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東京高等裁判所 平成8年(行ケ)5号 判決 1997年2月27日

東京都大田区久が原3丁目32番4号

原告

フジコン株式会社

代表者代表取締役

大島要二

訴訟代理人弁理士

鈴木正次

東京都千代田区霞が関3丁目4番3号

被告

特許庁長官 荒井寿光

指定代理人

服部秀男

石田惟久

吉村宅衛

吉野日出夫

主文

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第1  当事者が求める裁判

1  原告

「特許庁が平成3年審判第19654号事件について平成7年11月17日にした審決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決

2  被告

主文と同旨の判決

第2  請求の原因

1  特許庁における手続の経緯

原告は、昭和63年6月17日、名称を「電線接続具」とする考案(以下、「本願考案」という。)について実用新案登録出願(昭和63年実用新案登録願第80239号)をしたが、平成3年8月13日に拒絶査定がなされたので、同年10月9日に査定不服の審判を請求し、平成3年審判第19654号事件として審理された結果、平成7年11月17日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決がなされ、その謄本は同年12月25日原告に送達された。

2  本願考案の要旨

絶縁ハウジングの中央凹所に、対向する上、下の平板と垂直片で断面コ字状部とされ、下側平板に絶縁ハウジングの外側に突出する脚片を垂下させた導電金具と、前記コ字状部内に板体の両側を上方に屈曲した形状のバネ片を装着し、前記対向する平板の上側平板と、前記バネ片の一方の屈曲した斜片の先端縁とを対向させて電線挟着部を構成した電線接続具において、前記斜片の先端縁と対向させた上側平板の端縁に、電線の退避空間が設けてあると共に、該退避空間を介して補助平板を下向に斜設し、前記絶縁ハウジングの側壁に前記上側平板と、前記斜片上端との間へ電線を案内する為に内口を小さく外口を大きくしたテーパー孔を設けることを特徴とした電線接続具(別紙図面A参照)

3  審決の理由の要点

(1)本願考案の要旨は、その実用新案登録請求の範囲に記載された前項のとおりのものと認める。

(2)これに対して、昭和57年実用新案出願公告第30773号公報(昭和57年7月6日出願公告。以下、「引用例」という。別紙図面B参照)には、「電線の芯線部の挿入時は引掛らず、且つ挿入後芯線部の抜止作用を行う鎖錠金具と、この鎖錠金具を収納し、且つ鎖錠金具との間で電線を挟持する面及び電線の芯線部が通るガイド孔を設けた端子金具と、この端子金具が組込まれると共にガイド孔より大なる径の電線差込口を設けた絶縁物製器体とで成したネジ無し端子装置。」(実用新案登録請求の範囲)、「1は鎖錠金具で、電線Tを押える鎖錠片2と、これを弾圧する板バネ3とで成しているが、勿論、全体をバネ板にて作ってもよい。」(2欄15行ないし18行)、「絶縁物製器体7の中央凹所に、対向する上、下の平板と垂直片とで断面コ状部とされた端子金具4を装着し、電線を挟持する面5を構成する上側平板に切目を設け上方へ屈曲することにより、上方へ屈曲された上側平板とガイド孔6の上壁を構成する水平な平板との間に空間を設けたネジ無し端子装置。」(第1図、第2図参照)、「内口を小さく外口を大きくした電線差込口8」(第1図参照)が記載されている。

引用例の前記記載からは、「絶縁物製器体の中央凹部に、対向する上、下の平板と垂直片とで断面コ字状部とされた端子金具と、前記コ字状部内に板体の両側を上方に屈曲した形状のバネ板を装着し、前記対向する平板の上側平板と、前記バネ板の一方の屈曲した斜片の先端縁とを対向させて電線挟着部を構成したネジ無し端子装置において、前記斜片の先端縁と対向させた上側平板の端縁に空間が設けてあると共に、該空間を介してガイド孔の上壁を構成する平板を設け、前記絶縁物製器体の側壁に内口を小さく外口を大きくした電線差込口を設けることを特徴としたネジ無し端子装置」が把握される。

(3)本願考案と引用例記載のものとを対比すると、引用例の「絶縁物製器体、端子金具、バネ板、ネジ無し端子装置、上側平板の端縁に設けた空間、ガイド孔6の上壁を構成する平板、電線差込口」は、本願考案の「絶縁ハウジング、導電金具、バネ片、電線接続具、退避空間、補助平板、テーパー孔」に相当する。したがって、両者は、「絶縁ハウジングの中央凹所に、対向する上、下の平板と垂直片で断面コ字状部とされた導電金具と、前記コ字状部内に板体の両側を上方に屈曲した形状のバネ片を装着し、前記対向する平板の上側平板と、前記バネ片の一方の屈曲した斜片の先端縁とを対向させて電線挟着部を構成した電線接続具において、前記斜片の先端縁と対向させた上側平板の端縁に、電線の退避空間が設けてあると共に、該退避空間を介して補助平板を設け、前記絶縁ハウジングの側壁に内口を小さく外口を大きくしたテーパー孔を設けることを特徴とした電線接続具」である点において一致し、本願考案が、

<1> 導電金具の下側平板に絶縁ハウジングの外側に突出する脚片を垂下させた点

<2> 補助平板を下向に斜設した点

<3> テーパー孔が、上側平板と斜片上端との間へ電線を案内する点

を構成要件とするのに対し、引用例にはこれらの事項が記載されていない点において相違する。

(4)前記相違点について検討する。

<1> 導電金具の脚片をどのようにして設けるかは、電線接続具の接続方向等に応じて、当業者が設計的に決定し得る程度の事項であり、導電金具の下側平板に絶縁ハウジングの外側に突出する脚片を垂下させた点に格別の考案があるとはいえない。

<2> 明細書の記載をみても、本願考案において、補助平板を下向に斜設した点に格別の技術的意義があるものとは認められず、相違点<2>は、当業者が設計上適宜なし得る単なる形状の変更にすぎない。

<3> 昭和55年実用新案出願公開第39638号公報(昭和55年3月14日出願公開)、昭和55年実用新案出願公開第161367号公報(昭和55年11月19日出願公開)、昭和61年実用新案出願公開第48573号公報(昭和61年4月1日出願公開)の各図面にもみられるように、電線挟着部を構成した電線接続具において、電線差込口を、電線挟着部に向けて電線を案内するテーパー状に形成したものは従来周知であるから、相違点<3>の構成とすることに格別の考案力を要するものとはいえない。

<4> そして、明細書に記載された本願考案の効果も、引用例記載のもの及び前記周知のものから当然予測し得る程度のものであって、格別のものとはいえない。

(5)したがって、本願考案は、引用例記載のものに基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであるから、実用新案法3条2項の規定により実用新案登録を受けることができない。

4  審決の取消事由

引用例に審決認定のとおりの技術内容が記載されていることは認める。しかしながら、審決は、本願考案と引用例記載のものとの一致点の認定及び相違点の判断を誤り、本願考案の進歩性を否定したものであって、違法であるから、取り消されるべきである。

(1)一致点の認定の誤り

審決は、本願考案と引用例記載のものは「板体の両側を上方に屈曲した形状のバネ片を装着し」ている点において一致すると認定している。しかしながら、引用例には、楕円形に屈曲した板バネ3の一側に別製の鎖錠片2をもたせかけ、鎖錠片2の基端側を端子金具4の屈曲部に掛止させる構成が記載されているにすぎず、このように3個の部品から成り梃子の原理を利用したものと、1個の部品から成る本願考案のバネ片の構成とを同一視することはできない(なお、引用例の「全体をバネ板にて作ってもよい。」(2欄17行、18行)という記載は、鎖錠片2の材質を述べたものであって、鎖錠片2と板バネ3とを一体的に構成することを述べたものではない。)。

また、審決は、本願考案と引用例記載のものは「上側平板の端縁に、電線の退避空間が設けてあると共に、該退避空間を介して補助平板を設け」る点において一致すると認定している。しかしながら、本願考案は、補助平板を下向に斜設することによって退避空間を形成する点にこそ特徴を有するものである。したがって、補助平板の構成からこの点を除外して一致点として認定することは、誤りといわざるをえない。

(2)相違点の判断の誤り

審決は、相違点<1>について、導電金具の下側平板に絶縁ハウジングの外側に突出する脚片を垂下させた点に格別の考案があるとはいえないと判断している。

しかしながら、上部側板に電線接続部を有し、これと平行な下部側板に脚片を垂下させる構成は新規なものであって、近似する従来例すら見当たらないから、審決の上記判断は誤りである。

また、審決は、相違点<2>について、当業者が設計上適宜なし得る単なる形状の変更にすぎないと判断している。

しかしながら、本願考案が要旨とする補助平板は、前記のように、下向に斜設されることによってバネ片の先端と関連付けられて退避空間を形成するものであり、それによって電線がより大きな引張力に耐える作用効果が奏されるのである(甲第7号証(実験報告書)によれば、本願考案による電線接続具は、引用例記載の端子装置よりも約1kg強い引張力に耐えることが明らかである。)。したがって、相違点<2>に係る本願考案の構成を単なる形状の変更というのは誤りである。

さらに、審決は、相違点<3>について、電線差込口を電線挟着部に向けてテーパー状に形成したものは周知であると判断している。

しかしながら、本願考案の電線差込口は、その内側の退避空間との結合構造に特徴を有するものであるから、電線差込口のみを取り上げてその構成に進歩性がないというのは誤りである。

第3  請求原因の認否及び被告の主張

請求原因1(特許庁における手続の経緯)、2(本願発明の要旨)及び3(審決の理由の要点)は認めるが、4(審決の取消事由)は争う。審決の認定判断は正当であって、これを取り消すべき理由はない。

1  一致点の認定について

原告は、引用例には楕円形に屈曲した板バネ3の一側に別製の鎖錠片2をもたせかけ鎖錠片2の基端側を端子金具4の屈曲部に掛止させる構成が記載されているにすぎず、このように3個の部品から成り梃子の原理を利用したものと1個の部品から成る本願考案のバネ片の構成を同一視することはできないと主張する。

しかしながら、引用例記載の端子金具4は本願考案の導電金具に相当するものであって、引用例記載の鎖錠片2と板バネ3とによって形成される鎖錠金具1が本願考案のバネ片に相当する。そして、引用例には「1は鎖錠金具で、電線Tを押える鎖錠片2と、これを弾圧する板バネ3とで成しているが、勿論、全体をバネ板にて作ってもよい。」(2欄15行ないし18行)と記載され、かつ、別紙図面Bによれば、板バネ3の左端は上方に屈曲し、鎖錠片2も板バネ3の底面部の右端から上方に立ち上げているから、引用例には、鎖錠金具1全体をバネ板で作り、その両側を上方に屈曲する形状にすることが実質的に記載されているというべきである。

また、原告は、本願考案は補助平板を下向に斜設することによって退避空間を形成する点にこそ特徴を有するものであるから、補助平板の構成からこの点を除外して一致点として認定することは誤りであると主張する。

しかしながら、審決は、本願考案において補助平板が下向に斜設される点の技術的意義は相違点<2>として認定判断しているのであるから、原告の上記主張は当たらない。

したがって、審決の一致点の認定に誤りはない。

2  相違点の判断について

原告は、相違点<1>について、上部側板に電線接続部を有しこれと平行な下部側板に脚片を垂下させた構成は新規なものであって、近似する従来例すら見当たらないと主張する。

しかしながら、導電金具の脚片の方向は、接続すべき方向に応じて任意に決定しうる設計事項にすぎない。

また、原告は、相違点<2>について、本願考案が要旨とする補助平板は下向に斜設されることによってバネ片の先端と関連付けられて退避空間を形成するものであり、それによって電線がより大きな引張力に耐える作用効果が奏されるのであるから、これを単なる形状の変更というのは誤りであると主張する。

しかしながら、電線がより大きな引張力に耐えるという本願考案の作用効果は、バネ片の一方の斜片の先端縁と対向する上側平板の端縁に退避空間を設け、電線に引張力が加わったときは退避空間へ逃がすことによって奏されるものであって、補助平板を下向に斜設することには、退避空間の形成にとって格別の技術的意義はない(原告が援用する実験報告書(甲第7号証)は、実験条件等が不明であり、補助平板を下向に斜設する構成と剪断引張力との関係を明らかにするものとはいえない。)。

さらに、原告は、相違点<3>について、本願考案の電線差込口はその内側の退避空間との結合構造に特徴を有するものであるから、電線差込口のみを取り上げてその構成に進歩性がないというのは誤りであると主張する。

しかしながら、電線接続具の差込口を挟着部に向けて電線を案内するテーパー状に形成することは、本出願前の周知技術である。そして、本願考案が要旨とする「上側平板と、前記斜片上端との間」は電線挟着部に他ならないから、相違点<3>に係る本願考案の構成は、構造上自明の事項にすぎない。

したがって、審決の相違点の判断にも誤りはない。

第4  証拠関係

証拠関係は、本件訴訟記録中の書証目録記載のとおりであるから、これをここに引用する。

理由

第1  請求原因1(特許庁における手続の経緯)、2(本願発明の要旨)及び3(審決の理由の要点)は、当事者間に争いがない。

第2  そこで、原告主張の審決取消事由の当否を検討する。

1  成立に争いのない甲第2号証の2(手続補正書)によれば、本願明細書には、本願考案の技術的課題(目的)、構成及び作用効果が次のとおり記載されていることが認められる(別紙図面A参照)。

(1)技術的課題(目的)

本願考案は、端子盤に利用される電線接続具に関する(手続補正書添付の明細書2頁2行、3行)。

従来、電気機器あるいは電子機器内における配線を中継するための端子盤において、電線を中継用の導電金具に接続するには、ビスにより固定するものと、ビスを用いずバネの弾力で挟着固定するものとが知られており、本願考案は後者のものを対象とする(2頁5行ないし13行)。

第6図は従来の電線接続具を表したものであって、絶縁性のハウジング21の一側壁に電線挿入口22が設けられ、これに隣接させて、平板23と、斜設バネ片24の先端縁とを対向させた電線挟着部が設けられている(2頁14行ないし18行)。電線挿入口22から挿入された電線26は、平板23と斜設バネ片24の先端縁との対向部に挟着されて中継接続が行われる。しかし、電線26に矢印27のように電線26を抜く方向に外力が加わった場合には、斜設バネ片24の先端縁が電線26に食い込んで電線26を切断することがあり、食込みが起こらないように斜設バネ片24の弾力を小さくすると、電線26が抜けてしまうという問題点があった(3頁7行ないし16行)。なお、電線挿入口22は、単にハウジング21の側壁に透孔を形成したものであるので、電線26が正しく挿入されず、金具の内部で屈曲するという問題点もあった(3頁19行ないし4頁2行)。

(2)構成

上記の問題点を解決するため、本願考案は、その要旨とする構成を採用したものである(1頁5行ないし18行)。

すなわち、電線を抜く方向に外力が掛かった際は斜設バネ片の先端縁が当接している部分を同先端縁から退避できるようにして第1の問題点を解決し、また、電線挿入口22が挿入される電線26を案内できるようにして第2の問題点を解決したものである(4頁4行ないし10行)。

なお、退避空間とは、斜設バネ片の先端縁が当接している電線に、斜設バネ片の先端縁より剪断応力が加わった場合に、該応力の方向に逃げるように変形するのを可能とする空間を言うものであって、平板を屈曲、又は湾曲させて凹入させることにより形成した凹入空間や、平板に形成した溝による溝空間、更には平板へ所定の間隔で突出部を設け、該突出部間の空間により構成される(5頁6行ないし13行)。

(3)作用効果

本願考案によれば、斜設バネ片の先端縁と対向する部分の平板に電線の退避空間を設けて、電線に剪断応力が加わった場合には、退避空間側へ逃げるようにしたので、電線接続具内での電線の切断や電線の脱抜を防止でき、接続の信頼性を向上するとともに、電気機器等が故障した際の診断の困難性も回避することができる。また、電線挿入口は、電線を真直ぐの状態で案内できるようにしたので、上記の退避空間の作用を確実にし、信頼性の向上を確実に図る効果がある(10頁2行ないし14行)。

2  一致点の認定について

原告は、引用例には楕円形に屈曲した板バネ3の一側に別製の鎖錠片2をもたせかけ鎖錠片2の基端側を端子金具4の屈曲部に掛止させる構成が記載されているにすぎず、このように3個の部品から成り梃子の原理を利用したものと1個の部品から成る本願考案のバネ片の構成を同一視することはできないと主張する。

そこで検討するに、成立に争いのない甲第3号証によれば、引用例には「4は端子金具で、鎖錠金具1との間で電線Tの芯線部Taを挟持する面5と、電線Tの芯線部Taが通るガイド孔6とを設けている。」(2欄18行ないし20行)と記載されていることが認められる(別紙図面B参照)。これによれば、引用例記載の端子金具4は、本願考案の導電金具に相当するものであることが明らかであるから、本願考案のバネ片に相当する引用例記載のものが端子金具4を含む3個の部品から成っているという原告の上記主張は当たらない。

ところで、前掲甲第3号証によれば、引用例には、「1は鎖錠金具で、電線Tを押える鎖錠片2と、これを弾圧する板バネ3とで成しているが、勿論、全体をバネ板にて作ってもよい。」(2欄15行ないし18行)と記載されていることが認められる。そして、いずれも成立に争いのない甲第4、第5号証によれば、昭和55年実用新案出願公開第39638号公報及び昭和55年実用新案出願公開第161367号公報には、電線接続器において1枚の板体の両側を上方に屈曲した形状の鎖錠バネが記載されていることが認められるので、このような形状の鎖錠バネは、電線接続具の技術分野において本出願前に周知であったと考えることができる。

そうすると、引用例には、鎖錠片2と板バネ3とから成る鎖錠金具1全体を1枚のバネ板で作り、かつ、その両側を上方に屈曲する形状にすることが実質的に記載されているといえるから、本願考案と引用例記載のものは「板体の両側を上方に屈曲した形状のバネ片を装着し」ている点において一致するとした審決の認定を誤りということはできない。

また、原告は、本願考案は補助平板を下向に斜設することによって退避空間を形成する点にこそ特徴を有するものであるから、補助平板の構成からこの点を除外して一致点として認定することは誤りであると主張する。

しかしながら、審決は、本願考案が要旨とする補助平板は下向に斜設されるが、引用例記載のものはそうではない点を相違点<2>として認定し、その技術的意義を検討判断しているのであるから、原告の上記主張は当たらない。

以上のとおりであるから、審決の一致点の認定に誤りはない。

3  相違点の判断について

原告は、相違点<1>について、上部側板に電線接続部を有しこれと平行な下部側板に脚片を垂下させた構成は新規なものであって、近似する従来例すら見当たらないと主張する。

しかしながら、前掲甲第2号証の2によれば、本願明細書には、本願考案において前記構成の脚片を設けたことの技術的意義については何ら記載されていないのみならず、導電金具の脚片は他の機器への接続端子であることは技術的に自明であるから、電気的に接続すべき方向に接続端子を配設することは当然の設計事項にすぎず、本願考案の脚片の構成には何らの創作性も見出だすことができない。

また、原告は、相違点<2>について、本願考案が要旨とする補助平板は下向に斜設されることによってバネ片の先端と関連付けられて退避空間を形成するものであり、それによって電線がより大きな引張力に耐える作用効果が奏されるのであるから、これを単なる形状の変更というのは誤りであると主張する。

そこで検討するに、本願明細書に「退避空間とは、斜設バネ片の先端縁が当接している電線に、斜設バネ片の先端縁より剪断応力が加わった場合に、該応力の方向に逃げるように変形するのを可能とする空間を言う」(5頁6行ないし9行)、「本願考案によれば、斜設バネ片の先端縁と対向する部分の平板に電線の退避空間を設けて、電線に剪断応力が加わった場合には、退避空間側へ逃げるようにしたので、電線接続具内での電線の切断や電線の脱抜を防止できる」(10頁2行ないし7行)と記載されていることは前記のとおりである。これらの記載によれば、電線がより大きな引張力に耐え、切断を防止しうるという本願考案の作用効果は、バネ片の一方の斜片の先端縁と対向する上側平板の端縁に電線の退避空間を設けたことによって奏されるものであることが明らかである。

そこで、別紙図面Bを検討すると、鎖錠金具1との間で電線Tの芯線部Taを挟持する面5のうち、鎖錠片2の先端縁と対向する端縁部分が上方に屈曲されていることが認められるので、引用例記載の端子装置においても、電線の退避空間が形成されているということができる。したがって、引用例記載の端子装置も、電線がより大きな引張力に耐え、切断を防止しうるという作用効果を奏するものと考えられる。

一方、前掲甲第2号証の2によれば、本願明細書には、補助平板については、実施例の説明として「平板6aは、(中略)斜片7cの先端縁と対向する部分には、溝9を介して屈曲させてあり、下面側に退避空間10が形成してあり退避空間10に補助平板6dが、斜片7c側を下にして斜に設けてある。」(7頁16行ないし8頁2行)と記載されているのみであることが認められる。ここにいう「屈曲させてあ」るものが何であるのかは判然としないが、「上側平板の端縁に、電線の退避空間が設けてあると共に、該退避空間を介して補助平板を下向に斜設し」という本願考案の要旨からすれば、補助平板は、退避空間の所期の作用を妨げないような形状で配設されれば足りるものと解するのが相当である。このことは、本願明細書において、退避空間が、前記のとおり「平板を屈曲、又は湾曲させて凹入させることにより形成した凹入空間や、平板に形成した溝による溝空間、更には平板へ所定の間隔で突出部を設け、該突出部間の空間により構成される」(5頁10行ないし13行)ものとして説明されており、補助平板が関連する構成として説明されているのではないことからも明らかというべきである。

したがって、「本願考案において、補助平板を下向に斜設した点に格別の技術的意義があるものとは認めらず、前記相違点<2>は、当業者が設計上適宜なし得る単なる形状の変更にすぎない。」とした審決の判断に、何ら誤りはない。

さらに、原告は、相違点<3>について、本願考案の電線差込口はその内側の退避空間との結合構造に特徴を有するものであるから、電線差込口のみを取り上げてその構成に進歩性がないというのは誤りであると主張する。

しかしながら、電線接続具において電線差込口を電線挟着部に向けて電線を案内するテーパー状に形成したものが従来周知であるとした審決の認定は、原告も認めて争わないところである。そして、相違点<3>に係る本願考案の構成に周知技術を越えるものがある点について、原告は何ら主張立証しない(本願明細書に記載された前記1(3)の作用効果は、テーパー孔が持つ、線状のものを入れ易くするという通常の作用効果を述べたにすぎない。)のであるから、原告の上記主張は失当といわざるをえない。

したがって、審決の相違点の判断にも誤りはない。

4  以上のとおりであるから、審決の認定判断は正当として肯認しうるものであって、本願考案の進歩性を否定した審決に原告主張のような誤りはない。

第3  よって、審決の取消しを求める原告の本訴請求は失当であるからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 竹田稔 裁判官 春日民雄 裁判官 持本健司)

別紙図面 A

第1図はこの考案の実施例の正面図(導電金具のみ断面として示した)、第2図は同じく実施例の導電金具とバネ片の分解斜視図、第3図は同じく実施例の平面図、第4図は同じく実施例の側面図、第5図は同じく実施例の電線の退避を説明する拡大断面図である。第6図は従来の電線接続図の断面図である。

1…ハウジング 2…凹所 3…電線挿入口 3a…内側開口 3b…外側開口 3c…テーパー壁 6…導電金具 6a、6b…平板 7…バネ片 7c…斜片 8…脚 9、15…溝 10…凹入空間 12…電線

<省略>

<省略>

別紙図面 B

図面は本考案ネジ無し端子装置の一実施例を示し、第1図は断面図、第2図は斜視図である。

T…電線 1…鎖錠金具 2…鎖錠片 3…板バネ 4…端子金具 5…面 6…ガイド孔 7…器体 5…差込口

<省略>

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