号証)

審判甲第5号証:特公昭36-8020号公報(本訴甲第5号証)

審判甲第6号証:特公昭35-716号公報(本訴甲第6号証)

審判甲第7号証:特公昭39-1990号公報(本訴甲第7号証)

審判甲第8号証:特公昭36-15076号公報(本訴甲第8号証)

(3)  審決の判断

甲第3号証には、目板又は金網のような通気性の研磨筒12と研磨ロール20を有する研磨機において、研磨ロール20と連通する送気室18内に、水又は薬液等を噴霧する噴霧嘴31を開口させて成る精米研磨機が、甲第5号証には、金網目板等の糠排出口小孔を有する精穀胴4及び研磨転子胴10を有する精白研磨装置において、研磨転子胴10の第二区画部に、空気と共に油剤、水、薬液等所要の噴霧する噴出嘴17を設けた精米研磨装置が記載されている。

また、甲第7号証には、金網をもって円筒状とした研磨胴14、目板でもって円筒体とした目板研磨胴15及び研米体aを有する研米装置において、研磨胴の中間部に栄養剤や調味料などの溶液を供給する供給口19を設けた研米装置が、甲第8号証には、除糠円筒と撹拌混合円筒と次に研磨円筒を重積して順次連通させ除糠円筒から撹拌混合円筒に至る通路に、水、油脂、栄養剤等を各別単独にまた適量を混合注加する液剤注加口を開口した研米装置が開示されている。

ところで、甲第3号証の1頁右欄21行ないし2頁左欄6行には、「精米機によって精白された米粒を供給すれば……ロール面に樹立されている噴気管25によって撹拌移動作用を与え、米粒の表面を研磨し糠を分離する、……米肌は美しく研磨される、……必要量の噴霧を圧させ送風力によって研磨胴内に供給し研磨ロールによる作用を向上させるとともに米粒の表面を美化させまた栄養強化を行い、完全なる不淘洗米を製出させるものである。」と、甲第5号証の1頁右欄21行ないし27行には、「一定に精白された穀粒を軽い抵抗を有し急速回転する研摩転子によって、……排糠、油剤、薬液等の付着と乾燥を同一精穀胴内において行い作用を正確に極めて簡便に栄養豊富な無洗米を製出させようとするものである。」と記載されている。

また、甲第7号証の1頁右欄24行ないし29行には、「本発明は多孔粗面の研摩胴と柔軟体の研米片によって除糠させたのち栄養剤や調味料を表面に付着混合撹拌した上これを多孔滑面の研摩胴によって再度研摩するものであって、普通に搗精した精米を美しい肌で、美味栄養豊富な不濁炊米に簡易に製出させるものである。」と、甲第8号証の1頁右欄14ないし30行には、「この発明は普通の方法によって噴風精米機で循環搗精した精米を直ちに除糠円筒を通して除糠した上で水、油脂、栄養剤等の溶液を注加しよく混捏した上研磨し精米の表面に付着した糠等を除いて……無洗炊飯に適した栄養米の搗精を容易に実施させるものである。」と記載されている。

そして、上記記載からわかるように、甲第3号証、第5号証、第7号証及び第8号証に記載された発明は、精米機によって精白された米粒の表面を研磨する際に、水等を噴霧し、米粒の表面に付着した糠を除去するものであり、精米行程が終了していない玄米の糠層を除去するときに、水等を噴霧するもの、すなわち、精米装置の流れ搗精行程における、終末行程又は終末行程寄りの行程において、水等を噴霧するものではない。

甲第4号証には、多孔壁除糠精白筒を設けた複数の精白室を直列に配設した流れ精米機が記載されているが、「終末行程または終末行程寄りの行程に配設した精白室に加湿装置を設け」る点は記載されていない。

また、甲第6号証には、複数の傾斜式精穀機を配設し、傾斜式精穀機の最終機の後に、混水式精穀機を連設した精麦機が記載されているが、精穀機に加湿装置を設けることは記載されておらず、しかも、甲第6号証記載のものは、玄米とはそのぬか層の性質が異なる麦を精白する精麦機であり、精米機ではない。

よって、甲第3号証ないし第8号証には、本件発明の要旨の一部である「終末行程または終末行程寄りの行程に配設した精白室に加湿装置を設けた」「湿式精米装置」は、記載されておらず、かつ示唆もされていない。

そして、本件発明は、「搗精行程において、終末行程または終末行程寄りの行程に配設した精白室に加湿装置を設け」ることにより、「流れ作業の量産用搗精行程の末期行程に加湿精白除糠除水琢磨作用を用いて強い光沢のある美麗な精白米を得る」という明細書記載の効果を奏するものである。

したがって、本件発明が、甲第3号証ないし第8号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

(4)  審決の結び

以上のとおりであるから、原告の主張する理由及び提出した証拠方法によっては、本件特許を無効とすることはできない。

第3  原告主張の審決取消事由

審決は、本件発明及び甲号各証に記載の技術内容を誤って認定したものであり(取消事由1)、また、本件発明に関する容易推考性に関する判断を誤ったものである(取消事由2)から、違法であり、取り消されるべきである。

1  取消事由1

(1)  審決は、「甲第3号証、第5号証、第7号証及び第8号証に記載された発明は、精米機によって精白された米粒の表面を研磨する際に、水等を噴霧し、米粒の表面に付着した糠を除去するものであり、精米行程が終了していない玄米の糠層を除去するときに、水等を噴霧するもの、すなわち、精米装置の流れ搗精行程における、終末行程又は終末行程寄りの行程において、水等を噴霧するものではない。」と認定しているが、本件発明における「精米」、「搗精」あるいは「精白」なる用語と、甲第3号証、第5号証、第7号証及び第8号証に記載された発明における「研磨(研摩)」あるいは「研米」なる用語とは、別の目的及び技術内容を意味しているものではなく、両者の用語は明確に区別し得るものではない。

例えば、甲第5号証に「精白研摩法及びその装置」(発明の名称)、「……供給穀粒を精白防摩(「精白研摩」の誤植と認める。)させる方法」(特許請求の範囲)、「本発明は……精白研摩させる方法にして……優良精米を得させるものである。」(1頁左欄7行ないし24行)、「前記方法を実施するに当っては図面に示す精白研摩装置によって行い得るもの」(1頁左欄25行ないし26行)と記載されているように、単なる「研摩」ではなく「精白研摩」なる用語が用いられており、また、穀粒に対して水等を噴霧する噴出嘴17を内装した金網目板等を有する円筒体は、「研磨胴」あるいは「研穀胴」ではなく、「精穀胴」と称されている。また、甲第7号証に「この発明は……栄養剤調味料などの溶液を混入してこれを表面に均等に付与し、多孔性滑面円筒内で柔軟研摩片で研摩して滑かに美しいおいしい精米とさせるもの」(1頁左欄13行ないし19行)と記載されているように、栄養剤調味料などの溶液を表面に均等に付与して米粒の研摩を行うことで精米を得るとされている。さらに、甲第8号証に「噴風精米機と……研米装置とを並置し、噴風精米工程と研米工程を切換えできるようにした精米装置。」と記載され(特許請求の範囲)、精米装置が精米行程と研米工程との両方を備えているとしており、また、「この発明は……水、油脂、栄養剤等の溶液を注加しよく混捏した上研磨し……優良の精米状態に保持させるようになすものである。」(1頁右欄14行ないし22行)と記載され、研磨して精米を得るとしている。

また、甲第10号証(食品設備実用総覧編集委員会編「食品設備実用総覧」)89頁の「2.研摩」の項目に、「研摩は精穀の仕上げ工程の一つで、商品性の向上を目的とする処理である。」と記載されており、研摩機は搗精装置の一種として扱われている。甲第11号証(月刊「米と流通」1989臨時増刊14巻3号)の8頁右欄18行~24行には「米穀とう精設備としては、……とう精設備が用意され、後処理には研磨装置……」と記載され、研磨装置は搗精設備の後処理として別に扱われている一方で、同号証75頁には「<8> 設備の内容は、前処理機、調質装置、精米本機ならびに研磨・仕上機、後処理機、計量包装機等について、……」とあり、同号証76頁以下の「収載工場の設備機器一覧」の「精米本機(研磨・仕上機)」(77頁左欄以下)の「(株)佐竹製作所」の項には「(HB 研磨精米機・クリーンライト)」と記載され、「北国農機(株)」の項には「(RS 研磨精米機・ライサー)」と記載され、「(有)毛利精穀研究所」の項には「SPA 精米機と研米機を1台に」と記載され、研磨機が精米機と一緒に扱われている。

このように「精米」、「搗精」あるいは「精白」なる用語と、「研磨」あるいは「研米」なる用語とは、それぞれの証拠中では統一概念で記載されているが、業界全体では明確に使い分けられているわけではなく、「研磨」あるいは「研米」も、「精米」あるいは「精白」の中に含められている場合も多い。したがって、甲第3号証、第5号証、第7号証及び甲第8号証に記載された発明は、精米行程が完全に終了後の米粒に水等を噴霧して研磨するものとはいえないのであるから、審決の上記認定は誤りである。

(2)  被告らは、上記甲号各証記載の発明の研磨機自体が搗精作用を有するものではないから、搗精行程が終了した後の精白米を研磨するとしか考えられず、研磨の対象となる米粒は、搗精行程が終了し既に所期の歩留率にまで搗精された精白米に限定され、それゆえ、審決は、これら甲号各証記載の発明は米粒の表面に付着した遊離糠を除去することを目的とするのに対し、本件発明は精白途上において未だ米粒自体の一部を構成している残存糠(「玄米の糠層」)を剥離させることを目的としていると認定したものであると主張する。

しかし、甲第3号証の精米研磨機は、目板又は金網のような通気性の研磨筒12と研磨ロール20を有し、本件発明の「多孔壁除糠精白筒を設けた」精白室と同様の構造を有するものであるから、本件発明の精米装置と同様の搗精作用を有することは明らかである。また、甲第3号証では、「上段の研磨機によって研磨されたものは排出口から排出され樋32によって次の研磨機に入り同じく研磨ロールによって研磨されて排出させる。」(1頁右欄33行ないし35行)とし、下段の研磨機による研磨作用も上段におけるそれと同じであると記載されており、上段の研磨機が米粒表面を研磨し糠を分離するのであるから、下段の研磨機においても米粒の糠層を剥離しているのである。また、甲第3号証の上下二段の研磨機は、いずれも噴風摩擦式研磨機であり、同一構造であるから、上段の研磨機の作用効果は、当然に下段の研磨機においても発生しているのであり、上段の研磨機で「研磨し糠を分離」するのであれば、下段の研磨機でも同様に「研磨し糠を分離」しているのである。

このように、甲第3号証に記載された研磨機においても、米粒自体の一部を構成している残存糠を剥離させることを目的とするものであるから、審決は甲第3号証に記載された技術内容を誤認している。

(3)  被告らは、甲第3号証の下段の湿式研磨機においては、単に「研磨ロールによって研磨」するのみで糠層の剥離についての言及が一言もないから、下段の研磨機における研磨ロールによる作用とは、上段の研磨ロールに対比して、米粒の表面をより研磨(美化)させることが主たる目的とならざるを得ないと主張する。

しかし、甲第3号証の「水または栄養強化剤液等を噴霧するよう噴霧嘴31を設けてあり、必要量の噴霧を圧させ送風力によって研磨胴内に供給し研磨ロールによる作用を向上させるとともに米粒の表面を美化させまた栄養強化を行い」(2頁左欄1行ないし5行)の記載において、「栄養強化」が「栄養強化剤液」の噴霧による作用効果であり、「研磨ロールによる作用を向上させるとともに米粒の表面を美化」が「水」の噴霧による作用効果であることは明らかである。そして、下段の研磨機は上段の研磨機と同じく米粒の表面を研磨し糠を分離するのであるから、甲第3号証には、下段の研磨機において、水分を添加することにより、研磨ロールにより米粒の表面を研磨して糠を分離する際の作用を向上させることが記載されており、米粒から糠層を剥離する際に水分を添加する点において、甲第3号証に記載の発明と本件発明との間に差異はない。

2  取消事由2

(1)  前項1(2)、(3)で主張したとおり、甲第3号証に記載された精米研磨機による米粒の研磨は、精米行程が完全に終了後に行われるわけではない。

甲第4号証の2頁右欄3行ないし4行に「なおこの装置には必要により撰別とか研米等の附帯設備を加することがある。」と記載されており、甲第4号証に記載された多孔壁除糠精白筒を設けた複数個の精白室を直列に配設した精米装置の附帯設備として、甲第3号証に記載されたような研磨機を設けることが示唆されている。一方、甲第3号証の1頁右欄21行ないし22行には「供給口1から精米機によって精白された米粒を供給すれば、」と記載されており、甲第3号証に記載された米粒に水等を噴霧して研磨を行う研磨機を甲第4号証に記載されたような精米装置に連設することが示唆されている。さらに、甲第8号証には、精米機と、水等を注加する研米装置とを有する精米装置が記載されている。

よって、これらの甲第3号証、第4号証及び第8号証の記載から、甲第4号証に記載の精米装置に、甲第3号証に記載された精米研磨機を組み合わせて、甲第8号証のような精米機と研米装置とを備えた精米装置とする程度のことは、当業者が容易に想到し得るものである。

そして甲第4号証に記載の精米装置と、甲第3号証に記載の精米研磨機とは、いずれも多孔除糠筒を備えたほぼ同一の構造を有しており、甲第4号証に記載の精米装置に附帯設備として甲第3号証に記載された研磨機を組み合わせたものは、多孔壁除糠精白筒を設けた複数個の精白室を直列に配設した流れ搗精行程において、終末行程又は終末行程寄りの行程に配設した精白室に加湿装置を設けた本件発明の湿式精米装置と同じ構成となる。

以上のとおり、本件発明は、甲第3号証及び甲第4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、審決が、「甲第3号証ないし第8号証には、本件発明の要旨の一部である『終末行程または終末行程寄りの行程に配設した精白室に加湿装置を設けた』『湿式精米装置』は、記載されておらず、かつ示唆もされていない。」としたのは誤りである。

(2)  被告らは、甲第4号証の一回完了精米機の後行程に甲第3号証の研磨機を組み合わせても、それは、先行する搗精行程の後行程に搗精作用を主眼としない単なる研磨行程を付加したにすぎず、既に糊粉層がほとんど分離された所期の歩留率にまで搗精された精白米の表面を単に磨くだけであって、甲第4号証と甲第3号証とを組み合わせても、「本件発明の主要な構成」は示唆されないと主張する。

しかし、甲第4号証における2番機、3番機の噴風摩擦式精米機と甲第3号証の上下の噴風摩擦式研磨機は実質的に同一であり、甲第4号証記載の精米装置においては、精白量(糠の除去量)は2番機において最も大きく、3番機の精白量は2番機のそれに比べると約半分程度に減少している。つまり、2番機では糠の除去に主眼が置かれていたものが、3番機になると糠の除去を行う一方で、研米機と同様の米粒の研磨、美麗化に主眼が移りつつあるのである。

このことは、甲第4号証に、3番機の作用として「最後の2%~3%の糠層に対しては充分噴風摩擦を行い空冷除熱、白度の向上、仕上面の除糠美麗化および光沢強化を計り」(1頁右欄25行ないし27行)と記載されていることからも明らかである。

本件発明における終末行程又は終末に近い行程は、「精白により発生する糠粉を粒状化して流面(「粒面」の誤記)を払拭し、点在する硬質皮層部を除去して平坦な美麗面となし、併発する琢磨作用により強度の光沢面となすもの」(甲第2号証1頁左欄22行ないし25行)であり、甲第4号証の3番機と同様に米粒表面の研磨、美麗化を目的としている。一方、米粒表面の研磨、美麗化を目的とする甲第3号証の研磨機では、下段の研磨機、すなわち、上下二段の研磨機における仕上行程である下段の研磨機を湿式として水を噴霧することで研磨ロールにより米粒の表面を研磨し糠を分離する作用を向上させる点が記載されており、これを甲第4号証の精米装置における、米粒表面の研磨、美麗化を主眼とする仕上行程である3番機による噴風摩擦式精米機に適用して、3番機の精米機を湿式とし、その作用を向上させるようにすることは、当業者であれば容易に想到し得るものである。

(3)  甲第3号証には「次に供給口1から精米機によって精白された米粒を供給すれば」(1頁右欄21行ないし22行)と記載されているのであり、当業者であれば、前記米粒の搗精を主眼とする精米と、米粒の研磨を主眼とする研磨とを連続して行うために、甲第3号証の装置の前行程に精米装置を設置することは容易に想到するのであって、その精米装置として甲第4号証の精米装置を用いることに障害となるものは何一つない。

そして、「精米」といっても、「研米」といっても、その作用は、米粒表面を粒々摩擦することにより糠分を除去するものであり、両者の違いは、単に米粒の搗精(糠の発生、歩留率の低減)を主眼とするか、あるいは米粒の研磨(米粒の美麗化)を主眼とするかの違いでしかなく、搗精の後行程になるに従って歩留率の低減の幅が縮小され、代わりに研磨に主眼が移って行くことは極めて当然のことである。したがって、甲第4号証の精米装置と甲第3号証の研磨機とを一貫行程にしたものは、本件発明の精米機と全く同じ構成となるのである。

第4  審決取消事由に対する被告らの反論

1  取消事由1について

(1)  本件発明は、流れ搗精行程において終末行程又は終末行程寄りの行程に加湿精米装置を配設して搗精を完了させ、所期の歩留率にまで搗精された精白米を得るものであるから、加湿精米の対象となる米粒は、いまだ精白が完了していないところの精白途上過程にある米粒に限定される。しかるに、甲第3号証、第5号証、第7号証及び第8号証に記載の発明は研磨機が流れ搗精行程の中に明確に位置付けられていないし、また、これらは薬剤を付着させた米を得ることを目的としているものであるから、薬剤を米粒表面に添加した後、搗精を行ったのでは、米粒に付着させるべき薬剤は糠と一緒に米粒表面から除去されてしまう。したがって、これらの発明における研磨とは、米粒の歩留が低減する搗精とは異なることは明白であり、薬剤に代えて水分を添加してもこれらの発明の研磨の作用自体が変わることはないのであるから、これらの発明は、搗精行程が終了した後の精白米を研磨するとしか考えられず、研磨の対象となる米粒は、搗精行程が終了し既に所期の歩留率にまで搗精された精白米に限定される。

審決が、これらの発明は「精米機によって精白された米粒の表面を研磨する際に、水等を噴霧し、米粒の表面に付着した糠を除去するものであり、精米行程が終了していない玄米の糠層を除去するものであり、精米行程が終了していない玄米の糠層を除去するときに、水等を噴霧するもの、すなわち、精米装置の流れ搗精行程における、終末行程又は終末行程寄りの行程において、水等を噴霧するものではない。」と認定した趣旨は、このように理解するべきである。

(2)  甲第3号証に記載の発明は、まず最初に、「除塵樋2中を落下するとき吸風機の作用によって」(1頁右欄22行ないし23行)分離した糠(付着糠も一部含む)を取り除き、次に、上段の研磨機において更に「攪拌移動作用を与え、米粒の表面を研磨し糠を分離」(1頁右欄29行ないし30行)するものであり、最後に下段の研磨機において前記作用を奏することになる。この上段の研磨機において分離する糠自体、その前行程の精米時に発生して米粒に付着し、空気流入口3から流入吸引される空気流だけでは分離しきれていなかったものであると考えられ、「研磨」がなされることによってその結果として新たに発生した糠であるとは断言できない。もちろん、研磨によって米粒から糠層が剥離され糠が発生するとの説明は全くない。

仮に、上段における乾式研磨において米粒の糠層を剥離していたとしても、下段の湿式研磨においては、単に、「研磨ロールによって研磨」(1頁右欄35行)するのみで糠層の剥離についての言及が一言もない。そうだとすると、下段の研磨機における研磨ロールによる作用とは、上段の研磨機に対比して、米粒の表面をより研磨(美化)させることが主たる目的とならざるを得ない。

これに対し、本件発明における終末行程又は終末行程寄りに設けられた加湿精米機の精白作用とは、「硬質化した粒面皮層特に糊粉層を軟質化し精白により発生する糠粉を粒状化して粒面(「流面」とあるのは誤記と認める。)を払拭し、点在する硬質皮層部を除去して平坦な美麗面となし、併発する琢磨作用により強度の光沢面となす」(甲第2号証1頁左欄21行ないし25行)ものであるから、米粒から糠層を剥離する点において甲第3号証記載の発明とは明白に相違する。

2  取消事由2について

甲第4号証に記載された発明は、計3台の精米機によって流れ搗精行程が一回で完了すること、すなわち、最終的に得るべき標準食飯用白米を製造することを目的としている。このような一回完了精米機の後行程に、甲第3号証の発明を組み合わせても、それは、先行する搗精行程の後行程に搗精行程を主眼としない単なる研磨行程を付加したにすぎず、このことを作用的にみれば、所期の歩留率にまで搗精された精白米を対象として単に研磨作用を付与させるにすぎない。

そうだとすると、これらを組み合わせたものは、既に糊粉層がほとんど除去された所期の歩留率にまで搗精された精白米を単に磨くだけであって、糊粉層を除去するといった精白の最終工程の一翼を担っていないことになる。

それゆえ、甲第4号証に記載された発明と甲第3号証に記載された発明とを組み合わせても、「流れ搗精行程において、終末行程または終末行程寄りの行程に配設した精白室に加湿装置を設けた」との本件発明の主要な構成は示唆されない。

第5  当裁判所の判断

1  取消事由1についての判断

(1)  本件発明

甲第2号証(本件特許公報)によれば、本件明細書には、本件発明につき、

「 本発明は複数個の精白室を直列に連設してなる流れ作業方式を用いた量産用搗精行程の改良に係るもので、仕上げ白米に接近した搗精行程の精白能率を増大し、かつ白米粒面に強度の光沢を帯びさせ美化させるために開発させたものである。

従来の量産用流れ作業の搗精行程は単に乾式精白作用のみの精白室を直列に配設したに過ぎないので仕上げ白米の精白度が近づくと米粒面の硬質化により急激に精白能率が低下し、精白度が進行せず、糊粉層の除去が非常に困難で粒面に糠粉の遊離糠が点着し、容易に払拭状の美麗面と強度の光沢面を期待することができない。

本発明は全搗精行程の終末行程または終末に近い行程にある精白室に加湿装置を設け、白米粒面に適度の湿度を添加して硬質化した粒面皮層特に糊粉層を軟質化し精白により発生する糠粉を粒状化して粒面(「流面」とあるのは誤記と認める。)を払拭し、点在する硬質皮層部を除去して平坦な美麗面となし、併発する琢磨作用により強度の光沢面となすものであるが、このような加湿装置を用いる搗精行程は玄米に対する歩留すなわち歩留率が94%以後に進行した場合に限り本発明の目的に対して有効で、実験によると歩留率92~91%の中間白米を91~90%の歩留率までの精白度に仕上げるために玄米に対し約1%に相当する糠粉を発生する過程において加湿するのが最も有利である。」(1欄7行ないし2欄5行)、「本発明は流れ作業の量産用搗精行程の末期行程に加湿精白除糠除水琢磨作用を用いて強い光沢のある美麗な精白米を得る効果を有するものである。」(2欄26行ないし3欄2行)

と記載されていることが認められる。

これらの記載によれば、本件発明は、従来の乾式精白作用のみの精白室を直列に配設した搗精行程では、精白度が近づくと米粒面の硬質化により急激に精白能率が低下し、精白度が進行せず、糊粉層の除去が非常に困難で粒面に糠粉の遊離糠が点着し、容易に払拭状の美麗面と強度の光沢面を得ることができないという問題点があったのに着目し、この問題点の解決を技術的課題として本件発明の要旨に記載された構成を採用し、これにより、強い光沢のある美麗な精白米を得ることができるという作用効果を奏するものと認められる。

(2)  甲第3号証記載の発明

甲第3号証(特公昭32-6764号公報)によれば、甲第3号証の公報には、

「供給口1から精米機によって精白された米粒を供給すれば、除塵樋2中を落下するとき吸風機の作用によって空気流入口3から流入吸引される空気のため分離した糠や塵は米粒より分離吸引されて除去され、研磨胴の開口部に至り、胴内に回転する研磨ロール20の作用によってその移送螺条23に送り出され金網研磨筒12に至りロール面に樹立されている噴気管25によって攪拌移動作用を与え、米粒の表面を研磨し糠を分離する、この際噴気管25から不断に空気の噴出をなし外胴16内には吸引作用を圧しているので糠は全部排出され米肌は美しく研磨される、上段の研磨機によって研磨されたものは排出口から排出され樋32によって次の研磨機に入り同じく研磨ロールによって研磨されて排出させる。しかして送風室18に開口する連結管30の中間に、ポンプ等によって水または栄養強化剤液等を噴霧するよう噴霧嘴31を設けてあり、必要量の噴霧を圧させ送風力によって研磨胴内に供給し研磨ロールによる作用を向上させるとともに米粒の表面を美化させまた栄養強化を行い、完全なる不淘洗米を製出させるものである。」(1頁右欄21行ないし2頁左欄6行)

と記載されていることが認められる(別紙甲第3号証図面参照)。

この記載によれば、甲第3号証に記載の発明は、精米機で精白された米粒を上下二段で構成される研磨機に供給して、上段の研磨機で米粒の表面を研磨し糠を分離し、糠は全部排出されて米肌は美しく研磨され、研磨された米粒は下段の研磨機に入り同じく研磨ロールによる研磨作用を行うもので、この際噴霧嘴から水又は栄養強化剤液を噴霧することにより、研磨ロールによる作用を向上させるとともに、米粒の表面を美化させまた栄養強化を行い、完全なる不淘洗米を製出することを目的とするものであるということができる。

(3)  「精米」と「研米」(甲第5、第7、第8号証の記載)

原告は、「精米」、「搗精」、あるいは「精白」なる用語と「研磨」あるいは「研米」なる用語とは明確に使い分けられているわけでなく、「研磨」あるいは「研米」も「精米」、「搗精」、「精白」の中に含められている場合も多いから、甲第3号証に記載の発明も、精米行程が完全に終了後の米粒に水等を噴霧するとはいえないとし、このことは、甲第5、第7、第8、第10及び第11号証の記載から理解できるものであると主張する。そこで、甲第5、第7、第8号証の記載についてみると、以下のとおりである。

(a) 甲第5号証(特公昭36-8020号公報)によれば、甲第5号証に以下の記載があることが認められる(別紙甲第5号証図面参照)。

「本発明は、……供給穀粒を精白研摩させる方法にして……空気作用による除糠とともに油剤、水、薬液等の噴霧により湿潤し続いて湿気除去を行って穀粒の研摩とともに栄養価の増加をなし優良精米を得させるものである。前記方法を実施するに当っては図面に示す精白研摩装置によって行い得るもので」(1頁左欄7行ないし26行)、

「供給口3から穀粒を供給すれば研摩転子体の回転はその表面にある突出11のために穀粒は浮動状体で転回されて相互に軽い摩擦を行いつつ急速に精穀胴周を旋動しその旋動中噴気によって糠を精穀胴外に排出させ順次徐々に前方に進行する、第二区画部の外周に至れば空気とともに液が噴霧され転動旋回によって平均に付着湿潤し第三区画部の外周に至って噴気のみの作用を行わせ、……精穀胴4の外に排出した糠は吸風機によって外方に送出するものである。

本発明は一定に精白された穀粒を軽い抵抗を有し急速回転する研摩転子によって、その急速回転を利用して自体に噴気力を起こし噴気と噴霧を区画的に作用させ排糠、油剤、薬液等の付着と乾燥を同一精穀胴内において行い作用を正確に極めて簡便に栄養豊富な無洗米を製出させようとするものである。」(1頁右欄9行ないし27行)

(b) 甲第7号証(特公昭39-1990号公報)によれば、甲第7号証に以下の記載があることが認められる。

「この発明は普通に搗精した精米を不濁炊米とする研米にかかわるもので、金網のような多孔粗面板で構成した研摩胴によって柔軟体の研摩片をもって摺摩して表面糠を除いた上、栄養剤調味料などの溶液を混入してこれを表面に均等に付与し、多孔性滑面円筒内で柔軟研摩片で研摩して滑かに美しいおいしい精米とさせるもので、……この発明においては完全除糠した上栄養剤調味料を表面に付着して再び研摩を行い白米に不足する栄養分を付着させまた調味料を加えて研摩し、水洗することのないきれいな味のよい栄養豊富の白米とする研摩方法である。」(1頁左欄13行ないし29行)、

「供給口16から繰り入れられた精米は移送螺筒3によって送り出され研米片と金網の作用で米粒の表面を荒すことなく微細糠まで除き……多孔滑面の目板研摩胴と研摩体との作用によって表面全体均等に溶液を塗布した上、これをみがき美しい肌をした精米として排出口17から排出させるものである。」(1頁右欄14行ないし23行)

(c) 甲第8号証(特公昭36-15076号公報)によれば、甲第8号証に次の記載があることが認められる。

「この発明は普通の方法によって噴風精米機で循環搗精した精米を直ちに除糠円筒を通して除糠した上で水、油脂、栄養剤等の溶液を注加しよく混涅した上研磨し精米の表面に付着した糠等を除いて噴風搗精により……優良の精米状態に保持させるようになすものである。しかして除糠に続いて攪拌混合円筒に接続する樋内において液剤を注加するのであるから穀粒の表面によく付着し混合円筒に入り撹拌されて均等に付着されるもので……無洗炊飯に適した栄養米の搗精を容易に実施させるものである。」(1頁右欄14行ないし30行)

(4)  精米機による精米行程と研米機による研磨行程

ところで、甲第10号証(食品設備実用総覧編集委員会編「食品設備実用総覧」初版昭和56年1月15日)によれば、同書86頁の「搗精装置」との標題の下にその概説として、以下の記載があることが認められる。

「1.精穀

精穀は、米、大麦(裸麦を含む)、雑穀などを搗精する加工機の総称で、主なものは、精米機、精麦機である。」(86頁左欄2行ないし4行)

「図2は摩擦式で、玄米を搗精した場合の加工歩留と消費電力の関係を示す。主として玄米組織の果種皮をはく離する歩留り94%までは、きわめて効率がよい方式である。……図3は摩擦式で、玄米を搗精した場合の加工歩留りと白度の上昇の関係を示す。精米の白度は玄米の白度を起点として上昇し、玄米組織の果種皮がほぼ完全に除去される歩留り92%付近で、白度は急に上昇し精白点に達する。一般に、精米にあっては搗精が進むと歩留り90%近くまでは白度は、ほぼ直線的に上昇し糊粉層が除去される。」(87頁左欄10行ないし右欄4行)

「2.研摩

研摩は精穀の仕上げ工程の一つで、商品性の向上を目的とする処理である。」(89頁右欄1行ないし3行)

「2.1 研摩と無洗精米

精米加工では、研摩の最終目標として、洗わずに炊ける無洗精米の加工が推進された。……次のような研摩処理が行われるようになった。

2.2 湿式研米機

この装置は、無洗精米の製造を目指して、1977年に開発、市販された。」(89頁右欄10行ないし20行)

これらの記載によれば、精米機による精米行程(工程)は、玄米組織の果種皮の剥離と糊粉層の除去、すなわち、糠層を除去し所定の精白度の米粒を得るため所期の歩留率にまで精米する行程であり、研米機による研磨(摩)行程は、精米行程で得られた精米を仕上げる行程で、商品性の向上を目的とする米粒の処理行程と認められる。

そして、甲第4号証(特公昭39-15218号公報)によれば、甲第4号証に次の記載があることが認められる。

「この装置は硬質米を食飯用高度上白米に安全精米する目的を有し」(1頁左欄21、22行)

「糠質に対しては充分噴風摩擦を行い空冷除熱、白度の向上、仕上面の除糠美麗化および光沢強化を計り標準食飯用白米を加工するものである。」(1頁右欄25行ないし28行)

「以上述べたようにこの発明は除糠研削作用の1精白室と除糠摩擦作用の2精白室とを最も簡潔にしかも合理的に併用し……その標準精米歩留まりに対する精米精白度を能率的に高めると共に光沢のある美麗な仕上がり標準白米に搗精し、……なおこの装置には必要により撰別(「選択」とあるのは誤記と認める。)とか研米等の附帯設備を加することがある。」(2頁左欄34行ないし右欄4行)

この甲第4号証の記載によれば、光沢のある美麗な仕上がりの標準白米を得るには精米機による精米行程で足り、研米機による研磨行程を必ずしも必要とするものではないものと認められ、前記精米行程を研米機において行わせなければならないとすべき根拠も認められないから、「精米行程」と「研磨行程」は、米粒に対する作業目的、内容が異なる別の行程ということができ、区別ができないとすることはできない。

そうすると、前記の甲第5号証における「一定に精白された穀粒」、甲第7号証における「普通に搗精した精米」及び甲第8号証における「噴風精米機で循環搗精した精米」は、玄米組織の果種皮の剥離と糊粉層の除去、すなわち、糠層を除去する米粒の処理行程である精米行程で得られた米粒と解することができ、また、研磨機は、この米粒を更に研磨し栄養剤や調味料を加えて無洗米とするための行程に使用されるもので、研磨機で除去される糠は、例えば、甲第7号証において「表面糠」、「微細糠」と、甲第8号証において「表面に付着した糠」とそれぞれ記載されているように、玄米の糠層を除去するための精米行程で発生して米粒に付着した糠と解される。

したがって、甲第5、第7及び第8号証において精米機による精米(搗精、精白)行程、すなわち、玄米組織の果種皮の剥離と糊粉層(糠層)を除去する行程により得られる米粒を精米と称し、それを更に研磨機(研米機)による研磨行程を経て得られる米粒を同じく精米と称しているとしても、「研磨」あるいは「研米」も「精米」、「搗精」、「精白」の中に含まれ、また、研磨行程が精米行程の中に含まれるものとして、区別できないということはできない。甲第11号証(月刊「米と流通」1989臨時増刊14巻3号)には、原告主張のとおりの記載があることが認められ、そこに精米機と研磨機(ないし研米機)とが一緒に扱われている趣旨の記載があるが、そこにおける記載も上記認定を左右するものではない。

(5)  甲第3号証、第5号証、第7号証及び第8号証記載の各発明の技術内容

以上の検討を前提にすると、甲第3号証に記載の発明も、甲第5号証、甲第7号証、甲第8号証にそれぞれ記載の発明と同様に、精米機によって精白された米粒の表面を更に研磨し、水又は栄養強化剤液等を噴霧して「完全なる不濁洗米」を得るものであるから、「精米機によって精白された米粒」は、玄米組織の果種皮の剥離と糊粉層(糠層)が除去され精米行程が終了したものと解される。また、甲第3号証には、上段の研磨機、下段の研磨機で米粒を研磨し分離する糠がどのような糠であるかについて記載がないことが認められ、精米機によって精白された米粒に付着している糠が除塵樋2中を落下するとき、空気流入口3から流入吸引される空気によってすべて分離されるということもできないから、甲第3号証に記載の研磨機で分離される糠も、甲第7号証、甲第8号証に記載の発明と同様に、表面糠、微細糠、表面に付着した糠であると認めるべきである。

仮に、甲第3号証に記載の発明において、下段の研磨機で糠層の除去、すなわち、精米行程における糠層の除去を行うものであるとすると、米粒に付着させるべき薬剤は、糠と一緒に米粒表面から除去されてしまい、薬剤を添加した意味がなくなってしまうので、この点からみても、甲第3号証に記載の発明においては、下段の研磨機における水の噴霧は、糠層の除去を行うものということはできず、米粒表面を美麗化する研磨作用を向上させるためのものといわざるを得ない。

したがって、審決が甲第3号証、甲第5号証、甲第7号証及び甲第8号証に記載の発明について、「精米行程が終了していない玄米の糠層を除去するときに、水等を噴霧するもの、すなわち、精米装置の流れ搗精行程における、終末行程又は終末行程寄りの行程において、水等を噴霧するものではない。」と認定したことに誤りはない。

(6)  原告の主張に対する判断

(a) 原告は、甲第3号証に記載の精米研磨機は、目板又は金網のような通気性の研磨筒12と研磨ロール20を有し、本件発明の「多孔壁除糠精白筒を設けた」精白室と同様の構造を有するから、本件発明の精米装置と同様の搗精作用を有することは明らかであり、また、甲第3号証に記載の発明では、米粒の表面に付着した遊離糠は研磨胴に入る以前の段階で既に除去されているから、研磨機は米粒自体の一部を構成している残存糠を剥離させることを目的とするものであると主張する。

しかしながら、甲第3号証には、上段の研磨機で米粒を研磨し分離する糠についてどのような糠であるかに関する記載がなく、「精米機によって精白された米粒」に付着している糠が、除塵樋2中を落下するとき空気流入口3から流入吸引される空気によってすべて分離されるとも認められない。したがって、前示のとおり、甲第3号証に記載の研磨機で分離される糠は、甲第7号証、甲第8号証に記載のものと同様に、表面糠、微細糠、表面に付着した糠であると認めるのが相当である。また、甲第3号証に記載の研磨機が、本件発明の「多孔壁除糠精白筒を設けた」精白室と同様の構造を有するものであるとしても、この多孔壁除糠精白筒は、米粒の研磨の目的のために用いるものであり、甲第3号証に記載の研磨機が、精米行程の一環として米粒自体の一部を構成している残存糠を剥離させることを目的とするものとは認められない。

原告の上記主張は理由がない。

(b) 原告は、甲第3号証に記載の研磨機においても、米粒の一部を構成している残存糠を剥離させることを目的とし、下段の研磨機において水分を添加することにより、研磨ロールにより米粒の表面を研磨して糠を分離する際の作用を向上させることが記載されているのであり、米粒から糠層を剥離する際に水分を添加する点において、甲第3号証に記載の発明と本件発明との間に差異はないと主張する。

しかしながら、前示のとおり、甲第3号証に記載の研磨機で除去される糠は「表面糠」、「微細糠」、「表面に付着した糠」と解すべきものであり、甲第3号証に記載の発明において、米粒の一部を構成している残存糠が剥離されるものとはいえず、また、残存糠を剥離するために水等を噴霧するものと認めることはできない。

一方、本件発明が研磨機を必須の構成要件として限定するものでないことは、その発明の要旨に照らして明らかであるし、甲第2号証(本件特許公報)の発明の詳細な説明の欄における前記認定の「本発明は全搗精行程の終末行程または終末に近い行程にある精白室に加湿装置を設け、白米粒面に適度の湿度を添加して硬質化した粒面皮層特に糊粉層を軟質化し精白により発生する糠粉を粒状化して粒面を払拭し、点在する硬質皮層部を除去して平坦な美麗面となし、併発する琢磨作用により強度の光沢面となすものであるが、このような加湿装置を用いる搗精行程は玄米に対する歩留すなわち歩留率が94%以後に進行した場合に限り本発明の目的に対して有効で、実験によると歩留率92~91%の中間白米を91~90%の歩留率までの精白度に仕上げるために玄米に対し約1%に相当する糠粉を発生する過程において加湿するのが最も有利である。」(1欄19行ないし2欄5行)との記載によれば、本件発明は、玄米組織の果種皮の剥離と糊粉層の除去、すなわち、糠層を除去し所定の精白度の米粒を得るため所期の歩留率にまで精米する行程の終末行程又は終末行程寄りに加湿装置を設け水を噴霧するものということができるから、甲第3号証に記載の発明とは、その目的が異なることは明らかであり、原告の上記主張は理由がない。

2  取消事由2についての判断

(1)  本件発明は、前示のとおりの糠層を除去する米粒の処理行程である精米行程終末行程又は終末行程寄りの行程において精白度が近づくと米粒面の硬質化により急激に精白能率が低下し、精白度が進行せず、糊粉層の除去が非常に困難で粒面に糠粉の遊離糠が点着し、容易に払拭状の美麗面と強度の光沢面を得ることができないという問題点に着目し水を噴霧するものであるところ、甲第4号証にはこの問題点に関する記載ないし示唆のあることは認められない。

また、甲第3号証に記載の発明は、精米行程を経て糠層が剥離された米粒に、水又は栄養強化剤液等を噴霧して米粒の表面を美化させ栄養強化するものであるから、甲第3号証に記載の発明の前行程に、甲第4号証に記載の精米装置を用いて一貫行程にしたとしても、結局、水等は、精米で得られた米粒に付着した糠に噴霧することになり、本件発明の精米行程の終末行程又は終末行程寄りの米粒の糠層とは異なるものというべきである。

したがって、甲第4号証の精米装置と甲第3号証の研磨機とを一貫行程にしたものは、本件発明の精米機と全く同じ構成となるものとは認められないし、両者から本件発明の構成が容易に想到することができたと認めることもできない。

(2)  また、甲第8号証における「噴風精米機で循環搗精した精米」は、玄米組織の果種皮の剥離と糊粉層の除去、すなわち、糠層を除去する米粒の処理行程である精米行程で得られた米粒と解すべきことは、前示のとおりであり、甲第8号証に記載されている精米機を、甲第4号証の精米機と甲第3号証の研磨装置に組み合わせても本件発明の構成が得られるものではないし、これらから本件発明の構成が容易に想到することができたものと認めることもできない。

(3)  よって、本件発明の進歩性についてした審決の判断に、原告主張の誤りがあるとすることはできない。

第6  結論

よって、本訴請求を棄却すべく、主文のとおり判決する。

(平成11年7月6日口頭弁論終結)

(裁判長裁判官 永井紀昭 裁判官 塩月秀平 裁判官 市川正巳)

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