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東京高等裁判所 平成8年(行ケ)164号 判決 1996年10月15日

東京都杉並区高円寺南2丁目42番8号

原告(被参加人)

株式会社 今川

同代表者代表取締役

今川秀雄

同訴訟代理人弁理士

松浦恵治

アメリカ合衆国コネチカット州06490 サウスポート市クリスタル ブランズ ロード

脱退被告(被参加人)

クリスタル ブランズ インコーポレーテッド

同代表者

ドナルド・エー・デラポルテ

同訴訟代理人弁護士

田中伸一郎

アメリカ合衆国ニューヨーク州10104 ニューヨーク市アヴェニュー オブ アメリカズ1290

参加人

フィリップス ヴァン ヒューセン カンパニー

同代表者

パメラ・エヌ・フートキン

同訴訟代理人弁護士

松尾和子

飯田圭

同訴訟代理人弁理士

加藤建二

大島厚

主文

原告(被参加人)の請求を棄却する。

訴訟費用は原告(被参加人)の負担とする。

事実

第1  当事者の求めた裁判

1  原告(被参加人)

(1)  特許庁が平成2年審判第3623号事件について平成7年6月19日にした審決を取り消す。

(2)  訴訟費用は参加人の負担とする。

2  参加人

主文同旨

第2  請求の原因

1  特許庁における手続の経緯

原告は、指定商品を平成3年政令第299号による改正前の商標法施行令別表第21類「かばん類、袋物、その他本類に属する商品」として、「IZOD」の欧文字を横書きしてなる登録第2204020号商標(昭和59年8月28日登録出願、平成元年8月18日登録査定、平成2年1月30日設定登録。以下「本件商標」という。)の商標権者であるが、脱退被告は、平成2年3月7日、本件商標の登録を無効とする旨の審判を請求をしたところ、特許庁は、この請求を平成2年審判第3623号事件として審理した結果、平成7年6月19日、「登録第2204020号商標の登録を無効とする。」との審決をし、その謄本は、同年7月5日、原告に送達された。

なお、参加人は、平成7年1月24日、脱退被告から、「IZOD」に関わる世界各国の登録商標を含むその営業のすべてを譲り受け、本件訴訟における被告適格を承継した。

2  審決の理由の要点

(1)  本願商標は、前記のとおりの構成からなり、前記商品を指定商品とし、昭和59年8月28日に登録出願され、平成2年1月30日に登録されたものである。

(2)  アイゾッド(IZOD)は、ゼネラル ミルズ インコーポレーテッド(以下「ゼネラル ミルズ社」という。)の一事業部門として、フランスのラコステ社から、「LACOSTE」の商標に関する使用許諾を受け、同商標によるゴルフウェア、テニスウェア等の製造、販売を行っていたが、その後、同社は、同部門を請求人(脱退被告)に譲渡したものである。

(3)  そして、本件商標の登録出願日前に米国において発行された雑誌であることが明らかな、審判手続における甲第22号証ないし第28号証及び第43号証(第43号証については枝番3、11、13、30を除く。本訴における丙第23ないし第29号証の各1、2、第35、第36、第38ないし第44号証(枝番を含む。)、第46ないし第61号証、第63ないし第66号証)によると、スポーツウェア等の衣服を表示するものとして、やや図形化された「IZOD」の欧文字が、「ワニ」の図形及び「LACOSTE」の欧文字とともに使用されていることが認められる。

また、いずれも、本件商標の登録出願日前にわが国において発行された刊行物である、審判手続における甲第3号証の1、第4号証ないし第6号証(本訴における丙第5号証の1、丙第6ないし第8号証の各1ないし3)によると、甲第3号証の1(本訴における丙第5号証の1)においては、「’82一流ブランド製品」として記載されたゴルフウェア、テニスウェア、トレーナー等について、「IZOD」の欧文字が「ワニ」の図形及び「LACOSTE」の欧文字とともに使用されていること、甲第4号証(本訴における丙第6号証1ないし3)の2枚目には、「特にワニ印のアメリカ版アイゾッドのものは、……」、「アイゾッドの“アメリカ製ラコステ”に……」とあり、その裏には、「アイゾッド製のポロシャツに……」の記載があること、甲第5、第6号証(本訴における丙第7、第8号証の各1ないし3)には、「アイゾッドはアメリカの会社で、フランスのラコステ社からワニ印を使う権利を買っているのだ。…アイゾッドは色が豊富だけど、フランスのラコステ社の作っているポロシャツの色とは少し違うのだ。これはラコステ社が寸分たがわぬものを作ってはいけないといっているからなのだ」との説明書きがあり、そこに表示されたポロシャツについては、「IZOD」の欧文字が、「ワニ」の図形と「LACOSTE」の欧文字とともに使用され、また、大きく書された「アイゾッド」の片仮名文字も使われていることが認められる。

してみると、上記事実からすれば、「IZOD」の欧文字は、アイゾッドの取扱いに係るスポーツウェア等を表示するためのものとして、単独で、もしくは、「ワニ」の図形や「LACOSTE」の欧文字とともに使用されており、米国においては、本件商標の登録出願日前に発行されたと確認し得る雑誌だけでも、少なからず宣伝広告されていたこと、また、日本においても、本件商標の登録出願日前において、「IZOD」の欧文字の含まれる商標が米国のアイゾッド製のラコステ製品であるとして、フランスのラコステ社の製造したものとは区別され、紹介、宣伝されていたことが認め得るところである。

また、審判手続における甲第2号証(本訴における丙第4号証)によると、1979年当時、既に米国において、「ワニ」の図形と「LACOSTE」、「IZOD」の商標を付した偽造品に対する警告書が出されていることが認められることからすれば、これらの商標が、米国において著名であったと推認し得るところである。

そして、日本における服飾等流行を先取りする分野にあっては、関連する取引者、デザイナー等が、流行の最先端といわれるフランス、イタリア、米国等の流行をいち早く知り、取り入れ、日本の消費者に紹介するということがごく普通に行われているばかりでなく、近時、日本における海外への旅行者の増加、多種多様な情報媒体の発達等に伴い、一般消費者においても、海外の流行に直接触れる機会が多いことからすれば、米国において著名な商標は、日本においてもよく知られているとみて差し支えないといえる。

してみれば、「IZOD」の欧文字を含む商標は、わが国においても紹介、広告されていた事実をも加えると、日本においても、取引者のみならず、一般の需要者にも知られていたものと判断するのが相当である。

(4)  ところで、上記米国で使用されている商標中、「IZOD」の欧文字のみで使用されているものを除いた商標及び日本において使用されている商標は、前記のとおり、「IZOD」の欧文字、「ワニ」の図形及び「LACOSTE」の欧文字の組合わせを要部とするものであるところ、上記商標中における「IZOD」の欧文字は、「I」の文字部分を図案化し、「LACOSTE」の欧文字と書体を異にするばかりでなく、いずれの場合も、看者の注意を最も引き易い上段か、あるいは中央に大きく表され、他の構成要素と分離して観察されやすいものとされていることから、それ自体独立して、自他商品の識別標識としての機能を果たし得るものとみるのが相当である。

(5)  また、審判手続における上記甲第5、第6号証の記載から、「IZOD」の欧文字を有する商標を付したポロシャツ等は、フランスのラコステ製の商品とは区別され使用されていたことが認められること、「IZOD」の語は、商標として採択されやすい親しまれた成語ではなく、特定の語義を有しない造語からなるものと認められ、わが国においては、その綴り及びこれから生ずる称呼は、いずれも特異なものとして印象づけられることからすれば、「IZOD」の欧文字自体が、独立した商品区分標識として強く印象づけられることは、不自然とはいえない。

(6)  そうとすれば、請求人(脱退被告)の使用に係る商標中の「IZOD」の欧文字は、本件商標の商標登録出願日前から、日本国内において、需要者間に広く認識されていたものと認められるから、被請求人(原告)が、これと同一の綴文字よりなる本件商標を、その指定商品について使用した場合には、これに接する取引者、需要者は、該商品がアイゾッドの、もしくは、これと何らかの関係を有する者の取扱いに係る商品であるかのように、商品の出所について混同を生ずるおそれがあるものと判断するのが相当である。

(7)  なお、被請求人(原告)は、本件商標の指定商品である「装身具、かばん」等と、請求人(脱退被告)の主張する「被服」とは、売り場も異なり、非類似の商品であるから、出所の混同は起こらない旨主張するが、装身具、かばん等と、衣服、靴、時計等とは、統一されたブランド名の下で、同一のファッションメーカーにより製造、販売される場合が少なくないから、上記主張は採用できない。

(8)  したがって、本件商標は、商標法4条1項15号の規定に違反して登録されたものであるから、同法46条1項1号により無効とする。

3  審決を取り消すべき事由

審決は、本件商標が、「他人の業務に係る商品と混同を生ずるおそれがある商標」ではないにもかかわらず、上記のおそれがあると誤って判断したものであるから、違法として取り消されるべきである。

(1)  「IZOD」の欧文字は、本件商標の商標登録出願日前から、日本国内において、需要者間に広く認識されていたものではない。

ア 審決が引用する、丙第23ないし第29号証の各1、2、第35、第36、第38ないし第44号証(枝番を含む。)、第46ないし第61号証、第63ないし第66号証(米国の雑誌、ちらし)中の広告においては、いずれも、「IZOD」の欧文字が、単独で表示されているわけではなく、著名な「ワニ」の図形マーク及び著名な「LACOSTE」の欧文字と並べて表示されているにすぎない。仮に、これらのマークが全体として著名であるというのであるならば、それは、「IZOD」の欧文字の部分から生ずる結果ではなく、「ワニ」の図形マーク又は「LACOSTE」の欧文字の部分から生ずるグッドウイルの結果であるといわざるをえない。

イ また、審決が引用する、丙第5号証の1、第6ないし第8号証の各1ないし3(わが国における宣伝用ちらし、雑誌)の記述内容については、単に雑誌等において述べられた一私見にすぎないため、直ちに信用することができないことはもちろんのこと、仮に、上記記述のとおりの状況にあったとしても、そこから理解できることは、「ワニ」の図形マーク又は「LACOSTE」の欧文字の商標が著名であるということにすぎない。

ウ 更に、審決の引用する丙4号証においては、1979年当時の米国における、「IZOD」等の商標を付した偽造品についての警告記事が記載されているが、その記事内容は、単に一私人が、自己の宣伝目的で新聞に掲載したものであり、その内容が客観的な事実であるとは認められない。したがって、これを基に、米国における「IZOD」の商標の著名性を認めることはできない。

エ 更にまた、審決は、米国において著名な商標は、日本においてもよく知られているとみて差し支えないとするが、服飾の分野であるが故に、米国内の著名性をそのまま日本での著名性と同等に扱うという判断は誤りである。

昨今は、人、物、情報の国際交流が盛んになっているという事実はあるにせよ、日本国内の実績なくして、米国内で使用されているという「IZOD」の商標が、日本国内でも著名であるとは認定できない。

脱退被告が、過去に日本国内において、商標「IZOD」を使用して宣伝広告を行った等の事実からでは、未だ上記商標の著名性を認定できないにもかかわらず、審決は、その著名性を肯定したものであり、その判断は誤りであるといわざるをえない。

オ 上記のとおり、参加人の商標「IZOD」が著名であるとは認められないところであるから、原告が、上記「IZOD」の欧文字と同一の綴り字を有してなる本件商標を、その指定商品について使用した場合には、これに接する取引者、需要者が、該商品を、アイゾッド、もしくはこれと何らかの関係を有する者の取扱いに係る商品であるかのように誤認するおそれ、すなわち、商品の出所について混同を生ずるおそれがあるものとは認定することができないというべきである。

(2)  本件商標の指定商品と、参加人の商標「IZOD」の指定商品とは異なるから、本件商標の使用により、商品についての出所の混同は生じない。

商品の類否は、商標法による商標登録のための商品区分とは関係なく、別個の基準で判断されるべきであることは当然であるが、商品の区分自体は、商品類否の判定にあたっても、できるだけその指標となり得るような配慮が加えられて作られたものである。

この点から、本件商標と、審決が根拠とする商標「IZOD」との、「商品区分」の相違が考慮される必要がある。

このような相違を無視して、審決のように、「装身具、かばん等と衣服、靴、時計等は、統一したブランド名のもとで、同一のファッションメーカーにより製造、販売される場合が少なくないから」という理由で、本件商標が、他人の業務に係る商品と混同を生じさせるものと認定することはできない。

第3  請求の原因に対する認否及び参加人の主張

請求の原因1及び2の事実は認めるが、同3は争う。

審決の認定判断は正当である。

1  「IZOD」の商標の著名性について

(1)  米国においては、雑誌、ちらしによるスポーツウェア、カジュアルウェア等の被服の広告に、「IZOD」の欧文字が、「I」の部分をやや図案化して、又はそのままの形で、単独で使用されていたものである。

また、上記広告においては、「IZOD」の欧文字は、「ワニ」の図形及び「LACOSTE」の欧文字と一緒に、.又は「LACOSTE」の欧文字のみと一緒に使用されてもいるが、その場合においても、「IZOD」の欧文字は、「ワニ」の図形又は「LACOSTE」の欧文字から離して表示されているほか、見る者の注意を最も引きやすい、表示部分の上段又は中央に、大きく表示されており、他の表示要素から分離して観察されやすい。

更に、「IZOD」の欧文字には、米国特許商標庁において商標登録がなされたことを証するRのマークが付されていることが多い。

そして、米国においては、1979年当時、既に、「IZOD」、「LACOSTE」の各商標及び「ワニ」の図形を付した偽造品が市場に出回ったことから、偽造品に対する警告記事が新聞に掲載されている。このことは、「IZOD」の商標等が優れた顧客吸引力を有するからこそ生じたものである。

これらの事実を総合すると、米国においては、「IZOD」の欧文字自体が、「ワニ」の図形や「LACOSTE」の欧文字とは独立して、脱退被告の商標として著名であったものとみることができる。

(2)  他方、日本国内において発行された雑誌やちらしにおいても、「IZOD」の商標を付したアイゾッドの製品は、フランスのラコステ社の製品とは区別して紹介され、また、しばしば、セールの目玉商品として利用されている。

これらの場合、「IZOD」の欧文字及び「アイゾッド」の片仮名文字は単独で使用され、また、それが、「ワニ」の図形又は「LACOSTE」の欧文字、「ラコステ」の片仮名文字と一緒に使用されたときでも、それらとは離して表示されるほか、「IZOD」が、大文字で強調されたり、比較的大きく表示されたり、「I」の部分をやや図案化して独特の書体で表示されるなど、「IZOD」の部分を目立たせている。また、これらの「IZOD」の欧文字にも、しばしばRのマークが付されている。

更に、「IZOD」の語は造語であって、わが国の取引者、需要者に対し、外観上及び称呼上、特異な印象を与えるものである。

(3)  日本における服飾等のファッション業界では、デザイナー、、取引者等の関係者は、流行の最先端を行くフランス、イタリア、米国等の流行に常に特別な注意を向け、流行をいち早く入手、導入し、日本の消費者等に紹介等していることは公然知られた事実である。また、海外旅行者の増加、交通運搬手段の発達、各種情報媒体の発展等に伴い、一般消費者が自ら海外の流行を直接知る機会が多くなっていることも顕著な事実である。

したがって、米国において著名な「IZOD」の商標が、日本国内においてもよく知られていたとみるのは合理的である。

(4)  以上によれば、「IZOD」の欧文字は、日本においても、本件商標の登録出願日前から、アイゾッドもしくはそれが属する脱退被告の商標として、取引者、需要者間に広く認識されていたものと認められるから、審決の認定、判断は正当である。

2  本件商標が、その指定商品について使用された場合に、これに接する取引者、需要者が、当該商品をもって、脱退被告ないしは参加人の業務に係る商品と混同を生ずるおそれがあることについて

(1)  本件商標は「IZOD」の欧文字によるものであることから、それが付された原告商品の本源が脱退被告ないしは参加人であるかのように誤認され、出所の混同を生ずるおそれがあることは明らかである。

(2)  他方、脱退被告ないしは参加人の「IZOD」の商標が使用されるスポーツウェア、カジュァルウェア等の被服は、本件商標の指定商品であるかばん類等とは、商品として同一ではないが、脱退被告ないしは参加人の商品は、ファッショナブルであることをセールスポイントとするものである。一般に、このような被服類は、かばん類等とコーディネイトできるようにして製造、販売され、使用されるものであり、両者が、しばしば、同一のメーカーにより、統一されたブランド及びイメージの下に取り扱われていることは、今日的流行である。

(3)  以上の次第であるから、原告が、本件商標をその指定商品について使用した場合には、これに接する取引者、需要者としては、該商品が、脱退被告ないしは参加人と関係を有する者の取扱いに係る商品であるかのように誤認し、商品の出所について混同を生ずるおそれがあるものと判断するのが経験則に適っている。

したがって、その旨の審決の判断も正当である。

第4  証拠

証拠関係は、本件記録中の書証目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

第1  請求の原因1及び2の各事実(特許庁における手続の経緯、審決の理由の要点)については当事者間に争いがない。

また、審決の認定判断のうち、本件商標の構成とその指定商品、登録出願の年月日、登録の年月日については、原告が明らかに争わないから、自白したものとみなす。

第2  そこで、原告主張の審決取消事由について判断する。

1  まず、本件商標の登録査定時(平成元年8月18日)における、「IZOD」の日本における著名性について検討するに、

(1)  前記第1の争いのない事実に、成立に争いのない丙第1、第2号証、第6ないし第8号証の各1ないし3、第34号証、弁論の全趣旨により成立が認められる丙第30、第31号証及び弁論の全趣旨によると、アイゾッド リミテッド(以下「アイゾッド社」という。)は、1956年(昭和31年)に米国ニューヨーク州法人として設立され、著名な衣料品メーカーであるフランスのラコステ社から「LACOSTE」の商標の使用許諾を得て、米国において、スポーツウェア、カジュアルウェア等の衣料品の製造、販売を行っていたが、同社は、1977年(昭和52年)、ゼネラル ミルズ社と合併して同社の事業部となり、更に、同事業部に係る営業は、1985年(昭和60年)、同社から脱退被告に譲渡され、続いて、1995年(平成7年)、脱退被告から参加人に譲渡されたこと、なお、アイゾッド社の上記商標による営業は、今日に至るまで引き継がれ、継続されているものであることが認められる。

(2)  そして、前出丙第6号証の1ないし3、成立に争いのない丙第3号証の1ないし4、第6号証の1ないし3、第22ないし第29号証の各1、2、第35、第36号証、第37号証の1、2、第38号証、第39号証の1、2、第42号証、弁論の全趣旨により成立が認められる丙第9ないし第20号証、第21号証の1、2、第32、第33号証、第40号証の1、2、第41号証、第43ないし第66号証及び弁論の全趣旨によると、アイゾッド社、ゼネラル ミルズ社のアイゾッド事業部、脱退被告のアイゾッド事業部等は、上記(1)の商品を多数販売し、また、雑誌、新聞等において多数の宣伝広告等を行っているものであるが、その販売、宣伝広告等にあたっては、上記の「LACOSTE」の商標及び通常その商標とともに用いられる「ワニ」の図形商標(同商標は、別に、米国アリゲート社から使用許諾を得たもの)のほか、「IZOD」(アイゾッド)の商標を使用していること、更に、その使用態様は、上記3種のものを組み合わせたり、「IZOD」ないしは「Izod」、「izod」を単独で商品又は広告の文中に用いるというものであり、また、上記3種のものを組み合わせて用いる場合にも、「ワニ」の図形を挟んで、その上段に、「I」を糸巻きの形に図案化した「IZOD」、下段に「LACOSTE」を配置した上、「IZOD」を「LACOSTE」より大きく表示したり、3段の上段と下段に、「ワニ」の図形と「LACOSTE」を配置し、中段に、両者より大きく、同様の形態の「IZOD」を表示するというものであること、上記「IZOD」、「Izod」、「izod」には、しばしば、Rの表示(米国特許商標庁における商標登録済みを示す表示)が付され、「IZOD」等が、「LACOSTE」とは別個の商標であることが明らかにされていることが認められる。

加えて、弁論の全趣旨により成立が認められる丙第4号証によると、1979年(昭和54年)2月、米国内で発行された日刊新聞(「DAILY NEWS RECORD」)に、当時、「LACOSTE」の商標、「ワニ」の図形の商標とともに、「IZOD」の商標が偽造され、それを付した商品が出回っていた問題について、読者に注意を喚起することを内容とする広告記事が、アイゾッド事業部により掲載されたことが認められる。

以上の各事実からみるならば、本件商標の登録査定がなされた当時、米国においては、「IZOD」の商標が、「LACOSTE」の商標とともに、脱退被告におけるアイゾッド事業部の商品を表示するものとして広く用いられ、それ自体、著名な商標であったことが明らかである。

(3)  その上で、その当時における、わが国での「IZOD」の商標の著名性について検討するに、前出丙第3号証の1ないし4、第6ないし第8号証の各1ないし3、弁論の全趣旨により成立が認められる丙第5号証の1ないし4及び弁論の全趣旨によると、わが国においては、既に昭和50年代において、「アイゾッド」の製品(ポロシヤツ、スポーツウェア等)の紹介、宣伝記事がいわゆるファッション雑誌等に掲載され、そこにおいては、「ワニ印のアメリカ版、“アイゾッド”のものはステータスになっている。」「アイゾッドはアメリカの会社で、フランスのラコステ社からワニ印を使う権利を買っているのだ。」等と記載されていること、また、その当時作成された、衣料品の販売業者による「一流ブランド品」、「有名ブランド」製品等のバーゲンセールの宣伝用ちらしにも、しばしば、アイゾッド製品が、いわゆる目玉商品の一つとして登場し、その際、「IZOD」、「ワニ」の図形、「LACOSTE」を組み合わせた前記(2)の商標が表示されていることが認められる。

上記の各事実のほか、前記のとおり、「IZOD」が米国において著名な商標であるところ、わが国の服飾業界が、ヨーロッパ及び米国の流行や製品に常に強い関心を払い、わが国の取引者、需要者に対し、常時、ヨーロッパ及び米国における著名な商標とその商品の紹介、輸入、販売等を行っていることは周知の事実であること、更に、本件商標の登録査定当時においても、米国を含む海外旅行者の増加、種々の情報媒介手段の発達等により、わが国の消費者が、種々の商品知識を直接取得することが可能な状況にあったこともまた広く知られた事実というべきであること、他方、「IZOD」は、特異な綴り字と読み方による商標であり、これに接する一般の取引者、需要者に対して与える印象も強く、顕著な商品識別機能を有するものと考えられること等を総合考慮するならば、「IZOD」を含む前記商標は、上記登録査定当時、わが国においても、一般の取引者、需要者に広く認識されていたものというべきであるとともに、「IZOD」自体についても、米国内と同様に、「LACOSTE」等とは別の独立した商標として認識されていたものと認めるのが相当である。

2  次に、本件商標の指定商品は、「かばん類、袋物、その他本類(平成3年政令第299号による改正前の商標法施行令別表第21類)に属する商品」であり、一方、「IZOD」の商標の対象とされる商品は、「被服」の商品分野に属する商品であることが明らかであるが、上記のとおり商品分野に違いがあることにより、本件商標と「IZOD」とに混同のおそれがないといえるか否かについて検討するに、服飾メーカーにより、被服についての商標と同一の商標を用いて、かばん、袋物(財布等)、装身具等が製造され、被服とともに陳列、販売されることがしばしばあることは周知の事実というべきである。

したがって、本件商標の指定商品と、脱退被告等の「IZOD」の商標により販売された商品との上記商品分野の違いをもって、本件商標の付された商品について、出所の混同を生じさせるおそれが存在しないものとすることはできないというべきである。

3  以上の1、2の各事実からみるならば、本件商標が、脱退被告の業務に係る商品に使用される「IZOD」の商標と同一の欧文字の綴りによるものである以上、本件商標の登録査定当時、その指定商品について使用された場合、本件商標に接する、わが国の本件商標に係る商品の取引者、需要者としては、それを、脱退被告もしくはその事業部門であるアイゾッドにより製造、販売された商品であると混同するおそれが十分にあるものと認めざるをえない。

そうすると、本件商標が商標法4条1項15号の規定に違反して登録されたものであり、同法46条1項1号の規定により無効であるとした審決の認定判断には、誤りはないものというべきである。

第3  以上によれば、審決の取消しを求める原告の本訴請求は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 竹田稔 裁判官 春日民雄 裁判官 持本健司)

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