大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 平成9年(ラ)1045号 決定 1997年9月29日

主文

原審判を取り消す。

相手方は、抗告人の住居において、抗告人と同居せよ。

理由

第一  本件抗告の趣旨及び理由

抗告人の抗告の趣旨は、「原審判を取消し、本件を新潟家庭裁判所に差し戻す。」との決定を求めるというものであり、その理由は、別紙即時抗告申立書中の「抗告の理由」及び「書面一」に記載のとおりである。

第二  当裁判所の判断

一  当裁判所が、本件記録により認める事実は、次のとおり付加、訂正するほかは原審判の「理由」欄「第二 当裁判所の判断」(事実)に記載のとおりであるから、これを引用する。

(一)  七頁一〇行目の「無視され、一方」を「無視されたと述べ、また」に改める。

(二)  八頁三行目の「いずれも」から同頁末尾までを「いずれもハナの入浴後であったことから、同女の身体に付着していたものと考えられた。相手方は、この件に関し、抗告人に対して、ハナにその入浴方法を改めるように言ってほしいと頼んだが、抗告人から「そんなことを親に言えるか」と一蹴され、数カ月間放置されたと述べるのに対し、」に改める。

(三)  一〇頁一行目の「また、」の次に「相手方によれば、」を加える。

(四)  一二頁八行目の「乙山に」を「男に連絡すると言って」に改める。

(五)  一三頁三行目の「申立人が」から同四行目の「と言ったため、」までを削除する。

(六)  一三頁四行目から五行目の「事情を説明し」を「乙山との関係や家を出て行くことを告げて娘らに許しを乞い」に改める。

(七)  二〇頁七行目の「五 申立人関係者の意向」の次に行を改め、「抗告人によれば、抗告人関係者の意向は、以下のとおりと認められる。」を加える。

(八)  二四頁八行目の「は夏子が立て替えた」の次に「と相手方は認識している。)」を加える。

(九)  二五頁五行目の「であり」から末尾までを「であるが、右腕肘関節に異常があり、仕事は一日二時間にするようにとの医師からの指導がなされている。」に改める。

二  上記認定の事実に基づき、相手方の同居義務の有無について判断する。

(一)  夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならないものである(民法七五二条)から、夫婦の一方が合理的な理由なく住居に同居しないときには、他方は、これに対し、同居の審判を求めることができるものというべきである。

これを本件についてみてみるに、相手方が家を出た直接の切っ掛けは、相手方と乙山との不倫が抗告人に発覚したためであることは前認定のとおりであり、これが家を出て抗告人との同居を拒否する合理的事由といえないことは明らかであるから、相手方には抗告人との同居義務があるといわなければならない。

(二)  相手方は、<1>抗告人の女性問題、<2>抗告人と相手方との性生活、<3>風呂場に浮かんだ糞便の処置に象徴される抗告人の相手方に対する思いやりのなさ、<4>抗告人の親族との軋轢を指摘して、上記不倫に至る以前に既に抗告人との離婚を決意していたものであるから、離婚が成立するまでの間、別居するのもやむをえないものであり、不倫の発覚が直接の原因ではない旨主張する。

しかしながら、抗告人の女性問題は、昭和五一年ころのことであって、そのころに抗告人と相手方との間で特段離婚の話が切り出された形跡は窺われず、その後に三女秋子を設け、抗告人の単身赴任中にも特に夫婦関係が悪化した事実もなく、相手方と乙山との不倫が発覚した平成七年七月までの約一四年間にわたり通常の家庭生活が営まれているうえ、相手方が、上記<1>ないし<4>の不満を抗告人やその他周囲の者に漏らしたような形跡のない本件では、相手方の指摘する<1>ないし<4>の不満は、乙山との不倫発覚後に相手方が抗告人との離婚を意識し始めてから、抗告人との婚姻生活を想起して理由付けたものと推認せざるを得ず、相手方の別居に合理性があるとは到底認められない。

(三)  なお、相手方が、現在、抗告人との離婚を前提に、抗告人との同居を頑に拒んでいることは前認定のとおりであるところ、夫婦の同居義務は夫婦という共同生活体を維持するためのものであるから、その共同生活体が維持できないことが明白である場合には、同居を強いることは無意味であるが、抗告人は未だ相手方との関係修復を願っており、相手方が冷静に自己の立場をみつめて、これに対応すれば、抗告人と相手方との夫婦としての共同生活体が今後も維持される可能性は否定できず、本件同居義務を認めることが無意味であるということにはならない。

なお、抗告人は、原審において、相手方に別居状態解消までの間一日一万円の割合の金員の支払を求めているが、右金員の趣旨は明らかではなく、同居義務は強制執行になじまないから、これを付さないこととする。

第三  結論

よって、抗告人の本件申立てを却下した原審判は不当であるのでこれを取り消して、抗告人の本件申立てを認容し、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 町田 顕 裁判官 末永 進 裁判官 田中壮太)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例