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東京高等裁判所 平成8年(行ケ)185号 判決 1999年9月28日

原告

株式会社 キーエンス

代表者代表取締役

【A】

訴訟代理人弁護士

村林隆一

松本司

同弁理士

【B】

被告

藍天電脳股・有限公司

代表者

【C】

主文

特許庁が平成6年審判第16015号事件について平成8年7月25日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由

第1  原告の求めた裁判

主文第1項と同旨の判決。

第2  事案の概要

1  特許庁における手続の経緯

原告は、登録第2043794号商標(昭和60年10月7日商標登録出願、同63年4月26日設定登録。本件商標)の商標権者である。本件商標は「クレポ」の片仮名文字を横書きして成り、旧第11類「電気機械器具、その他本類に属する商品」を指定商品とする。

被告は、平成6年9月22日、原告を被請求人として、「本件商標の指定商品中『電子応用機械器具』についてその登録を取り消す。」との審決を求める審判請求をし(平成6年10月18日予告登録)、平成6年審判第16015号事件として審理されたが、平成8年7月25日、本件商標の指定商品中「電子応用機械器具」についてはその登録を取り消す旨の審決があり、その謄本は同年8月8日原告に送達された。

なお、本件商標と連合商標の関係にある登録第1808822号商標(昭和58年6月13日商標登録出願、同60年9月27日設定登録、平成7年9月28日存続期間の更新登録。本件連合商標)は、「QUREPO」の欧文字を横書きして成り、旧第11類「電気機械器具、その他本類に属する商品」を指定商品とするものである。

2  審決の理由の要点

(1)  審決の判断の前提となる当事者の審判における主張等は、別紙審決理由抜粋のとおりである。

(2)  よって、本件審判請求に関し、当事者間に利害関係について争いがないので、本案に入って判断する。

原告(被請求人)が本件連合商標を使用していると主張するのは、商品の包装に当たるコンテナに商標を付することによって、これに収納されている商品「電子応用機械器具」について使用していることになるというものであるが、審判乙第3号証の1ないし3(写真)によれば、該コンテナは、その側面に、本件連合商標と社会通念上同一といい得る「QUREPO」の文字から成る商標が付されていることが認められるものである。しかしながら、商品を包装するための容器たる包装用容器といい得るためには、包装に使用され、商品の取引の際その商品を入れるために用いられる容器であって、段ボール箱、コンテナ等をいうものと解されるところ、審判乙第3号証の1ないし3に示されたコンテナには上面を覆うふたは見受けられず、また、その形状、大きさからみても収納されている小箱専用の容器とは必ずしもいい難いものである。さらに、該小箱には「KEYENCE」「PZ2-41」の表示がなされており、この表示からみて該小箱が、審判乙第5号証及び第6号証の商品カタログに掲載されている「アンプ内蔵型光電スイッチ」と認め得るところ、同商品カタログには、「KEYENCE」の文字から成る商標は認められるものの、「QUREPO」の文字から成る商標は何ら見いだし得ない点を合わせ考えれば、該コンテナは、「アンプ内蔵型光電スイッチ」の包装に使用され、取引の際それを入れるために用いられる容器とは判断し得ないものといわなければならない。

そして、審判乙号各証において、審判乙第3号証(枝番を含む。)以外には、本件商標、本件連合商標はいずれも見当たらない。

してみれば、仮にクレポ株式会社が通常使用権者であり、本件審判請求の予告登録前3年の間に該コンテナを同人が使用していたことが認められるとしても、原告提出の審判乙号各証をもっては、本件商標あるいは本件連合商標が請求に係る指定商品について使用されたものということはできない。

なお、原告の挙げる東京高裁昭和41年(う)第2318号昭和42年1月30日判決は、原告が述べるように、商品を収納する容器たる段ボール箱は商標法にいう「商品の包装」に当たることを判示したものであるところ、上記のとおり、審判乙号証におけるコンテナが包装のための容器といえない以上、上記判決は本件の判断に影響を及ぼすものではない。

そうとすれば、原告提出に係る証拠によっては、原告又は通常使用権者が、本件商標又は本件連合商標を本件審判の請求の登録前3年以内に日本国内において、請求に係る商品について使用していたものということはできない。

したがって、本件商標の登録は、商標法50条の規定によりその指定商品中の「電子応用機械器具」についての登録を取り消すものである。

おって、原告は本件商標の使用を立証するための証人尋問を申請しているが、尋問事項は、主として通常使用権及びコンテナの使用に関するものであって、本件に関する使用の事実についての認定は上記のとおりであるから、証人尋問の必要を認めない。

第3  原告主張の審決取消事由

本件商標又は本件連合商標が、本件審判の請求の登録前3年以内に日本国内において、指定商品中の「電子応用機械器具」について使用された事実が認められないとした審決の認定は誤りであり、この誤りは審決の結論に影響を及ぼすものであるから、審決は取り消されるべきである。

すなわち、審決の判断中の争う箇所に即して述べれば、クレポ株式会社は原告の下請会社であるが、同社はその容器に同社の商品を収めて、親会社である原告に納入している。この容器は同じものを重ねて使用するコンテナであり、ふたがあるといえる。この容器にふたがないとした審決の認定は誤りである。また、この容器が小箱専用の容器とは必ずしもいえないとした審決の認定も誤りである。

第4  被告の対応

被告は、公示送達により本件口頭弁論期日の呼出しを受けたが出頭せず、答弁書その他の準備書面も提出しなかった。

第5  当裁判所の判断

1  甲13及び認定中に掲げる各証拠によれば、以下の事実が認められる。

(1)  大阪府高槻市に本店があるクレポ株式会社(甲4、5、14ないし17)は、原告の代表取締役である【A】が代表取締役となり、原告が100%出資して昭和60年9月に設立された会社であるが、平成2年4月、同社に対し、原告が有する本件商標権についての独占的通常使用権が設定された。

(2)  同社は、平成元年から2年にかけて「QUREPO」の標章が両側面に赤色で付されたコンテナを100個製作し(甲6の1ないし3、7の1、2)、そのころから今日まで、このコンテナに、型番を「PZ2-41」とするアンプ内蔵型光電子スイッチの商品(ケース入のもの。商品名「KEYENCE」。甲8)を20数個入れるなどして(6の1ないし3)、同社と事務所を同じくするビル内の原告事務所又は岩崎物流株式会社などに納入してきた。

そして、このように上記商品が入った状態の上記コンテナは、さらに、そのままの状態で第三者の工場に搬送されてきている。

2  以上の認定事実によれば、本件連合商標である「QUREPO」は、その指定商品中、「電子応用機械器具」につき、平成6年10月18日の本件審判請求の予告登録前3年以内において、原告から通常使用権の設定を受けたクレポ株式会社によって使用されていたものと認めることができる。

なるほど、上記コンテナにはふたがないことが甲6の1、3から明らかであるが、ふたのないことのみから、当該コンテナが、商品の包装として、あるいは容器として使用されていないものとすることはできず、上記コンテナは、積み重ねて搬送される形状となっているものであること(甲10の1ないし4)からすると、商品の容器として十分に機能していることが明らかであるから、そこに付されている「QUREPO」の表示をもって、商標の使用として機能しているものと認めるのに障害はないというべきである。

もとより、コンテナが「電子応用機械器具」中の特定の商品についての専用の小箱でなければ、そこに付された標章の表示が商標として使用されていることができないというものでない。

3  したがって、本件連合商標が、「電子応用機械器具」につき、原告又は通常使用権者によって本件審判の請求の登録前3年以内に日本国内において使用されていたものということはできないとした審決の判断は誤りであり、この誤りが審決の結論に影響を及ぼすものであることは明らかである。

第6  結論

よって、原告の請求は認容されるべきである。

(裁判長裁判官 永井紀昭 裁判官 塩月秀平 裁判官 市川正巳)

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