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東京高等裁判所 平成8年(行コ)145号 判決 1997年7月10日

東京都新宿区大京町二二番地の五

控訴人(原告)

アキレス株式会社

代表者代表取締役

鈴木悌次

訴訟代理人弁護士

宇井正一

東京都千代田区霞が関三丁目四番三号

被控訴人(被告)

特許庁長官

荒井寿光

指定代理人

齋藤紀子

清宮克美

長谷川実

笛木秀一

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴人は、「原判決を取り消す。被控訴人が、平成三年審判第一九四三五号事件について、平成四年一〇月二日付けでした審判請求無効の処分、並びに、平成五年一月五日付けでした控訴人の平成四年一二月九日付け「追認書」及び同日付け「審判請求理由補充書」の各不受理処分を、いずれも取り消す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人は主文と同旨の判決を求めた。

当事者双方の主張及び証拠関係は、左記のとおり付加するほか、原判決の事実摘示のとおりであるから、これをここに引用する(ただし、原判決一九頁六行目の「本件送付票」を、「送付票(以下「本件送付票」という。)」に改める。)。

第一  控訴人の主張

一  本件無効処分の違法性について

1  原判決は、特許庁における書類処理手続の流れを認定したうえ、本件補正指令書が本件送付票とともに本件封書に封入されて発送され、控訴人代理人ら事務所に配達された蓋然性は極めて高い旨判断している。

しかしながら、補正指令書のみを封入する一般的な場合ならばともかく、これを他の書類と併せて封入する例外的な場合に過誤が生じ得ることは経験則から明らかである。のみならず、本件補正指令書は、書類の体裁が本件不受理書類と全く異なっており、一瞥しただけで識別し得るものであるから、控訴人代理人ら事務所において何人もの担当者の手を経ながら見落とされることはあり得ない。

原判決の前記認定判断は先入観に基づくものであって、誤りである。

2  原判決は、本件補正指令書は法令上送達すべき書類に当たらない旨説示している。

しかしながら、法令上送達すべきものとされている書類は送達を受けた者の対応いかんによって権利の消長に著しい影響を及ぼすものであるが、特許法(平成五年法律第二六号による改正前。以下、同じ。)一七条二項の規定による補正指令書も、その重要性において何ら変わりがないから、送達すべき書類と考えるのが相当である。

また、本件補正指令書が法令上送達すべき書類に当たらないとしても、これを他の書類と同封して郵送したことによって生じた不利益を国民に負担させることは許されない。

3  原判決は、特許法一七条二項及び一八条の規定の趣旨が「手続的な不備について、早期にその決着をはか」ることにある旨説示したうえ、「無効処分について、(中略)無効処分が確定するまでは補正が可能であるとすれば、無効処分についての異議申立を経て、取消訴訟が確定するまで補正ができることになってしまい、右のような特許法の趣旨が没却されてしまうことは明らかであ」る旨判断している。

しかしながら、特許法一三三条二項所定の審判長の却下処分が覊束行為とされているのに対し、同法一八条一項所定の特許庁長官の無効処分は裁量行為とされていることから明らかなように、特許法一八条一項の規定による無効処分は、手続の迅速性確保の要請と同時に、特許法の目的である発明の保護・奨励の要請に応えるように運用されなければならない。したがって、無効処分の効力発生(謄本送達)後であっても、同処分が確定するまでは、無効処分の理由とされた事由の補正が許されると解すべきである。しかるに、本件追認書及び本件理由補充書は、本件無効処分に対する行政不服審査法に基づく異議申立期間である六〇日以内に被告に提出されたのであるから、本件無効処分の理由とされた事由が有効に補正されたことは明らかである。そして、無効処分が確定するまで同処分の理由とされた事由の補正が許されると解しても、無効処分は、被控訴人がこれを取り消すことにより原則として異議申立期間内に決着するから、第三者を長期間不利な立場におくことにはならず、とり立てて不都合はない。

この点について、原判決は、行政処分の違法性は処分の時点における事実状態を前提として判断されなければならず、その後の事情の変化によって後発的に違法とされるべきではない旨説示している。

しかしながら、本件審判請求のように拒絶査定不服の審判の請求の日から法定期間内(特許法一六一条の二参照)に願書添付の明細書又は図面について補正がなされているときは、拒絶査定に示されている理由との兼合いによって、審判請求の理由はおのずと明らかであるから、審判請求書の「審判請求の理由」は形式的に記載されていれば足りるとする妥当な運用がなされているし、委任状の不提出が形式的瑕疵であることはいうまでもない。このように形式的な瑕疵についてまで、無効処分確定前の補正が許されないとするのは、特許出願人にとって酷にすぎるというべきである。

4  そもそも、本件審判請求の理由は、一一月七日付け補正書と同時に被控訴人に提出された同日付け「上申書」(乙第八号証)に実質的に記載されている。したがって、本件補正指令書を待つまでもなく、本件審判請求書に審判請求の理由が記載されていない瑕疵は補正されていたのである。

この点について、「審判請求理由補充書」と題した書面の提出が必要であるとしても、平成四年一二月二日付け「行政不服審査法による異議申立書」の添付書類として無権代理人の作成に係る同日付け「審判請求理由補充書」が被控訴人に提出され、無権代理人の右行為は本件追認書によって追認されたところ、追認の効果は追認された行為の時に遡るのであるから、本件審判請求書に審判請求の理由が記載されていない瑕疵は本件無効処分の確定前に補正されたことは明らかである(本件理由補充書は念のために提出したものにすぎない。)。

仮に、追認が従前の手続の効力を承継しないとしても、追認に遡及効が認められる以上、被控訴人は、本件審判請求事件について控訴人に対し改めて審判請求理由補充書の提出を命ずるべきであり、そうでないと、追認に遡及効を認めることが無意味となる。

なお、東京地裁昭和四六年一月二九日判決(無体財産権関係民事・行政裁判例集三巻一号一一頁)は、考案内容の特定につき添付図面が重要な意味を有しない実用新案登録出願につき、図面を追加する補正を命ずることなくなされた、図面の添付を欠くことを理由とする不受理処分を違法としたものである。この事案より形式的な瑕疵が無効処分の理由とされ、かつ、控訴人が本件補正指令書の受領を争っている本件無効処分の効力の判断に当たっては、右判決の趣旨が十分考慮されるべきである。

5  ちなみに、特許法一八条の規定は平成八年法律第六八号によって改正されたが、同時に新設された一八条の二の規定のように、手続をした者に理由を通知し弁明書を提出する機会を与える旨は定められていない。しかしながら、特許庁は、右改正法施行後の特許法一八条の規定による手続の却下についても「処分前の通知」を行う運用をしているが、これは、特許庁が、何らの通知もせず同条の規定による手続の却下を行うことが、手続をした者にとって酷であることを認めているからに他ならない。このような事情は、無効処分が確定するまでの間に同処分の理由とされた事由の補正が許されるか否かの判断に当たっても、考慮されなければならない。

二  本件不受理処分の違法性について

前記のとおり、無効処分の効力発生後であっても、同処分が確定するまでの間における無効処分の理由とされた事由の補正は広く許されるべきであるから、本件追認書及び本件理由補充書の提出が無効処分後の差出であることのみを理由とする本件不受理処分が違法であることは明らかである。

ちなみに、訴訟手続においては、行政事件訴訟を含めて、無権代理人の訴訟行為の追認は上告審においても可能とされているが、準司法手続である審判手続においても同様に考えるべきであるから、本件無効処分確定前に本件追認書の提出によってなされた追認は有効である。

第二  被控訴人の主張

一  控訴人は、特許法一七条二項の規定による補正指令書は、法令上送達すべきものとされている書類と重要性において何ら変わりがないから、送達すべき書類と考えるのが相当であると主張する。

しかしながら、書留郵便は、配達人によって名宛人の住所に配達され、配達書に名宛人のサインを受けるものであって、郵便物を受け取る側にとっては基本的に特別送達と異なるところがないから、控訴人の右主張は失当である。

二  控訴人は、特許法一八条一項所定の特許庁長官の無効処分は裁量行為であって、手続の迅速性確保の要請と同時に特許法の目的である発明の保護・奨励の要請に応えるように運用されなければならないから、無効処分が確定するまでは同処分の理由とされた事由の補正が許されると解すべきである旨主張する。

確かに、特許庁は、極めて軽微な形式的瑕疵については職権訂正するか不問にして手続補正を命ずることはせず、また、指定期間経過後であっても無効処分の効力発生前になされた手続補正は有効なものとして取り扱っている。しかしながら、本件審判請求書における「請求の理由」(特許法一三一条一項三号)記載の欠缺、及び、委任状(同法一〇条)の欠缺は、極めて軽微な形式的瑕疵ではない。そして、控訴人は、本件審判請求から本件補正指令書の送達を受けるまで約四か月、その後も本件無効処分の謄本の送達を受けるまで約八か月もの間、本件補正指令書に対応する手続補正をしなかったのであるから、控訴人の前記主張が失当であることは明らかである。

三  控訴人は、本件審判請求の理由は、一一月七日付け補正書と同時に提出された同日付け「上申書」に実質的に記載されているから、本件補正指令書を待つまでもなく、本件審判請求書に審判請求の理由が記載されていない瑕疵は補正されていたと主張する。

しかしながら、手続の補正は、原則として「手続補正書」によって行わねばならず(特許法施行規則一一条)、また、「審判請求理由補充書」と題する書式は、特許庁において長年慣用されているものである。しかるに、「上申書」は、単に行政庁に対し要望を上申する文書であって、法令に基づく文書ではない。のみならず、控訴人主張の平成三年一一月七日付け「上申書」には、審判請求の理由はおって補充し明らかする旨記載されているにすぎないから、実質的な審判請求の理由が記載されているとはいえない。

なお、控訴人は、東京地裁昭和四六年一月二九日判決を援用して、本件無効処分の効力の判断に当たっては右判決の趣旨が十分考慮されるべきであると主張する。

しかしながら、右判決は、考案の技術内容の理解のために図面がほとんど意味を持たない(すなわち、図面を追加する補正によって考案の要旨が変更されると考えられない)実用新案登録請求について、図面を追加する補正を命ずることなく、実用新案登録請求が本質的要件を欠くとして直ちになされた不受理処分を違法とした事例であって、「請求の理由」の記載及び委任状を欠缺している本件審判請求とは全く異なる事案に関するものであるから、控訴人の前記主張は当たらない。

四  控訴人は、特許庁は平成八年法律第六八号による改正法施行後の特許法一八条の規定による手続の却下についても「処分前の通知」を行う運用をしているが、これは特許庁が何らの通知もせず同条の規定による手続の却下を行うことが手続をした者にとって酷であることを認めているからに他ならず、このような事情は無効処分が確定するまでの間に同処分の理由とされた事由の補正が許されるか否かの判断に当たっても考慮されなければならない旨主張する。

しかしながら、特許庁が改正後の特許法一八条の規定による手続の却下について行っている「処分前の通知」は行政サービスにすぎず、これを行わなかったとしても却下処分が違法となるわけではないし、改正法の施行に伴って新たに運用を開始した実務の趣旨が、法改正前の規定に基づく処分の効力の判断において考慮されるべき理由はない。

そもそも、本件審判請求書の「請求の理由」の欄には「追って補充する。」、「委任状」の欄には「(追完)」と記載されており、控訴人代理人ら自身が本件審判請求書に瑕疵があることを知悉し、これを補正する意思を有していたのであるから、本件補正指令書に対応する手続補正がなされなかったのは控訴人側の事務処理の過誤が原因であることは明らかであって、控訴人の前記主張は失当である。

第三  証拠関係

当審における証拠関係は、当審訴訟記録中の書証目録記載のとおりであるから、これをここに引用する。

理由

第一  当裁判所も、原判決と同じく、控訴人の本訴請求は棄却すべきものと判断する。その理由は、左記のとおり付加するほか、原判決の理由説示のとおりであるから、これをここに引用する(ただし、原判決三九頁末行の「ならもの」を「ならないもの」に改める。)。

一  原判決が挙示する証拠関係に照らせば、本件補正指令書は平成四年二月一九日に控訴人代理人ら事務所に配達されたと認めるのが相当である。

この点について、控訴人は、補正指令書のみを封入する一般的な場合ならばともかく、これを他の書類と併せて封入する例外的な場合に過誤が生じ得ることは経験則から明らかであるし、本件補正指令書は書類の体裁が本件不受理書類と全く異なっており一瞥しただけで識別し得るものであるから、控訴人代理人ら事務所において何人もの担当者の手を経ながら見落とされることはあり得ない旨主張するが、特許庁における審判請求事件についての手続補正指令書及び送付票の作成・送付に関する実務上の取扱い、及び、控訴人代理人ら事務所における本件封書処理の状況(原判決一一頁二行ないし二九頁二行)照らし、本件補正指令書を封入しないまま本件封書を送達した過誤が生じたとは認め難く、ほかにそのような過誤が生じたことを疑うに足りる証拠はないから、控訴人の右主張は原判決の認定を左右するものではない。

二  本件補正指令書は法令上送達すべき書類に当たらないことは、原判決が説示するとおりである。

この点について、控訴人は、法令上送達すべきものとされている書類は送達を受けた者の対応いかんによって権利の消長に著しい影響を及ぼすものであるが、特許法一七条二項の規定による補正指令書もその重要性において何ら変わりがないから送達すべき書類と考えるのが相当であり、また、本件補正指令書が法令上送達すべき書類に当たらないとしても、これを他の書類と同封して郵送したことによって生じた不利益を国民に負担させることは許されない旨主張するが、本件補正指令書が法令上送達すべき書類に当たらないことは前記説示のとおりであり、また、補正指令書を他の書類と同封したからといって、格別国民に不利益を負担させることにはならないから、右主張はいずれも控訴人独自の見解であって、採用できない。

三  控訴人は、特許法一八条一項の規定による無効処分は裁量行為であって、手続の迅速性確保の要請と同時に特許法の目的である発明の保護・奨励の要請に応えるように運用されなければならないから、無効処分の効力発生(謄本送達)後であっても同処分が確定するまでは無効処分の理由とされた事由の補正が許されると解すべきである旨主張する。

しかしながら、行政処分の効力は当該処分がなされた時点における事実関係を前提として判断すべきことは原判決が説示するとおりであって、このことは当該行政処分が覊束行為であるか裁量行為であるかに関わりがない。

この点について、控訴人は、本件審判請求のように拒絶査定不服の審判の請求の日から法定期間内に願書添付の明細書又は図面について補正がなされているときは審判請求書に記載する「審判請求の理由」は形式的に記載されていれば足りるとする妥当な運用がなされているし、委任状の不提出が形式的瑕疵であることはいうまでもないが、このように形式的な瑕疵についてまで無効処分確定前の補正が許されないとするのは特許出願人にとって酷にすぎると主張する。

しかしながら、審判手続においては、職権によって当事者が申し立てない理由について審理されることがある(特許法一五三条一項参照)としても、審判手続の審理範囲は請求人が主張する審判請求の理由によって第一義的に画定されるものであるから(同法一三一条一項三号参照)、審判請求の理由は実質的かつ明確に主張されることを要すると解すべきであって、拒絶査定不服の審判の請求の日から法定期間内に願書添付の明細書又は図面について補正がなされているときのみを例外的に扱うべき合理的な理由は存しない。もとより、被控訴人が主張するように、極めて軽微な形式的瑕疵について手続補正を命ずることをせず、また、指定期間経過後であっても無効処分の効力発生前になされた手続補正を有効なものとして取り扱うことが妥当な場合はあり得るが、審判請求における「請求の理由」の記載及び委任状の提出は、審判手続において請求人がなすべき重要な手続行為であって、その欠缺をもって極めて軽微な形式的瑕疵とすることはできないし、まして、本件無効処分の効力発生後になされた手続補正を有効なものと認めなかった本件不受理処分が裁量権の逸脱・濫用という余地はないから、控訴人の前記主張は採用できない。

四  控訴人は、そもそも本件審判請求の理由は一一月七日付け補正書と同時に提出された同日付け「上申書」に実質的に記載されているから、本件補正指令書を待つまでもなく、本件審判請求書に審判請求の理由が記載されていない瑕疵は補正されていたと主張する。

しかしながら、手続の補正は法令に規定された様式に則って行うのが審判手続の適正を確保する所以であるから、これを法令に基づく文書ではない「上申書」のような形で行うことは相当といえない。のみならず、成立に争いのない乙第八号証によれば、平成三年一一月七日付け「上申書」の「上申の内容」は特許請求の範囲を補正した理由にも言及しているが、「審判請求の理由については、追って補充しその理由を明らかに致します」、「今回の前置審査において、再度の考慮の機会から、私共の考えをお聞きいただきたく、面接審査をお願いする次第であります。」と記載されていることが認められる。したがって、同「上申書」の主旨があくまで審査官に対する面接の要請にあることは明らかであって、拒絶査定を不服とする具体的かつ実質的な審判請求の理由が明確に記載されているということはできないから、控訴人の前記主張も当たらない。

なお、控訴人が援用する東京地裁昭和四六年一月二九日判決は、不受理処分を行うに先立って手続をした者に補正を命じなかった事例に関するものであって、補正指令書が発せられている本件とは事案を異にすることが明らかであるから、同判決を論拠として本件無効処分が違法であるとすることはできない。

五  また、控訴人は、特許庁は平成八年法律第六八号による改正法施行後の特許法一八条の規定による手続の却下についても「処分前の通知」を行う運用をしているが、これは特許庁が何らの通知もせず同条の規定による手続の却下を行うことが手続をした者にとって酷であることを認めているからに他ならず、このような事情は無効処分が確定するまでの間に無効処分の理由とされた事由の補正が許されるか否かの判断に当たって考慮されなければならない旨主張する。

しかしながら、成立に争いのない乙第二二号証の一ないし三によれば、特許庁が改正法施行後の特許法一八条の規定による手続の却下について行っている「処分前の通知」が法令に基づくものでなく、いわゆる行政サービスとして行うものであることが明らかにされていると認められる。したがって、この手続を経由せずに行われた手続の却下処分が直ちに違法となる理由はないし、そもそも、改正法の施行に伴って新たに運用を開始した実務の趣旨が、法改正前の規定に基づく処分の効力の判断において考慮されるべき理由はないから、控訴人の前記主張も当たらない。

六  以上のとおり、無効処分の効力発生後は同処分の理由とされた事由の補正は許されないと解すべきであるから、本件追認書及び本件理由補充書が無効処分後の差出であることを理由としてなされた本件不受理処分には何らの違法も存しない。

なお、控訴人は、訴訟手続においては行政事件訴訟を含めて無権代理人の訴訟行為の追認は上告審においても可能とされているが、準司法手続である審判手続においても同様に考えるべきであるから、本件無効処分確定前に本件追認書の提出によってなされた追認は有効であると主張する。

しかしながら、特許法一六条の規定による追認は、追認の対象となるべき手続が却下あるいは無効にされた後はなし得ないと解するのが相当であって、その理由は原判決説示(三七頁一〇行ないし三八頁七行)のとおりである。仮にそうでないとしても、追認の対象となるべき手続(本件でいえば、無権代理人の行為)自体が適法な時期になされていなければ、たとえ追認は適法な時期になされたとしても、当該手続の効力が生ずる由がないことは当然であるところ、本件理由補充書(あるいは、平成四年一二月二日付け「行政不服審査法による異議申立書」添付の同日付け「審判請求理由補充書」)は本件補正指令書の指定期間内に被控訴人に提出されていないのであるから、結局、本件審判請求書に審判請求の理由が記載されていない瑕疵が有効に補正されたと解する余地はなく、その場合、被控訴人が控訴人に対し改めて再度審判請求理由補充書の提出を命ずべき義務が存しないことは明らかである。

第二  よって、控訴人の請求を棄却した原判決は正当であって、控訴人の本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条、九五条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 竹田稔 裁判官 春日民雄 裁判官 持本健司)

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